コラム:学びの多様化進む、生涯学習の重要性
学びの多様化は社会の変化と技術進展の必然的帰結であり、個々の学習ニーズに応じた柔軟な教育環境の整備が進んでいる。
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現状(2025年11月時点)
学びの多様化は、日本および世界的に教育の重要な潮流となっている。日本では不登校児童生徒数が増加しており、文部科学省の調査では令和5年度(2023年度)において小・中学校で346,482人、高等学校で68,770人と報告され、過去最多となっている。また、自治体や学校現場は「学びの多様化学校」「校内教育支援センター」などを整備し、多様な学びの場を整備しようとする取り組みを進めている。これらの数値と取り組みの増加は、学びの場が学校中心から複数の選択肢へと変化している現状を端的に示している。
国際的にも成人の学習参加やICTを活用した教育の導入が注目されている。OECDの報告では、加盟国平均でおよそ年40%前後の成人が何らかの学習活動に参加しており、国によって大きなばらつきがあることが示されている。生涯学習の必要性と実際の参加状況が政策課題になっている。
学び方が多様化している背景
学び方が多様化する背景には複数の構成要素がある。第一に、社会や経済の変化により求められる能力が変化していること。グローバル化・産業構造の変遷・少子高齢化などにより、一回の学校教育で終わるスキルでは対応できない状況が生まれている。第二に、ICT(情報通信技術)の急速な普及と教育現場への導入が学習の方法と場を再定義したこと。世界的には学校のインターネット接続やデジタル教材の普及が進み、オンライン学習やハイブリッド学習が常態化しつつある。ユネスコ(UNESCO)は多くの国でデジタル技術が教育を補完・変革していると位置づけている。
社会の変化
労働市場の流動化、働き方の多様化、AIや自動化技術の進展が「何を学ぶべきか」「いつ学ぶべきか」を変化させている。従来型の正規雇用だけでなく、フリーランスや副業、リスキリング(再技能習得)を要する転職が増えているため、成人が仕事の合間に短期集中でスキルを学ぶ必要性が高まっている。加えて高齢化社会では高齢者の再学習や地域での学び直しが重要になり、教育の対象年齢帯が拡大している。
技術の進展(ICT化)
GIGAスクール構想のような取組みや国際的なICT導入は、教室での1人1台端末環境やクラウドを前提に学びの形式を変えた。デジタル教材、学習管理システム(LMS)、オンライン講義配信、適応学習(アダプティブラーニング)などの技術が普及し、個別最適化や学習の可視化が可能になった。またパンデミックの影響でオンライン授業やハイブリッド方式が急速に普及したことで、学びの時間や場所に対する固定観念が薄れた。UNESCOや研究報告では、デジタル技術が教育アクセスや多様な学びを促進する可能性を強調しているが、同時にデジタル格差の問題も指摘されている。
個人の多様なニーズ
個々人の学びのニーズは学習到達目標、興味関心、生活リズム、身体的・精神的状況などによって大きく異なる。例えば不登校の児童生徒、障害のある学習者、社会人、子育て中の保護者などは、時間帯や場所、指導方法に対する希望が多様である。学習者の側が「選べる」環境になることで、モチベーション向上や学習継続性の改善が期待される。
生涯学習の重要性
技術革新や社会構造の変化に対応するため生涯学習は不可欠になっている。OECDのデータは国ごとの成人学習参加率の差を示し、高参加率の国では労働市場の適応力や社会的包摂に有利に働くことを示唆している。生涯学習の充実は個人の雇用機会や社会参加、さらには地域経済の持続可能性に直結するため、政策的にも重点分野になっている。
具体的な多様な学び方(一覧)
学び方は大きく分けると以下のように多様化している。
学校教育(従来の公立・私立学校)
学びの多様化学校・校内教育支援センター(不登校対応の学校形態)
フリースクールや非公式の居場所型学び(NPO運営等)
ホームスクーリング(家庭教育)
