コラム:日本のZ世代は既存の政治を変えられるか
2025年時点の日本において、Z世代は政治の優先順位形成に影響を与えつつある一方で、既存の政治構造を根本から変えるにはまだ段階的な条件が必要である。
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現状(2025年12月時点)
2025年7月20日に行われた第27回参議院議員通常選挙(参院選)は、全国投票率が58.51%と前回2022年の52.05%を上回った。若年層の政治参加が一定程度進行している可能性が示唆される。18・19歳の投票率も41.74%へ上昇し、2022年の35.42%から改善が見られた。
参院選では、与党である自由民主党・公明党の連立が議席過半数を失い、小政党の台頭や既成政党の支持低迷が明確となった。特に民主党系や新興政党が躍進するなど政治構造の変化が進んでいる。
Z世代とは
本稿におけるZ世代は、日本において概ね1990年代半ば〜2000年代生まれの世代であり、2025年現在ではおおよそ10代後半〜20代後半にあたる。インターネットが幼少期から普及していたデジタル・ネイティブ世代であり、多様性・社会課題への関心の高さがしばしば指摘される。
意識調査では、Z世代は政治に対する関心自体は他世代と大きく変わらない一方で、「自分が動くことで社会を変えられる」と信じる割合が比較的高い傾向が確認されている。
「政治の優先順位を書き換える主役になりつつあるが、完全な主導権掌握にはまだ距離がある」
日本のZ世代は政治の優先順位形成に一定の影響を与えていると考えられるが、依然として主導権を掌握する段階には至っていない。投票率や支持政党・政策選好における変化は生じているが、政治全体の構造変化に至る条件(大量の投票数・継続的な政治人材輩出など)は未達の部分が多い。
Z世代は政治への関心が高まっているというデータや意識はあるものの、実際の政治参加(投票率)は他世代と比べ依然として低いという批判もある。これは参加の動機と実行との間にギャップが存在することを意味している。
2025年の参院選などを経て明らかになった現状
2025年参院選では全世代の投票率が上昇し、Z世代の投票参加も改善した。総務省等のデータでは、20代の投票率が前回比で大幅に上昇している地域もあり、若年層の投票行動が変化している可能性がある(例:練馬区では20代が52.63%へ上昇)。
一方、投票率が高齢者世代に比べると依然として低いことは明らかであり、Z世代が集団として投票パワーを色濃く示すにはまだ不十分である。
投票行動の変化:新興政党のキャスティングボート化
2025年の参院選では、既成2大政党(自民党・立憲民主党)を中心とした政治構造が弱まり、小党・新興政党が躍進した。特に参政党や国民民主党が若年層からの支持を集め、既成政党に代わる受け皿として機能する兆しがみられるという分析がある。
これはZ世代が従来の二項対立型政治に縛られず、多様な選択肢を求める傾向と合致する可能性がある。一部報告ではSNS情報を参考にして新興政党を支持する行動が確認され、従来の党支持とは異なる動機による投票が進んだとされる。
長年続いた「自民党vs立憲民主党」という二項対立に縛られない
長らく日本政治は自民党対立憲民主党(あるいは旧民主党系)の二大対立構造が主流であったが、近年はこの構造が弱体化している。2025年参院選でも、与党連立は過半数を失い、第三極や小党の影響力が強まる結果となった。
Z世代の支持動向がこの流れを加速しているとみる向きもあるが、年代全体の投票行動の変化が主要因である可能性もあり、Z世代単独の影響と断定するのは困難である。
2025年参院選のインパクト
2025年参院選は以下の点で日本政治にインパクトを与えた:
投票率上昇(58.51%)により若年層の政治参加が一定以上進行した。
与党連立が過半数を失い、政治勢力図が変容した。
小党・新興政党の議席が拡大し、政治の多様化が進んだ。
これらはZ世代の価値観や政治的態度が間接的に作用した可能性を示すが、Z世代の投票力そのものが単独で政治変革をもたらしたとは言えない。
若年層の投票率が前回比で10ポイント以上上昇
地域別では、若年層の投票率が前回に比べて10ポイント以上上昇した地域が散見される。これはZ世代を含む若年層の政治関与が高まっている可能性を示唆する。
「数」より「意志」の力
Z世代は人口構成上、高齢者世代に比べ少数であるが、投票や政治行動を通じて明確な意志を示そうとしている。
意識調査では、投票意向を持つZ世代は多数派である一方で、実際に投票に行かない理由として「政治家・政策への理解不足」や「政治イシューの見えづらさ」が指摘される。
Z世代の投票先が「特定のイシュー(マイ争点)」に集中
Z世代の投票基準に関する調査では、政策重視が最も多く、次いで候補者人柄・印象などが挙げられる。政党ロゴなどではなく、政策や関係性重視の傾向が示され、特定の争点(労働・教育・生活費負担など)への関心が高い。
「高支持率」と「SNS型政治」の台頭
Z世代はSNSを政治情報源として重視する傾向が強い。SNSや動画などの情報を投票判断材料とした人も多く、党・候補者のSNS活用が影響力を持っているとされる。
SNS政治は情報の拡散速度と多様性を高める反面、デマ・偏向的情報の流布リスクや政治的断片化も問題となる点が国外研究でも指摘される。
Z世代の政治意識が「現状打破」を強く求めている
調査では、Z世代は既存政治への不信や不満が強い傾向がある。政治への期待が低いと回答する割合が高く、制度変革や政治家の若返りを求める声が目立つ。
SNSの主戦場化
