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コラム:欧米諸国が「右傾化」した経緯、分断と対立あおる風潮

「欧米の右傾化」は経済格差の拡大、産業構造変化、移民・文化的な価値観の緊張、安全保障・恐怖の増大、既存政党・既成制度への不信、ソーシャルメディア等情報環境の変化など、複数の要因が絡んで起きている。
ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」のワイデル党首(左)と米実業家のマスク氏(Getty Images)

「右傾化」という言葉はあいまいであるが、ここでは以下を含むものとする:

  • ポピュリスト右派(右翼ポピュリズム/ラジカルライト)の支持拡大

  • 主流保守・中道右派政党の政策の右寄りシフト(移民・国家主義・文化保守などの強調)

  • 国民主義/排外主義/反グローバリズム的な政治言説の普及

これらは欧米でここ数十年で着実に影響を拡大してきた。以下、時期区分を交えて、どう進行し、どのような背景と課題があるのかを述べる。


歴史的経緯とフェーズ

右傾化の進展は一夜で起こったわけではなく、複数フェーズを経てきた。

フェーズ特徴主な国・事例
1980〜90年代グローバリゼーションの加速、冷戦後秩序の変化、移民の増加開始、ポスト産業社会への転換欧州中堅国、特に西欧でネオナショナリズム/反移民政党の基盤形成(例:フランスの国民戦線、オーストリア自由党など)
2000年代〜2010年代前半移民流入の拡大、欧州統合・ユーロ問題、金融危機後の格差・経済停滞、社会的不安感の増加ポーランドのPiS、ハンガリーのフィデス、イタリアの北部同盟(Lega)などの支持拡大
2015年以降移民・難民危機、テロ・安全保障問題の顕在化、経済回復の遅さ、グローバルサプライチェーンの混乱、パンデミック、インフレの上昇などのショック欧州議会選挙、イギリスのEU離脱、米国におけるトランプ現象など

最近の例としては、2024年の欧州議会選挙でポピュリスト/ラジカルライト政党が得票・議席を伸ばしており、右翼ポピュリストの勢力拡大が明確になってきている。


背景要因

右傾化を促した構造的要因を以下の視点で整理する。

経済的要因
  1. 格差(所得・富の不均等)と中間層の停滞・没落

    • 多くの欧米諸国で1970〜80年代の「大きな上昇期」の後、所得水準の伸びが低くなり、特に中・下位所得層の実質所得が停滞した。

    • 米国ではパーセンタイル上位と下位の所得差が拡大し、富の集中が進んでいる。具体的には、上位1%の富裕層の資産・所得が総所得・総資産で占める割合が高まっていることが各種調査で示されている。

  2. 産業構造の変化・地域間格差

    • グローバリゼーションと技術進歩(オートメーション等)により、伝統的な製造業や重工業の仕事が減少した地域が多数。こうした地域では失業率上昇、給与の伸び悩み、社会的閉塞感が強い。

    • 米国のラストベルト地域、イギリス北部、フランスの郊外、ドイツの東部などが代表例。

  3. 移民と競争・文化的緊張

    • 移民流入が引き起こす「労働市場での競争」「公共サービス・社会福祉・住宅などインフラの圧迫感」「文化・アイデンティティの不安」などが、特に低学歴・低技能者の間で不安を生む。

    • 研究で低学歴の移民流入や“文化的距離(発祥国の言語・宗教・文化が異なること)”が、極右政党支持を高めることが確認されている。

  4. 経済ショック・停滞期の頻発

    • 2008年のグローバル金融危機、欧州債務危機、コロナパンデミック後の混乱、さらに2021-22年頃からのインフレ上昇(エネルギー・食料価格の急増)などが、日常生活のコストを圧迫。こうしたショックは「政府・既存政党への不信感」を強める。

政治的・制度的要因
  1. 既存政党の信頼低下/政治的エリートへの反発

    • 主流政党(中道左派・中道右派)の政策が似通ってきており、有権者から「どちらでも変わらない」と見なされるケースが増加。これがポピュリズムの土壌になる。

    • 政治家やメディア等の腐敗・不透明性・利益誘導の疑いが支持低下の一因。

  2. 移民・安全保障・アイデンティティを巡る文化的・価値観の争い

    • 多文化主義・グローバル主義に対する反発。伝統的な国民アイデンティティ・家族・伝統習慣を保ちたいという保守的価値観の強化。移民・難民・宗教的少数派への懸念が、文化保守主義と結びつく。

    • 安全保障(テロ・犯罪)や国家主権、国境管理の議論がポピュリスト右派に有利に働く。

  3. メディア・情報環境の変化

    • ソーシャルメディアの普及でフィルターバブル・誤情報拡散・感情的メッセージが増加。これにより、事実より恐怖・不安・憤怒を動機とする政治言説が影響力を得やすくなった。

