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コラム:食べてないのに発症?食物アレルギーの新常識

食物アレルギーは免疫寛容の破綻により発症する。
食物アレルギーのイメージ(Getty Images)

食物アレルギーは、特定の食品に対して免疫系が過剰反応を起こす疾患であり、皮膚・消化器・呼吸器症状や全身ショック状態(アナフィラキシー)を引き起こす可能性がある。日本における乳幼児の食物アレルギー有病率は乳児で約5~10%、幼児期で約5%前後、学童以降でも1.5~3%存在すると報告されている。これらの数値は近年も大きな変化はないが、診断と予防戦略の進展により疾患理解は大きく進んでいる。

食物アレルギーに関する最新研究では、従来の「食べ物を口から食べることによって感作が起こる(経口感作)」という単純なモデルから、より複雑な「経皮感作」「経口免疫寛容」モデルが有力視されている。これらは疫学データや介入試験からも支持されている。


食物アレルギーとは

食物アレルギーは抗原特異的IgEを介した免疫異常反応であり、原因となる食品に暴露された後に免疫系が誤って敵とみなし、ヒスタミンやその他炎症性メディエーターを放出することで症状を引き起こす。免疫系は通常は体に有害でない食物たんぱく質を無害とみなす仕組み(耐性:免疫寛容)を持つが、これが破綻した状態がアレルギーである。

免疫寛容が成立しないと、感作(ある抗原への特異的IgE産生)を経て再暴露時に即時型反応(I型アレルギー)が起こる。症状は皮膚症状、消化器症状、呼吸器症状からアナフィラキシーまで幅広い。


「食べていないのに発症する」現象

近年の研究では、食物アレルギーが食べていないのに発症する可能性、すなわち経口摂取以外の経路で免疫が“アレルギー反応を学習する”ことが示されるようになっている。これは特にアトピー性皮膚炎など皮膚バリア障害を有する者で顕著である。皮膚を通じた曝露(経皮曝露)が感作を引き起こし、食物アレルギーへとつながると考えられている。

例えば乳幼児でアトピー性皮膚炎を有する場合、その障害部位から環境中の食物アレルゲンが侵入しやすくなることで特異的IgEが誘導され、食物アレルギーを発症するというモデルが提唱されている。これは「二重抗原曝露仮説(dual allergen exposure hypothesis)」とも呼ばれる。


新常識:「食べて発症」から「肌から発症」へ

二重抗原曝露仮説

従来は「口から食べる順序で免疫感作が生じる」と考えられたが、最新の研究では食物抗原が皮膚を介して体内に侵入すると感作が生じ、逆に口からの適度な曝露は免疫寛容を誘導するという視点が一般化している。これは「二重抗原曝露仮説」と呼ばれ、食物アレルギー発症のメカニズムを説明する新しい枠組みである。

この仮説は、皮膚からの曝露が免疫系にとって「危険信号」として認識されるのに対して、経口曝露は免疫系にとって「安全なもの」として扱われるという二つの免疫応答の違いを含む。したがって、口から適切に食べ物を摂取することで免疫寛容を獲得し、皮膚からの不適切な曝露を避けることで感作を予防するという考え方が重要になる。


経皮感作(敵とみなす)

経皮感作とは、皮膚を通じて抗原が侵入し、免疫系がそれを「敵」とみなしてアレルギー反応を学習する過程である。この経路は特に湿疹や皮膚バリア障害を持つ乳幼児で重要であり、環境中に存在する卵白・ピーナッツ・牛乳などの食物抗原が皮膚から浸入することでIgE感作が誘導されると考えられている。

動物モデル研究でも皮膚バリアの損傷を伴うと食物アレルギーの発症が促進されることが示されている。これは皮膚免疫系に存在するランゲルハンス細胞や樹状細胞が抗原を捕捉し、Th2型免疫応答を誘導するためと理解されている。


経口免疫寛容(仲間とみなす)

一方、食物を口から摂取することは免疫系にとって「安全なもの」として認識され、免疫寛容を誘導するという現象が確認されている。これが経口免疫寛容であり、正常な免疫系の働きである。

