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コラム:尿酸値、高すぎても低すぎてもヤバい...

尿酸はプリン体代謝の最終産物であり、7.0mg/dLを超える場合は高尿酸血症と診断される。
痛風のイメージ(Getty Images)

日本における高尿酸血症および痛風の患者数は近年増加傾向にある。2022年の推定で痛風患者は約130万人に達したとする報告があり、高尿酸血症(無症候性を含む)はさらに多く、医療現場や疫学研究でも増加が指摘されている。高尿酸血症は単に痛風の原因となるだけでなく、慢性腎臓病や心血管疾患と関連があることが示唆され、診療ガイドラインや臨床研究において尿酸管理の重要性が強調されている。特に生活習慣の欧米化、飲酒習慣、肥満の増加、清涼飲料(果糖含有飲料)摂取の増加などが背景要因として挙げられている。これらの傾向は地域差や性差(男性に多いが閉経後女性で上昇する傾向がある)を伴っている。

尿酸とは

尿酸はプリン体という核酸成分(DNAやRNAの分解産物や細胞内代謝物)から肝臓で最終的に生成される代謝産物(老廃物)である。普段は血中で可溶な形で存在し、主に腎臓からろ過・再吸収・分泌を経て尿中へ排泄される。人間では尿酸は最終代謝産物として体内で産生され、その一部が糸球体で濾過されるが、約90%は腎で再吸収され最終的に約10%が尿中に排出されるというのが一般的な説明である。尿酸は体内で抗酸化作用を持つ側面も指摘されているが、血中濃度が高くなると結晶化しやすくなり、結晶が関節や腎臓に沈着して炎症を起こす。

尿酸の役割と基準値

尿酸自体の生理的役割は明確には限定されないが、血中尿酸は一部抗酸化物質として酸化ストレスに対抗する可能性がある。しかし臨床的には「血清尿酸値の上昇(高尿酸血症)」が病的問題を引き起こすため管理対象となる。

基準値・診断基準については、日本の診療ガイドラインでは「血清尿酸値が7.0mg/dLを超えると高尿酸血症と診断する」とされている。さらに治療目標や介入判断については合併症の有無や重症度で差があり、痛風発作や結石、腎障害など合併がある場合はより厳格な管理を目指すことが推奨されている。臨床検査での参考範囲は検査機関によって若干異なるが、たとえば一部の共用基準では女性の範囲例として2.6–5.5mg/dLなどが示されている。臨床的には6.0mg/dL以下を目標とすることが多いという考え方もある(後述のガイドライン議論参照)。

尿酸が高すぎると(高尿酸血症の合併症)

血清尿酸値が高い状態が続くと臨床的に以下のような問題が生じる。

  1. 痛風(痛風関節炎):尿酸(主に尿酸ナトリウム結晶)が関節に沈着して激烈な炎症と疼痛を生じる。典型的には第1中足趾関節(足の親指の付け根)に好発するが、他関節でも起こる。

  2. 尿路結石:腎臓や尿路に尿酸結晶が沈着して結石(尿路結石)を形成し、激しい側腹部痛や血尿を招く。

  3. 腎障害(CKD)との関連:持続的な高尿酸血症は腎機能低下を促進する可能性が指摘されており、逆に腎機能低下は尿酸排泄を妨げて悪循環を作る。

  4. 心血管疾患リスクの上昇との関連示唆:高尿酸血症は高血圧、動脈硬化、心血管イベントや脳卒中のリスクと関連があるとの疫学的報告が増えており、個別の因果関係や介入によるアウトカム改善を検証する研究が進んでいる。

尿酸が低すぎると(低尿酸血症の問題)

低尿酸血症は臨床では比較的まれだが、極端に低い場合は以下のような問題や示唆がある。

  • 潜在的な代謝異常や薬剤の影響:尿酸の極端低下は尿酸産生低下(例:プリン代謝異常)や腎からの過剰排泄(尿酸排泄促進薬、特定の遺伝性尿酸排泄異常など)、または肝障害や栄養不良を示唆する場合がある。

  • 神経学的議論:尿酸は抗酸化物質として中枢神経保護に関与する可能性が一部で議論されており、低尿酸が神経変性疾患と関連するかについては研究段階である。
    臨床的には極端な低値が続く場合は原因検索(薬剤、肝腎機能、遺伝的要因など)を行う。

尿酸値が高くなる原因(病態生理と主因)