    • 伝統メディアも責任回避的報道、スキャンダル・移民・犯罪などのネガティブニュース重視などで不安を煽る傾向あり。

  4. 制度上の要因:選挙制度・政党システムの変容

    • 比例代表制や混合制度を採る国では小党・新興政党が入り込みやすい。極右/ポピュリスト政党が地域レベルから市議会・州議会などで基盤を作ると、国政や欧州レベルへの進出が可能。

    • 議会制度・メディア報道・キャンペーン資金など、主流政党・保守派政党が右派ポピュリズムの論点を取り込むことで、論争の「中心」が右にシフトすることもある。

社会文化的要因
  • 世代間・教育格差:低学歴層ほど右派/反移民・排外主義的な価値観を持ちやすいというデータが多数。教育機会の格差がこの傾向を後押し。

  • 都市・田舎の分断:人口密度が低く経済機会が限定的な地方・田舎部では「取り残され感」が強く、都会部との文化・価値観のギャップも大きい。

  • グローバル化の「目に見える」負の側面:失業、産業衰退、価格上昇・生活コストの増加などが実感としてある地域で、グローバル自由貿易や移民の恩恵が届かない人々が増える。


データで見る右傾化の拡大

以下に具体的なデータ・選挙結果などで右傾化の進展を示す例を示す。

  1. 欧州議会選挙 2024年

    • 2024年欧州議会選挙ではポピュリスト政党が26–36%前後の議席を獲得。

    • フランスの国民連合(RN)やイタリアの「イタリアの同胞」などの政党が大きな勝利を収めた。

  2. オーストリア総選挙 2024

    • 自由党(FPÖ)が28.8%の票を獲得し、中道右派政党を上回る結果を出し、初めて第一党となった。

  3. ポーランド・ハンガリーなど中東欧

    • ポーランドの与党PiSやハンガリーのフィデスが強固な支配を続けており、国政・政策に右派的・国家主義的・反移民・反リベラルな要素を導入している。

  4. 米国の変化

    • 2024年の大統領選挙においてトランプ氏が勝利。トランプ氏は伝統的に共和党支持層だけでなく、ヒスパニック系や黒人有権者の一部、教育水準の低い有権者層で一定の支持を拡大。

    • 有権者行動の観点で、「右派/保守派」が従来の地域・年齢・教育の枠を越えて広がっているという分析。

  5. 世論調査:移民に関する不安

    • YouGovの調査(2025年)によると、西ヨーロッパ7カ国で、「過去10年間の移民が多すぎる/管理が不適切」と答える割合が80%前後の国もあり、移民・難民政策が大きな関心課題になっている。

  6. 投票システム外での支持拡大・議席比の変化

    • 比例代表制国家や欧州議会などでは、小さかった極右ポピュリスト政党が議席を伸ばし、影響力を持つようになってきている。例えば、2019年から2024年の欧州議会選挙でラジカルライトの議席数・票率が大きく上昇。


相互作用・転換点

右傾化がただ単に徐々に進んだだけではなく、いくつかの転換点・触媒があった。

  • 金融危機(2008年〜欧州債務危機):経済が不安定化すると政府・既存制度への不信が拡大。財政緊縮や失業の増加が、既存政党の信用を低下させ、代替勢力(特に反システム・反エリートを唱える右派)にチャンスを与えた。

  • 移民・難民の大規模流入(2015年以降):主にシリア難民など、中東・アフリカ方面からの移民・難民がEU域内に流入。これに伴い「社会の受け入れ能力」「同化・文化的緊張」「国境管理・安全保障」の議論が高まった。

  • テロ・安全保障事件:これらが右派主張(「国を守る」「治安」「秩序」といった価値)に追い風となる。例:フランスでのテロ事件、イギリスやドイツでの暴力事件など。

  • 情報技術とメディア環境の変化:インターネット・ソーシャルメディアの普及がポピュリスト・右派が「直接発信」「既存メディアの回避」「フェイクニュース・陰謀論・炎上型投稿」で支持を固める手段を強化。都市部/情報リテラシー層との分断を拡大。

  • 文化価値の政治化:ジェンダー、LGBTQ、環境問題など、伝統的に「左派」「自由主義者」が重視してきた価値観が、保守層から反発を受ける。これらのテーマが右派の反発材料・バトルラインになる。


国別の特徴の差異・事例

異なる国で右傾化の進み方・内容には違いがある。いくつか例を簡単に示す。

  • フランス:国民戦線などが長年存在。移民・イスラム教徒の問題、郊外の治安・社会インフラの問題、財政負担・地方の衰退が支持拡大要因。2024年欧州議会選挙でRNが躍進。

  • イタリア:イタリアの同胞など右派・ナショナリスト政党が連合を形成して政権を取る。移民問題、安全保障、そしてポストコロナ・インフレ対応への不満が背景。

  • 米国:2016年のトランプ勝利、2020年・2024年を通じて、共和党内でのトランプイズムやポピュリズム的右派主張の強化。移民、国境政策、商業貿易政策の保護主義、文化戦争 (文化・性別・教育など) の拡大。

