SHARE:

コラム:2026年の国際情勢、小さな危機が続く世界へ

2026年の国際情勢は、既存の国際秩序の揺らぎ、技術革新による安全保障リスク、米国優先主義による同盟関係の再評価、地域紛争の連鎖的悪化、情報・経済の不確実性という複数のリスク要因が複雑に絡み合っている。
2026年1月1日/タイ、首都バンコク、新年を祝う花火(AP通信)
現状(2026年1月時点)

2026年における国際情勢は、20世紀後半以来の国際秩序が揺らぎを見せる中、複数の地域紛争や戦争、米国を軸としたパワーバランスの再編、テクノロジー革新とそれに伴う安全保障リスクの顕在化が同時並行的に進行している。特に、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化、中東地域におけるイスラエル・パレスチナ紛争の再燃、米中による戦略的競合、そしてAIや新興テクノロジーの軍事・政治的な活用が世界秩序を再定義している。世界情勢を俯瞰すると、従来の「米国中心の国際システム」は相対的影響力を低下させつつあり、地域的な権力闘争や非国家主体の影響力が増大している。このような状況は国際政治・経済・安全保障の各分野においてリスク要因を複合的に高めている。


2026年の国際情勢における主な懸念点

2026年の国際情勢の懸念点は多岐にわたるが、大きく分けると以下の構造的な問題が指摘できる。

  1. 既存の国際秩序の揺らぎ

  2. テクノロジーの急速な進展に伴う新たなリスクの顕在化

  3. 米国による平和構築の限界と多極化の摩擦

  4. 地域紛争の連鎖的悪化

  5. 経済・供給網リスクの拡大

これらは相互に関連しながら2026年の国際政治経済の不安定性を高めている。


既存の国際秩序の揺らぎ

第二次世界大戦後構築された国際秩序は、冷戦終結後も比較的安定して存続してきたが、2020年代に入りその基盤が揺らいでいる。この変化は、国際法・規範への挑戦やパワーバランスの変動、米国の戦略的優先順位の変化によって顕在化している。

米国優先主義の影響(トランプ政権)

2025年に発表された米国の国家安全保障戦略は、従来の同盟重視から「米国優先(America First)」を強調する内容となっており、伝統的な同盟関係に距離を置く傾向が見られる。これは欧州やアジアの同盟国に対する期待を再設定し、パワーバランスの再編を誘発している。

この戦略では、欧州に対してはより大きな負担分担を求め、インド太平洋では中国への抑止を同盟国に委ねる方向性が示されている。その結果、米国の安全保障義務や軍事的関与の範囲が再評価されつつあり、国際秩序に対する一貫性が損なわれる懸念がある。

多極化と秩序の再定義

同時に、米国や西側主導の国際秩序に対抗する形で、中国やロシアなどが独自の枠組みを強化する動きがある。中国は経済・軍事力を背景に地域的な影響力を拡大しており、国際規範を自国の利益に合わせて解釈するケースが増えている。こうした動きは、既存の国際秩序の普遍性を損ない、秩序の分断を促進している。


テクノロジーの急速な進展に伴う新たなリスクの顕在化

AIおよび関連技術の進展は国際安全保障と政治経済に計り知れない影響をもたらしている。これらは従来の軍事・政治的対応だけでは対応が困難な新たなリスクを生み出している。

AIと軍事・核拡散リスク

AI技術は核兵器関連技術にも影響を与えている。最新の研究では、AIによる核関連技術の開発や検出手法が変容し、核拡散リスクの管理がより複雑化していることが指摘されている。AIが核開発プロセスや検出技術に影響を与えることで、伝統的な監視・統制システムが対応困難になる可能性がある。

AIの兵器化とサイバーリスク

自律型AI兵器システムやサイバーAIエージェントは重要インフラや軍事システムに対する新たな脅威を生じさせている。例えば、MAICAs(Military AI Cyber Agents)は自律的にインフラを攻撃しうる能力を有しており、これが国際安全保障上の重大な新リスクとなっている。

情報操作とディープフェイク

AIは情報操作の手段としても悪用され得る。高度なディープフェイク技術は政府や選挙プロセスを標的にした世論攪乱活動に利用される可能性が高く、民主主義の制度的信頼を損ねるリスクがある。このような情報戦は国家間の緊張を煽るだけでなく、国内政治の分断を深刻化させる。

学習データ枯渇と技術停滞

AI技術の進展はデータへの依存度を高めている。しかし、プライバシー規制やデータアクセス制限の強化が進む中で、高品質な学習データの入手が困難になり、技術進展が停滞する可能性が指摘されている。これは特に一般目的AIや安全保障用途のAI技術開発に影響を与えかねない。


「米国による平和」の限界と多極化の摩擦

米国の戦略的再配分

米国は中東方面から兵力を他地域に再配分するなど、安全保障戦略の重点を変化させつつある。これは一方で新たな地域紛争への対応能力を弱める可能性がある。

多極化と摩擦

国際政治は明確な二極構造から多極化に向かっており、地域紛争や経済圏争いが増加している。米国と中国、ロシアを含む多極的なパワーバランスは、既存の国際協調メカニズムを機能不全に導くリスクがある。複数の大国がそれぞれ異なるルールや利益を追求することで、国際交渉は複雑化し、意思決定が困難になる。