血中尿酸値は産生増加と排泄低下のバランスで決まるため、要因は大別して「産生増加型」「排泄低下型」「混合型」に分けられる。主な原因は以下の通り。

  1. 食生活(プリン体摂取):内臓(レバー等)、一部魚介類、甲殻類、肉類などプリン体を多く含む食品の過剰摂取は尿酸生成の増加を招く。

  2. アルコール摂取:アルコールは尿酸の産生を促進しさらに腎からの排泄を抑える作用を持つ。特にビールはプリン体を多く含むことから尿酸上昇に関与しやすい。またアルコール代謝に伴う乳酸の上昇が尿酸の腎排泄を阻害する機序も知られている。疫学的にも飲酒量と高尿酸血症・痛風発症の関連が示されている。

  3. 果糖(糖質)摂取:果糖(特に清涼飲料や果糖果糖液糖を多く含む飲料)は肝代謝で速やかにATPを消費してプリン代謝を亢進し、尿酸生成を増やす。砂糖入り清涼飲料の摂取増加は尿酸上昇と関連する。

  4. 水分不足(脱水):血液濃縮により尿酸濃度が上昇し、尿量減少は腎からの尿酸排泄を妨げるため高値になりやすい。

  5. 肥満・インスリン抵抗性:肥満は尿酸産生を増やし、インスリン抵抗性は腎での尿酸再吸収を亢進して尿酸排泄を低下させる。メタボリックシンドロームと高尿酸血症はしばしば合併する。

  6. 薬剤:利尿薬(特にサイアザイド系)、免疫抑制薬、低用量アスピリンなどは尿酸排泄を阻害して高値化させることがある。

  7. 腎機能低下:腎臓での排泄能が低下すると尿酸が蓄積する。慢性腎臓病患者では尿酸コントロールが困難になる場合がある。

  8. 遺伝的要因・疾患:一部は家族性に高尿酸血症を示す遺伝子変異(尿酸トランスポーターの異常など)が関与する場合がある。
    これらは単独あるいは複合して尿酸値上昇を招く。臨床ではどの因子が優勢かを評価して対応を決める。

食生活の具体的影響(詳細解説)
  • プリン体を多く含む食品:レバーや一部の魚介(イワシ、カツオなど)、甲殻類、肉の臓器部分はプリン体含有量が高い。これらを常習的・大量に摂取する生活は尿酸上昇につながる。

  • 飲料の影響:アルコール(特にビール)と砂糖入り清涼飲料(果糖を多く含むもの)は尿酸を上げやすい。果糖は肝内で代謝される過程で尿酸合成を促進するため、甘い清涼飲料の常飲はリスクになる。研究で清涼飲料の摂取量と血清尿酸値の上昇が示されている。

  • 植物性食品:野菜中にもプリン体は含まれるが、動物性食品に比べ影響は小さいとされ、植物性中心の食事は一般にリスクが低い。

  • 総カロリー・肥満との関係:高エネルギー食は体重増加を招き、肥満に伴うインスリン抵抗性が尿酸排泄を低下させるため二次的に尿酸が上がる。

アルコール摂取の影響(機序と疫学)

アルコールは尿酸の産生を促進するとともに腎からの排泄を減少させる機序を持つ。アルコール代謝により生じるアセトアルデヒドや乳酸の上昇が尿酸の腎クリアランスを低下させ、さらにアルコール飲料自体(特にビール)にはプリン体が含まれるため二重に影響する。疫学的には飲酒量・頻度と高尿酸血症・痛風のリスクは正の相関を示しており、近年のメタ解析でも飲酒の影響が再確認されている。したがって、節酒が高尿酸血症予防の重要な対策となる。

水分不足(脱水)の影響

水分不足は血液濃縮を通じて血清尿酸値を相対的に上昇させ、また尿量低下は腎からの尿酸排泄を妨げる。発汗や下痢、十分な水分補給の欠如が続くと一時的に尿酸が上昇しやすい。痛風発作は脱水や大量飲酒後に誘発されることが臨床的にも知られている。したがって、十分な水分摂取(1.5〜2L/日を目安に個別調整)は基本的なセルフケアとなる。

肥満と代謝(影響の詳細)

肥満は尿酸値上昇と強く関連する。体脂肪が増えると尿酸産生が増加し、インスリン抵抗性が生じると腎の尿酸再吸収が亢進して排泄が減る。減量により尿酸が低下することが複数の研究で示されており、体重管理が尿酸コントロールの基本戦略の一つである。

その他の原因(薬剤や合併症)
  • 利尿薬(サイアザイド系、ループ利尿薬など)は尿酸排泄を阻害して高尿酸血症を招く。心不全や高血圧治療で使用中の患者では注意が必要である。

  • 慢性腎臓病(CKD):腎機能低下に伴う排泄低下により高尿酸血症が悪化する。逆に高尿酸が腎障害を進行させる可能性が示唆されているため、腎機能合併例はより慎重な管理が必要である。

対処法(総論)

