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コラム:緑内障とは、注意が必要な行為、血流を悪化させる生活習慣

40歳を過ぎたら年に1回程度、眼科で眼底検査・眼圧測定を受ける。視野検査やOCTは医師と相談して適宜実施する。
スマートフォンを見る女性(Getty Images)

日本において「緑内障」は中高年の視覚障害および失明の主要原因であり続けている。全国調査や学会のまとめによると、視覚障害の原因疾患の第一位は緑内障であり、その割合は近年高まっていると報告されている。また人口ベースの疫学研究(多治見スタディ/Tajimi Study)や後続の大規模研究の結果から、日本では40歳以上の有病率が一定の割合で存在し、未診断・未治療の患者が多数いることが指摘されている。こうした背景から全国の眼科医療機関や公衆衛生団体は、40歳を過ぎたら定期的な眼科検診(特に眼底検査)を受けることを強く推奨している。

緑内障とは

緑内障は視神経(網膜神経節細胞およびその軸索)が障害され、視野が狭くなっていく進行性の眼疾患である。進行すると不可逆的な視野欠損や視力低下を来すため、早期発見と適切な眼圧管理が重要である。緑内障は単に「眼圧が高い病気」というよりも、眼圧や血流、遺伝的素因、解剖学的特徴など複数要因が関与する多因子疾患である。眼圧が正常範囲でも発症する「正常眼圧緑内障(NTG)」が日本人に多いことが疫学的に示されている。

原因

緑内障の発症には複数の要因が関与する。

  1. 眼圧(眼球内圧):房水の産生と流出のバランスが崩れ、眼内圧が上昇すると視神経に機械的・血行動態的負荷がかかりやすくなる。

  2. 血流・循環不全:視神経乳頭部の血流低下や血圧変動が視神経障害に寄与する。特に夜間低血圧や循環不良が問題となる場合がある。

  3. 遺伝的素因:家族歴はリスク因子であり、日本人を対象としたゲノム研究でも関連遺伝子領域が同定されている。遺伝的背景は病型や進行速度に影響する。

  4. 解剖学的要因:前眼部の角膜厚、前房深度、眼球の長軸(近視の度合い)などが影響する。特に近視は一部の緑内障リスクを高める。

  5. 加齢:年齢上昇は最大のリスク因子の一つであり、40歳以降に有病率が上昇するという疫学データがある。

症状(総論)

緑内障は初期から中期にかけて自覚症状が乏しいため「沈黙の病気」と呼ばれる。典型的には徐々に周辺視野が狭くなり、病気がかなり進行するまで日常生活に支障が出にくい。急性閉塞隅角緑内障のように急激に眼圧が上昇するタイプでは、激しい眼痛、頭痛、吐き気、視力低下、虹視(光の輪)などの急性症状が起きるため即時治療が必要である。一方で開放隅角緑内障や正常眼圧緑内障は緩徐に進行するため、定期検査での視野変化や視神経乳頭の観察が発見の鍵となる。

初期〜中期

初期から中期における緑内障の特徴は以下の通りである。

  • 自覚が乏しいが視野欠損が進行片眼あるいは両眼の周辺視野が徐々に欠けてくるが、自分で気づきにくい。

  • 視神経乳頭の変化:眼底検査で視神経乳頭(視神経の出口)の陥凹拡大や神経線維層欠損が見られる。光干渉断層計(OCT)で網膜神経線維層の薄化を数値で評価できる。

  • 視野検査の異常:自覚前にハンフリー視野検査などで感度低下や切り抜きが検出される。定期的な視野検査が進行判定に不可欠である。

  • 治療反応:点眼薬やレーザー治療で眼圧を下げることで進行を遅らせることが比較的可能である。早期診断が治療効果に直結する。

後期

病気が後期に至ると、次のような状態となる。

  • 中心視力まで影響することがある:視野の大部分が失われ、日常生活での移動や読み書きに大きな支障が出る。

  • 視神経の不可逆的損傷:一度失われた視神経線維は回復しないため、治療は原則として「進行抑制」が目的である。

  • 社会的影響:運転免許の制限、就労や独立生活の制約、転倒や骨折リスクの上昇、精神的負担の増大など二次的影響が生じる。全国的な視覚障害の原因として緑内障が上位にあることは社会的にも深刻である。

診断と治療(概要)

緑内障の診断は複数検査の総合判断である。主な検査は次のとおりである。

  • 視力検査眼圧測定(非接触/ゴールドマン)眼底検査(視神経乳頭の観察)OCT(網膜神経線維層・視神経乳頭解析)視野検査(静的自動視野検査:ハンフリーなど)。これらの結果を総合して診断と進行判定を行う。

治療の基本は眼圧を下げることである。具体的には以下の選択肢がある。

  1. 点眼療法:プロスタグランジン製剤、β遮断薬、炭酸脱水酵素阻害薬、α2作動薬などを単剤・配合剤で用いる。点眼の順守(アドヒアランス)が治療成功の鍵だ。

  2. レーザー治療:選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)などで房水の流出を改善し、眼圧を低下させる。

