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コラム:食物アレルギー、知っておくべきこと

食物アレルギーは個人差が大きく、一律のルールで対応できない側面がある。専門医による正確な診断と個別対応が最も大切であり、回避の実践、緊急時の準備(エピネフリン自己注射器の使い方の習得等)、周囲との情報共有が命を守る。
食物アレルギーのイメージ(Getty Images)

1. 日本の現状(2025年11月時点)

日本では食物アレルギーの相談・報告件数や関連ガイドラインの整備が進んでいる。消費者庁や各学会、病院が共同で行う全国モニタリングや報告では、即時型食物アレルギーの報告例の中で鶏卵、木の実類、牛乳などが上位を占めているという集計結果が報告されている。特に木の実類(くるみ、カシューナッツなど)の割合が増加しており、近年は成人での発症や重症化例の増加も注目されている。各専門学会(日本アレルギー学会、日本小児科医会、日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会など)は診療手引きやガイドラインを更新し、診断・治療の標準化やOIT(経口免疫療法)を含む臨床研究の整理が進んでいる。これらの報告・手引きは医療従事者向けに公開されており、臨床現場での対応が段階的に整備されている。


2. 食物アレルギーとは

食物アレルギーは、特定の食品中のタンパク質(アレルゲン)に対して免疫系が過剰に反応し、IgE抗体を介した即時型反応や、非IgEあるいは遅延型の反応を引き起こす病態である。典型的には原因食品摂取後数分〜数時間以内に発症する「即時型」症状が多いが、皮膚症状や消化器症状が主体の慢性あるいは遅延反応もある。食物アレルギーは幼児期に発症することが多いが、成人で新たに発症する例や、成長とともに耐性(寛容)を獲得して自然に症状が消失する例もある。診断は問診、血清特異的IgE検査、皮膚プリックテスト、経口負荷試験(医療機関で管理された負荷試験)が中心である。診断や治療は専門医の判断のもとで行う必要がある。


3. 食物アレルギーの原因となる食品(上位5品目)

以下は日本における即時型食物アレルギー報告に基づく上位5品目(順位はユーザーの指定順に合わせる)。実際の頻度や順位は調査時期や集計方法で変動することがあるが、消費者庁や関連調査の報告でも上位に共通して挙げられている。

  1. 鶏卵(卵)
    鶏卵は小児における代表的なアレルゲンであり、特に乳幼児期に多い。卵白中のオボアルブミンやオボムコイドなどが主なアレルゲンである。加熱調理によりアレルゲン性が低下する場合もあるが、個人差が大きいため判断は専門医の評価が必要である。

  2. 牛乳
    牛乳アレルギーは乳児期に多く、乳製品に含まれるカゼインや乳清タンパクなどが原因となる。授乳期の乳児では人工乳(ミルク)の成分が関係することがある。多くは幼児期に自然寛容を獲得するが、一部は成人まで持続する場合がある。

  3. 木の実類(くるみ、カシューナッツなど)
    近年、木の実類によるアレルギー報告が増加している。特にくるみやカシューナッツなどのナッツ類は重篤なアナフィラキシーを起こすことがあり、注意が必要である。調査報告ではナッツ類の増加が指摘され、成人発症例の割合も高い。

  4. 小麦
    小麦は小児から成人まで広く問題となるアレルゲンであり、パンや麺類など日常的な食品に含まれるため誤食リスクが高い。グルテンや小麦の種々のタンパクがアレルゲンとなる。小麦依存運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)など特殊な病型も存在する。

  5. 落花生(ピーナッツ)
    落花生アレルギーは欧米での問題として知られるが、日本でも一定の割合で報告されている。落花生は重篤なアナフィラキシーを引き起こすことがあるため、食事指導やラベル表示が重要である。

(注)上記の順位や構成は調査ごとに変動がある。消費者庁などの最新のモニタリング結果や学会の報告を参照することが重要である。


4. 主な症状(分類)

