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コラム:欧州のNATO加盟国は「米国抜き」で生き残れるか

EUおよびNATOが「米国抜き」で自立的に防衛・安全保障を完結させることは、2026年1月時点では現実的ではない。
ベルギー、ブリュッセルのEU本部(Getty Images)
はじめに

本稿は、EU(European Union)およびNATO(North Atlantic Treaty Organization)が米国の軍事的支援・関与抜きに存続し、防衛・安全保障体制を完結できるかどうかを、2026年1月時点の情勢分析・能力評価・戦略的条件から検証するものである。特に安全保障・防衛能力の現状、核抑止力・戦略的アセット、後方支援能力、防空体制、財政負担と代替コスト、政治的緊張や戦略的自律といった複数の検討軸から分析する。

本稿の目的は、EU・NATOが「米国抜き」で自立的に防衛体制を成立させられる可能性の有無と、具体的な欠落点・限界を整理し、今後の戦略的方向性を浮き彫りにすることである。


現状(2026年1月時点)

NATOルッテ事務総長が欧州議会で発言したとおり、EU・NATOが自力で欧州の防衛を行うことは現実的ではないとの評価が欧州指導層に根強い。ルッテは米国の支援を欠いた防衛は非現実的であり、米国の核抑止力と軍事能力への依存が極めて高いことを強調している。

しかし、同時に一部のEU高官は「米国への依存はもはや前提とすべきでない」と述べており、戦略的自律の必要性は認識されつつある。

EU・NATOの防衛費と政策

2025年に開催されたNATO首脳会合では、加盟国の防衛費をGDP比5%に引き上げる目標が承認され、防衛体制の強化が加盟国間で合意された。これは従来の2%目標を大きく上回るものであり、欧州諸国が安全保障への投資を増やす意思を示した。

EU側でも、欧州防衛準備態勢2030(Readiness 2030)と呼ばれる総額8000億ユーロ規模の防衛強化計画が進行中で、武器システム・兵站・共同開発を通じた戦力強化が図られている。


「米国抜き」で自立的に生き残る

本検証における「生き残る」とは、外部の軍事支援、特に米国の軍事力・核抑止力に依存せずに、EU・NATOが自らの領域に対する防衛・抑止・戦争回避能力を維持できることを指す。具体的には次の要素が必須となる。

  1. 戦略的アセットの独自保有:ISR、戦略的輸送・後方支援、統合防空

  2. 核抑止力:核戦力または同等の抑止力

  3. 財政基盤:防衛費の確保と長期的な投資

  4. 戦略的統合:共通指揮統制、迅速な意思決定

  5. 多域対応能力:陸海空/宇宙/サイバー

以下、これらのポイントについて詳細に検討する。


検証のポイント:安全保障・防衛能力の欠如

欧州NATO諸国は総じて訓練された軍隊を保有しているが、戦略レベルの持続的作戦能力や指揮統制、統合戦闘能力は依然として米国依存が強い。特に、統合戦闘指揮・制御システムや統合された作戦体系は米軍の支援が前提となることが多い。

この欠如は、EU単独軍という構想が進む中でも埋め難い問題となっている。欧州各国軍は規模と能力にばらつきが大きく、統一された軍指揮統制機構の構築は遅れをとっている。


戦略的アセット

空中警戒管制システム(AWACS)

AWACSは空域の早期警戒・識別を行う重要アセットであるが、これまで欧州側のものは限定的であり、米国の支援が統合防空の中心となっている。これを独自運用する能力は、現時点では限定的である。

戦略的インテリジェンス(諜報)

戦略的インテリジェンス、特にリアルタイムな衛星偵察、電子情報、SIGINT/COMINTは米国の優位性が突出している分野である。欧州諸国はNATOを通じてデータ共有を行っているものの、独自の戦略的衛星ネットワークや全天候型偵察体制の整備は進行途上であり、米国を完全に代替するには時間と資源が必要である。

戦場監視能力

地上・空中・宇宙の統合戦場監視は、欧州側の共同開発により改善が進んでいるものの、長距離監視やISR能力は米国のものと比べると依然として劣後している。無人機・長時間飛行機体の能力向上が進む中でも、全体的なカバー率は限定的である。


後方支援

空中給油

欧州の空中給油能力は米国と比べて大幅に不足している。欧州独自の航続距離延伸能力は限定的であり、広域作戦や迅速展開にはまとまった数の給油機が必要だが、その整備・運用には巨額の投資が求められる。