消化管には腸管関連リンパ組織(GALT)が存在し、食物抗原に対して免疫系が適切な寛容反応を形成する場となる。ここで分泌型IgAや調節性T細胞(Treg)などが協調して、抗原に対する不応答(無反応)を成立させる。

経口免疫寛容の破綻は感作の成立につながり、それが食物アレルギー発症の根本的原因となる。したがって離乳期の食物導入による免疫寛容の形成が重要視されている。


大人にも起こる「食べていないアレルギー」

食物アレルギーは従来「子ども特有の疾患」とみなされていたが、成人で新たに発症するケースも報告されている。成人では魚介類・果物・穀物が原因となることが多く、症状が重篤で診断が難しい場合もある。

成人発症では従来の「口から食べた食品による感作」だけでなく、化粧品や皮膚接触を通じた経皮感作が背景にあると考えられる例も存在する。特に職業性や日常的な皮膚接触による感作が成人アレルギーの一因となる可能性が示唆されている。


化粧品や石鹸が原因

成人での経皮感作の実例として、食物由来成分を含む化粧品や石鹸などの皮膚製品が原因となるケースが報告されている。例えばピーナッツ油やその他ナッツ由来エキスを含むクリーム類を長期に使用することが、皮膚バリアを介してIgE感作を誘導し、後にピーナッツに対する強いアレルギー反応が出る可能性がある。

皮膚バリア管理が不十分な状態では環境中に存在する抗原と併せて皮膚を通した初期の感作が進行するため、化粧品・石鹸選びにも注意が必要である。


花粉症からの発症

花粉症患者が食品アレルギーを発症する例(口腔アレルギー症候群:PFAS)が存在する。これは花粉中のタンパク質と類似した食品タンパク質に対して交差反応が起こることで食物アレルギー症状を誘発する現象である。花粉症患者がリンゴ・桃・キウイフルーツなどを摂取した際、口腔内にかゆみや腫れを生じることがある。

この交差反応型アレルギーは免疫システムの記憶が異物認識に関与する例であり、食物アレルギーの一つの発症メカニズムとして理解されている。


最新の予防と対策

近年、食物アレルギーの予防戦略に関するエビデンスが蓄積されている。重要なポイントは以下の二つである。

  1. 湿疹管理(皮膚バリアの維持)
    皮膚バリアを健全に保つことで経皮感作を抑制し、感作成立のリスクを低減できる。保湿剤や低刺激スキンケアが重要となる。

  2. 早期食物導入
    6カ月頃までに卵やピーナッツなどアレルゲン食物を適切に導入することで、経口免疫寛容を誘導し食物アレルギー発症を予防するエビデンスが強まっている。

また、特定の免疫療法(経口免疫療法・舌下免疫療法・経皮免疫療法)も発展しているが、治療の適応やリスク管理が専門的であるため医療機関での実施が必要である。


スキンケアの徹底

特に乳幼児期には皮膚バリアが未成熟であることが多く、アトピー性皮膚炎と合併する場合が多い。適切なスキンケア(保湿・低刺激石鹸の使用)は経皮感作予防に寄与する。湿疹の発生・悪化を放置せず、早期の医療的介入を行うことが推奨される。


離乳食を遅らせない

従来は離乳食導入を遅らせることで食物アレルギー発症を予防する考えがあったが、最新のエビデンスはこれを支持していない。むしろ適切な時期(おおむね生後6カ月頃)にアレルギーのリスクが高い食品を少量ずつ導入する方が予防効果が高いとされている。


今後の展望

今後の研究課題として、以下が挙げられる:

  • 腸内微生物叢とアレルギー発症の関連性:腸内細菌とその代謝物が免疫寛容成立に関与するという研究が進んでいる。

  • 個別化予防戦略:遺伝的背景・環境要因・生活様式を考慮した発症予測と予防法の最適化。

  • 新規免疫療法の開発:経皮免疫療法(EPIT)や経口免疫療法の安全性・有効性のさらなる検証。


まとめ
  • 食物アレルギーは免疫寛容の破綻により発症する。

  • 近年は「経皮感作(皮膚を通じた感作)」が重要視され、食べなくても発症する可能性が示されている。

  • 経口免疫寛容の成立は食物アレルギー予防に不可欠であり、早期食物導入が推奨されている。

  • 成人でも経皮感作を含む多様な発症経路が存在する。

  • スキンケア管理と適切な離乳食導入は予防戦略として重要である。

  • 今後は腸内環境や個別化医療の発展が期待される。


参考・引用リスト

  1. 兵庫医科大学免疫学・医動物学講座「食物アレルギーの研究」概説(2026)