食物アレルギーの症状は多岐にわたる。重症化すると命に関わる可能性があるため、早期の認識と対応が重要である。代表的な臓器別の症状は次の通りである。

4.1 皮膚症状

  • じんましん(蕁麻疹)、紅斑、発赤、かゆみ、湿疹の増悪、顔面や口唇の腫脹(血管性浮腫)など。

  • 乳幼児ではアトピー性皮膚炎と関連して食物が症状を悪化させることがある。皮膚症状は比較的頻度が高く、初期徴候として現れやすい。

4.2 消化器症状

  • 嘔吐、腹痛、下痢、口内のかゆみ、食欲不振、血便(特に乳児の食物タンパク誘発性腸症候群や食物タンパク誘発性腸炎)など。

  • 経口負荷試験で消化器症状が誘発される場合は医療機関で慎重に管理する必要がある。

4.3 呼吸器症状

  • 咳、喘鳴、呼吸困難、鼻閉、くしゃみ、喉の違和感や浮腫による喘息発作の悪化など。食物により気道症状を起こすことは稀ではないが、時に重篤になる。

4.4 循環器症状(全身症状)

  • 顔面蒼白、血圧低下、意識消失などのショック状態。アナフィラキシーは複数臓器にわたる急速進行性の生命を脅かす反応で、循環不全を伴うことがある。迅速なエピネフリン(アドレナリン)投与が必要となる。

4.5 命に関わる重篤なケース

  • アナフィラキシーは急速に進行することがあり、呼吸停止や循環不全による死亡に至る危険性がある。既往歴にアナフィラキシーや重度の喘息を持つ患者は特に注意が必要である。緊急時には即時にエピネフリン自己注射(適応がある場合)を使用し救急要請を行う。


5. 口腔アレルギー症候群(OAS)」

口腔アレルギー症候群(Oral Allergy Syndrome、OAS)は花粉感作による交差抗原性を持つ植物性食品(果物や生野菜、ナッツなど)を摂取した際、口腔や咽頭のかゆみ・腫脹などが主に現れる病型である。花粉(例:シラカンバ、ハンノキ、スギなど)に対するIgEが植物性食品のタンパクと交差反応を起こすことで生じる。多くは加熱により原因タンパクが不安定となり症状が軽減することがあるが、症状が重篤化することもあるため個別の評価が必要である。OASに関する診療ガイドラインやCQ(臨床疑問)にも対応が示されており、診断には皮膚検査や特異的IgE測定、prick-to-prick検査などが有用とされる。


6. 診断(簡略)

  1. 詳細な問診(摂取した食品、摂取量、症状発現時間、既往歴、他の誘因──運動や薬剤など)を重視する。

  2. 皮膚プリックテスト血清特異的IgE抗体検査で感作を確認する。

  3. 必要に応じて医療機関での経口負荷試験(OFC)を行い、臨床的有害反応の有無を確認する。経口負荷試験は重篤な反応のリスクがあるため、医療機関での管理下で実施する。


7. 治療と対策

7.1 根本的な治療法(現状)

  • 現時点では、食物アレルギーを完全に根治する確立された普遍的な「根本治療法」は存在しない。除去(回避)療法と症状管理が基本となる。ただし近年は経口免疫療法(OIT)をはじめとする免疫療法の臨床研究や実施が進み、脱感作や反応閾値の上昇を得られる場合がある。OITは効果を示す一方で、治療中の副反応やアナフィラキシーのリスクがあり、目標量や投与法、合併療法の最適化については研究段階である。学会の手引きはOITの有効性とリスクを整理し、慎重な適応判断とモニタリングを推奨している。生物学的製剤(例:オマリズマブなど)を併用したOITの試験も行われており、副反応軽減や脱感作促進の可能性が報告されているが、長期的な安全性や中止後の持続性についてはさらなる検討が必要である。したがって、根本治療は研究・臨床試験領域で進展しているが、一般臨床での標準的根治法は確立していない。

7.2 対症療法と回避(現実的な実践)

  • 原因食品の確実な回避:ラベル表示の確認、外食時の確認、家族・保育園・学校での情報共有が重要である。

  • 薬物療法:蕁麻疹やかゆみには抗ヒスタミン薬、喘息症状には気管支拡張薬や吸入ステロイドなどの喘息治療薬を使用する。重篤な全身反応にはエピネフリンが有効であり、迅速な投与が生死を分ける。

7.3 エピネフリン自己注射器(EAI)

  • 過去に重度のアナフィラキシーの既往がある、または重症化のリスクが高い患者にはエピネフリン自己注射器の処方を検討する。使い方や保管、期限の確認、周囲への説明を行うことが重要である。エピネフリンは救命処置として最優先であり、適応がある場合は躊躇なく使用する指導が各ガイドラインで示されている。

