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コラム:二地域居住、やってみる?多様化するライフスタイル

二地域居住は、都市と地方の利点を組み合わせて個人の暮らしの質を高めると同時に、地方にとっては関係人口や消費、人的資源の流入というメリットをもたらす可能性がある。
夕焼け(Getty Images)

二地域居住(いわゆる二拠点居住や多地域居住も含む)は、都市の利便性と地方の豊かな環境を両立させる暮らし方としてここ数年で関心が高まっている。背景にはコロナ禍での生活・働き方の変化や、テレワークの普及、そして長期的な人口減少と地域活性化の必要性がある。政府や自治体も二地域居住を地方創生や関係人口の拡大の手段として位置づけ、政策的な支援や調査を進めている。国土交通省や関係機関が示す定義や調査報告では、二地域居住は「主な生活拠点とは別の特定の地域に生活拠点(ホテル等も含む)を設ける暮らし方」とされ、単なる短期滞在とは区別して年間を通じて一定期間を過ごす関係を指すことが多い。

二地域居住とは

国土交通省の定義にしたがうと、二地域居住は「主たる生活拠点とは別にもう一つの生活拠点を持ち、都市と地方を行き来する暮らし方」を示す。生活拠点には別荘や賃貸住宅、長期滞在できる宿泊施設、親族宅など多様な形態が含まれる。近年は「年間を通じて概ね1ヶ月以上」など一定の滞在期間をもって二地域居住とみなす場合が多く、三地域以上の多地域居住を含めた広い概念で語られることもある。国土交通省は「二地域居住等」として官民連携のプラットフォームを立ち上げ、関係人口の創出や地域経済の活性化に期待している。

都市と地方を行ったり来たりする意味

二地域居住は単なる週末の「短期滞在」とは異なり、地方側に継続的な消費や人的関与をもたらす点が重要だ。定期的に地方へ滞在することで地域の商店やサービスを利用し、イベントやボランティア、ビジネス活動を通じて地域との関係を深めることが可能になる。これにより、都市部の過密緩和や地方の消費・雇用創出が期待される。一方で、移動のための交通網や住まいの確保、地域との関係を継続的に維持する仕組みが必要になる。

インターネットの普及と働き方改革

テレワークやオンライン化の進展は二地域居住を後押しする重要な要素となっている。近年のテレワーク普及調査では、雇用型テレワーカーの割合が一定の水準に達しており、働く場所の柔軟化が進んでいると報告されている。テレワークが定着すれば、場所に依存しない働き方が可能になり、都市に毎日通勤する必要がない人が増えることで二地域居住の実行可能性が高まる。だが、職種や企業文化によってテレワークの可否には差があり、すべての働き手が直ちに二地域居住へ移行できるわけではない。

人口減問題と二地域居住の関係

日本は長期間にわたる人口減少と少子高齢化に直面しており、総人口は減少を続けている。政府公表の人口推計でも、全国の総人口は継続的に減少しており、地方の人口減少・高齢化は地域社会の維持に直接的な脅威となっている。こうしたなか、二地域居住は「一部移住」あるいは「関係人口」を通じて地方に人や消費を還流させる手段として位置づけられる。二地域居住者が定期的に地方で消費し、ビジネスやコミュニティに関わることで、空き家活用や新たな需要の創出、若年層や移住者による雇用の創出などにつながる可能性がある。国内の人口推計では、総人口の減少幅や世帯構造の変化が示されており、地方創生の文脈で二地域居住の促進が政策課題として浮上している。

キャリアアップのチャンス?

二地域居住は単に居住地を増やすだけでなく、キャリア形成の観点からも新たな可能性を提供することがある。地方の中小企業や地域資源に関わることで、事業立ち上げの経験、地域課題解決に向けたプロジェクト運営、伝統産業や観光資源を活かしたビジネス機会など、都市環境だけでは得にくいスキルや経験を積める。リモート化で都市の企業に所属したまま地方と連携してプロジェクトを進めるハイブリッドな働き方は、スキルの多様化やマルチロケーションでの実務経験を通じたキャリアパスの拡充につながる可能性がある。一方で、キャリア形成に有利かどうかは業界や企業、本人の志向に依存するため、全員に均等なメリットをもたらすわけではない。

多様なライフスタイルの実現

二地域居住はライフスタイルの選択肢を増やす。都会の利便性や文化的資源を享受しつつ、自然環境や地域コミュニティ、食や余暇の豊かさを生活に取り入れられるため、子育て、健康志向、趣味の追求、高齢期の暮らし方など多様な価値観に対応しうる。特にコロナ禍以降、在宅時間や生活拠点を見直す人が増え、暮らしの質(QOL)を重視する流れが強まっている。このような背景から、ライフステージに応じた柔軟な居住形態を求めるニーズが拡大している。

地方の担い手不足解消への期待

多くの地方では若年人口の流出と高齢化により労働力や地域運営の担い手不足が深刻化している。二地域居住者の中には、定期的に滞在することで地元事業の手伝いや観光・農業・福祉など多様な分野での関与を行うケースがあり、短期の支援やスポット的な人的リソースの供給という形で地域の不足を一部補える可能性がある。また、二地域居住がきっかけで移住に至るケースや、地域内での起業・事業承継につながる事例も報告されているため、関係人口の拡大は地方の中長期的な担い手層の確保に寄与しうる。