  2. 日経メディカル ワークス「食物アレルギー予防は早期食物導入と湿疹管理で、近年の仮説を実証」(2025)

  3. PubMed「Skin and oral intervention for food allergy prevention based on dual allergen exposure hypothesis」レビュー(2025)

  4. 理化学研究所プレス「生後1カ月の腸内細菌が食物アレルゲン感作に関連」(2024)

  5. 日本学術研究情報「食物アレルギーと経口免疫寛容の成立機序」研究概要(2019)

  6. 国立成育医療研究センター「アレルギーについて」解説(2026)

  7. 国立成育医療研究センター「研究成果」一覧(2025)

  8. ケアネット「増える成人食物アレルギーと新規アレルゲン」報告(2026)

  9. MDPIレビュー「Oral Tolerance Induction—Opportunities and Mechanisms」(2025)


追記:子どもの食物アレルギー

発症率と臨床的特徴

子どもの食物アレルギーは乳幼児期に最も高い有病率を示しており、卵・牛乳・小麦などが主要アレルゲンであることが従来から知られている。しかし近年、木の実(ナッツ類)や魚卵アレルギーの急増も報告されており、従来の「三大アレルゲン」に加えて多様な抗原が臨床的に注目されている。

有症状の子どもの多くはIgE介在性反応を示すが、症状の重症度・発現部位は個人差が大きい。診断には詳細な問診が必須であり、症状発現のタイミング(摂取後何分〜何時間で発症したか)や症状パターンの把握が診断精度向上の鍵である。

食物アレルギーとアトピー性皮膚炎の関連

乳児期にアトピー性皮膚炎(湿疹)が存在する場合、その皮膚バリア障害が食物アレルギー発症のリスク因子となる。湿疹部位から細微な食物抗原が侵入し、免疫系が異物として認識する経皮感作がリスクを高めると考えられている。


最新の食物アレルギー対策・トレンド

近年の子どもの食物アレルギー対策は、単なる「除去」からより積極的な予防・介入戦略への転換が進んでいる。代表的なトレンドは以下のとおりである。

1. 早期導入と定期的継続の重要性
  • 米国では乳児期早期(4〜6カ月頃)のピーナッツ導入が食物アレルギー発症を抑制するという臨床データが蓄積されており、関連ガイドラインの普及によりピーナッツアレルギー率が大幅に低下したという報告がある。

  • 日本小児アレルギー学会誌でも、単なる早期摂取だけでなく、摂取後も定期的に継続することが発症予防に重要であり、十分な介入戦略の設計が必要であると指摘されている。

2. 皮膚介入と経皮的予防
  • 乳児湿疹に対して早期かつ全面的な皮膚介入(洗浄+保湿+炎症管理)を行うことで、食物アレルギー発症率が低下する可能性が報告されている。PACIスタディでは、皮膚炎のない状態を目標としたスキンケア群で卵アレルギー発症が約25%減少したことが示された。

  • 「皮膚ケア単独で100%予防できるわけではないが、皮膚疾患を放置しないこと・医師に相談して適切な管理を行うこと」は複数の専門家が強調している。

3. 免疫療法の進展
  • 経皮免疫療法(EPIT)や経口免疫療法(OIT)といった免疫調節アプローチが、従来の除去療法に代わる治療選択肢として注目されている。子どものピーナッツアレルギーに対してスキンパッチ(Viaskin Peanut)が1年間の介入で耐性向上効果を示した報告があり、2026年前半の承認申請が予定されている。