高尿酸血症の管理は生活習慣改善が基盤であり、必要に応じて薬物療法が行われる。無症候性高尿酸血症に対する薬物治療の適応は議論があるが、痛風発作反復例、尿路結石合併、腎障害合併などでは積極的な尿酸降下が推奨される。診療ガイドラインに基づく治療方針の決定が重要である。

水分補給(具体的指針)

  • 日常的に十分な水分を摂ること(一般的な目安として1.5〜2.0リットル/日、活動量や気候・年齢に応じて増減)。

  • 発汗や下痢・嘔吐などで脱水リスクがある場合はより意識的に補給する。

  • 尿の色を目安に、淡く薄い黄色が理想で濃い黄色は水分不足を示唆する。
    水分補給により尿量が増えると尿酸の排泄が促され、結晶形成リスクが下がる。

食生活の見直し(実践的指針)

  • プリン体摂取制限:過剰な内臓や一部魚介の定期的な大量摂取を避ける。週に何回かの頻度制限や量の管理が有効。

  • 果糖・砂糖入り飲料の制限:清涼飲料や加工食品中の糖(果糖)を減らす。

  • バランスの良い食事:野菜中心、適切なタンパク質(魚・豆類を中心に)、過剰な飽和脂肪・高カロリー食を避ける。

  • 減量:肥満があれば漸減的な減量(急激な断食は避ける)を目指す。減量は尿酸低下に寄与する。

節酒(実践的指針)

  • 飲酒量を減らす。特にビールや高プリン体飲料を控えること。飲酒習慣のある人は減量や飲酒頻度の低下が尿酸値の改善につながる。医師と相談しながら節酒目標を決める。

適度な運動

  • 有酸素運動や筋力トレーニングは体重管理やインスリン感受性改善に有効で、間接的に尿酸低下に寄与する。運動は継続が重要である。脱水を避けるため運動中・直後の水分補給に注意する。

医療機関への相談(いつ受診するか)

以下のような場合は早めに医療機関を受診することが望ましい。

  • 血清尿酸値が7.0mg/dLを超える(無症候でも持続)場合は評価が必要である。

  • 激しい関節痛(腫脹・発赤を伴う)や尿路結石の疑いがある場合は救急・受診が必要。

  • 腎機能低下、高血圧、糖尿病など合併症がある場合は専門的管理が必要で、薬剤調整など医師の判断を仰ぐべきである。

  • 生活習慣改善だけで効果不十分な場合や痛風発作を繰り返す場合は、尿酸降下薬(アロプリノール、フェブキソスタット、ベンズブロマロンなど)を用いた薬物療法が検討される。治療はガイドラインに沿って行うことが重要である。

今後の展望(研究・公衆衛生的観点)
  1. エビデンスの蓄積と治療適応の明確化:高尿酸血症が心血管イベントや腎保護に対してどこまで介入が有効かについては、RCTや長期観察研究でのエビデンス蓄積が進んでいる。将来的には無症候性高尿酸血症に対する薬物介入の適応や目標値に関する議論・指針がより精緻化される可能性がある。

  2. 個別化医療(遺伝学・バイオマーカー):尿酸トランスポーターの遺伝的多型や個人差を考慮した個別化治療、薬剤選択が進むことが期待される。トランスポーター阻害薬や新薬の開発も継続している。

  3. 公衆衛生施策:飲酒対策や清涼飲料の糖分対策、肥満対策など生活習慣に関わる政策(教育・環境整備)が高尿酸血症抑制に有効であり、一次予防の観点での取り組みが重要となる。2020年代以降、社会的な生活様式変化(テレワーク、外食頻度の変化、飲酒習慣の変動など)が疾病パターンに影響を与えており、監視と対策の継続的更新が必要である。

まとめ
  1. 尿酸はプリン体代謝の最終産物であり、7.0mg/dLを超える場合は高尿酸血症と診断される。

  2. 高尿酸血症は痛風、尿路結石、腎障害、心血管疾患リスクの増大と関連する可能性があるため、生活習慣改善が基本である。

  3. 主な対策は水分補給、プリン体・果糖の多い食品・飲料の制限、節酒、適正体重の維持、定期的な運動である。必要に応じて医療機関での評価・薬物療法が行われる。

  4. 日本では患者数が増加傾向にあり、公衆衛生上の対策や個別化医療の発展が今後の鍵となる。


参考(主要出典)

  • 厚生労働省 健康情報(高尿酸血症の説明)。

  • 日本痛風・尿酸核酸学会ほか「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版(2022年追補版)」。

  • 日本の疫学レビュー・雑誌記事(2025年特集等での痛風患者数推計)。

  • 日本臨床化学会等の臨床検査基準範囲資料(尿酸の基準例)。

  • フルクトース・アルコールと尿酸代謝に関するレビュー論文(2020–2024年の総説・研究)。

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