コラム:トランプ政権はグリーンランドを取得できるか
2026年初頭時点では、トランプ政権のグリーンランド取得政策は外交的挑発および戦略的主張にとどまっており、現実的な取得シナリオとして成立していない。
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2026年初頭、米国のドナルド・トランプ大統領はデンマーク自治領グリーンランドの取得を再び公然と追求している。ホワイトハウス報道官は「グリーンランド獲得に米軍の使用は常に選択肢の一つだ」と発言し、国家安全保障の優先事項として北極圏の戦略的要衝を確保する意向を示した。欧州各国、デンマーク政府、グリーンランド自治政府は強く反発し、「グリーンランドは売り物ではない」と明言している。また、デンマーク首相は「米国による取得はNATOの終焉を意味する」と警告している。
グリーンランドとは
グリーンランドは世界最大の島であり、北米大陸の北東沖に位置する。地理的にはカナダと北極圏の中間にあり、極地戦略・気候変動・資源開発・航路開拓など多岐にわたる国際的関心を集める。1690年代からデンマーク領とされ、1953年には正式にデンマーク王国の一部となった後、1979年に自治政府が発足し、現在では広範な自治を有する。なお、住民は主にイヌイット系で、独自文化と歴史を有する。
政治的地位としてはデンマーク王国下の自治領であり、外交・国防はデンマーク政府が担うが、内政面では自治権が強く、将来的な独立の可能性も議論されている。
トランプ政権がグリーンランドに固執する理由
① 北極圏の国家安全保障
トランプ政権は、ロシアと中国の北極圏進出競争を背景にグリーンランドの戦略的価値を強調している。米国防総省は北極圏を重要視し、極域監視・ミサイル防衛・ICBM航跡の観測網強化などの面でグリーンランドの地理的優位性を評価している。米政権側は「グリーンランド獲得は安全保障の必要性」という立場を繰り返す。
② 資源・経済的利益
気候変動下で氷床融解が進む中、希土類元素や鉱物資源の埋蔵が注目される。専門家は、資源採掘には巨額のインフラ投資が必要と分析しつつ、長期的な経済的利益を指摘している。これは歴史的なアラスカ買収との比較においても言及される。
③ 政治的レガシーと国内支持
トランプは政権の象徴的・政治的レガシーとして領土拡大を位置づけており、その政策主張は一部支持層に訴求する。また、米国内世論でも賛否両論が存在し、支持派と反対派が分かれている。
トランプ政権の方針
トランプ政権は複数の方針を模索していると報じられる。
① 交渉による「購入」
伝統的な外交交渉による領土取得は、歴史的にはルイジアナ買収(1803年)、アラスカ買収(1867年)などがあるが、これらは主権国家間の合意の下で成立した取引である。トランプ政権はこの歴史的前例を引き合いに出しつつ、デンマーク政府との交渉を模索している。
② 国内法整備
米議会でグリーンランド購入を推進する法案が提出された場合、その名称案として「グリーンランドを再び偉大にする法案/Make Greenland Great Again Act」のようなものが議論される可能性がある。しかし、現時点で具体的な法案提出の動きは公的報道には確認されない。政策提案段階での検討はあるものの、具体策は米国内で大きな論争となる。
③ 軍事オプションの含み
ホワイトハウス広報は「米軍の使用は常に選択肢」と述べており、交渉が決裂した場合の最終手段として軍事的圧力を示唆している。これは国際社会とデンマークの強い反発を招いている。
国家安全保障の優先事項
米国防総省、国務省、戦略研究機関は北極圏戦略を長年議論してきた。北極海航路の開拓、ロシア戦力のモニタリング、気候変動対策、資源確保といった要素は共通認識として存在する。しかし、これらは領土取得そのものを必然としないことが多数の専門家から指摘される。北極圏での同盟関係強化、米軍基地拡張・施設共有協定などは取得以外の代替戦略として選択肢に挙がる。
例えば、米国はすでにピトゥフィク宇宙基地を運用しているが、これは既存の協定に基づくものであり、領土主権とは無関係に戦略的利益を担保している。
購入交渉の再開
トランプ政権はデンマーク政府と正式な領土交渉を開始していないが、米国務省や大統領顧問がデンマーク側との外交接触強化を図っているとの報道もある。デンマークは交渉の初期段階から「売却の意思はない」と明確にしており、協議は極めて困難である。
国内法整備(グリーンランドを再び偉大にする法案/Make Greenland Great Again Act)