皮膚のバリア機能を維持するための具体的なスキンケア方法

近年の研究・専門機関ガイドラインでは、食物アレルギー予防において皮膚バリア機能維持が重視されるようになっている。以下に、具体的な実施要点を整理する。

1. 適切な洗浄の実践
  • 入浴やシャワーでは赤ちゃん用のやさしい石鹸や弱酸性洗浄剤を使用し、過度な擦過を避けることが薦められている。皮膚の清潔を保つが、洗浄成分が残らないよう十分にすすぐことも重要である。

  • 石鹸類の使用に関して大規模疫学調査では、入浴時に適切な洗浄を行うする子どもでアトピー性皮膚炎・食物アレルギーの発症率が低くなる傾向がみられている。

2. 保湿剤の活用
  • お風呂上がり5分以内に保湿剤を塗布することが最も効果的であり、角質層の水分蒸散を防いで皮膚バリアを補強する。ワセリン・セラミド配合保湿剤などが一般的に用いられる。

  • 保湿は継続的なケアであり、湿疹改善後も皮膚が安定するまで継続することが重要である。

3. 湿疹・炎症の管理
  • 湿疹や乳児湿疹がある場合は、早期に医療機関で適切な治療(ステロイド外用など)を受けることが推奨される。皮膚の炎症を抑えることで、経皮感作のリスクを低減する。

  • 保湿のみで湿疹を治療するのではなく、医師の診察のもとで炎症制御を適切に行う必要がある。

4. 日常生活での配慮
  • 室内環境を清潔に保ち、ホコリ・ダニ・食物抗原微粒子などが皮膚に接触しにくい環境整備が推奨される。皮膚バリアが損なわれている状態では、これらの生活環境因子も感作リスクを高めうる。


原因食物の特定のための検査

食物アレルギーの診断と原因食物特定は、臨床的評価と各種検査の組み合わせで行う必要がある。単一の検査による結果だけで自己判断することは誤診や過剰除去を招く可能性がある。

1. 問診(Clinical History)
  • まず詳細な問診が行われる。食べた食品、量、症状の種類、発症までの時間、症状の持続時間などを確認することが診断プロセスの基盤となる。

2. 血液検査(特異的IgE検査)
  • 血液検査は特異的IgE抗体を測定し、対象食品に対する感作の存在を評価する指標となる。しかし、IgE値が陽性でも実際の症状が出ない場合(偽陽性)や、逆に陰性でも症状が出る場合(偽陰性)があるため、結果はあくまで参考値として臨床症状との照合が重要である。

3. 皮膚プリックテスト(Skin Prick Test)
  • アレルゲン抽出液を皮膚に置き、微細な刺入で反応を観察する。即時反応(15分程度で反応)が陽性であれば、その食品に対する感作が示唆されるが、単独では確定診断とはならない。

  • 一部の新しい研究では自動化デバイスや機械学習を用いた反応解析など診断精度を高める取り組みも示唆されている。

4. 食物経口負荷試験(Oral Food Challenge: OFC)
  • 現時点での金標準とされる診断検査であり、医師管理下で対象食品を少量ずつ摂取し、症状の有無を観察する。OFCは、血液検査や皮膚検査よりも実際に食物を摂取した際の臨床反応を直接確認できるため、確定診断に最も信頼性が高い方法とされている。

  • OFCは症状誘発のリスクを伴うため、医療機関で安全に実施される必要がある。

5. 新規・補助的検査
  • 研究段階では、ラテックス/エピトープベースのアッセイ、好塩基球活性化テスト、分子アレルゲン診断、オミクス系分析、人工知能統合診断ツールなどが将来的な診断精度向上に寄与すると期待され、中長期的研究が進行中である。


追記まとめ
  • 最新の子どもの食物アレルギー対策は、「適切な皮膚ケア」と「早期・定期的なアレルゲン食材摂取」という二軸戦略が注目されている。

  • アレルギー診断は単一の検査で決定せず、問診→血液検査→皮膚プリックテスト→食物経口負荷試験と段階的かつ慎重な評価が必要である。

  • 皮膚バリアの維持は食物アレルギー発症リスク低減に寄与するが、適切な医療介入との併用が実践的である。

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