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コラム:美味しい揚げ物、食べ過ぎないで...健康習慣

揚げ物を減らすことで、心血管疾患・糖尿病・肥満・慢性炎症などのリスクを下げ、腸内環境や肌、エネルギー水準の改善を期待できる。
フライドチキンとポテト(Getty Images)
揚げ物とは

揚げ物とは、食材を油で加熱し、表面を高温で加工して香ばしさや食感を出す調理法である。代表的なものに天ぷら、フライ(とんかつ、フライドチキン、コロッケなど)、唐揚げ、揚げ出し豆腐などがある。揚げることで水分が蒸発し、表面に褐色化(メイラード反応やカラメル化)や衣のサクサク感が生まれるため、嗜好性が高く、外食や惣菜、加工食品に広く用いられている。揚げ物は高温で調理される過程で油脂の酸化や反応性の化合物が生成されることがあり、調理法や油の種類、温度管理によって食品中の成分や健康影響が変わる。揚げ物の魅力は味と食感だが、同時に過剰摂取や不適切な調理で健康リスクが高まる可能性がある点に注意が必要である。

食べ過ぎないで — 基本的な考え方

揚げ物は高エネルギー食品になりやすく、頻繁に摂ると1日の総エネルギーや脂質摂取量が増える傾向がある。したがって、揚げ物を「たまに楽しむ」位置づけにして、主菜や副菜をバランスよく組み合わせることが基本である。揚げ物の油は種類によっては飽和脂肪やトランス脂肪に富むことがあり、これらの脂質は心血管疾患のリスクを高める要因となる。世界保健機関(WHO)は、トランス脂肪は可能な限り排除し、総エネルギーの1%未満に抑えることを推奨している。トランス脂肪や飽和脂肪の過剰摂取を避けるために、揚げ物の頻度と量を減らす実践が望ましい。

揚げ物を控えることによる健康効果(概観)

揚げ物を控えることで期待できる健康効果は多岐にわたる。代表的なものを挙げると、(1)生活習慣病リスクの低減、(2)心臓病や脳卒中の予防、(3)肥満の改善・予防、(4)糖尿病リスクの低減、(5)消化器系の改善や腸内環境の改善、(6)慢性炎症の抑制、(7)肌質の改善、(8)エネルギーレベルの向上、(9)全体的に健康的な食生活への転換、などである。これらは疫学研究、専門機関の推奨、動物実験あるいは介入試験の示唆を総合して支持されている。特に頻度の高い揚げ物摂取は全死亡率や心血管系のイベント増加と関連する報告があるため、控えることで長期的な疾患リスク低減が期待される。

生活習慣病のリスク低減

揚げ物、特に頻繁な揚げ物摂取は生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病、肥満など)と関連していることが疫学研究で示されている。2019年の大規模コホート研究では、揚げ物の摂取が多い群ほど心血管疾患や全死亡のリスクが有意に高いことが報告されており、揚げ物を減らすことでこうしたリスクを下げられる可能性が示唆されている。揚げ物を控えめにすることは、総脂質摂取量のコントロール、飽和脂肪やトランス脂肪の摂取削減、塩分や加工食品の同時摂取を減らす効果を通じて生活習慣病予防に寄与する。

心臓病や脳卒中の予防

揚げ物に含まれる不健康な脂肪(トランス脂肪や一部の飽和脂肪、酸化した油)や高カロリーな食事パターンは、LDLコレステロールの上昇、動脈硬化進展、血管内皮機能の悪化と関連する。WHOや米国心臓協会(AHA)は脂肪の質を重視し、飽和脂肪の置き換えとして不飽和脂肪酸を推奨している。揚げ物の頻度を下げ、代わりに蒸す・煮る・グリルする・オーブンで焼くなど油使用を抑えた調理法を取り入れることで、心筋梗塞や脳卒中の発症リスクを低減できる可能性が高い。特にトランス脂肪の除去は心疾患死亡の減少に直結するため、公衆衛生上も重要である。

