コラム:トランプ政権はイラン指導部を打倒できるか
トランプ政権の下で強化された制裁・圧力は、確かにイラン政権に前例のない内部・外部のストレスを与え、地域での影響力や経済的安定性を大きく弱体化させている。
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現状(2026年1月時点)
イランは近年にない深刻な政治・社会・経済危機に直面している。2025年12月末から始まった大規模抗議活動は、単なる物価高騰への抗議にとどまらず、明確に現在のイスラム共和制制度への不満と体制打倒を叫ぶ動きへと拡大している。デモはイラン全31州に広がり、主要都市テヘラン、イスファハン、シラーズ、マシュハドなどで数十万人規模の参加が確認されている。抗議には「独裁者に死を」や「最高指導者打倒」といった政権批判のスローガンが飛び交っており、政治的要求が明確化している。
政府側は一部の経済改革や対話の呼びかけを行っているものの、治安当局による強硬な鎮圧も同時に進行しており、死者・拘束者が多数発生している。また、最高指導者ハメネイ師は抗議を「外部勢力の陰謀」と位置付け、反政府デモを治安強化によって抑え込もうとしているが、効果は限定的となっている。
イラン政権がかつてないほど脆弱化
イランは1979年のイスラム革命以来、自らの安全保障と影響力の投射のために「抵抗の枢軸(Axis of Resistance)」と呼ばれる地域同盟網を構築してきた。その中心はシリアのアサド政権、レバノンのヒズボラ、パレスチナのハマス、イラク・イエメンの親イラン武装組織などであるが、これらの多くが2023〜2025年にかけて大きく弱体化した。アサド政権は崩壊し、ヒズボラやハマスは2023年以降の戦闘で戦力を大きく損なっていると報じられている。これにより、イランは地域での「抑止力」と影響力を失いつつある。
イスラエルによる2025年の空爆などによってイランの軍・核関連施設およびミサイル能力は重大なダメージを受け、これまでの軍事的優位性も損なわれているとの分析もある。こうした動きは、イラン政権の内部および地域の支持基盤を弱体化させる要因となっている。
体制基盤の弱体化と相互不信
国内では、経済危機と政治的不満が重なり、従来の支持基盤であったバザール商人、都市中間層、学生などが政権への批判を強めている。反体制派は単発的な抗議を超えて、組織化と横断的連帯の兆候を見せている。これにより、イラン政治システムの安定性はほかの時期よりも著しく低下している。
トランプ政権は直接的な体制転覆よりも極限の譲歩を引き出す『交渉』を優先
トランプ大統領は、再選後に「最大級の圧力(Maximum Pressure)」政策の強化を掲げ、イラン経済と軍事力への制裁・圧力を継続している。以前の政権でも同政策を用い、2018年の核合意(JCPOA)から離脱し、制裁を強化してイランを孤立化させた前例がある。現在も同様に制裁のスナップバック(国連制裁機構の再発動)によってイランへの経済的締め付けが強化されている。
一方で、トランプ政権関係者は公の場で明確に「政権転覆」を目標に掲げてはいないとの報道がある。ある報道では、トランプ大統領が記者からの問いに対して「打倒については語らない」と述べ、むしろ経済崩壊や国民の不満という現実を指摘したにとどまったという。
この姿勢は、トランプ政権内部で軍事的介入への慎重な姿勢と同時に、対話や交渉による解決を模索する現実主義的戦略が存在することを示唆している。軍事的行動を辞さないという強硬な発言と併せ、交渉によってイランにとって極めて大きな譲歩を引き出すことが政権の優先戦略である可能性が高い。
戦略選択の背景