  3. 手術療法:従来の線維柱帯切除術やチューブシャント術に加え、近年は低侵襲緑内障手術(MIGS)が普及しつつある。手術は点眼やレーザーで十分な眼圧低下が得られない場合に選択される。MIGSは低侵襲で回復が早いメリットがあるが、適応や効果の程度は手術法により異なる。

診断と治療(詳細)

治療戦略は個々の患者の病型(開放隅角型・閉塞隅角型・正常眼圧型など)、進行度、年齢、合併症、視機能の需要に基づいて個別化される。治療目標眼圧は「視野の進行停止を期待できる最も低い眼圧」に設定するため、定期的な視野検査とOCTで経過を評価し、必要なら治療強化(点眼数の追加、レーザー、手術)を行う。点眼薬の副作用、全身的併用薬との相互作用、患者の生活習慣や点眼遵守状況も治療方針決定で重要である。なお、神経保護薬や再生医療、遺伝子治療などの研究が進展しており、将来的には眼圧低下以外の治療戦略も実用化される可能性がある。

注意が必要な行為

緑内障の進行抑制や眼圧急上昇防止のため、以下の行為に注意する必要がある。日常生活での具体的な回避策や工夫を挙げる。

眼圧を上昇させる姿勢・行動
  • うつ伏せ寝・長時間のうつむく姿勢:うつ伏せで寝ると眼球への外圧や眼圧上昇、房水循環の変化が起こる可能性がある。長時間のうつむき作業(スマホの長時間操作、読書など)は眼圧や眼周囲の血流に影響を与えることがあるため、適宜休憩や姿勢変更を行う。

  • 眼球を強く押す行為:まぶたを強く押す、眼をこする、眼を強く押し付けるような行為は眼圧を瞬間的に上昇させ、視神経への負荷となる。コンタクトレンズの取り扱いや目の圧迫には注意する。

  • 首を締め付ける服装:タートルネックやきつい襟元等で頚部の血流が阻害されると、眼部循環に影響を与える可能性があるため、圧迫感が強い服装は避ける。

  • 逆立ちや頭を下に向けるヨガポーズ:頭部低位になると一時的に眼圧が上昇することがあるため、緑内障患者やリスクのある人はこれらの姿勢を避けるか、医師と相談する。

  • 高い枕の使用:就寝時に高度な枕で頭部が高くなると必ずしも眼圧が下がるわけではなく、体位による眼圧変動が生じる。寝具選びは快適さと体位の安定性を考慮しつつ、医師の指示があれば従う。研究により体位変化で眼圧は変動するため、長時間同一姿勢での負荷は避けるべきである。

血流を悪化させる生活習慣
  • 喫煙:全身血管への悪影響だけでなく眼部血流にも影響し得るため、禁煙が望ましい。

  • 過度なアルコール・カフェイン摂取:短期的に眼圧が変動する可能性がある。大量のカフェイン摂取は一部で眼圧上昇と関連が示唆されている研究があるため、過度な摂取は控える。

  • 睡眠不足:慢性的な睡眠不足は全身性の血流変動や代謝異常を生じ得るため、規則的で十分な睡眠が望ましい。夜間低血圧や睡眠時無呼吸症候群も眼循環に影響するため適切な評価と対処が必要である。

  • イライラや興奮(ストレス):自律神経の変動が生じ、眼圧や血圧に影響を与えることがある。ストレス管理やリラクセーションは有益である。

以上の行為は必ずしもすべての患者で同じ影響を与えるわけではないが、リスクを低減する観点から注意を促す。生活指導は個別のリスク評価に基づいて行うべきである。

うつ伏せ寝・長時間のうつむく姿勢

うつ伏せ寝は眼球に直接的な外圧をかける可能性があるだけでなく、眼圧の上昇や房水流出の低下を招くことがある。長時間のうつむき姿勢も同様に眼圧や血流に影響することが示唆されるため、睡眠姿勢や作業姿勢の改善(適宜姿勢を変える、休憩を入れる)を勧める。就寝時の姿勢が気になる場合は眼科で相談することが望ましい。

眼球を強く押す

目を強く押す行為は瞬間的に眼圧を上げ、網膜や視神経に機械的なストレスを与える。特に点眼薬の投与やコンタクトの扱いで力を入れ過ぎないよう指導する。こすり癖がある場合は代替行動(涙が出る場合は清潔なティッシュで優しく押さえるなど)を習慣化する。

首を締め付ける服装

頚部の強い圧迫は局所血流や静脈還流を阻害する可能性がある。眼部の血流は局所の血管圧や全身血圧の影響を受けるため、締め付けの強い衣服は避けることが望ましい。特に睡眠時や長時間の着用では注意する。

逆立ちなどの行動

逆立ちや頭を低くするヨガのポーズは短時間で眼圧を上昇させることが実験的に示されている場合がある。緑内障患者はこうした高リスク姿勢を控えるか、医師と相談のうえで代替運動を行う。