トランプ政権2年目と中間選挙

2024年の大統領選挙でドナルド・トランプが再選され、その政策は2026年の国際関係に大きな影響を与えている。トランプ政権は「米国の利益優先」を掲げ、同盟国への要求や関税政策を強化している。2026年の中間選挙を控え、政権は国内支持を維持するため強硬な外交・経済政策を推進する可能性が高い。

威嚇による紛争解決の効果の低下

トランプ政権の強硬策に対して、同盟国や対象国が「トランプ慣れ」しているとの指摘がある。脅威や威嚇による外交政策は、繰り返されることで相手側の反発や無視されるリスクが高まる。このため、従来の強硬外交が必ずしも紛争を抑止できない可能性がある。


「無秩序な多極化」が危惧

多極化は必然的に新たな競争と摩擦を生む。例えば経済的には関税合戦やサプライチェーン分断が進み、政治的には価値観の異なる国家間で協調が困難になっている。複数の大国が独自のルールや経済圏を構築することで、国際協力は断片化する恐れがある。


中東・ウクライナ情勢の連鎖的悪化

イスラエル・レバノン間

中東では、イスラエルとレバノン(ヒズボラを含む非国家主体)との対立が再び激化している。これにより地域全体の緊張が高まり、周辺国を巻き込んだ大規模紛争のリスクが高い。

イランの核開発

イランは核開発を継続しており、核能力獲得の懸念が国際社会で強まっている。特に地域的な緊張の中で核開発が進展すると、軍事的対立がエスカレートするリスクが高まる。

ウクライナ戦争と偶発的衝突

ロシアによるウクライナ侵攻は長期化しており、西側支援の継続による軍事支援と制裁が続く一方で、偶発的衝突や拡大のリスクが残されている。NATO加盟国とロシアの軍事的摩擦は、限定的な衝突から全面的な対立へと発展する可能性を孕んでいる。


東アジアの軍事的緊張

台湾海峡・南シナ海

中国は台湾海峡や南シナ海における軍事演習を継続しており、「一方的な現状変更」への懸念が強まっている。これは米中関係の戦略的競合と密接に関連しており、偶発的な軍事衝突のリスクを高めている。


AI「2026年問題」と情報の武器化

AIが国際政治に与える影響は軍事面だけでなく、情報環境そのものを変革している。AIを活用したディープフェイクや世論操作は、国家間の緊張を見えない戦線へと拡大するとともに、民主主義プロセスの信頼性を損なう恐れがある。


犯罪組織によるAI・ドローンを活用した新たなテロ手法

AI制御ドローンや自律型無人機は、国家主体だけでなく非国家主体によるテロ活動にも利用され得る。これらは従来兵器では対応困難な脅威であり、国際的なテロ対策の枠組みを再設計する必要がある。


物流・経済の不確実性:日本国内の2026年問題

日本では物流効率化義務化等の国内政策が供給網に影響を及ぼす懸念が生じている。これは国際的なサプライチェーン問題と連動し、経済の不確実性を増している。

関税合戦と重要海域の武器化

世界的には関税競争が激化し、輸送路や重要海域(chokepoints)を巡る軍事的・政治的対立がインフレ再燃の要因になり得る。


今後の展望

2026年以降の国際情勢は、既存の秩序の再編、テクノロジー革新の軍事・政治的影響の深化、地域紛争の連鎖などによって不確実性が高まるだろう。特にAIや自律兵器、サイバー空間における戦略的競合は、国際安全保障の枠組みを根本から再構築する必要性を提起している。また、米国中心主義の変容と多極化は国際協調を困難にし、地域的な安全保障メカニズムの強化と多国間交渉の拡充が不可欠となる。


まとめ

2026年の国際情勢は、既存の国際秩序の揺らぎ、技術革新による安全保障リスク、米国優先主義による同盟関係の再評価、地域紛争の連鎖的悪化、情報・経済の不確実性という複数のリスク要因が複雑に絡み合っている。これらの懸念は単独ではなく相互作用し、単純な解決策を困難にしている。政策立案者は短期的な安全保障対応だけではなく、国際協調の再構築と新たなルール形成を優先する必要がある。


参考・引用リスト

  • CFR: 米国国家安全保障戦略の変更(2025年)分析

  • CEPA: 世界秩序の未来と戦略競争

  • WTW/Coface: 政治リスクの高止まりと企業の懸念

  • 第一生命経済研究所: 中東・アフリカ情勢分析

  • 公明党ニュース: 国際情勢(田中均氏による2026展望)