トランプ政権は、前回の任期で核合意離脱後の制裁強化が経済に深刻な痛手を与えたと評価しており、今回も制裁・圧力を通じて相手を“譲歩させる”ことを重要視している。一方、過度な軍事介入は反発や地域紛争の拡大、米軍・民間人の犠牲拡大といったリスクを伴い、現実的な選択肢として慎重に扱われている。
イラン政権が直面する「崩壊の危機」
イラン経済は、制裁と内部統治問題の複合的な悪化により、歴史的な壊滅的危機を迎えている。2025年末から2026年始にかけて、イラン・リアルは非公式市場で1米ドル=約1.47百万リアルという史上最安値を更新し、通貨価値は著しく下落した。これに伴い、インフレ率は40%台を超え、特に食品・生活必需品の価格上昇が国民生活を直撃している。
この通貨危機とインフレは単なる価格変動以上のものとして捉えられ、市民生活の基礎を崩壊させる要因となっている。実際、生活必需品価格の激増や食糧不足、エネルギー供給の不安定化が広範な社会不満を誘発している。また、貧困ラインを下回る国民の割合が著しく増加したという報告もあり、社会的危機が深刻化している。
通貨リアルの暴落と社会不安
リアルの急落は、国内市場での混乱だけでなく、輸入依存度の高い産業・消費者に直接的な打撃を与えている。自由市場では米ドルを基軸通貨として取引するような状況が常態化しており、事実上、イランの通貨制度は機能不全に陥っているとの専門家の分析もある。
抗議デモの全国的激化
2025年12月28日に始まった抗議活動は、経済的不満から出発したものの、すぐに政治的要求へと転換している。デモは全国で発生し、大学生、労働者、商人が参加して政権批判の色彩を強めている。死者・拘束者も多数発生し、国家の社会的結束は大きく揺らいでいる。
軍事的孤立と代理勢力の機能不全
「抵抗の枢軸」の弱体化
イランの対外影響力を支えてきた「抵抗の枢軸」は、地域紛争の動向や主要盟友の崩壊によってその機能が弱体化している。シリアのアサド政権の崩壊、ヒズボラやハマスの戦闘力低下はイランの戦略的な支援基盤を縮小させ、地域での抑止力を低下させている。
この結果、イランは軍事的にも孤立し、地域的挑発を行う際にも同盟者の支援が期待できない状況となっている。また、米国・イスラエルの攻撃がイラン本土に限定的なダメージとはいえない多大な打撃を与えたとの分析も存在する。
イラン国内治安組織の結束と代替勢力の不在
革命防衛隊(IRGC)やバスィージを含む治安組織は依然として強力な武力を有しており、政権打倒を目指す抗議者に対して武力行使が可能である。これらの組織は体制側に忠誠を誓い、反政府勢力に対する抑圧力を維持している。このことが、外部からの介入がなくても統治秩序の維持を可能としている要素である。
さらに、制度的に統一された、かつ信頼できる代替勢力が国内に存在しない。反政府運動は多様だが、明確な指導者や統合された政治プラットフォームを欠いており、革命成功後の国家統治体制の具体像が不透明である。これは、アメリカのイラク戦争後に見られたようなカオス的な政治真空の発生リスクを高めている。
指導部打倒に向けた高い障壁
革命防衛隊・民兵組織の存在
革命防衛隊(IRGC)やバスィージは、国家権力の軍事的中核として機能しており、イラン国内の治安維持および体制防衛にとって不可欠な存在である。これらの組織は思想的にも忠誠度が高く、反体制運動に対して迅速かつ大規模な武力行使が可能である。このため、単純なデモの拡大だけが政権打倒に直結するわけではない。
代替勢力の不在と統治能力
反政府抗議運動の中で、政治的リーダーシップや代替統治構造が形成されている兆候はあるものの、それらは断片的であり、単一の統合勢力として政権交代後の統治を担えるほどの組織力は未成熟である。このような政治的空白は国際介入あるいは他国勢力の介入を招くリスクを高める要因となる。
中露の支援と制裁の抜け道