オンライン学習(MOOCs、オンライン予備校、EdTechプラットフォーム)
ハイブリッド学習(対面とオンラインの併用)
企業内研修・職業訓練・短期スキルアップ講座(リスキリング)
自主学習コミュニティ(学習サークル、勉強会、コワーキング学習)
フォーマルとインフォーマル学習の連携(産学協働プロジェクト等)
学習場所・時間の多様化
学びの場は教室に限定されなくなっている。家庭、地域センター、フリースクール、オンライン上のプラットフォーム、職場、図書館、コワーキングスペースなどが学習の場になっている。学習時間も通学時間帯の午前中に限定される必要はなく、夜間や週末、断続的な短時間学習(マイクロラーニング)も一般化している。こうした柔軟な時間・場所設計が、育児や介護、就業との両立を可能にしている。
オンライン学習
オンライン学習はMOOCs(大規模公開オンライン講座)から個別指導型のEdTechサービスまで幅広い。オンライン学習の強みはスケーラビリティ、アクセス性、学習進度の自己調整の容易さである。研究はオンライン学習が適切に設計されれば、学習成果に好影響を与えることを示しているが、学習者の自律性やモチベーション維持、対面での対話的学びの代替の難しさが課題である。UNESCOはデジタル化が教育アクセスを拡大すると同時に、デジタルリテラシーやインフラ整備、教員支援が不可欠であると述べている。
不登校特例校(学びの多様化学校)
日本では不登校児童生徒に対応するための「学びの多様化学校」や校内外の教育支援センターが設置されており、学校に行きづらい子どもたちにも学習機会を提供する仕組みが整備されつつある。文部科学省の資料では学びの多様化学校や教育支援センターの設置数が報告されており、行政側も制度的に学びのオプションを拡充している。これにより、学校に戻る前段階としての学習や、学校とは別軸の単位認定など柔軟な対応が進む。
フリースクールやホームスクーリング
フリースクールはNPOや市民団体が運営する非公式の学びの場で、居場所づくりと自律的学習支援を両立することが多い。全国的なネットワークが存在し、各地で情報発信や政策提言を行っている。ホームスクーリング(家庭教育)は日本では制度的には公教育とは別扱いであり実態調査は限定的だが、関心層は存在する。フリースクールやホームスクールは個別の学びや精神的安全性を確保する点で有効だが、学習の質保証、進路支援、公的支援の充実が課題になる。
学習方法・スタイルの多様化
教育方法も多様化している。個別最適化された学習、協働的学び、アクティブ・ラーニング、プロジェクト型学習(PBL)、反転授業(flipped classroom)、ゲーム化(ゲーミフィケーション)などが導入されている。特にプロジェクト型学習は高次思考力や課題解決力、コミュニケーション能力の育成に効果があるとする研究が複数存在する。メタアナリシスや学術研究はPBLが学習成果や思考力向上に寄与することを示しているが、実装の質に依存することも指摘されている。
個別最適な学び
適応学習技術と教員の指導が組み合わされば、学習者一人ひとりの理解度や進度に応じた教材配信とフィードバックが可能になる。アダプティブラーニングは短期的な習熟度向上に役立つが、教員のファシリテーションや学習目標の調整、評価基準の整備が必要になる。
協働的な学び(アクティブ・ラーニング)
協働学習やアクティブ・ラーニングは、学習者が主体的に知識を構築することを促す。グループディスカッションや共同プロジェクトは、社会で求められるコミュニケーション能力や協働力を養う点で有意義だが、教員の質と授業設計能力が成果の鍵を握る。
プロジェクト型学習(PBL)
PBLは実社会の問題を題材に学ぶため、課題発見・情報収集・計画立案・実行・振り返りといった一連の学習プロセスを通じて複合的能力を育成する。研究レビューはPBLが高次認知能力や態度面での改善に寄与すると報告しているが、評価指標や教員研修の必要性も示されている。
評価方法の多様化
