コラム:冬の食中毒に注意、対策まとめ
日本における冬の食中毒の主役はノロウイルスであり、低温・乾燥に耐え、少量で感染を引き起こす特性を持つため、冬季における家庭・施設・飲食店での流行を繰り返し生じさせている。
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2025年12月時点における日本の食中毒動向を見ると、ウイルス性の感染性胃腸炎、なかでもノロウイルス(Norovirus)による事例が食中毒・感染性胃腸炎全体の主要な割合を占めている。国の監視システムや検出報告においても、ノロウイルスは検出頻度が最も高く、検出された遺伝子型ではgenogroup II(GII)が多数を占めると報告されている。冬季(11月〜翌年2月)にかけて患者数や集団発生が増加する傾向が繰り返し示されている。これらの傾向は厚生労働省及び国立感染症研究所(NIID)のサーベイランス報告で明示されている。
冬の食中毒の特徴
冬の食中毒は主にウイルス性の事例が多く、特にノロウイルスが支配的である点が特徴である。ウイルスは低温で比較的安定に残存しやすく、家族内・介護施設・保育所・学校等の屋内集団環境での二次感染が起こりやすい。また、食品(特に二枚貝や加熱不足の食品)を介した一次感染と、人から人への接触や手指媒介による二次感染が混在する点が夏期の細菌性食中毒とは異なる特徴である。
主な原因
冬季の食中毒原因の代表はノロウイルスであり、その他にロタウイルス、アストロウイルス、サポウイルスなどの胃腸炎ウイルスが原因となる場合がある。食中毒統計や保健所報告において、ウイルス系統の占める割合が高いことが確認されている。ノロウイルスは食品由来の集団食中毒、大規模感染を引き起こしやすい病原体である。
流行時期
日本におけるノロウイルスの流行期は典型的には11月から翌年2月にかけてであり、この時期に検出数や集団発生が増加する。サーベイランスデータは毎年の季節性を示しており、冬季における検出割合が高い。2024/25シーズンの検出報告も同様の季節性を示している。
感染経路
ノロウイルスの主な感染経路は経口感染であり、具体的には以下の経路が主要である。
汚染された食品の摂取(生食または加熱不足の食品)
感染者の手指が食品や口に触れることによる媒介(ハンドキャリア)
嘔吐物・糞便による環境汚染を介した間接接触(エアロゾル化した飛沫の二次汚染を含む)
汚染された器具、調理台、ドアノブ等の環境面を介した接触感染
これらの経路は、調理従事者が症状があるにもかかわらず調理を行った場合に大規模な食中毒に発展するリスクが高いことを示している。
食品からの感染
食品由来感染の代表例は二枚貝(特に牡蠣)を介したものや、汚染された生野菜、加熱が不十分な調理食品である。二枚貝は潮間帯や浄化不十分な海域でウイルスを濃縮する可能性があり、生食や加熱不足で摂取するとノロウイルスによる感染を起こす。食品におけるリスク低減策としては、適切な加熱(中心温度管理)と原材料の衛生管理、供給元のトレーサビリティ確保が重要である。厚生労働省や大量調理施設向けマニュアルでは、中心温度や加熱時間に関する標準的指針が示されている。
人からの感染(接触・飛沫等)
感染者は糞便や嘔吐物に大量のウイルスを排出するため、手指や身の回りの物を介して人から人へ容易に感染が広がる。嘔吐物は飛沫として広範囲に飛散するため、清掃や消毒が不十分だと環境中にウイルスが残る。したがって、家庭や施設で症状者が発生した場合の隔離、接触制限、環境の適切な消毒が二次感染の予防で最重要である。
主な症状
ノロウイルス感染の主症状は急性の嘔吐、下痢、腹痛、時に発熱である。潜伏期間は通常24〜48時間程度で、症状は多くの場合1〜3日で自然軽快するが、小児・高齢者・免疫不全者では脱水や誤嚥性肺炎などで重症化することがある。治療は基本的に対症療法(経口補水、必要時の点滴等)に限られるため、予防が重要である。
ウイルスの性質
ノロウイルスは非包膜ウイルスであり、非包膜であることがその安定性、消毒耐性に関係している。非包膜ウイルスは一般にアルコール消毒(エタノール)に対する感受性が低く、強力な界面活性剤や塩素系消毒薬の方が有効であるとされる。さらに低温・乾燥下でも比較的安定であり、環境中での残存性が高い。これらの性質が冬季における流行と相関している。
