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コラム:中国経済減速、どうしてこうなった...

中国の減速は単なる景気循環ではなく、不動産バブル後の調整、人口構造の変化、政策選択(規制強化と共同富裕)という構造要因が重なった結果である。
2021年6月28日/中国、首都北京、共産党創立100周年式典の前に開催された集会(Ng Han Guan/AP通信)

中国の景気は近年「減速」と「構造的な転換」を同時に経験している。短期的にはポスト・コロナの回復や政府の景気下支え策によって成長が一定程度確保されているが、伝統的な成長ドライバーである不動産と製造業の伸びは弱まり、消費は地域・世代間でばらつきがある。四半期ベースの成長率は2024–2025年にかけて5%前後の伸びを示す一方、主要指標の内訳を見ると投資や不動産関連のマイナス幅が大きい。国の公式統計である国家統計局の指標や、国際機関の見通しも同様の評価を示している。

経済成長(歴史的背景)

改革開放以降の中国は、輸出・投資・不動産を三本柱とする成長モデルで急速にGDPを拡大させた。特に2000年代以降は不動産投資と都市化が個人資産形成と需要を牽引し、建設・素材・金融など多くの産業が不動産景気と連動して拡大した。しかし、こうしたモデルは高い債務比率、過剰供給、地方政府の土地収入依存などの副作用を生み、持続可能性の限界が顕在化した。2010年代後半から対外環境や国内の構造問題が浮上し、近年は成長率の「質」の転換が求められている。

共産党の政策(近年の主要政策と方向性)

中国共産党は「安定成長」と「長期的リスクの低減」を両立させようとする政策を打ち出している。代表的なスローガンとして「共同富裕(コモン・プロスパリティ)」が掲げられ、富の偏在是正、教育・医療・住宅の改善を通じた格差縮小が政策目標になっている。一方で、テクノロジー企業やプラットフォーマーに対する規制強化、不動産業界の過剰債務是正は、短期的に投資や雇用に抑制的に働いた。政府は成長率目標を「おおむね5%前後」としており、短期対策(金融緩和、減税、住宅ローン金利の引き下げなど)と中長期の構造改革(ハイテク投資、内需拡大)を組み合わせて対応している。

社会主義の限界(国家主導のリスクと制約)

中国の「指導部主導(トップダウン)」型の経済運営は、危機対応や大規模プロジェクトの迅速な実行という面で利点を持つ。しかし同時に、政策の一斉実施や規制の急変が市場の期待や民間の投資判断に大きな影響を及ぼしやすい。例えば、短期間での規制強化(プラットフォーム規制、不動産開発の融資規制など)は、民間資本のリスク回避を招き、景気の回復力を弱める可能性がある。さらに、地方政府の財政・債務管理や官僚主導の資源配分は、効率性やイノベーションの活力を損なうことがある。

資本主義と社会主義のハイブリッド(混合経済の現状と矛盾)

中国経済は市場メカニズムと政治的統制が入り混じったハイブリッドな体制である。国有企業(SOE)と民間企業が共存し、資本市場も広がっているが、重要分野では国家が優先的に介入する。ハイブリッド体制は危機時の安定化機能を提供する一方で、リソース配分の最適化や新興企業の育成を阻害することがある。また、政策の方向性が「産業育成(半導体・AIなど)」にシフトすると、そこへ集中する資本と人材の流れが他分野からの資源引き上げを引き起こし、短中期的な経済バランスに波及効果を生む。

格差拡大(所得・資産・地域格差)

改革開放以降の高速成長は平均所得の上昇をもたらしたが、同時に都市と農村、沿海と内陸、世代間での経済格差が拡大した。特に不動産価格の上昇は都市戸籍保有者の資産蓄積を促した一方で、地方や若年層の住宅取得能力を圧迫した。教育や医療、社会保障の地域差も依然として大きく、これが消費の二極化や社会的不満の原因になる。政策的には共同富裕の名のもとに富裕層への課税強化や公共サービス拡充が打ち出されているが、短期的な景気下押し効果も伴う。

不動産問題(構造的な崩れと波及)

不動産は中国経済のコアであり、その減速は経済全体に波及している。投資・建設の停滞、開発企業の債務不履行、未完成住宅問題、消費者の購買心理の冷え込みが複合している。国家統計局によると、不動産開発投資は年ベースで二桁近いマイナスを記録している期間があり、2025年の上半期も不動産関連投資は前年割れである。大手開発会社の資金繰り悩み問題は連鎖的な信用収縮を招き、建設業、素材、地方財政(土地収入依存)の悪化を通して全国経済を押し下げる仕組みになっている。住宅販売や再販市場の軟化も続いており、価格面での回復期待は限定的である。