自然災害(地震や台風)への備えとしての意味合い

二地域居住は災害リスク管理の観点からも議論されている。国土交通省は、二地域居住によって日常的に複数地域にアクセスする生活が生まれると、災害時に近隣地域へ避難できる選択肢が増える点をメリットとして挙げている。ただし、複数地域に住居を持つことが必ずしも災害リスクを低減するわけではなく、災害発生時の帰着や避難、情報伝達、ライフラインの確保など、二地域居住特有のリスク管理や支援ルールが必要になる。地域間での防災情報共有や避難計画、保険や緊急時の連絡体制の整備が重要になる。

主な課題
  1. 住宅とインフラの確保:二地域居住を支えるための中長期滞在可能な住居や、通信・交通インフラの整備が不可欠である。地方では空き家は存在するが、改修や賃貸管理、長期滞在向けの設備投資がハードルになる。

  2. 雇用・仕事の継続性:テレワークが可能な職種は増えたが、対面業務や現場作業が中心の職種では二地域居住が困難であり、仕事の継続をどう支援するかが課題になる。

  3. 地域との関係性の維持:単発の滞在で終わらないように、滞在者と地元住民の関係性をどう育てるか(地域活動への参加の仕組み、受け皿となる人材・組織の育成)が必要である。

  4. 税制・社会保障・住民票の扱い:住民票や税、社会保険の扱いをどうするかは制度上の課題で、二地域居住者の生活実態に合った柔軟な制度設計が求められる。

  5. 移動コストや環境負荷:頻繁な移動はコストや時間の負担、環境負荷を生むため、交通改善や移動支援策も検討課題である。

政府の対応

中央政府は二地域居住を地方創生や関係人口の拡大策の一環として位置づけており、国土交通省を中心に「二地域居住等促進官民連携プラットフォーム」などを設置している。プラットフォームや各種ガイドラインは、地域と都市の結びつきを促進し、空き家活用や長期滞在型の住宅整備、働き方の多様化支援を促すことを目的としている。また、地方創生の基本方針にも二地域居住等を含める動きがあり、関係人口を戦略的に増やす施策を提示している。さらに、テレワーク普及に関する調査や支援策を通じて、働き方改革の文脈で二地域居住を後押しする政策的支援が行われている。

自治体の対応

多くの自治体は二地域居住やワーケーション、移住促進プログラムを独自に展開している。具体的には、長期滞在向けの宿泊施設や賃貸物件の整備補助、空き家の利活用支援、地域おこし協力隊的な受け皿を通じた交流促進、体験プログラムやお試し滞在の提供などがある。自治体によっては二地域居住者向け補助金や税制優遇、転居支援金などを導入しているケースもあるが、その内容・規模は自治体ごとに大きく異なるため、実効性を高めるには国との連携や成功事例の横展開が重要になる。

今後の展望

二地域居住は、テレワークやデジタル化の進展、暮らし方の多様化という大きな潮流と合流して成長する可能性がある。すでに政府が地方創生の重要施策として位置づけ、官民連携のプラットフォームを整備していることから、今後は次のような方向で進展する可能性が高い。

  • 制度の整備:税制・住民票・社会保障など公的制度の柔軟化や、二地域居住に適した支援制度の導入が進む可能性がある。

  • インフラ投資:高速通信や交通網、長期滞在向け住宅整備への投資が加速することで、受け入れ基盤が整う。

  • 産業化と雇用創出:地域資源を活かした新ビジネスや観光の多様化、リモートワークを前提とした雇用の創出が進む。

  • 地域間連携と学習:成功事例の横展開や自治体間連携を通じて、効果的な受け皿づくりやコミュニティ形成手法が洗練される。
    ただし、上記の進展は地域間の格差是正、制度調整、持続可能な地域運営など多くの課題解決を前提とするため、短期的に一気に進むわけではない。長期的な視点での政策設計と現場での実践の両輪が必要になる。

まとめ

二地域居住は、都市と地方の利点を組み合わせて個人の暮らしの質を高めると同時に、地方にとっては関係人口や消費、人的資源の流入というメリットをもたらす可能性がある。政府・自治体は既に定義づけと支援の枠組みづくりを進めており、人口減少が続く日本において地方創生の有力な一手段として位置づけられている。とはいえ、住居インフラ、仕事の継続性、地域コミュニティ形成、制度面の整合性など解決すべき課題は多い。今後はテレワークの普及状況や地域ごとの受け入れ体制整備、制度改革の進捗に応じて二地域居住の実態が徐々に拡大・多様化していく見込みである。政府統計や国の施策文書は、二地域居住が単なるトレンドではなく、地域と国土計画の観点で戦略的に位置づけられていることを示している。


参考・出典

  • 国土交通省「二地域居住等の最新動向について」(概説資料)等、国土交通省関連ページ・プラットフォーム資料。

  • 総務省・政府統計(人口推計)による最新の人口動向データ(人口推計(2024年(令和6年))等)。

  • 内閣府・地方創生の基本方針(地方創生 2.0 等)。

  • 国土交通省(令和)等が実施するテレワーク人口実態調査(テレワーク普及状況に関する調査報告)。

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