主な注意点
以下は冬季の食中毒(特にノロウイルス)対策として現場・家庭で留意すべきポイントである。
調理従事者や介護・保育従事者等は、下痢や嘔吐等の症状がある場合は調理・食品取扱いを行わないこと。
手洗いの徹底(石鹸と流水で十分に物理的に洗うこと)が最重要であり、アルコールだけに依存しないこと。
嘔吐物・排泄物が生じた場合は適切な個人防護具(マスク、手袋、エプロン)を着用し、塩素系消毒(次亜塩素酸ナトリウム等)で処理すること。ガイドラインでは200ppm前後の濃度を目安にする指示がある。
二枚貝の生食はリスクが高く、加熱中心部の温度管理を徹底すること。大量調理マニュアルでは中心温度75℃で1分間保持などの基準が示されるが、状況に応じてより厳格な基準(85〜90℃で90秒等)を適用する見解もある。
調理器具・台所用具や食器は洗浄を十分に行い、必要に応じて塩素系で消毒してから使用すること。
ウイルスの特性
ノロウイルスは非包膜、RNAウイルスであり、環境耐性・感染力が強いことが特徴である。少量(数十〜数百粒子)で感染を引き起こすとされる感染性が高いウイルスであるため、少量の汚染でも食中毒や二次感染につながる。非包膜であることから、消毒法選択の際には塩素系薬剤や十分な加熱が必要になる。
低温・乾燥に強い
研究および観察データにより、ノロウイルスは低温で安定に残存する傾向が示されている。冬季の低温かつ屋内の乾燥した環境はウイルスの環境残存を助長し、接触機会が相対的に増える屋内集団環境と相まって流行を助長する。したがって、単に屋外気温が低いという安心は誤りであり、室内の換気・湿度管理・清掃消毒の徹底が必要である。
アルコール消毒が効きにくい
ノロウイルスは非包膜ウイルスであるためアルコール(エタノール系)の効力が限定的であり、表面や嘔吐物の直接処理にアルコールのみを用いるのは不十分である。厚生労働省や感染対策資料では、嘔吐物や糞便汚染が疑われる場合は次亜塩素酸ナトリウム等の塩素系消毒液による処理を推奨している。アルコールは手指消毒の補助や一部環境消毒に用いるが、物理的洗浄と塩素系消毒の併用が望ましい。
食品の取り扱いに関する注意点
食品の取り扱いにおいては、原材料の入荷時点から保管、調理、提供までの各段階でハザードを想定した管理が必要である。特に以下の項目に留意する。
原材料の受け入れと保管:海産物(特に二枚貝)の供給元の信頼性を確認し、トレーサビリティを確保する。冷凍・冷蔵の温度管理を行う。
加熱調理:中心温度を確認するための温度計を活用し、規定の温度・時間で十分に加熱する。大量調理マニュアルに示された基準を参考にする。
二枚貝の加熱
二枚貝(例えば牡蠣)はウイルスを濃縮する特性があるため生食や加熱不足により感染が起こりやすい。公的指針や食品衛生マニュアルでは中心温度が十分に上がるように加熱することを標準として示している。実務上は中心温度75℃で1分間保持する等の基準が示されるが、別の評価や実験的指標では85〜90℃で90秒以上の加熱でより確実に失活する旨の示唆もあるため、特にリスクの高い素材ではより厳格な加熱基準を適用することが推奨される。
調理器具の衛生管理
調理器具、まな板、ふきん、布巾、食器は洗剤による洗浄をまず行い、その後必要に応じて塩素系消毒を行う。嘔吐物や糞便で汚染された場合は200ppm前後の次亜塩素酸ナトリウム希釈液で浸して拭く等の処置を推奨する。洗浄を伴わない表面消毒は効果が低い場合があるため、物理的な洗浄と消毒の組合せが重要である。
冬だから大丈夫という安心感
「冬だから安全」ではなくむしろ冬はリスクが高くなるという逆の認識が必要である。低温でウイルスが安定すること、人々が屋内に集まりやすく接触機会が増えること、そして調理従事者等が体調不良を押して業務を続けると大規模発生に至るリスクがあることから、冬季はむしろ警戒と対策の強化が必要である。
人から人への感染(二次感染)の防止
二次感染を抑えるためには、発症者の隔離、接触制限、感染対策の徹底(手洗い、個人防護具、環境消毒)が必要である。施設等では症状者が出れば運営側が迅速に対応し、保健所と連携して疫学的調査・拡大防止措置を行うことが重要である。家庭でも同様に、症状のある者はできるだけ別室で過ごし、共用物品の共有を避け、トイレ・浴室利用後の消毒等を行う。
徹底した手洗い