人口減少(労働力と需要の長期的影響)

中国は近年人口の減少局面に入っており、出生率低下と高齢化が進行している。国家統計局の公表によると、総人口は数年連続で減少しており、2022年を始点にその傾向が続いている。人口の縮小は労働力供給を長期的に押し下げるだけでなく、住宅などの需要構造も変化させる。将来的には年金・医療の負担増と生産年齢人口の縮小が成長潜在力を抑制する。若年人口の減少は消費構成にも影響を与え、内需中心化を目指す政策にとっての逆風になる。

仕事がない?(雇用市場の実態と若年層の厳しさ)

公式の都市失業率は全体で一定の範囲に収まっていることが多いが、年齢別・地域別に見ると厳しい実態がある。特に16–24歳の都市若年層の失業率は高止まりしており、2024–2025年も深刻な水準にある。政府が一時的に指標の公表方法を変更した時期もあったが、再び改定指標での公表が行われ、若年失業率は時に二桁後半に達する場面がある。若年層就業の弱さは初任給停滞、企業の採用控え、学歴とスキルのミスマッチなど複合要因による。高い失業率は消費の弱化と将来期待の低下を通じて景気の下押し要因になる。

対策(政府・中央銀行が取っている手段とその効果)

政府は複数の手段を組み合わせて景気下支えを図っている。主要な対策を列挙すると次のようになる。

  1. 金融政策の微調整:政策金利や貸出条件の緩和、住宅ローン金利引き下げ、中銀による流動性供給などで民間の借入コストを低下させる。

  2. 財政支援:減税・補助金、インフラ投資の前倒し、地方債発行の活用による公共投資刺激。

  3. 不動産救済策:未完成住宅の工事再開支援、主に住宅ローン金利の引き下げや購入促進策、地方政府を通じたデベロッパー支援。

  4. 雇用対策:中小企業支援や若年層向けの職業訓練・補助金、スタートアップ支援策。

  5. 構造改革の推進:ハイテクやサービス分野、グリーン経済への投資シフト、行政サービスの効率化、新たな成長分野の育成。

これらの政策は短期的には一定の下支え効果を持つが、効果の持続性や副作用(債務拡大、資源の歪み)には注意が必要である。財政余力や地方政府債務の制約もあり、全面的な財政拡張が可能ではないという制約がある。

今後の展望(数シナリオとキードライバー)

今後の展望は政策対応の強さ、海外需要の動向、構造改革の進捗、人口動態の影響の四つを軸にシナリオ化できる。

  1. ベースケース(緩やかな再編と内需拡大)
    政府のターゲットどおり「5%」程度の成長を達成しつつ、サービス・ハイテク分野が成長の主役に移る。短期的な不動産ショックは長期投資のリサイクルと都市再開発で段階的に吸収される。若年失業率は訓練・採用支援で徐々に改善するが、人口構造の影響で潜在成長率は低下する。

  2. ハード・ランディング回避シナリオ(政策ミスがない場合)
    的確な金融緩和と限定的な財政出動、デベロッパーの秩序ある再編が進み、信用収縮の二次被害を抑えられれば、景気は比較的安全に持ち直す。ただし、この場合でも構造問題(人口、所得格差)は残る。

  3. リスクシナリオ(信用不安の連鎖や外部ショック)
    主要デベロッパーの破綻連鎖、地方政府の財政危機、世界的な需要減少が同時に進行すると、投資と消費の急減速が起き、景気が大幅に落ち込む可能性がある。国際金融市場の不安定化や資本流出もリスク要因だ。

まとめ

・中国の減速は単なる景気循環ではなく、不動産バブル後の調整、人口構造の変化、政策選択(規制強化と共同富裕)という構造要因が重なった結果である。
・当局は金融・財政・産業政策を総動員して下支えを図っているが、政策のスピード・範囲には限界があり、短期的な景気刺激だけでは長期課題は解決できない。
・将来的には「金融・財政の組合せによる安定化」と「イノベーション・消費主導への構造転換」が鍵になる。人口減少と格差問題は成長の制約となるため、労働参加率の引き上げ、社会保障改革、都市と農村の格差是正が不可欠である。

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