戦略的輸送能力

戦略的輸送機は、欧州でも保有している国はあるが、米国ほどの数・距離・重輸送能力はない。C-17や大型輸送機は限られ、欧州単独運用で大規模展開を継続するには量的・質的強化が欠かせない。

宇宙ベースの軍事資産

宇宙戦能力・偵察衛星・通信衛星は欧州諸国でも整備が進むものの、依然として米国には技術的・運用面的に大きな差がある。宇宙ベースの軍事資産なしに広域での戦略的視野を維持することは難しい。


防空体制

NATOの統合防空・ミサイル防衛

NATOの統合防空・ミサイル防衛システムは、加盟国のレーダー・防空ミサイルを結合し領域防空を構築しているが、多くの主要センサー・指揮統制システムは米国の技術・データに依存している。

欧州が独立した防空網を構築するためには、共通の指揮統制、統合レーダー網、弾道ミサイル防衛(BMD)能力の自前化が必要であり、巨額資源と時間を要する。


膨大な財政負担

防衛費の倍増

NATO加盟国がGDP比5%を目標とする防衛費増加は、単に金額を増やすだけではなく、戦略的アセット整備の投資額としては依然として不足感がある。米国が現在の投資規模を維持する中で、欧州単独で同等の資源を投入するには、さらに大幅な防衛費増加が必要となる。


代替コスト

米国抜きで自立を図る場合、単なる装備購入以上のコスト――共通指揮統制、統合ロジスティクス、宇宙基盤、AI・データリンク体系の構築――が必要となる。これらは単国では非効率であり、EU全体での連携と財政負担の公平分配が不可欠である。


核抑止力の空白

核保有国の限界

欧州において核抑止力を有する国はフランスと英国のみである。両国は独立核戦力を有しているが、いずれもNATOの核計画に完全に統合されているわけではなく、独自の抑止政策を持つ。

一部報道では、フランスと英国が核兵器協調を深化させる動きが伝えられており、これは欧州の核抑止力の底上げを意図するものの、米国の核の傘の代替とは評価が分かれる。

独自の核武装

欧州全体で独自の核武装を推進する選択肢は理論的には存在するが、政治的コスト・軍事技術的課題・条約上の制約を考えると、実現可能性は低い。また、核拡散懸念が国際社会から批判されるリスクが大きい。


2026年現在の政治的緊張

第2次トランプ政権の圧力

2025〜2026年にかけて、トランプ米政権の外交・安全保障政策は欧州との摩擦を生んでいる。一部報道では、トランプ政権の言動が米国の信頼性に疑問を投げかけ、戦略的自律論が強まる一因となっている。

同時に、米国の一貫した軍事支援の約束は維持されているものの、その条件付けや信頼性の問題が欧州側の戦略評価に影響を与えている。


戦略的自律

EUはCSDP(共通安全保障・防衛政策)やPESCO(常設軍事協力枠組み)を通じ、戦略的自律の構築を進めている。これらは共通作戦能力の強化、共同調達、軍事研究・開発の協力といった領域に及ぶ。

しかしながら、戦略的自律は現状では段階的な進展に過ぎず、完全な米国抜きの安全保障体系とは言えない。


米国の位置づけ

NATOは明文化された同盟であり、第5条による集団防衛義務は依然として米国の軍事力を重要な支柱としている。ルッテ事務総長の発言にもあるように、完全な自立は現実的ではないとの認識が依然有力である。


今後の展望

欧州は今後、戦略的アセットの強化、共同生産体制の構築、統合防衛能力の向上を目指して政策を進めるであろう。これらは米国との補完的関係を維持しつつ行われる可能性が高い。また、核抑止力の協調や宇宙防衛能力の開発は、EU・NATO双方の重点課題となる。


まとめ

本検証の結果、EUおよびNATOが「米国抜き」で自立的に防衛・安全保障を完結させることは、2026年1月時点では現実的ではない。理由として、戦略的アセットの不足、後方支援能力の欠落、独自の核抑止力の限界、財政負担の膨大さ、そして統一された指揮統制の構築困難が挙げられる。

