コラム:「米加」関係悪化、課題と今後の展望
米国とカナダの関係は、2026年2月時点で深刻な摩擦を抱えている。
とカナダのカーニー首相(AP通信).jpg)
現状(2026年2月時点)
2026年2月現在、米国とカナダの二国関係は1970年代以降に見られないレベルで緊張状態にある。関税措置、貿易摩擦、政策対立が表面化し、議会・国民感情を含めた両国内の政治圧力が関係悪化を助長している。特に、トランプ米大統領が国家非常事態を口実に発動したカナダ産品への高関税に対し、米下院が反対決議を可決するなど異例の政治攻防が生じている。これは政党や立法機関が実行権力の通商政策を牽制する構図を生んでいる。
同時に、米国が米加国境の新たな国境インフラプロジェクト(例:ミシガン–オンタリオ橋建設)への条件付けや阻止発言を行うなど、物理的・象徴的な摩擦も生じていることが報じられている。
また、カナダはこの関係悪化を背景に経済的・戦略的パートナーシップを米国以外(例:中国)へ広げる動きを強めており、戦後構築された「北米統合」モデルの再検討が進行中である。
第2次トランプ政権とカナダの対立
2025年1月に発足した第2次トランプ政権は、「アメリカ第一主義」を前面に掲げ、貿易・外交政策において保護主義的手法を強化した。これには中国および北米隣国であるカナダ・メキシコへの幅広い関税政策が含まれ、「関税を外交手段として用いる」姿勢が明確化している。
同政権は合成麻薬フェンタニルや不法移民の流入を安全保障・国家緊急事態と位置づけ、これを名目に関税を課す大統領令を発令した。カナダ・メキシコに対する25%関税はその主な例であり、USMCA協定の恩恵を受ける製品にも影響を与えている。
交渉と打ち切り
カナダ側がIT企業に対するデジタルサービス税など独自政策を進めると、トランプ政権は米加間協議の打ち切りを口にし、これが相互不信をさらに深めた。
主な要因
分析に当たり、関係悪化の要因を以下のように整理できる。
1) 貿易政策の根本的対立
トランプ政権は「相互関税」(相手国の関税に応じて自国関税を設定)を重視し、カナダの低関税・自由貿易政策と明確に衝突した。これにより、USMCA枠組み内であっても関税が課される事例が発生している。
2) 国家安全保障と移民・薬物問題の政策化
米国側はカナダを通じたフェンタニル流入を国家安全保障として扱い、これを関税政策の正当化材料としたが、カナダ側はこれを誤った根拠として強く反発している。
3) 双方国内政治・世論の硬直化
米国議会では関税反対の議員も現れ、下院がトランプ関税に反対決議を可決した。 一方カナダ国内でも反米感情や米国製品不買運動が広がるなど、国民意識が硬直化している。
激化する「貿易戦争」と経済への直撃
関税の応酬
関税政策は米加両国経済に直接的なダメージを与えている。米国による一律追加関税の発動に対し、カナダ側でも報復関税や貿易規制強化の可能性が浮上している。
貿易経済モデル分析によると、こうした関税の激化は労働市場・雇用にも深刻な影響を与える可能性がある。例えば複数国間投入産出モデルによれば、関税・報復措置が続くと世界的な雇用減少が大規模になるとの試算が示されている。
経済的損失
国際貿易統計によると、米加間の貿易量は減少しており、自動車・資源・農産品を含め幅広い産業が影響を受けている。これにより価格転嫁や供給網の再編が進行し、消費者・企業双方へのコスト負担が増大している。
具体的火種
USMCA再交渉の影
USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)は1994年発効のNAFTAを引き継ぐ自由貿易協定だが、関税措置によりその優遇措置の一部が曖昧化している。再交渉の可能性が2026年後半に取りざたされ、関税適用範囲の再設定が議題となる予定である。
外交・イデオロギーの対立
米国側は国境管理強化、安全保障重視の外交観を推進しているが、カナダは多国間主義・自由貿易体制の維持を主張している。この双方の外交理念の差異が政策対立を助長している。
首脳間の摩擦
米国大統領とカナダ首相の間では、外交的な応酬が繰り返されており、相互の侮蔑的発言も報じられている。これにより個人的信頼関係が損なわれ、協議プロセスが硬直化した。
「州への格下げ」発言問題
トランプ大統領がカナダ首相に対し「州のような存在」と発言したという報道・SNS情報が流れ、カナダ国内の反発が強まった。これは対等主権を巡る外交摩擦を象徴している。
国民意識の悪化