イランは制裁下において中国・ロシアとの経済・軍事関係を強化してきた。中露はイランにとって重要な貿易相手であり、制裁回避や経済的支援の一助となっている。これにより、制裁圧力が完全にイラン経済を切り崩す効果を発揮しきれない側面もある。
中国・ロシアはイランの地政学的価値や自身の戦略的利益を背景に、制裁回避を助けることで経済的な支援を行っている可能性が指摘されている。これが、トランプ政権の制裁が必ずしも即座に政権崩壊につながらない要因の一部となっている。
制裁の抜け道と経済の持ちこたえ
イランは、制裁下でも限定的な輸出ルートや非公式の金融取引を維持することで経済活動を続けており、世界市場から完全に孤立するわけではない。このことは、制裁と圧力を組み合わせても短期間での体制崩壊を引き起こすまでの力を有していない可能性を示している。
今後の展望
軍事介入とリスク
直接的な軍事介入は、イラン国内外で予測不能な反発と地域戦争の拡大を招く可能性が高い。国際社会、特に欧米諸国は直接的な政権打倒を望んでいないとの見方が一般的であり、政治的・外交的解決への圧力がかかる可能性がある。
外交的圧力と交渉の可能性
トランプ政権は交渉を重視する姿勢を示しつつ、圧力を最大化することでイランに戦略的譲歩を迫る可能性が最も高い。この場合、核開発の制限、地域代理勢力の縮小、経済の再統合が一部条件として交渉される可能性がある。
国内抗議運動の進展
イラン国内の抗議運動は勢いを持ち続けているが、革命防衛隊の存在や代替統治構造の未成熟性などにより、即時的な政権崩壊には至らない可能性が高い。それでも、抗議活動が政治的要求として統合される場合、体制改革あるいは権力分配の再編を引き起こす可能性は存在する。
まとめ
トランプ政権の下で強化された制裁・圧力は、確かにイラン政権に前例のない内部・外部のストレスを与え、地域での影響力や経済的安定性を大きく弱体化させている。しかし、直接的な「指導部打倒」に至る可能性は極めて低い。国内の治安組織の結束、代替勢力の不在、中露による支援、そして米国の交渉重視戦略が重なり、短期間での政権崩壊は現実的ではないと評価される。
むしろ、トランプ政権は交渉を通じて大幅な譲歩を引き出すことを優先し、イラン体制を段階的に変容させる方向を模索すると考えられる。この「交渉重視」と「最大級の圧力」は同時並行で行われ、イラン政権を外部圧力と国内不満の間で揺さぶる戦略となるだろう。
参考・引用リスト
多数州で抗議活動が継続、経済危機が政治的不満へと発展中(Al Jazeera)
イラン国内抗議は政権批判のスローガンを伴う大規模運動へと深化(Kyiv Independent)
トランプ政権の発言は政権転覆への直接支持を避けるものにとどまるとの報道(Jerusalem Post)
イラン経済・代理勢力の脆弱化分析(AEI)
イランの代理勢力は弱体化し地域影響力が縮小(Times of Israel)
イスラエルの攻撃はイラン軍・核能力に損害を与えたとの報道(Reuters)
イラン全土での抗議拡大と死傷者・逮捕者情報(note/Amwaj Analysis)
イラン通貨の急落とそれが引き起こす社会不安(xpert.digital)
- IMF・インフレ・為替動向(Yahoo News)
追記:トランプ氏がイラン側からの「屈辱的条件での降伏(新たな核合意)」を優先する理由
米国内世論・政治的制約
トランプ政権における対イラン政策は「最大級の圧力(Maximum Pressure)」の再強化と同時に、交渉優先の現実主義的側面を持つ。米国民の世論調査では、圧倒的多数が軍事行動によるイラン体制破壊よりも、交渉を通じた核合意を支持しているというデータがある。専門機関の分析によると、米国民のうち軍事行動によるイラン核能力破壊を望む割合は非常に低く、交渉と制限を伴う合意を望む声が圧倒的であると報告されている。これは共和党内でも広く共通しているとされている。