  • 北欧諸国:スウェーデン・デンマークなどこれまで中道左派・福祉国家モデルが強かった国でも、移民・福祉制度負担・犯罪・安全に対する住民の懸念から、右派・反移民政党の支持が伸びている。


課題とリスク

右傾化には支持を集める要因がある一方で、さまざまな課題・リスクも伴っており、それらが今後の政治・社会にとって重要になる。

  1. 社会の分断・対立の激化

    • 価値観・文化・都市 vs 地方・高学歴 vs 低学歴・移民 vs 地元民などの線引きが深まり、対話が困難になる。

    • ポピュリスト右派が「既存の制度」を批判し、既成政党・マスメディアなどを敵視する言説を用いることで、制度の正当性・社会合意の弱体化を招く。

  2. 民主主義・制度への圧力

    • 場合によっては司法の独立性・言論の自由・少数派の権利などが軽視される可能性がある。特に、「国家主義」「排外主義」「ポスト真実的」論理が強まると、法の支配やリベラルな政治制度への侵食が懸念される。

  3. 経済的副作用

    • 保護主義・反自由貿易政策を強めると国際競争力を失う可能性。移民を制限することが、一方で労働力の不足を招いたり、高齢化社会での負担を増やしたりする。

    • 不確実性・政治の極端化が投資を抑制し、経済成長を鈍化させる恐れ。

  4. 政策の一貫性の欠如

    • ポピュリスト右派はしばしば強いスローガン・主張を掲げるが、実際の政策実行・制度調整が困難な場合が多い。たとえば、移民規制を強めるが人手不足で規制緩和を余儀なくされる、保護主義を唱えるが輸出依存産業の影響が大きい国ではジレンマが出る。

  5. 国際・地域関係での摩擦

    • EU加盟国の場合、移民政策・外国人の権利・EU規制などで中央との対立が発生。米国も多国間協調や国際機関対応で右派政権が対立姿勢を取るケースがある。

    • グローバルな問題(気候変動、パンデミック対応、貿易協定など)で国際協力を拒む・後退する姿勢は、他国との摩擦を生む。

  6. 持続可能性の問題

    • 支持拡大が常に可能とは限らない。経済が好転すれば中道的・リベラルな選択肢への回帰が起こる可能性があるし、右派の過激な主張に対する反発・規制もありうる。支持層の維持には政策成果が問われる。


今後の展望・対応策

右傾化の進行を踏まえて、欧米各国・国際社会が考えるべき方向をいくつか挙げる。

  1. 経済の包摂性を高める政策

    • 所得再分配・税制改革、最低賃金・社会保障の強化、中小企業支援など、経済成長の成果が幅広い層に行き渡るようにする。特に地域間格差・都市‐地方格差への対応。

    • 教育投資・職業訓練・再教育を積極化し、産業構造変化に取り残された人々に機会を提供。

  2. 移民政策・文化統合の改善

    • 移民を迎える/統合する制度(言語教育、職業アクセス、公的サービス利用など)の質・透明性を向上させる。移民流入のコントロールとともに、受け入れ側住民の不安を軽減する政策が必要。

  3. 政治制度・既存政党の再編

    • 既存政党が市民の不満に対してリアクティブではなくプロアクティブに応える必要あり。中道左派/中道右派は政策の革新を図る一方で、「制度の信頼」「説明責任」の強化。

    • 新興政党との連携・競争を制度的に整理し、有権者が政策で比較できるような公約の明確化と情報公開。

  4. メディア・情報環境の整備

    • ソーシャルメディアでの誤情報・デマ拡散への規制・自主規律・ファクトチェックの充実。メディアリテラシー教育の強化。

    • 多様なメディア参画と透明性のある報道慣行を保つこと。

  5. 国際協調・グローバルガバナンスの再構築

    • EUをはじめとする地域機構や国際機関は移民・難民問題や貿易・安全保障などで協調的枠組みを強め、より公平・効率的な分配と責任共有を図る。

    • グローバリゼーションの負の側面(産業の空洞化、経済ショックへの脆弱性等)に対するセーフティネットを強化。


結論

「欧米の右傾化」は経済格差の拡大、産業構造変化、移民・文化的な価値観の緊張、安全保障・恐怖の増大、既存政党・既成制度への不信、ソーシャルメディア等情報環境の変化など、複数の要因が絡んで起きている。選挙結果・世論データはポピュリスト右派の支持拡大を示しており、その勢力は国レベル・欧州レベルで無視できないものとなっている。

しかし、右傾化にはリスクがあり、民主主義制度・社会の分断・経済効率・国際関係などに負の側面を伴っている。これを是正・均衡させるには、政策面・制度面・社会文化面での対応が必要である。

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