手洗いはノロウイルス対策の第一線であり、石鹸と流水での十分な物理的洗浄が最も効果的である。アルコールだけに依存するのは不十分であり、食事前・調理前・トイレ後・嘔吐物処理後などのタイミングで石鹸を用いて30秒程度かけて丁寧に洗うことが推奨される。特に調理従事者や介護従事者は手洗いの実行を日常業務の必須プロセスとする。
嘔吐物・排泄物の適切な処理
嘔吐物や排泄物はウイルスが高濃度に含まれているため、専用の個人防護具(マスク、手袋、エプロン、必要ならゴーグル)を着用して処理する。まず紙や使い捨てのもので慎重に回収し、洗剤での洗浄を行った上で塩素系消毒(目安200ppm)を行うことが推奨される。清掃後は消毒薬の残留を水拭きで除去し、洗浄した布類は高温で洗濯するか廃棄する。詳細な手順は公的ガイドラインに示されている。
体調管理、体調不良時の調理禁止
調理や介護に従事する者は自分の体調管理に責任を持ち、嘔吐・下痢などの症状がある場合は直ちに業務から離れ、症状消失後も一定期間(保健所や事業所ルールに基づく)就業制限を受けることが望ましい。これは集団発生を防ぐ上で最も確実な措置である。公的なQ&Aや指針も、症状者の調理従事禁止を強調している。
今後の展望
今後の対策は以下の方向で進むべきである。第一にサーベイランスの強化と迅速な情報共有により、局所的な流行を早期に検出して封じ込める体制を強化すること。第二に食品供給チェーン、特に二枚貝等の生食素材の管理強化やトレーサビリティの向上を図ること。第三に現場(飲食店、給食施設、介護・医療・保育現場)での感染対策教育を徹底し、手洗い・衛生管理・嘔吐物処理の実施状況を評価・改善する仕組みを導入すること。第四に研究面では、ノロウイルスの環境中での残存性、消毒法の最適化、ワクチンや抗ウイルス薬の開発促進が望まれる。これらは公衆衛生的・産業的視点双方からの取組が必要である。
まとめ
日本における冬の食中毒の主役はノロウイルスであり、低温・乾燥に耐え、少量で感染を引き起こす特性を持つため、冬季における家庭・施設・飲食店での流行を繰り返し生じさせている。予防の基本は「適切な加熱」「徹底した手洗い」「物理的洗浄+塩素系消毒」の三点である。特に嘔吐物や糞便による環境汚染処理は手順を踏んで行う必要がある。行政のガイドラインや大量調理マニュアルに示された基準(加熱温度、消毒濃度、就業制限等)を現場で確実に運用することが抑止力となる。今後はサーベイランス強化、供給チェーン管理、現場教育の徹底、研究投資を並行して行うことが求められる。
追記:家庭内や職場での二次感染を防ぐための取り組み
以下では家庭と職場に分け、二次感染(人から人へ広がる感染)を具体的かつ実践的に抑えるための取り組みを詳細に述べる。手順は疫学的根拠と公的ガイドラインに基づく実務的な手順である。
1. 基本方針と初動対応
(1)認識の共有:家庭・職場を問わず、感染者が出た場合は「速やかに隔離・通知・環境消毒を行う」ことを共有する。症状の早期報告を奨励し、症状を隠して業務を続けることが二次感染の主因であるという点を明確にする。
(2)初動体制:職場では保健担当者(安全衛生担当、衛生管理者、施設管理者等)を明確にし、家庭でも家族内で役割分担(看護者・清掃担当・買物担当等)を決めておくと初動が速く実行できる。
2. 発症者の隔離と看護者の防護
(1)隔離:発症者は可能な限り別室に隔離する。共用スペースの利用は最小限にし、可能であれば専用トイレを使用させる。共用トイレを使用する場合は使用後にドアノブ等高頻度接触面の即時消毒を行う。
(2)看護者の個人防護具(PPE):看護・清掃を行う者はマスク、使い捨て手袋、使い捨てエプロン(長袖ガウンが望ましい)を着用する。嘔吐物処理時には可能であればゴーグルやフェイスシールドを用いて目・口粘膜を保護する。使用後のPPEは即座に廃棄するか適切に消毒する。公的手引きはこれらの個人防護を推奨している。
3. 手洗いと手指衛生の徹底
(1)タイミング:トイレ後、調理前、食事前、嘔吐物処理後、床掃除や洗濯前後は必ず手洗いを行う。職場ではタイミングをポスター等で明示し、実施を促す。
(2)方法:流水と石鹸を用いて入念に物理的に洗う。洗い方は手の甲、指の間、指先、親指、手首まで含めて30秒程度かけて洗うことを推奨する。アルコールは補助的に用いるが、手洗いを基本とする。