この背景には、米国民の対外介入への疲れと、2020年代を通じたアフガニスタン・イラク戦争への批判的評価がある。軍事介入の長期化や増大する人的・財政的コストは、政権支持基盤にとっても大きな負担となる。加えて、トランプは大統領として国内政策で成果を示す必要があり、中東戦争に深く関与するリスクは選挙戦略上でも不利と見なされる。
戦略的柔軟性と制裁カードの活用
政権は、軍事オプションを排除していないものの、外交的合意を得るための最大限の圧力と交渉の両面戦略を採用している。トランプ自身が「無条件降伏」「全面的な譲歩」という強硬な表現を用いた事例が報じられているが、これにはイランに最大限の譲歩を引き出すためのプレッシャーとしての戦術的意味があると分析されている。つまり、極めて高い要求を提示して妥協の余地を作り、最終的にイランをより厳格な核合意に導きたいという政治的意図があるとされる。
このような「最大限の圧力と交渉の併用」は、軍事介入による全面戦争リスクを抑制しつつ、核関連活動の制限と国際的監視を実質的に強化するための現実的選択肢と評価されている。
指導部の「打倒/転覆」が実現する確率
イラン体制の打倒・転覆が実現する確率は、極めて低いと総合的に評価される。以下の主要な要因によって、短期的な体制崩壊・転覆は困難である。
治安組織の結束力
革命防衛隊(IRGC)やバスィージ等治安組織は、政権側の中核的な武装組織として高い統制力を有している。これらは外部からの圧力や内政不満が高まる中でも、体制側中核勢力として政権防衛に強固に機能している証拠がある。抗議デモが全国規模に拡大しているものの、これら治安組織が国全体の統治構造を支え続けている限り、大規模な「体制転覆」には至らない可能性が高い。
反体制勢力の組織力と統合欠如
反体制運動は広範な抗議者の参加を得てはいるものの、統一された政治指導や明確な代替政権構想を欠いている。歴史的にも1979年革命後の内戦的な反乱や各地域での一時的な武装蜂起は、IRGCを中心とした国家権力により鎮圧された歴史がある。これは、イランの治安体制が政治的不満に対して高度な対応力を有していることを示している。
外交的圧力と国際的ゲーム
米国は軍事的にイラン体制を直接打倒する意思を示していない。むしろ交渉と制裁を通じた圧力を優先する方針が見られる。仮に体制転覆を追求する場合、国際社会の支持を得ることが極めて困難であり、国連決議や欧米諸国との調整なしに軍事行動を行うことは国際法的リスクが高い。
国内デモの激化に伴う治安部隊の「寝返り」リスク
IRGCや民兵の結束動態
現在の抗議運動は広範囲で発生しているものの、治安部隊内部の大規模な寝返りや転向の兆候は限定的である。専門家分析によると、革命防衛隊やバスィージは体制内部で高い忠誠度を維持しており、政府の命令に従う意志が強いとされる。ただし、抗議がさらなる長期化・激化した場合に、一部の低〜中位階級の治安要員が離反するリスクはゼロではないとの分析も存在する。
これは、IRGC内部の階層の一部において、政治的・経済的疲弊や家族・社会的背景から体制への支持基盤が揺らぐ可能性があるためである。ただし、IRGC全体が統一的に寝返るというシナリオは極めて低確率であり、部分的な離脱や不服従が限定的に発生するにとどまる可能性が高い。
体制指導層の統制強化
政府はすでに抗議を「外国勢力の扇動」と位置づけ、治安体制による統制強化を行っている。内部の監視や反抗勢力の摘発も進行しており、治安部隊の統一性を維持するための制度的な抑止策が機能している可能性が示唆されている。
内戦に発展する可能性