世論調査では、米国内で関税支持率が低下し、消費者の生活コスト上昇に対する懸念が強まっている。また、カナダ側でも対米不信が高まり、政治的支持基盤が悪化している。
安全保障と国境管理
米加国境は世界最長の非軍事国境として知られてきたが、移民・薬物対策の名目で監視・管理強化が検討され、国境管理政策が硬化する圧力が生まれている。
国境の要塞化圧力
国家安全保障の枠組みで国境要塞化を唱える声が米国内で強まり、カナダ側も同様の懸念を表明している。これが物流・通行に追加コストを生む可能性がある。
今後の展望
今後、米加関係は以下のようなシナリオに分岐し得る。
対話再開・協調強化シナリオ:下院・上院の牽制が通商政策の軟化を促し、USMCA再交渉を通じて関税問題が整理される展開。
分断深化シナリオ:双方が報復関税・貿易規制を継続し、経済統合の後退が進む展開。
中立第三国へのシフト:カナダが米国依存から脱却し、欧州・アジア市場との連携を強めることで新たな経済秩序を模索する展開。
これらは国際経済、国内政治力学、世論動向による。
まとめ
米国とカナダの関係は、2026年2月時点で深刻な摩擦を抱えている。トランプ政権の関税政策、安全保障優先策、両国首脳間の摩擦、国内政治圧力が重層的に影響している。USMCAや国境管理政策はその象徴であり、今後の関係は外交的調整か分断深化のいずれかで展開する可能性が高い。
参考・引用リスト
米国下院がトランプ関税を撤回する決議を可決した報道(Financial Times, Reuters)
米加間の国境インフラ摩擦の報道(Pressenza)
カナダの米国関係再構築動向(CFR)
貿易摩擦をめぐる国際的分析(国際関係・報道)
ジェトロ・アジア経済研究所による追加関税の試算と世界経済影響分析(アジア経済研究所)
中央学院大学によるUSMCA影響分析論考(国際経済連携推進センター)
Mizuho Researchによる相互関税の経済影響分析(Mizuho RT)
国際貿易統計・USMCA原産地規則関連データ(ジェトロ)
関税政策が雇用に与える影響を分析した研究論文(arXiv)
追記:USMCA再交渉による貿易枠組みの再編
見直しプロセスの進展
USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)は、197対象期間満了まで16年間の効力を持つ一方、協定発効後6年目(2026年7月)に3カ国が見直しと延長について合意するかを決める仕組みがある。2026年1月には、米国通商代表部(USTR)がメキシコ政府とUSMCA見直しに関する協議開始で合意したと発表された。見直しの焦点には原産地規則の強化、労働・生産者保護、対外通商政策の整合性などが含まれる。また、米通商当局は、条件付きでの延長や2国間協定への分割可能性など幅広い選択肢を示唆している(例:三者間合意を得られない場合の段階的見直し)。
しかし、この協議は順調とは言えない。カナダ側が中国の電気自動車(EV)に関税率引き下げや戦略的パートナーシップを進める一方で、米国側はこれをUSMCA見直しプロセスにおける立場の弱体化として批判しており、足並みの乱れが観測される。ユーラシア・グループなどの見立てでは、既存の3カ国協定での合意が困難であり、「ゾンビのように」存続する可能性も指摘され、企業や政府が予測不可能性に直面すると見る向きもある。
再編のパターン
USMCA再交渉による枠組み再編は、主に以下の三つの方向性が想定できる。
3カ国協定の維持・更新
最も安定的なシナリオは、米・カナダ・メキシコの三者が協調し、USMCAを延長・改善する方向で合意に達することである。これにより、北米のサプライチェーン統合や貿易環境は維持され、貿易・投資ネットワークが安定化する。USMCAから二国間協定への移行
米国が協定を優先順位の低い多国間枠組みと見なす場合、カナダおよびメキシコとの別々の2国間協定へ転換する可能性がある。この場合、米国側は更に自国の貿易条件を有利にする裁量を得るが、カナダ・メキシコ双方の市場アクセスは低下し、三者共通の調整コストは上昇する。USMCAの実質的分断(不完全な延長)
三者合意に至らない場合、USMCAは形式的に存続するものの、実際の実施や共通ルールに亀裂が生じ、事実上の分断状態になる可能性がある。こうした「ゾンビ協定」状態は、企業の投資・生産計画に不確実性を増大させる。
これらの方向性は、米国の通商政策の方向性、カナダ・メキシコの対米関係の姿勢、グローバルな地政学的圧力などが絡み合う形で決定される。特に、米国側の移民・薬物対策と関連付けた関税政策がUSMCA内部のルールと矛盾し続けている現状は、再交渉プロセスの大きな摩擦要因となる。