高い枕の使用

枕の高さや寝具による体位変化が眼圧に寄与することがあるため、自身の感覚や医師のアドバイスに従い、長時間の不自然な姿勢にならない寝具を選ぶ。

血流を悪化させる生活習慣(詳細)
  • 肥満や運動不足:全身循環や代謝に悪影響を及ぼしうるため、適度な運動(医師の許可を得て)とバランスの良い食事を推奨する。

  • 高塩分の食事:高血圧を助長するため、塩分管理は全身循環改善に有益である。

  • 睡眠時無呼吸症候群:夜間の酸素飽和低下や血圧変動が視神経に悪影響を及ぼすため、疑われる場合は睡眠検査を検討する。

喫煙、過度なアルコール・カフェイン摂取、睡眠不足、イライラや興奮

これらは単独あるいは複合して全身の血流・自律神経バランスを乱し、視神経の代謝環境を悪化させる可能性がある。特に禁煙は眼科的にも推奨される。カフェインやアルコールは個人差による影響があるが、過量は避けるべきである。規則正しい睡眠とストレス管理が視機能の長期維持に有利である。

他の病気との関連
  • 糖尿病:糖尿病網膜症は緑内障とは別の主要な視覚障害原因であるが、糖尿病患者は眼科受診の機会があるため緑内障の併存チェックも必要である。全身血管障害がある患者は視神経血流に影響が出やすい。

  • 高血圧・低血圧:高血圧は血管障害を通じて眼全体の血流を変え得る。一方、夜間の過度な低血圧(特に降圧薬過量や夜間血圧低下)は視神経の血流不足を招く可能性があり、降圧治療の調整が必要となる場合がある。これらは内科・眼科連携で管理することが望ましい。

40歳を過ぎたら定期的に眼科検診(特に眼底検査)を受けよう

日本の眼科専門団体や保健情報では、40歳を過ぎたら年に1回程度の眼科受診(視力、眼圧、眼底検査、必要に応じて視野検査やOCT)を受けることを勧めている。早期の緑内障は自覚が乏しいため、眼底検査・視野検査・OCTによる定期的なチェックが早期発見と視機能温存に直結する。職場検診や人間ドックで眼底検査が含まれていない場合は眼科受診を検討することが推奨される。

専門家データ・エビデンスのまとめ
  • 多治見(Tajimi)疫学調査は、40歳以上で原発開放隅角緑内障の有病率を人口ベースで示し、推定有病率は年代や定義により変動するが、40歳以上で数%のオーダーであることを示した。多くは眼圧が正常範囲の正常眼圧緑内障が占める。

  • 全国の視覚障害原因調査では、緑内障が視覚障害の主要原因であり、その割合は近年増加傾向を示している(認定基準変更等の影響もある)。

  • 学会・専門団体は40歳以上の眼底検査受診を推奨しており、企業健診や人間ドックに眼底検査を組み入れる動きや啓発活動が行われている。

  • 遺伝学的研究や大規模ゲノム解析は日本人の開放隅角緑内障に関与する遺伝子領域を明らかにしつつあり、将来的な個別化医療やハイリスク層の同定に繋がる可能性がある。

今後の展望

緑内障の今後の展望は多方面で期待がある。

  1. 早期発見の強化とAI活用:OCTや眼底写真を用いたAIによるスクリーニングが普及すれば、無症候の早期患者を効率よく発見できる可能性がある。

  2. 低侵襲手術(MIGS)の普及:MIGSは従来手術より低侵襲で回復が早く、早期からの外科的アプローチの選択肢を広げる可能性がある。日本国内でも導入施設が増えつつあり、適応の拡大や長期追跡データの蓄積が進むと考えられる。

  3. 神経保護・再生医療の進展:網膜神経節細胞の保護や再生を目指す基礎研究が国内外で進んでおり、将来的には眼圧以外の治療軸(神経保護薬、遺伝子治療、幹細胞治療など)が臨床応用される可能性がある。

  4. 個別化医療と遺伝子情報の活用:ゲノム解析に基づくリスク層別化や薬剤選択の最適化が期待される。

  5. 公衆衛生的介入の重要性:高齢化社会において緑内障による失明の社会的負担を減らすため、定期検診の普及、労働者の眼科健診、啓発活動の継続が重要である。

最後に(実践的アドバイス)
  1. 40歳を過ぎたら年に1回程度、眼科で眼底検査・眼圧測定を受ける。視野検査やOCTは医師と相談して適宜実施する。

  2. 家族に緑内障の人がいる場合は早めに眼科で相談する。家族歴は有意なリスク因子である。

  3. 点眼薬は勝手に中止せず、医師の指示に従う。副作用や煩わしさがある場合は医師に相談して代替や調整を行う

  4. 生活習慣の改善(禁煙、規則正しい睡眠、適度な運動、血圧・血糖の管理)を心がける。これらは緑内障のリスク管理だけでなく全身の健康にも寄与する。

  5. 逆立ちや長時間のうつ伏せ、眼を強く押すなどの行為は避ける。仕事や趣味で長時間うつむく姿勢が続く場合は休憩と姿勢変更を行う

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