内戦とは、政府と主要な国内勢力間で長期的な武力衝突が継続する状況を指す。現在のイランの大規模抗議は「全国的動揺」を生み出しているものの、治安組織の武力行使が依然として政府側優勢である限り、全面的な内戦に発展する確率は現時点では低〜中程度と評価される。
エスカレーションの可能性
以下の状況下では内戦リスクが高まる可能性がある。
治安部隊内部で局所的な離反が起き、武装勢力が分裂する場合
一部警察・治安部隊が政府命令を拒否したり、民衆側に合流した場合、局地的武力衝突が激化し、地域的な内戦様相を呈する可能性がある。これには著しい内部分裂や大量の治安部隊離反が必要である。地方・少数民族地域での武装闘争の拡大
過去の歴史では、民族や地域を基盤とした武装反乱が発生し、政府が軍事力で制圧した例がある。ただし、これらは全国的な内戦とは異なり地域限定のものであった。外部支援を受けた武装勢力の形成
イランにおいて外部が大規模武装支援を行うシナリオは現実的には極めて限定的である。地政学的なリスクや国際的な介入のハードルが高いため、外部勢力が直接的に内戦を扇動する可能性は低い。
内戦化阻止の要因
治安体制の統一性: IRGCやバスィージは体制防衛任務として組織的に機能している。
国際的な介入回避: 外交的均衡と交渉の方向性が優先されるため、全面戦争介入は現実的ではない。
政治的統合の欠如: 反体制勢力が統合された政治組織を持たないため、持続的内戦を主導する体制が存在しない。
結論
トランプ政権がイランからの「屈辱的条件での降伏(新たな核合意)」を優先する理由は、米国内世論の支持軸が軍事介入より交渉合意にあることや、外交的交渉による戦略的利得の方が政権にとって現実的戦略であることによる。軍事介入や直接的な打倒よりも、核能力制限や監視強化という「合意重視」が政策重心となっている。
一方で、指導部の打倒/転覆が実現する確率は極めて低い。治安組織の結束、反体制勢力の統合欠如、中露等による外部支援が絡み、短期的な体制崩壊には至らない。
治安部隊の寝返りや内戦化のリスクは限定的であるが、長期的な社会不満や局地的な武力衝突が激化する可能性は存在する。完全な内戦化を避けるには、治安体制の圧力強化と政治的対話の双方が継続する必要がある。
核交渉の枠組み詳細
――「最大級の圧力2.0」と新たな核合意の制度設計――
1. 基本構造:JCPOAから「JCPOA+(プラス)」へ
第2次トランプ政権が想定する核交渉の枠組みは、2015年の包括的共同行動計画(JCPOA)を単純に復活させるものではない。むしろ、JCPOAを基礎としつつ、イラン側にとっては「主権的裁量を大幅に制限される」という意味で、事実上の降伏に近い条件を含む「JCPOA+」型合意となる可能性が高い。
この枠組みの本質は以下の三層構造にある。
① 核活動の即時・不可逆的制限
② 長期かつ侵入的な検証・監視
③ 核以外の行動(ミサイル・地域政策)への拡張
トランプ政権は「核だけを切り離した合意」ではなく、イランの国家戦略全体を縛る包括的合意を志向すると見られる。
2. 技術的条件:ウラン濃縮と核能力の「恒久制限」
(1) 濃縮度・濃縮量の大幅制限
想定される合意では、ウラン濃縮度は3.67%以下に固定されるだけでなく、JCPOAで設定されていた「期限付き制限(サンセット条項)」が撤廃され、恒久的制限に近い形となる可能性が高い。
また、濃縮ウランの保有量も数百kg以下に抑えられ、超過分は即時国外搬出、もしくはIAEA管理下での希釈・廃棄が義務付けられる。
これはイランにとって、「核兵器開発の潜在能力(ブレイクアウト能力)」を事実上否定されることを意味する。
(2) 遠心分離機と研究開発の制限
先進型遠心分離機(IR-6、IR-8など)の研究・配備は全面的に禁止され、ナタンツ、フォルドゥ両施設は限定的研究用途または国際管理下施設に転換される可能性がある。
