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コラム:中国のパンダ外交、知っておくべきこと

中国のパンダ外交は、一見かわいらしい象徴に留まらない戦略的な外交ツールである。贈
2021年12月11日/フランス、サン・テニャンのボーバル動物園、双子パンダのユアンドゥドゥとフアンリリ(Zooparc de Beauval/AP通信)
現状(2026年2月時点)

2026年初頭、日本の動物園にいたジャイアントパンダが相次いで中国へ返還され、日本国内では約54年ぶりにパンダ不在の状態となった。東京・上野動物園では2021年に双子として誕生した「シャオシャオ」と「レイレイ」が貸与期間満了により中国へ帰国しており、2026年1月の最終公開日の行列には数千人が集まった。

この背景には、日中関係の冷却、特に台湾を巡る地政学的緊張があるとされ、現時点では新たなパンダ貸与の見通しが立っていない。また、欧州や東南アジアでは引き続きパンダ貸与契約が進行しており、フランスでは新たな貸与合意が発表された。


パンダ外交とは

パンダ外交とは、中国がジャイアントパンダを他国に送ることを外交政策上の手段として利用する慣行を指す。これは中国独自のソフトパワー戦略であると同時に、国際関係の象徴的なジェスチャーでもある。中国語では「熊猫外交」、英語では “Panda diplomacy” と称され、冷戦期以来国際政治における中国の存在感を示すツールとして使われてきた。

パンダ外交は、大きく以下の二つの側面を持つ:
1. 象徴的意義 — 友好・感謝・信頼を象徴する「大使」としての役割
2. 実利的戦略 — 貿易・文化交流・政治的支持確保に寄与する外交カード


概要と目的

パンダ外交の基礎は、中国固有の希少動物であるジャイアントパンダを外交資源として活用することである。この慣行は、「友好の証」や「友好増進」の象徴として位置づけられ、受け入れ国の国内世論や政治的支持に影響を与える役割を果たしてきた。

特異な特徴としては、動物外交の対象が絶滅危惧種であり、科学的・保護的な協力の名目をも伴うことである。すなわち、単なる外交的ジェスチャー以上に、「保護研究協力」の枠組みが契約の中心に据えられるようになった。

目的は多岐にわたるが、主として次の点が挙げられる:

  • 中国のソフトパワー強化とポジティブな国家イメージ形成

  • 対外関係における好感度や文化交流の増進

  • 政治・経済的紐帯の構築、貿易関係強化への寄与

  • 国際社会における中国の戦略的影響力の拡大

なおパンダ外交は、国際保護協力の枠組みとも結びついており、貸与国と受け入れ国の共同研究や繁殖プログラムが含まれることが多い。


ソフトパワーの象徴

ソフトパワーとは、文化や価値観を通じて他国の支持や共感を獲得する力を指すが、パンダはその代表的な例である。外見のかわいらしさや平和的イメージは、硬い政治議題を和らげ、一般市民の関心と好感を引き出す効果を持つ。「パンダを抱きしめる外交官」という比喩が示すように、パンダ受け入れはしばしば親中的感情や文化理解の深化に寄与する。

また研究によると、パンダ受け入れ後に中国からの輸入が増えるなど、外交面だけでなく経済面での影響も観測されていると指摘される。


外交上のカード

パンダ外交は、国際関係における「信頼のシグナル」「友好の証」として機能してきた。同盟関係や経済交渉の節目でパンダを送り出すことは、政治的メッセージとして強い象徴性を持つ。例えば1970年代の日中国交正常化時の来日や、リチャード・ニクソン米大統領訪中を踏まえた米国へのパンダ派遣は、両国関係の深化を象徴する行為として注目された。

また、パンダ外交は 不満や関係悪化を示す“逆シグナル”として使われることもある。貸与契約を更新しない、返還を早めるといった措置は、政治的緊張を背景にした外交的メッセージとして解釈される場合もある。


したたかな戦略

中国政府はパンダを単なる「可愛い動物」ではなく、戦略的資源として体系的に運用している。冷戦期から現在まで、その運用方法は変化してきたが、国際社会に対する中国のプレゼンスを高めるための柔軟なカードとして位置づけられている。

専門家は、中国が一帯一路政策や新興国との関係強化の文脈でもパンダ外交を活用していると指摘しており、従来の欧米中心の展開からアジア・中東・欧州へとその対象地域が拡大していることを報じている。


歴史の変遷

贈与の時代(1941年〜1984年)

パンダ外交の歴史は20世紀前半に遡る。初期の例として、1941年に当時の国民党政府がアメリカにパンダを贈呈したケースが挙げられる。これは日中戦争下における米国支援への感謝を示す象徴的行為とされる。

中華人民共和国成立後も、1957年から1983年にかけてはソ連、北朝鮮、英国、米国など複数の国にパンダが友情の証として贈与された。これらは像徴的な外交的協調の表現であり、冷戦期における中国の国際的立場の拡大に貢献した。