もし米国議会でグリーンランド購入推進法案が提出されれば、以下の要素が検討される可能性がある:
● 財政措置
購入価格設定、取得後の自治運営支援費用、地元インフラ投資など。
● 国際法・条約調整
米国憲法及びデンマークとの条約関係の見直し、NATO条約第5条との整合性。
しかし、このような法案は現実的には国際法的見地から成立困難であり、国内外の反発が強い。
デンマーク・グリーンランド側の拒絶
デンマーク首相や自治政府首相は繰り返し「グリーンランドは売り物ではない」と表明している。また、欧州連合諸国も同調し、デンマークとグリーンランドの自己決定権尊重を要請する共同声明を発出した。
領土の一体性
グリーンランドはデンマーク王国の一部としての法的地位を有し、その変更はデンマーク憲法の改正や国際条約変更を必要とする。これは単なる行政変更ではなく主権の移転であり、極めて高い法的ハードルがある。
自治政府の反発
グリーンランド自治政府は、独立志向を強めつつ「米国への売却反対」を明確にしている。これは住民の自己決定権に基づいており、米国側が一方的に決定できるものではない。
国際的な反対
NATO加盟国やEU諸国は、米国の取得方針に批判的であり、NATO体制への重大な挑戦とみなす声も出ている。デンマーク首相は取得を「NATOの終焉」と警告した。
実現可能性の検証
以下では、主要シナリオごとに実現可能性を検討する。
■ 外交的購入
現実的には最も平和的な方法。しかし、今のところデンマーク政府は交渉を拒否しており、住民の意思も重視されている。法律的・憲法的な障壁も大きく、この路線での実現可能性は極めて低い。
■ 軍事的占領
理論上は可能だが、NATO同盟国への侵略となり、国際法・国内法双方に重大な違反を伴う。世界的な孤立・経済制裁・武力衝突のリスクが高く、現実的な選択肢とは言えない。したがって実現可能性はほぼゼロ。
■ 住民の同意に基づく独立支援
グリーンランドが独立し、その後米国と緊密な関係(経済協定や安全保障条約)を結ぶ道は理論的に存在する。しかし、これも長期プロセスであり「米国への編入」とは異なる。実質的に米国の利益を守る可能性はあるが、領土取得ではない。
今後の展望
2026年初頭時点では、トランプ政権のグリーンランド取得政策は外交的挑発および戦略的主張にとどまっており、現実的な取得シナリオとして成立していない。一方で、北極圏の戦略的重要性は今後も変わらず、米欧間での協調・緊張が続く可能性がある。
将来的な展望としては、
米国・デンマーク間の安全保障協力強化
グリーンランド自治政府の独立プロセス進展
多国間での北極圏協力協定の深化
などが考えられる。これらは領土取得とは異なる形で米国の戦略的利益を守る可能性を持つ。
まとめ
本検証の結論は以下の通りである:
外交的購入は法的・政治的障壁が高く、実現可能性は極めて低い。
軍事占領はNATO加盟国に対する侵略となり、国際法違反で現実性がない。
住民同意に基づく独立・協力関係強化は可能性があるが、「取得」とは異なる。
トランプ政権の方針は現時点で戦略的主張と挑発にとどまっている。
したがって、2026年1月時点ではトランプ政権がグリーンランドを取得する可能性は事実上ゼロに近い、と結論付けられる。
参考・引用リスト
トランプ政権、グリーンランド取得を検討・軍事オプション含み(The Guardian)
グリーンランドの歴史と米国の関心(Reuters)
歴史的米国のグリーンランド取得試み(AP News)
デンマーク「取得はNATOの終焉」と警告(AP News)
デンマークの強硬反発(Business Insider)
トランプ購入構想報道(テレビ朝日)
米国務長官「実現しない」と否定(テレビ朝日)
グリーンランド売却否定声明(Forbes Japan)
北極圏戦略と購入の現実性(TBS NEWS DIG)
以下は、①平和的取得の可能性、②強引な手段に出た場合のリスク、③NATO崩壊の可能性を、国際法・安全保障研究・同盟理論の観点から体系的に論じるものである。
Ⅰ.トランプ政権が「平和的に」グリーンランドを取得する可能性
1.平和的取得の理論的要件
国際法上、領土の平和的取得が正当化されるためには、以下の三要件が同時に満たされる必要がある。
第一に、現主権国(デンマーク)の明確な同意である。
第二に、当該領域の住民による自由意思に基づく同意(自己決定権)である。
第三に、強制・威嚇・軍事的圧力が一切存在しないことである。