評価は定期試験中心から多面的評価へと変化している。ルーブリック、ポートフォリオ評価、パフォーマンス評価、形成的評価(フォーマティブ・アセスメント)などの導入で、プロセス重視の評価や能力の可視化が進む。これにより、学習者の多様な成果を正当に評価できる可能性がある一方、評価の標準化や客観性確保、資格・学位との連動が課題になる。
メリットと課題(総括)
メリット
学習意欲の向上:学習者が自ら選択した学びや適切な学習環境により、動機付けが高まる。
個人の能力の最大化:個別最適化や多様な指導法により、それぞれの強みを伸ばすことが可能になる。
社会で必要な能力の育成:協働力、問題解決力、情報リテラシーなどの育成が期待される。
アクセス拡大:遠隔地や身体的制約のある学習者も学習機会にアクセスできる。
課題
教員の負担増と専門性の要求:多様な学習設計やICT活用、形成的評価の運用は教員に新たな専門性と業務負担を課す。教員研修や業務軽減策が必要になる。
地域格差・経済格差(デジタルデバイド):ICTを前提にするとネットワーク環境や端末、家庭の支援力によって機会差が生じる。日本国内でも地域によるデジタル化の進み具合に差があるとの分析がある。
評価の標準化と信頼性:ポートフォリオやプロジェクト評価は柔軟だが、広域的な比較や資格制度との整合が難しい。
供給側の不足:フリースクールや支援センターは増えているが、需要に比して数や資源が不足している地域も多く、全ての学習希望者に行き渡っていないという指摘がある。
メリット(詳細)
学びの多様化により、学習スタイルが学習者に合わせられることで中長期的な学習継続率の向上が期待できる。例えばPBLやアクティブ・ラーニングは学習の定着率と問題解決力を高めるという研究結果がある。さらに、オンラインを含む多様な学びの場は地理的・時間的制約を超えて教育資源へアクセスする道を開く。これが地域の人材育成や社会参加を促進する効果を持つ。
課題(詳細)
教員の専門性向上と業務配分の見直しは重要課題だ。多様な学びを支えるには授業設計、ICT運用、形成的評価のスキルが求められ、研修やサポート体制の整備が必要である。加えて、学びの多様化を制度的に支えるための予算配分や法制度、学習履歴の互換性(単位認定や修了認証の仕組み)も整備が遅れている点が課題になる。
今後の展望
今後は以下の方向で学びの多様化が深まる可能性が高い。第一に、デジタル技術と教育設計の融合が進み、適応学習やAIを用いた学習支援が日常的になること。第二に、学校と地域・民間教育の連携強化により、学びのエコシステムが形成されること。第三に、評価と資格の柔軟化が進み、ポートフォリオやマイクロクレデンシャル(小刻みな修了証明)が普及すること。第四に、不登校や多様な学習欲求に対する公的支援が拡充され、学びの選択肢がより制度的に保障されることが期待される。
政策提言
教員研修の強化:ICT活用、形成的評価、PBL設計などに特化した継続的研修とOJTを制度化する。
インフラ投資とデジタル包摂:全世帯・全地域でのネット接続と端末整備、低所得家庭支援を強化する。
評価制度の多元化と互換化:ルーブリックやポートフォリオを用いた評価基準を整備し、学習履歴の互換性を確保する仕組み(マイクロクレデンシャル等)を導入する。
地域連携の促進:学校・フリースクール・NPO・企業が連携するプラットフォームを構築し、学びの場の情報発信・連携支援を行う。
研究とエビデンス蓄積:多様な学びの成果やコスト効果を分析するための長期的研究を支援し、実践と政策を結びつける。
まとめ
学びの多様化は社会の変化と技術進展の必然的帰結であり、個々の学習ニーズに応じた柔軟な教育環境の整備が進んでいる。ICTやPBLといった手法は学習成果や意欲向上に寄与する一方で、教員負担、地域・経済格差、評価の標準化といった課題も顕在化している。これらのメリットと課題を踏まえ、政策・現場・研究が連携して実装と検証を繰り返すことが求められる。将来的には多様な学びが制度的に保障され、誰もが生涯にわたって主体的に学べる社会が実現されることが望ましい。上述の諸点は、国際機関や国内研究の示すエビデンスに基づいており、今後の教育改革における実務的な指針になるはずである。