肥満の改善・予防

揚げ物は同量の他の調理法に比べてエネルギー密度が高く、満腹感を満たしてもカロリー過剰になりやすい。継続的に高エネルギー食品を摂取することは体重増加とリンクし、内臓脂肪の蓄積や代謝シンドロームの発症につながる。揚げ物を控えて調理の工夫(野菜を増やす、低脂肪のタンパク源を選ぶ、揚げ物を主菜ではなく副菜にするなど)を行うことで、総摂取カロリーを減らし体重管理や減量を助ける。減量は血圧、脂質プロファイル、耐糖能に良い影響を与え、心血管リスクを下げる。疫学的には揚げ物頻度が高い人ほど肥満や腹部肥満の頻度が上がる傾向が報告されている。

糖尿病のリスク低減

揚げ物や加工された高脂質食の高摂取は、2型糖尿病の発症リスクと関連している。揚げ物自体が直接的に血糖値を急上昇させるわけではないが、高カロリー・高脂質の食事はインスリン抵抗性を助長し、長期的には糖代謝の乱れを招く。最近の研究は、揚げ物が腸内環境を変化させ、それを介して耐糖能に影響する可能性を示唆している。揚げ物を減らして食物繊維や全粒穀物、野菜・果物、魚などを増やす食事に移行することで、インスリン抵抗性の改善と糖尿病発症リスクの低下を期待できる。

消化器系の改善・胃腸の負担軽減

揚げ物は消化に時間がかかり、胃のもたれや消化不良、逆流性食道炎の増悪要因になりうる。高脂質食は胃排出を遅らせるため、食後の不快感や腹部膨満を招きやすい。揚げ物を控えて脂質の量と質を見直すことで、胃腸の負担が軽減され、消化器症状の改善が見込める。特に消化器疾患を抱えている人は、脂肪の摂取量を減らすことで症状管理がしやすくなる。臨床的には、脂肪制限が胃排出改善や胃食道逆流の軽減につながることが知られている。

腸内環境の改善

最近の研究は、揚げ物や高温調理食品が腸内細菌叢(マイクロバイオータ)に影響を及ぼし、肥満や代謝異常、炎症性反応に結びつく可能性を示している。フライドミートや揚げ物の多い食事は、腸内の有益菌の減少や炎症関連代謝物の増加と関連する報告があり、これがホストの代謝や免疫応答に影響することが示唆されている。揚げ物を減らして食物繊維や発酵食品、野菜を増やすことで腸内細菌叢の多様性と機能が改善し、メタボリックリスクの低下につながる可能性がある。

その他の健康効果(炎症の抑制など)

揚げ物や熱酸化した油の摂取は、体内の酸化ストレスや慢性炎症を促進する可能性がある。慢性炎症は動脈硬化やがん、代謝性疾患など多くの慢性疾患の共通因子であるため、揚げ物を減らすことは炎症指標の低下や酸化ストレス軽減を通じて幅広い健康効果をもたらすことが期待される。食事性の炎症パターンを改善するためには、揚げ物の代替として魚、ナッツ、オリーブオイルなどの不飽和脂肪酸や、果物・野菜・全粒穀物を取り入れることが有用である。複数の栄養学的ガイドラインが、炎症性の食事パターンの改善を心血管疾患予防の一環として推奨している。

肌質の改善

脂質の質や抗酸化物質の摂取バランスは皮膚の健康にも関係する。酸化しやすい油やトランス脂肪、過度の高脂質食は皮脂の組成や酸化を通じて炎症性皮膚状態を悪化させる可能性がある。一方で、揚げ物を控え、不飽和脂肪酸(例:魚の脂)やビタミン・抗酸化物質を豊富に含む食品を選ぶことで、皮膚のバリア機能や弾力性が改善しやすい。臨床データは限定的だが、食生活改善に伴う肌状態の改善を報告する症例や小規模研究が存在する。

エネルギーレベルの向上

高脂質の食事は消化に時間がかかるため、食後の眠気やだるさを引き起こすことがある。軽めで栄養バランスの良い食事に切り替えると、血糖の安定化や消化負担の減少により日中のエネルギーレベルや集中力が改善することがある。揚げ物中心の食事を減らし、良質なタンパク質、複合炭水化物、食物繊維を組み合わせることが日常のパフォーマンス向上に寄与する。これは個人差があるが、臨床的にも栄養バランス改善が自覚的疲労の軽減につながることが示唆されている。

健康的な食生活への転換

揚げ物を控えることは単独の行動としても有効だが、他の健康行動(禁煙、適度な運動、適切な睡眠、野菜中心の食事)と組み合わせることで相乗効果を生む。食事の全体的パターンを地中海式やDASH食(高血圧予防食)に近づけると、心血管疾患や代謝疾患のリスクが総合的に低下するというエビデンスがある。つまり、揚げ物を減らすのは「単発の減少」ではなく「食生活全体の質を上げるきっかけ」と考えると実行しやすい。