これは国連憲章第2条、国際司法裁判所(ICJ)の判例、ならびに1970年の「友好関係原則宣言」によって確立された原則である。
2.デンマーク同意の可能性
2026年1月時点において、デンマーク政府は一貫して「グリーンランドは売り物ではない」と表明している。これは単なる政治的レトリックではなく、以下の理由によって制度的に裏付けられている。
デンマーク憲法上、王国領土の分離・譲渡には極めて高度な憲法改正手続きが必要
グリーンランド自治法により、住民の意思が最優先される構造
EUおよびNATOにおける同盟秩序への影響を考慮した国家戦略
したがって、デンマークが自発的に売却へ同意する可能性はほぼ存在しないと評価できる。
3.住民同意による「米国編入」の可能性
仮にグリーンランド住民が住民投票によって「米国編入」を選択した場合でも、それは直ちに平和的取得を意味しない。
理由は以下の通りである。
グリーンランドの独立志向は「自立国家」を志向するものであり、「他国への編入」を支持する世論は限定的
住民投票が行われる場合でも、まずデンマークからの独立が前提となる
独立後に米国編入を選択する場合、国際社会から「事実上の強制・誘導」と疑われる可能性が高い
このため、住民同意を経た平和的取得というシナリオは理論上は存在するが、現実的可能性は極めて低い。
Ⅱ.トランプ政権が強引な手段に出た場合のリスク
1.軍事的威嚇・限定的武力行使の位置づけ
トランプ政権関係者が示唆する「軍事オプション」は、国際法上以下のいずれかに該当する。
武力による威嚇(UN憲章2条4項違反)
他国領土への不法な武力侵入(侵略行為)
仮に「限定的」「非占領的」な行動であっても、主権国家の領域に対する軍事的圧力は違法と解釈される。
2.想定される具体的リスク
(1)国際法秩序の崩壊リスク
米国がNATO加盟国の領土に軍事的圧力を加えた場合、以下の前例を作ることになる。
「安全保障上重要であれば領土取得を正当化できる」という論理
大国による勢力圏拡張の容認
これはロシアのウクライナ侵攻、中国の台湾・南シナ海政策を米国自身が正当化する論拠を与える結果となる。
(2)経済・金融制裁の連鎖
EU諸国は、米国が同盟国に対して侵略的行動を取った場合、以下を検討する可能性が高い。
対米経済制裁
防衛産業協力の停止
ドル決済依存の段階的縮小
結果として、米国経済そのものに長期的打撃を与える。
(3)同盟国からの戦略的離反
カナダ、ドイツ、フランス、日本などは、「米国はもはや予測可能な同盟国ではない」と判断し、
独自防衛力の強化
米国依存からの脱却
多極的安全保障体制への移行
を加速させる可能性が高い。
Ⅲ.NATO崩壊の可能性
1.NATOの基盤原理
NATOは単なる軍事同盟ではなく、以下の原理の上に成り立っている。
主権尊重
領土保全
相互防衛(集団的自衛権)
信頼と予測可能性
特に重要なのが、「加盟国同士は互いに武力を向けない」という暗黙の前提である。
2.米国によるグリーンランド取得がもたらす構造的破壊
仮に米国がデンマーク領グリーンランドを強引に取得した場合、以下の矛盾が生じる。
NATO第5条は「加盟国が攻撃された場合」に発動するが、攻撃主体が米国自身となる
NATOの指導国が同盟国の領土保全を破壊する前例が生まれる
他の加盟国は「次は自国かもしれない」と考える
これはNATOの制度的自己否定である。
3.崩壊の形態:即時解体ではなく「機能不全化」
重要なのは、NATOが直ちに解散する可能性は低い点である。
しかし、以下のような実質的崩壊(機能不全)が起こり得る。
共同防衛計画への協力拒否
情報共有の停止
米国抜きの欧州安全保障体制構築(欧州軍構想の加速)
結果として、NATOは「名目上存在するが、実効性を失った組織」となる。
Ⅳ.総合評価
以上を踏まえると、次のように整理できる。
1.平和的取得の可能性
理論上は存在するが、デンマーク・住民・国際社会の全同意が必要であり、現実的可能性はほぼゼロである。
2.強引な手段のリスク
国際法違反、経済制裁、同盟離反、米国の覇権的正統性の喪失という、取得利益を遥かに上回る損失を伴う。
3.NATO崩壊の可能性
即時解体は起きにくいが、米国主導の同盟としての信頼は致命的に損なわれ、事実上の機能不全に陥る可能性が高い。
結論として、トランプ政権がどの手段を選択しても、グリーンランド取得は米国にとって戦略的利益よりも構造的損失が大きい。
この問題は「領土の取得可能性」ではなく、「米国が戦後国際秩序の守護者であり続けられるか」という根源的問いであると言える。