特にフォルドゥのような地下施設は、核兵器開発の象徴と見なされており、完全停止または国際研究センター化が求められる可能性が高い。
3. 検証・監視体制:主権侵害レベルの査察
(1) IAEAの常時・無制限アクセス
新合意では、IAEA追加議定書の完全履行に加え、事実上の「随時抜き打ち査察」が制度化される可能性が高い。
軍事施設や革命防衛隊(IRGC)関連施設へのアクセスも、合理的疑義があれば拒否できない枠組みが想定される。
これは、イラン側から見れば「国家安全保障の核心部分への外国介入」であり、体制の正統性を内側から侵食する要因となる。
(2) データ常時監視とAI分析
遠心分離機の稼働状況、核物質の移動はリアルタイムで監視され、データは国際機関および主要国に共有される。
AI解析を用いた異常検知が導入されれば、イランは「秘密裏の逸脱」を行う余地をほぼ失う。
4. 制裁解除の条件:段階的・可逆的構造
制裁解除は「一括解除」ではなく、極めて細分化された段階解除となる。
イランが条件を逸脱すれば、制裁は自動的に復活する「スナップバック」が即時適用される。
これは、トランプ政権が交渉を「一度きりの合意」ではなく、「永続的な管理装置」として設計していることを示す。
5. 核以外の拡張条件:ミサイル・地域政策
イランにとって最も屈辱的と受け止められるのがこの部分である。
弾道ミサイルの射程・開発制限
ヒズボラ、ハマス、フーシ派などへの軍事支援の縮小・停止
シリア・イラクにおける軍事プレゼンスの縮小
これらは、イラン革命体制の「輸出思想」そのものを否定する要求であり、体制の理念的基盤を揺るがす。
体制崩壊シナリオ分析(シミュレーション)
以下では、確率評価を伴う4つのシナリオを設定し、2026~2030年を想定した分析を行う。
シナリオA:管理された屈服(確率40~50%)
概要
経済崩壊と社会不安の中で、イラン指導部が体制維持を最優先し、屈辱的条件を受け入れて核合意に復帰する。
展開
制裁緩和により最低限の経済回復
体制は存続するが、革命イデオロギーは空洞化
国内では「敗北の合意」として不満が燻る
評価
短期的安定は得られるが、長期的には体制の正統性が慢性的に損なわれる。
シナリオB:強権維持と長期衰退(確率25~30%)
概要
核交渉を拒否し、治安弾圧と中露支援で体制を維持する。
展開
経済は半崩壊状態で停滞
抗議は周期的に再燃
国家は「制裁下の要塞国家」と化す
評価
体制は倒れないが、北朝鮮型の閉塞モデルに近づく。
シナリオC:部分崩壊・権力再編(確率15~20%)
概要
最高指導部の求心力低下により、IRGC主導の事実上の軍事国家へ移行。
展開
宗教指導層の影響力が縮小
軍・治安エリートが権力を再配分
外交姿勢はより実利的に転換
評価
「体制転覆」ではないが、イスラム共和国の性格が根本的に変質する。
シナリオD:内戦・体制崩壊(確率5~10%)
概要
全国規模の抗議+治安部隊の部分的寝返りが重なり、国家統治が崩壊。
条件
経済の完全破綻
治安部隊内の分裂
地方・民族地域の武装化
評価
可能性は低いが、発生すれば中東全体に甚大な影響を及ぼす最悪シナリオ。
まとめ
トランプ政権が追求するのは、イラン指導部の打倒ではなく、主権と戦略を極限まで制限した「管理された屈服」である。
新たな核合意は、イランにとって体制存続と引き換えに革命の理念を放棄する選択を迫るものであり、事実上の「静かな敗北」を意味する。
体制崩壊そのものが起きる確率は低いが、体制の質的変容(空洞化・軍事化・従属化)が進む可能性は高い。
したがって、今後数年の焦点は「革命体制が生き残るか」ではなく、「どのような姿に変質して生き残るか」にあると言える。