4. 環境の洗浄・消毒手順(嘔吐物・糞便処理含む)
(1)準備:清掃に入る前に周辺の人を別室に移し、換気を行う。使い捨てのペーパーや雑巾、ビニール袋、容器、塩素系消毒薬(規定濃度に希釈)を用意する。
(2)回収:固形の嘔吐物は紙やティッシュで慎重に回収し、密閉容器や袋に入れて密封する。布製品に付着した場合は高温で洗濯するか廃棄する。
(3)洗浄:まず中性洗剤で物理的に洗浄して汚れを除去する。消毒は洗浄の後に行うのが原則である。
(4)消毒:ノロウイルス対策では次亜塩素酸ナトリウム希釈液(目安:200ppm前後。現場の材質や腐食リスクを考慮して濃度を設定)を用いることが推奨される。消毒後は素材の腐食を避けるため十分に水拭きするか、用途に応じて指示に従う。エタノールのみは嘔吐物・糞便の消毒には不十分である。具体的な手順・濃度は厚生労働省等のガイドラインに従う。
5. 食器・調理器具の取り扱い
(1)使い捨てが可能なものは使い捨てを優先する。再使用する場合はまず洗剤で十分に洗浄し、その後熱湯あるいは塩素系消毒で処理する。
(2)まな板や包丁、ふきん等は色分けや用途分離(生食用と加熱用を分ける)を徹底し、共用を避ける。布巾は使い捨てを推奨するか、高温・高圧で洗濯する。
6. 換気と室内環境管理
(1)換気:短時間でも定期的に換気を行い、室内の空気希釈を行う。嘔吐物発生直後は屋内にウイルスエアロゾルが残存する可能性があるため十分な換気が必要である。
(2)湿度管理:極端な乾燥はウイルスの飛散を助長する場合があるため、過度に乾燥しないよう湿度管理を行う(ただし加湿のみで感染防止になるわけではない)。
7. 就業制限と復帰基準(職場対応)
(1)就業制限:調理従事者や介護従事者で症状がある者は直ちに業務を停止し、復帰は症状消失後少なくとも48時間を目安にする指針が一般に用いられている(施設の規程や保健所の指示に従う)。この「症状消失後一定期間の就業制限」は二次感染を防ぐ上で重要である。
8. コミュニケーションと教育訓練
(1)教育:手洗い、PPEの使い方、嘔吐物処理手順、消毒薬の希釈法などについて定期的な訓練を行う。実地訓練やチェックリストを設けると実行率が高まる。
(2)情報共有:職場では発生時における連絡経路、外部(保健所、上司)への報告フローを明確にしておく。家庭内でも症状が出た際の対応フロー(買物代行、医療受診の手順等)を家族で取り決める。
9. 特殊な配慮(高リスク者と施設)
(1)高齢者施設、医療機関、保育所など高リスク集団を抱える施設では特に厳格な感染対策が必要である。入所者・患者の健康観察を強化し、小さな兆候でも早期対応を行う。発生時は外部専門家(保健所等)と迅速に連携して流行の拡大を防ぐ。
(2)家庭では乳幼児や高齢者がいる場合は特に隔離と消毒に注意し、必要なら地域の保健資源を活用する。
10. 心理的配慮と差別防止
感染者やその家族・職場の同僚に対する過剰な差別や排除は二次的な被害を生み対応を遅らせる。正確な情報伝達と配慮あるコミュニケーションが重要である。発生を公表する際は事実に基づき、プライバシーを守りつつ必要な予防情報を周知することが望ましい。
11. 事後評価と改善
発生が収束した後は事後評価を行い、発生経路、初動の対応、消毒処理の実行状況、手順の問題点を分析して改善策を実施する。職場では改善計画を文書化し、次回に備える。
結語(追記の総括)
家庭や職場における二次感染対策は、初動の速さと基本的な感染対策(手洗い・隔離・適切な消毒・就業制限)の確実な実行に依存する。公的ガイドラインを参照しつつ、現場の実情に即した手順化、教育、訓練、評価を繰り返すことで二次感染のリスクを大幅に低減できる。冬季の食中毒は繰り返し発生するが、科学的根拠に基づいた具体的な実務を徹底することで被害を抑制可能である。
主要参考資料(抜粋)
厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」等関連ページ。
国立感染症研究所(NIID)感染症サーベイランス・病原体検出報告(ノロウイルス検出報告等)。
厚生労働省「介護現場における感染対策の手引き」(嘔吐物処理・消毒濃度等のガイドライン)。
厚生労働省「大量調理施設衛生管理マニュアル」(加熱温度管理など)。
厚生労働省の食中毒関連リソース(食中毒統計・発生事例)。