貸与の時代(1984年〜現在)

1984年、中国はパンダ外交戦略を刷新し、パンダを贈与するのではなく「貸与」する形に変更した。これ以降、世界各国の動物園は中国からの貸与契約のもとにパンダを受け入れるようになった。

貸与契約は通常10年単位で交わされ、年間最大で100万米ドル程度のレンタル料が発生するケースが一般的である。また、貸与期間中に生まれた子パンダの所有権も中国側にあり、一定年齢に達すると中国に返還される規定が通常含まれる。

この制度変更は、ワシントン条約の影響下で絶滅危惧種の国際商取引が制限されたことと、中国が戦略的外交ツールとしてパンダをより長期的に運用したいという意図に起因する。


現在の仕組みと条件

所有権

パンダ外交において重要なのは、国外にいるパンダの所有権はすべて中国側にあることである。貸与契約のもとでは、たとえ受け入れ動物園で出生したパンダであっても、法律的には中国の所有物とされ、契約期間終了後は中国に返還される。


高額なレンタル料

パンダ貸与は通常、オスとメスの一対で年間数十万ドルから100万ドル以上のレンタル料が発生する契約になる。観光収入や動物園への来館者増加を見込む動物園側にとっては投資であると同時に、契約維持費が重荷になることもある。

こうした条件は、単に外交的象徴に留まらず、経済的要素も絡んだ複合的な合意となっている。


日本における現状(2026年2月時点)

2025年6月、和歌山県白浜町のアドベンチャーワールドで飼育されていた4頭のパンダが中国に返還され、2026年1月には上野動物園の双子パンダが返還された。これにより、日本国内では1972年の日中国交正常化以来、半世紀以上続いたパンダ展示が一時的に途絶える状況となっている。


新たな貸与の不透明感

日本側は新たなパンダ貸与への要望を示しているものの、日中間の外交的緊張が影響し、中国側からの明確な返答は得られていないと報じられている。この状況は日本国内における文化・観光的な損失として議論される一方で、外交関係の複雑性を反映する象徴的事象として受け止められている。


今後の展望

中国のパンダ外交は今後も国際政治の文脈で変化し続けると予想される。欧州やASEAN諸国といった新たな受け入れ先での貸与契約が続く一方、日米などの政治的な緊張がパンダ外交に影響を与え得るという示唆がある。また、パンダに限らない「動物外交」の活用も進行しており、中国は新たな象徴的資源を用いた交流戦略を模索している。


まとめ

中国のパンダ外交は、一見かわいらしい象徴に留まらない戦略的な外交ツールである。贈与から貸与へと変遷し、ソフトパワーと政治的シグナルの両面で国際関係に寄与してきた。しかし、2026年時点で日本にパンダが不在となるなど、パンダ外交は単なる動物貸し出しではなく、外交関係そのものの健康度を示す指標ともなっている。今後、パンダ外交の役割とその意義は、グローバル政治の変動と共に再定義されていくだろう。


参考・引用リスト

  • Japan will be without pandas for first time since 1972 after twins leave Tokyo zoo. AP News. 2025年12月15日.

  • The last 2 pandas in Japan are leaving for China as ties are strained. AP News. 2026年1月24日.

  • Japan bids farewell to pandas as row with China deepens. Financial Times. 2025年12月17日.

  • China announces new round of panda diplomacy with France. Le Monde. 2025年12月06日.

  • Reuters explainer on China’s panda diplomacy.
  • ABEMA TIMES 記事 on rental fees.

  • 朝日新聞GLOBE+ on global expansion.

  • Tokyo review of panda diplomacy and Japan. nippon.com.

  • RKB article on panda diplomacy.

  • Australian university news on panda diplomacy’s global history.


追記:日本におけるパンダの歴史

1. 初来日と日中関係正常化

日本におけるパンダ来園の始まりは1972年の日中国交正常化を契機とする。中国側は外交的友好の象徴として、最初のジャイアントパンダを東京・上野動物園に送った。これは戦後の日中関係改善を象徴する文化交流の一環であり、中国のソフトパワー戦略の初期形態でもあった。パンダは友好の“象徴”として日本社会で強い注目を集め、以降の日中文化交流の重要な媒体となった。

2. 贈与から貸与へ

1970年代・80年代初頭までのパンダ来日は、しばしば贈与に近い形で行われた。しかし、1984年以降は制度が大きく変わり、中国はパンダを贈与するのではなく、国際協力の名目で長期貸与する方式に変更した。これは国際的な種の保護規制(ワシントン条約=CITESなど)の枠組みと、保護・繁殖研究を共同で進める必要性が認識されたこと、そして中国側が戦略的にパンダを外交カードとして位置づけたことが背景にある。