現代政治でSNSは重要な情報伝播手段となっており、Z世代は特にSNS中心の政治コミュニケーションに馴染む傾向がある。これは政治参加の入口としては有効だが、情報の信頼性やフィルターバブルの問題も伴う。
保守化・現実主義
一部調査で若者が政策的に保守寄り、現実主義的な志向を持つ傾向が見えるとの指摘もあるが、これは世代内で多様であり一括りにできない。
残された障壁:構造的な壁
Z世代が政治変革の主体になるには以下の構造的な障壁が存在する:
人口構成的な不利:人口比で高齢者が多く、票数で劣勢。
政治人材の不足:若年政治家の数は相対的に少ない。
制度的障壁:オンライン投票等の仕組み改革が進んでいない点。
政治学習の不足:政治リテラシー形成のための教育機会不足。
シルバー民主主義の厚い壁
日本は高齢者の投票率が高い「シルバー民主主義」と呼ばれる状態にある。高齢者の投票行動が政策決定に大きな影響を与え、若者の意見は相対的に軽視される構造が続いている。
行動と意識の乖離
Z世代は政治関与意識は高いが、実際の政治行動に結びつきにくい現実がある。投票率との乖離は、政治システムや情報提供環境の不整合が原因として指摘される。
既存の政治家が無視できない「巨大な圧力団体」へと進化
Z世代の存在感は以前より高まっており、政治家は若者政策・SNS戦略を無視できない状況になっている。これはZ世代が大きな政治的圧力団体として機能し得る可能性を示す。
今後の展望
今後、Z世代が政治的影響力を強化するには以下が重要である:
政治教育・政治リテラシーの強化
政治人材の育成・参画促進
投票制度改革(オンライン投票等)
持続的な世代間対話の場の創出
結論
2025年時点の日本において、Z世代は政治の優先順位形成に影響を与えつつある一方で、既存の政治構造を根本から変えるにはまだ段階的な条件が必要である。投票率や支持政党の変化、新興政党の躍進などの現象は観測されるものの、Z世代単独で既存政治を完全に支配するに至る状況にはない。政策や制度、政治参加の構造的改革が進捗すれば、Z世代は今後より一層の政治影響力を発揮し得る。
参考・引用リスト
第27回参議院議員通常選挙 投票率等統計データ(総務省/日本若者協議会)
参議院議員通常選挙 年齢別投票状況(福岡県資料)
参院選結果と議席構成(Nippon.com)
Z世代政治意識調査(SHIBUYA109 lab)
Z世代考(第一生命経済研究所)DLRI
追記:バングラデシュとネパールの若者が政治体制を変えた経緯と問題点
※国別の政治変革事例として、バングラデシュとネパールの若者の政治参加を中心に歴史的背景、運動の展開、成果、問題点を詳述する。
バングラデシュ:若者と民主化運動
歴史的背景
バングラデシュは1971年の独立後、政治的不安定と軍事政権の時期が繰り返された。1990年代以降、民主化が進行したものの、腐敗や政治的独占が続き、若者の不満は高まっていた。
若者運動の展開
21世紀に入り、特に2013〜2014年頃から、大学生や若年層が主導する抗議運動が頻発した。道路建設を巡る事故で学生が犠牲になった事件を契機に、若者の政治参加が一気に拡大し、組織化されたデモが政権に圧力をかけた。
若者はSNSやモバイル通信を駆使して情報共有し、組織化能力を高めた。これにより、地方選挙・国政選挙で若年層の投票率が上昇し、旧来の政治勢力にプレッシャーを与えた。
成果と評価
若者の動きは一定の民主化推進につながり、世論形成や政治対話の場を広げた。また、多様な政治勢力が議席を獲得する素地をつくった。
問題点
しかし、以下の課題が指摘されている:
持続性の欠如
若者運動は時に断続的であり、政治制度内部に持続的な影響を及ぼすには至らない場合がある。政治的断片化
若者世代自体が均一ではなく、意見の不一致や戦略の分裂が見られ、統一的な政治勢力として機能しにくい。制度的制約
選挙制度や政治資金制度の欠陥により、若者が政治家として安定的に参画する障壁が存在。
ネパール:若者革命と政治体制の転換
歴史的背景
ネパールは長年、王制が政治の中心であったが、1990年代末〜2000年代初頭にかけて、共産主義系武装勢力(マオイスト)が中心となる内戦が発生した。若者が多く参加したこの内戦は、最終的に民主化交渉と連動し、2006年の人民運動(ジャナ・アンドゥラン)や国王権力の制限につながった。
若者の役割
ネパールの政治変革では若者が軍事・政治の両面で中心的役割を担った。特に教育機関や地域コミュニティで青年組織が党派横断的に結集し、国民運動を支えた。最終的に王制廃止と共和制への移行が実現した。
成果と評価
若者の参画は政治的民主化と制度改革を促した。ネパールは連邦共和制を採用し、多数の若者政策を憲法に盛り込むまでになった。
問題点
暴力と人権侵害
内戦期の武装闘争では多くの若者が暴力に巻き込まれ、戦後処理としての人権・癒しの課題が残存している。政治的分断
政党間の対立が続き、若者世代の統一的な政治行動が困難となっている。経済的困難
政治改革後も高い失業率や経済不平等が続き、若者の政治不信を助長している。
日・ネ・バ国比較から得られる教訓
日本のZ世代が政治変革を目指す際、バングラデシュやネパールの若者政治運動から以下の教訓が得られる:
組織化と持続性
長期的かつ組織的な政治参画戦略が必要である。統一されたビジョン
若者内部で共通する政治的目標の形成と対話が鍵となる。制度的参画の確立
参政権・政治資金・教育など制度改革を通じて若者政治家の安定的な参画を促す必要がある。
これらの点は、Z世代が単なる投票行動の主体から、政治変革の継続的な担い手へ移行するための核心的課題となる。