  • Allison & Herzog: AIと核拡散リスク

  • Dubber & Lazar: AI兵器とインフラ脅威


以下は、2026年の国際情勢における主な懸念点を整理し、それが世界にどのような影響を及ぼすかについて、体系的にまとめた分析である。


1.2026年の国際情勢を規定する基本構造

2026年の国際情勢は、「不安定化した多極化」「既存秩序の規範力低下」「技術革新の急進と統治の遅れ」という三つの構造的要因によって特徴づけられる。冷戦後に一定の安定を保ってきた米国主導の国際秩序は相対的に影響力を弱め、各国が自国利益を前面に出す傾向が強まっている。その結果、国際社会は協調よりも競争、抑止よりも威嚇が優先されやすい環境に置かれている。


2.主な懸念点①:既存の国際秩序の揺らぎ

懸念点の整理

2026年において最も根源的な懸念は、国際法・多国間主義・同盟体制といった既存の国際秩序が十分に機能しなくなっている点である。国連安全保障理事会は大国間対立により意思決定能力が低下し、WTOなどの経済秩序も保護主義の台頭で形骸化が進んでいる。

世界への影響

この秩序の揺らぎは、

  • 紛争の抑止力低下

  • 国際ルールの恣意的解釈

  • 力による現状変更の増加

を招く。結果として、地域紛争が国際社会全体に波及しやすくなり、「小規模だが頻発する危機」が世界各地で常態化する恐れがある。


3.主な懸念点②:「米国による平和」の限界と無秩序な多極化

懸念点の整理

米国は依然として最大の軍事・経済大国であるが、全世界の安定を単独で支える意志も能力も低下しつつある。中東、欧州、インド太平洋という複数の戦略正面を同時に管理することは困難になっている。一方、中国、ロシア、地域大国がそれぞれ影響圏拡大を図り、多極化が進展している。

世界への影響

秩序ある多極化ではなく「無秩序な多極化」が進む場合、

  • 大国間の誤算や偶発的衝突

  • 地域覇権争いの激化

  • 中小国が板挟みにされる外交環境

が生じる。特に安全保障の空白地帯が増え、武力行使の敷居が下がる可能性が高い。


4.主な懸念点③:地域紛争の連鎖的悪化

中東情勢

イスラエルを軸とする中東情勢は、レバノン、イラン、パレスチナ問題を含めて相互に連動している。一つの衝突が他地域に波及しやすく、エネルギー供給や海上交通路に直接的影響を及ぼす。

ウクライナ戦争

長期化するウクライナ戦争は、ロシアとNATOの直接衝突リスクを常に内包している。限定的な事故や誤認が、急速なエスカレーションにつながる危険性が残る。

東アジア

台湾海峡や南シナ海における軍事的緊張は、「一方的な現状変更」への懸念を高めている。偶発的な衝突が起きた場合、世界経済への影響は極めて大きい。

世界への影響

地域紛争の連鎖は、

  • 原油・穀物価格の高騰

  • 海上輸送の不安定化

  • 世界的インフレ圧力

を通じて、軍事面だけでなく市民生活にも直接的影響を及ぼす。


5.主な懸念点④:テクノロジーの急速な進展と統治の遅れ

AI・情報空間の問題

2026年には、AIの高度化によりディープフェイクや自動化された情報操作が日常化する可能性がある。国家のみならず、犯罪組織や過激派もこれを利用できる点が深刻である。

新たな暴力の形態

AI制御ドローンや安価な自律兵器は、従来の軍事バランスを崩し、テロや破壊活動のハードルを下げる。

世界への影響

  • 民主主義国家における選挙・世論の信頼低下

  • 国家安全保障と治安の境界が曖昧化

  • 「見えない戦争(情報戦・サイバー戦)」の常態化

が進み、国際社会の不信感が増幅する。


6.主な懸念点⑤:経済・物流の不確実性

経済安全保障の台頭

関税合戦、制裁、重要資源の囲い込みが進み、自由貿易体制は分断されつつある。海峡や運河といったチョークポイントが政治・軍事的に「武器化」されるリスクも高まっている。

世界への影響

  • サプライチェーンの慢性的混乱

  • 物価上昇と成長率低下の同時進行

  • グローバルサウスへの経済的打撃拡大

が懸念され、世界経済は不安定な低成長局面に入る可能性がある。


7.総合的影響:2026年の世界はどう変わるか

以上の懸念点を総合すると、2026年の世界に予想される影響は以下の通りである。

  1. 安全保障面
     全面戦争は回避されつつも、局地的・断続的紛争が増加する。

  2. 経済面
     インフレと成長鈍化が併存し、格差が拡大する。

  3. 政治・社会面
     民主主義の脆弱性が露呈し、権威主義的統治が相対的に勢いを増す。

  4. 国際関係全体
     「安定した秩序」から「管理された不安定」への移行が進む。


8.結論

2026年の国際情勢における最大の懸念は、単一の危機ではなく、複数の不安定要因が相互に作用し、危機を増幅させる構造そのものにある。世界はもはや一国のリーダーシップだけで安定を維持できる段階を過ぎており、協調の再構築ができなければ、不確実性は常態化する。

2026年は、「大きな破局が起きない代わりに、小さな危機が続く世界」への転換点となる可能性が高い年である。

この記事が気に入ったら
フォローしよう
最新情報をお届けします