7.4 医師の指導と個別プラン

  • 食物アレルギーは個別差が大きいため、専門医による診断と個別化された管理プラン(回避指導、緊急時対応、学校・職場での対応マニュアル、食事指導)が必要である。OITの適応や実施についても専門医の下で慎重に検討する。


8. 緊急時の対応(具体的手順)

  1. 評価:呼吸困難、意識障害、急速な血圧低下、強い嘔吐・下痢、全身蕁麻疹などアナフィラキシーの兆候を速やかに把握する。

  2. エピネフリン投与:適応がある場合はためらわずに筋注(エピネフリン自己注射器がある場合は説明書通り使用)する。皮下ではなく筋注が推奨される。

  3. 救急要請:119番等で救急車を要請し、救急隊・病院に状況を伝える。

  4. 体位管理・酸素投与:必要に応じて仰臥位や酸素投与、気道確保を行う。

  5. 継続観察:アナフィラキシーは再燃(biphasic reaction)の可能性があるため救急医療機関での観察と治療が必要である。


9. 情報共有の重要性(学校・保育施設・職場・飲食業界)

  • 学校・保育園では個別のアレルギー管理票(アレルギー対応カード)や給食時の除去食対応、教職員への研修が重要である。

  • 飲食業界や食品製造業では正確な原材料表示と交差コンタミネーション(汚染)対策が不可欠である。消費者庁や関連機関は表示基準や調査を通じて安全性向上を図っている。家庭内では家族への教育・共有、来客時の注意、調理器具の使い分けなどの配慮が必要である。


10. 専門家データ・研究動向(最近のエビデンスを踏まえて)

  • モニタリング調査では、即時型症例の上位に鶏卵、くるみ、牛乳などが含まれる報告があり、木の実類の割合増加が確認されている。年齢別や食品別の分布が解析されており、特定原材料8品目だけで一定割合を占めることが示されている。

  • 臨床マニュアルや手引き(食物アレルギー診療の手引き、アレルゲン免疫療法の手引き等)はOITを含む免疫療法の現状と課題(有効性、副反応、年齢差、併用療法の検討)を明記しており、研究の進展に伴って推奨や運用が見直されつつある。

  • 口腔アレルギー症候群(OAS/PFAS)は増加傾向が報告され、ガイドラインにより日常診療での診断・管理法が整備されてきている。花粉症との関連や加熱によるアレルゲン不安定性などがポイントとされる。


11. 今後の展望(臨床・社会双方での進展期待)

  1. 治療側面:OITの最適化(投与量、維持量、併用療法の安全性確保)、生物学的製剤の併用研究、EPIT(貼付免疫療法)など代替的免疫療法の開発、バイオマーカーによる反応予測の研究が進む見込みである。これにより一部の患者にとっては「寛解」や重症化予防が現実味を帯びる可能性がある。

  2. 予防・公衆衛生:早期離乳食導入のガイダンスや乳幼児期の予防策に関する知見の蓄積、学校や施設での標準的対応、食品表示や交差汚染対策の強化が進むことにより、事故の減少と安全性向上が期待される。

  3. 教育・啓発:家庭・保育園・学校・飲食店等に向けた継続的な教育と情報発信、患者・家族のセルフマネジメント能力向上、救急対応教育の普及が重要である。

  4. データ基盤の整備:全国レベルの報告システムや電子カルテデータ、患者レジストリを活用した実態把握と研究基盤の強化により、エビデンスに基づく政策や診療指針のアップデートが進む見込みである。


12. 最後に:患者・家族・社会へのメッセージ

食物アレルギーは個人差が大きく、一律のルールで対応できない側面がある。専門医による正確な診断と個別対応が最も大切であり、回避の実践、緊急時の準備(エピネフリン自己注射器の使い方の習得等)、周囲との情報共有が命を守る。医療と社会(学校、飲食、食品業界)が連携して安全性を高めること、研究を通してより良い治療法と予防法が確立されることを期待する。最新のガイドラインや全国調査のデータを適宜確認し、疑問がある場合は専門医に相談することを推奨する。


参考(抜粋)

  • 消費者庁・食物アレルギーに関するモニタリング報告(会議資料)、即時型症例の集計結果。

  • 公益社団法人 日本小児科医会 アレルギー関連情報(2025年一覧)。

  • 食物アレルギーの診療の手引き(2023)。

  • 日本アレルギー学会「アレルゲン免疫療法の手引き 2025」および関連ガイドライン。

  • 口腔アレルギー症候群(OAS)診療ガイドラインおよび解説論文。

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