2026年11月の米中間選挙による政策変更の有無
内政と通商政策の連動
米国の2026年11月中間選挙は、上院・下院の与野党勢力に大きな影響を与える。共和党の支持基盤が通商摩擦に対して慎重姿勢を強める中、米下院がトランプ政権の対カナダ関税に反対する決議を可決した事例は、政権内外の圧力を顕在化している(賛成票には共和党造反も含まれる)。このような国内政治の変動が通商政策に影響を与える可能性は高い。
選挙を控え、共和党は支持基盤を固めるために経済的な有利性を訴える必要があり、貿易赤字の是正や雇用創出を強調する政策は継続され得る。一方、民主党側は対米国の生活コスト上昇や企業負担の増加を批判し、より伝統的な自由貿易支持を掲げる可能性がある。中間選挙の結果が議会と政権間の競合関係を変えることで、関税政策の修正やUSMCA再交渉へのアプローチが変わる可能性がある。
中間選挙後の政策シナリオ
中間選挙の結果次第では、通商政策の以下のような変化が想定される:
共和党優位維持
トランプ政権支持の下、既存の保護主義政策が継続される可能性がある。ただし、政策失敗やコスト増への懸念が高まれば、与党内でも調整圧力が強まり、対カナダ・対メキシコ政策に修正が生じる可能性がある。民主党が議会制御を握る
下院・上院で民主党が優勢となれば、関税政策への合法性・通商政策の合理性が厳しく審議され、米国政府は議会との協調を優先する形で貿易政策を再調整する可能性がある。これにより、USMCA制度の安定性が相対的に高まる可能性がある。
いずれの場合も、中間選挙は単なる政治イベントではなく、通商政策の戦略的修正の起点となり得る重要な節目である。
「共同管理モデルの維持か、米国主導への転換か」
モデルの特性
北米の貿易枠組みは、USMCAを通じて米国・カナダ・メキシコの三者が均衡的に利益を分配し、共通ルールを維持する「共同管理モデル」であった。これにより、労働・環境基準、原産地規則、紛争解決メカニズムなどが複合的に調整されてきた。しかし、2025年以降の政策動向は、このモデルを大きく揺るがしている。
米国主導モデルへの圧力
トランプ政権は多国間協定より二国間交渉を好む傾向が強いとの分析があり、これはUSMCAのような三者合意形態よりも、米国主導で条件を決定するモデルへの転換傾向を示唆している。実際に、USMCAを維持するよりは二国間協定への分割や米国単独での交渉に重きを置く立場が指摘されている(政治的側面の報道分析)。
カナダ・メキシコ側からは三者モデルの維持が経済統合とサプライチェーン安定に重要だとの主張が強いが、米国内での安全保障優先・保護主義傾向が協定の枠組み維持にブレーキをかけている。USMCA見直し協議でも、米国側は自国の労働者保護や中国からのサプライチェーン安全を問題視しており、三者間共同モデルからの逸脱圧力が強まっている。
長期的な制度形成への影響
このモデル選択は、単に貿易関係の構造を左右するだけでなく、北米地域統合のあり方そのものを問う問題でもある。共同管理モデルが維持されれば、北米が相互依存的な統合経済圏として存続する可能性が高い。一方、米国主導モデルへの転換が進めば、各国はそれぞれ米国の条件に従いながら異なる戦略を採ることになり、地域統合の再編が進む可能性がある。
追記まとめ
USMCA再交渉は進行中であるが、3カ国合意は困難な側面を持つ。見直し協議は公式に開始されたが、米国・カナダ・メキシコそれぞれの立場が異なり、複雑な摩擦要因が存在する。
2026年11月の米中間選挙は、通商政策の修正やUSMCA再交渉への影響を与える可能性が高い。選挙結果によっては、共和党主導の保護主義政策の継続、あるいは議会との協調による政策の修正が起こり得る。
北米貿易制度は共同管理モデルか米国主導モデルかの選択を迫られている。現状では米国の主導性を強調する圧力が強まりつつあり、これが三者協定としてのUSMCAの存立基盤を揺るがしている。
参考・引用リスト(追記部分)
USMCA見直し交渉開始の報道 — 米USTRとメキシコが正式協議開始で合意(ジェトロ)
トランプ大統領によるUSMCA離脱検討報道(フジテレビ/共同)
米下院が対カナダ関税撤廃決議を可決した報道(Reuters, FT, 時事)
USMCA存続リスク分析 — USMCAが「ゾンビ化」する可能性(ジェトロ)
米国の保護主義傾向とUSMCAへの影響(アゴラ分析)
USMCA未来分析(PIIE)