3. 共同繁殖プロジェクトと世代交代

1994年には和歌山・アドベンチャーワールドが中国と共同で世界初の長期国際パンダ繁殖プロジェクトを開始し、これまでに複数のパンダが誕生した。このプロジェクトは両国の科学者・飼育スタッフによる協力関係を深化させたモデルケースとなり、観光価値と教育的意義をあわせ持つ成功事例とされてきた。

4. 所有権に関する重要な例外

日本に来たパンダの大多数は中国が所有権を保持する長期貸与パンダだが、1985年に来日した雄パンダ「陵陵(Ling Ling)」は日本側が所有する最後のパンダとされていた。ただし、これは例外的であり、貸与以降に来日したパンダはすべて中国側の所有物であった。

5. 2020年代の“ゼロパンダ”時代

2025〜2026年にかけて、和歌山と東京で最後に残っていたパンダが中国に返還され、日本は1972年以来初めてパンダ不在の状況となっている。この背景には日中関係の緊張が影響していると分析される。


中国が所有権を独占できる理由

1. 国際取引規制とパンダ保全政策

1980年代初頭、パンダは国際的に絶滅危惧種として保護の対象となり、国際取引に関する規制(CITESなど)が強化された。中国政府はこの流れを受けて、パンダを「国際の取引対象」ではなく中国国家の戦略的資源として管理する方針に転換した。この方針転換により、海外に送られるパンダは形式的には貸与されるが、所有権は中国政府が保持することが確立した。

2. 生態学的・保全的理由

中国国内のパンダ保護研究センターは、パンダの繁殖や生態調査の専門機関として機能しており、遺伝的多様性の管理や保全計画を統括する立場にある。中国が所有権を独占することは、全世界のパンダ保全戦略を統一的に進める狙いとも合致する。また、これにより貸与国・受入国との間で共同研究や技術協力が組織的に展開される。

3. 戦略的外交カードとしての位置づけ

パンダは中国の国家的シンボルであり、文化的・政治的な意味合いが強い。その象徴性を外交において最大化するため、中国政府は制度化された貸与契約と所有権の保持を戦略的に選択してきた。貸与すること自体を外交的価値とし、返還や新規貸与が外交関係の状態を反映する「シグナル」として機能させる政策設計が見られる。


パンダ外交の歴史と詳細な経緯

1. 初期のパンダ外交(20世紀中期以前)

パンダが外交的に用いられた最初期の事例は、1930年代に外国人によって持ち出されたパンダであり、本格的な国家レベルの外交利用は20世紀後半の出来事である。1941年、中華民国(国民党政権)は米国にパンダを贈り、国際的支援を得るための象徴的な外交資源として活用したとされる。

2. 中華人民共和国成立後の初期段階

1949年の中華人民共和国成立後、中国政府はソ連・北朝鮮などの同盟国へのパンダ贈与を通じて社会主義陣営への結束を示した。これは中国が国際的な支持基盤を構築するための初期の文化外交手法の一つであり、東西冷戦期の地政学的文脈を反映している。

3. 1970年代:改革開放と国際的拡大

1970年代に入り、米国と日本との関係改善を背景に、北京政府はパンダを贈与・貸与することで新たな外交的章を開いた。特に1972年の日中関係正常化を記念した東京へのパンダ来園や、同年の米国への贈与は、中国が西側諸国との関係を活性化させる上で重要なソフトパワー戦略と評価された。

4. 1984年以降:貸与制度への転換

1984年、ワシントン条約による国際取引規制強化を契機に、中国は贈与から貸与へ政策を転換した。貸与契約は通常10年単位で更新され、受入国は高額な年額レンタル料を支払うことが一般的である。また、契約期間中に生まれた子パンダも中国の所有物とされ、返還対象となる。

5. 現代の展開

1990年代以降、パンダ外交は欧州、北米、中東、アジア各地域へと広がり、単なる友好象徴から保全・科学研究のパートナーシップを伴う国際協力の枠組みへと深化した。特に1994年の和歌山での共同繁殖プロジェクトなどはその典型例である。

6. 近年の動向と政治的機能

2020年代に入ると、日中関係をはじめとする国際政治の潮流がパンダ外交にも反映されている。日本での貸与契約満了・返還が進んだ背景には両国関係の緊張が影響しているという報道がある。このように、パンダ外交は単なる文化交流から、国際政治関係の“鏡”として機能する側面を持つようになった。


追記まとめ

日本におけるパンダ受入史は、単なる動物交流の歴史ではなく、戦後の日中関係の変遷を象徴するものでもある。パンダの所有権を中国が保持する理由は、環境保全規制と国家戦略の双方の影響を受けており、単なる動物貸与を越えた複合的な制度設計となっている。また、パンダ外交自体は1940年代から断続的に進化し、冷戦・改革開放・グローバル化・地政学的緊張という国際政治の文脈と密接に絡んできた。近年の動向は、この伝統的外交手法が国際関係の変化にどのように適応しているかを示す重要な事例として評価できる。

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