同時に、戦略的自律の追求は進行中であり、欧州側の能力向上が進めば、米国との依存関係は緩和されうる。しかし、完全な離脱は当面の間は困難であり、米国との同盟関係を基軸とした防衛体制が継続される見込みである。


参考・引用リスト

  • Rutte:欧州は米国なしでは自立防衛できないとの警告(The Guardian / AP / FT報道)

  • EU高官の戦略的自律に関する発言(The Times)

  • 欧州の防衛強化・投資計画(法国Le Monde等)

  • 英仏核協調に関する報道(FT)

  • 日本国際問題研究所「米欧関係と戦略的自律」分析(2025年)

  • 防衛省「令和7年版防衛白書」欧州安全保障枠組み分析

  • 欧州防衛強化計画 Readiness 2030 の概要(Wikipedia)

  • CEPA「What European NATO Lacks」能力欠如分析


以下は「米国の『核の傘』を失う影響」「欧州は米国抜きでロシアを止められるか」「EU独自のさらなる核武装の可能性」を体系的に整理・分析した追記である。


米国の「核の傘」を失う影響

1. 拡大核抑止と欧州安全保障の構造

冷戦以降、NATO加盟国の大半は米国の拡大核抑止(核の傘)に依存してきた。米国は戦略核兵器を欧州の安全保障体系の根幹として提供し、ロシア(旧ソ連)による核脅威に対して抑止均衡を形成してきた。これがあるため、欧州諸国は核兵器を自ら保有する必要性を強く感じてこなかった。

米国の核の傘は、単なる核兵器の配備だけでなく、核政策の政治的保証(攻撃に対する報復の意思決定含む)として機能している。これが失われるということは、欧州の安全保障の基盤が根本から揺らぐことを意味する。


2. 影響の主要領域

(1)抑止力の低下

米国の核の傘を失う最大の影響は、ロシアに対する核抑止均衡の崩壊である。欧州が自前の核抑止能力を急拡大しない限り、ロシアの核兵器保有量と戦略的配置は欧州にとって圧倒的優位となる。これにより、政治・軍事の両面でロシア側の戦略的優位が拡大する。

仮に米国の核の傘が消えると、ロシアは核威嚇を欧州に対して強化するインセンティブを強め、安全保障におけるエスカレーション・ドミナンスを得る可能性がある。これは通常戦力では補完困難なリスクである。

(2)同盟信頼性と意思決定

米国の核の傘は単なる兵器の供与ではなく、集団防衛の政治的一体性と約束である。これが失われると、欧州各国は信頼感の低下・相互防衛合意の弱体化という問題に直面する。つまり、単に核兵器がなくなるだけでなく、集団防衛システムそのものの信頼性が損なわれるリスクがある。

(3)軍事計画と戦略調整の再構築負担

核の傘の消失は、欧州各国が核戦力戦略、配備、司令・統制(C2)体系を一から検討・構築する必要性を生む。これは通常戦力の再編のみならず、核政策と政治・軍事戦略の再定義を迫る。この作業は時間的にも政治的にも膨大な負担を伴い、短期的な不確実性を増大させる。


3. 欧州における「米国の核の傘」への信頼低下

近年、米国の欧州防衛コミットメントに対する不信感・再評価が進んでいる。2025年3月にはフランスのマクロン大統領が自国の核抑止を欧州全体に拡大する議論を開始すると表明し、その背景には欧州側の「米国の核の傘は頼りにできない」という認識があることが報道された。これが核戦力に関する討議を活性化させている。

一方で、NATO事務総長は「米国の核の傘に代わるものは存在しない」と強調しているとの報道もある。これは、欧州における核抑止の現実的限界を示すものである。


欧州は米国抜きでロシアを止められるか

1. 通常戦力・抑止力の現状

欧州は複数の国が高品質な軍隊を保有しているが、戦略的・持続的な通常戦力の規模や統合運用能力は依然として限定的である。日本国際問題研究所の分析でも、欧州の通常戦力はロシアの通常戦力に対して優位を持つには距離があり、欧州の即応・持久能力は改善の途上にあると指摘されている。

予定される防衛費増加や軍事産業の協力は前進だが、現状の軍事体制だけではロシアの侵略を長期にわたり食い止めるだけの力とは評価し難い。米国の戦略的兵站、空輸・補給・戦時指揮統制システムの支援が欠けた場合、欧州単独で大規模戦争を継続するのは難しい。