たまには食べてもよい(現実的なスタンス)

完全な禁止は長続きしにくいため、たまに楽しむスタンスが現実的で持続可能である。頻度を週に1回程度に抑える、量を少なくする、油の種類に注意する(できるだけトランス脂肪や過酸化物の少ない油を使う、油の再利用を避ける)などのルールを設けると、嗜好を満たしつつ健康リスクを抑えやすい。バランスの良い食事を前提にした「選択的な楽しみ」は心理的にも有益である。WHOや各国のガイドラインも現実的な脂肪の質管理と頻度調整を支持している。

対策(家庭・外食で実践できる具体策)
  1. 家庭での工夫:揚げ物の頻度を減らし、代替調理法(蒸す、煮る、オーブン焼き、グリル)を活用する。衣を薄くする、粉の配合を工夫する(パン粉を減らす、片栗粉で軽くするなど)、揚げ油の温度管理(過度な高温や長時間の加熱を避ける)、油の再利用をできるだけ避ける。

  2. 油の選択:トランス脂肪を含まない品質の良い植物油(例:オリーブ油や一部のキャノーラ油など)を選ぶ。ただし、加熱での安定性を考慮して、調理法に適した油を使う。WHOは産業的トランス脂肪の排除を強く推奨している。

  3. 外食時の選び方:揚げ物が多いメニューはなるべく避け、焼き物や蒸し物を選ぶ。どうしても揚げ物を食べる場合は、副菜で野菜を多めに摂る、ポーションを分ける、揚げ物を共有するなどでエネルギー摂取を調整する。

  4. 加工食品のチェック:市販の惣菜やスナック、冷凍食品は隠れたトランス脂肪や過酸化脂質を含むことがあるため、成分表示を確認する習慣をつける。特に「部分水素添加油」等の表記には注意する。

今後の展望(公衆衛生・研究面)

公衆衛生面では、トランス脂肪の規制・除去政策が世界的に進みつつあり、食品産業側の改善と合わせて一般消費者のリスク低減が期待される。WHOのREPLACE行動計画など、産業的トランス脂肪を排除する取り組みは公衆衛生上のインパクトが大きい。研究面では、揚げ物摂取が腸内マイクロバイオームや炎症マーカーに与える影響の解明、さらには個人の遺伝的体質や生活習慣と揚げ物の影響の相互作用を検証する研究が増えることが見込まれる。最近の研究は揚げ物と腸内細菌叢の関連を示しており、これが将来の予防戦略や個別栄養(パーソナライズド栄養)に応用される可能性がある。

注意点・リスクコミュニケーション

揚げ物を完全に避けることが必ずしも必要というわけではないが、頻度と量、油の質、調理法に注意を払うことが重要である。特に既往症(心血管疾患、膵疾患、重度の消化器症状など)を持つ人は医師や栄養士と相談して個別の指導を受けるべきである。調理によって生成されるアクリルアミド(じゃがいも等の炭水化物由来の高温調理で生成される化合物)などの発がん性リスクについては評価が続いており、発がん性リスク軽減の観点からも高温での過度な加熱や焦げの摂取を避けることが勧められている。日本の食品安全当局はアクリルアミド低減の努力を継続する必要があると述べている。

まとめ(実践ポイント)
  1. 揚げ物は「たまに楽しむ」程度に留め、主食・副菜のバランスを整える。

  2. 油の種類と調理法に注意し、トランス脂肪や酸化した油の摂取を避ける。WHOや各国のガイドラインに従い、トランス脂肪摂取を総エネルギーの1%未満に抑える努力をする。

  3. 揚げ物を減らすことで、心血管疾患・糖尿病・肥満・慢性炎症などのリスクを下げ、腸内環境や肌、エネルギー水準の改善を期待できる。疫学的研究は揚げ物の高頻度摂取と全死亡率・心血管リスクの上昇を示しているため、個人レベルでも公衆衛生レベルでも摂取削減は有益である。

  4. 実践方法としては、代替調理法の導入、油の管理、外食での賢い選択、加工食品の成分表示確認を習慣化することが効果的である。

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