2. 地政学的均衡と戦略的脆弱性

ロシアは米国との関係が冷却する状況において、戦略的チャンスを模索する可能性がある。核・通常戦力両面で欧州の脅威感を高めることで、政治的優位を確保する戦略的駆け引きを強化する可能性がある。つまり、米国の存在を背景とした抑止均衡が失われると、ロシアはしばしばより強硬な圧力をかけてくることが歴史的に示されている。

さらに、欧州内の防衛意思決定が分裂するリスクも存在する。欧州は統合された軍事指揮統制を十分に構築しておらず、迅速な意思決定が困難な場合も想定される。これは軍事的劣勢時に特に顕著となる。


3. 欧州統合は抑止・防衛を支えうるか

EU・NATOの共同能力強化、共同兵器開発、防空システム強化などは進展しているが、これらは依然として米国との補完関係の下で最大効果を発揮する。単独でロシアを止めうるだけの抑止・防衛体制は、技術的・兵站的・戦略的に未成熟である。


EU独自のさらなる核武装は可能か

1. 現状の核保有体制

現在、欧州で核兵器を保有している国はフランス(EU加盟国)と英国(EU非加盟)である。両国は独自の戦略核戦力を保有するが、その運用は各国の国家戦略に依存し、EU全体の安全保障体系に統合されたものではない。また、英国の核はNATOの核政策に寄与する側面を持つものの、それ自体が完全な欧州的核抑止体系ではない。

近年両国は協調を進めており、核戦力の共同運用と政策調整に向けた協定(ノースウッド宣言)が発表された。これは欧州内に一定の核抑止基盤を形成する方向性を示している。


2. 欧州独自核抑止の現実性と制約

EUとして独自の核兵器を保有・運用することは技術的に可能であるが、下記のような重大な制約が存在する。

(1)政治的制約

核兵器保有は国際政治において重大な責任と制約を生み、核不拡散体制(NPT)の枠組みとの緊張を生む可能性がある。既存の核保有国以外の核武装は、多くのEU加盟国の政治的立場や国民意識とも相容れない側面がある。さらに、核武装国になると国際社会からの制裁・外交的孤立のリスクが高まる。

(2)軍事的制約

核兵器開発は技術的障壁だけでなく、配備・司令統制・安全確保・戦略運用体系の構築を必要とする。これは膨大な費用と長期間の計画を要し、EU内で統一的な核戦略を策定することは困難を伴う。

(3)共同防衛との整合性

EU単独で核兵器を保有する場合、NATOに対する貢献や米国との同盟に対する影響を慎重に管理する必要がある。英国はNATOの核政策に従う形で貢献しているが、EUが独自核抑止を形成する場合、それがNATOの核体制と整合するかは不明確である。


3. 仏英の核協調と欧州戦略的抑止

仏英は近年、核抑止力の共同調整・政策協議を進めている。これは欧州における米国依存を減らすための戦略的ステップであるとの評価もある。

ただし、この協調はあくまで既存の核保有国の連携であり、EU全体の核抑止体系を構築するものではない。仮にEUが共同核戦力を持つ構想が出ても、政治的・技術的・法的課題が山積している状況に変わりはない。


総括

本追記で検討した結果を以下に整理する。

  1. 米国の核の傘が失われる影響は深刻であり、欧州の抑止力均衡と同盟信頼性に重大な弱体化をもたらす。

  2. 欧州は現状で米国抜きにロシアを止められるだけの抑止力・軍事力を有していない。 通常戦力・戦略的支援・決定プロセス・戦略的アセットはいずれも米国との補完関係を前提としている。

  3. EU独自の核武装は技術的には可能でも、政治的・法的・戦略的に極めて困難である。 仏英による協調は重要だが、欧州全体の核抑止体系とは異なる。

したがって、2026年時点の評価としては、EU・NATOは米国の核抑止力を前提とした安全保障体系を維持しながら、部分的な自立化を進める以外に現実的な道はないと言える。


参考・引用(追記分)

  • 英仏核抑止の協調に関する報道(Financial Times)

  • フランス大統領の核抑止論議(朝日新聞)

  • 仏英核協力に関する制度分析(nippon.com)

  • NATOと核傘への言及(The Guardian)

  • 欧州通常戦力と抑止の評価(日本国際問題研究所)

  • 米欧関係と戦略的自律の分析(日本国際問題研究所)

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