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コラム:唾液パワーで免疫力アップ!口臭予防も

唾液は単なる水分ではなく、IgAを中心とした免疫成分や抗菌物質を含む複雑な防御システムであり、ウイルスや細菌からの感染防御、口腔環境の維持、口臭予防に寄与する。
女性の口(Getty Images)
現状(2026年2月時点)

人間の健康と免疫機能に関する研究は、ここ数十年で飛躍的に進展している。特に「唾液」の役割については、従来の「消化補助液」といった古典的な位置づけを超え、免疫防御、感染予防、口腔環境維持、全身健康へ寄与する重要な生体液として注目されている。近年の分子生物学的解析や臨床疫学的研究により、唾液に含まれる抗菌・抗ウイルス成分がウイルスや細菌の初期侵入段階で水際防御を担うことが示されつつある。さらに、唾液が持つ自浄作用や口臭予防効果は、生活習慣病予防やQOL(生活の質)の向上にも寄与すると考えられている。本稿では、唾液の免疫機能と口臭予防効果について、研究成果を基盤として体系的に解説する。


唾液とは

唾液とは、口腔内の唾液腺(耳下腺・顎下腺・舌下腺ほか)から分泌される体液であり、成人では1日あたり約1.0〜1.5リットルが生成されるとされる。唾液の主成分は水分(約99%)であるが、残りの1%には100種類以上の生体成分が含まれている。これらにはムチン、アミラーゼ、免疫グロブリン(特にIgA)、リゾチーム、ラクトフェリン、ペルオキシダーゼなどが含まれ、それぞれ口腔環境維持と免疫機能に寄与している。

唾液は単なる消化補助液ではなく、物理的・化学的・免疫学的多層防御を担う生体防御システムの一部である。この多機能性が、人間が口腔を介して外界の影響を受ける際の第一防衛線として作用する基盤となっている。


免疫力アップ:ウイルス・細菌への「水際対策」

外界から侵入する病原体(ウイルス・細菌)は、まず口腔や鼻腔の粘膜面に接触する。唾液はこの接触面に存在し、免疫の第一段階として微生物の付着・侵入を阻止する機能を持つ。現代感染症学では、このような粘膜免疫の重要性が再認識されており、例えばインフルエンザや新型コロナウイルス感染予防において、唾液中の免疫成分が感染成立の前段階で防御に寄与する可能性が議論されている。

感染予防の観点からは、手洗いやうがいと同時に口腔環境を整え、唾液の免疫成分を最大限に活用することが、ウイルスや細菌の体内侵入を抑える効果的な方法とされる。日本歯科医師会も粘膜免疫としての【IgA(免疫グロブリンA)】の役割を強調し、口腔ケアが免疫機能の助けになると提言している。


IgA(免疫グロブリンA)

IgAの構造と機能

IgAは免疫グロブリンの一種であり、唾液中に最も多く存在する抗体である。唾液中のIgAは主として分泌型IgA(Secretory IgA, sIgA)で、口腔粘膜表面に局所的な免疫効果を発揮する。このsIgAは、病原体の付着・侵入を阻止し、中和(neutralization)する機能を持つため、感染予防に極めて重要な役割を果たす。実際に、sIgAは口腔内で細菌やウイルスの表面抗原に結合し、粘膜への定着や細胞侵入を防ぐことが複数の研究で示されている。

IgAと粘膜免疫

sIgAは粘膜上皮層に分泌され、ウイルスや細菌の付着を防ぐ「免疫の水際防御」として機能する。この作用は、感染の入口となる粘膜面での初期免疫応答として重要であり、血中の全身免疫と連携して粗大な防御網を形成する。動物実験や臨床研究でも、IgA欠損状態では感染リスクが高まる傾向が見られ、IgA濃度が高いほど感染防御能が強いことが報告されている。これは、IgAの粘着阻止効果や毒素中和効果によるものであると考えられている。

IgAの抗ウイルス・抗菌効果

唾液中のIgAは、単に細菌だけでなく多種のウイルスや病原微生物に対して広範な結合能を示すことが報告されている。例えば、唾液中のIgAがコロナウイルス(SARS-CoV-2)の表面抗原にも結合し、中和活性を示す可能性が示唆されている研究がある。これらの研究は、唾液IgAが呼吸器系や消化管系の病原体に対する局所免疫機能を果たすことを示しており、感染予防や免疫モニタリングの面で注目されている。


抗菌・抗ウイルス成分

唾液中の免疫機能はIgAだけではない。リゾチーム、ラクトフェリン、ペルオキシダーゼ、ヒスタチン、ムチンなどのタンパク質や酵素が複合的に機能し、微生物の増殖を抑制する。これらの抗菌成分は、微生物の細胞壁分解や鉄欠乏状態の誘導、酵素活性阻害など多様な作用を有し、細菌・真菌・ウイルスに対する複合的防御機構を形成する。

たとえばラクトフェリンは鉄結合能を持ち、鉄を必要とする細菌の増殖を抑える。またペルオキシダーゼ系は酸化ストレスを利用して微生物を不活化するなど、免疫成分とは異なる機構で微生物の侵入・増殖を防ぐ役割を持つ。これらの成分が相互に協調することで、多層的な防御ネットワークが構築される。


口臭予防:お口の「自浄・洗浄パワー」

唾液は免疫防御だけでなく、口臭予防や口腔環境の恒常性維持にも寄与する。口臭の主な原因は、食べかす・プラーク・舌苔(ぜったい)などに付着した細菌による揮発性硫黄化合物(VSC)の産生だが、唾液による洗浄・自浄作用がこれらを除去し、臭気の発生を抑制する。

自浄作用

唾液は継続的に分泌され、食後や日常生活の舌運動・会話・咀嚼などを通じて食べかすや細菌を物理的に洗い流す。この作用は「自浄作用」または「洗浄作用」と呼ばれ、プラークの蓄積や舌苔の形成を抑えることで、細菌の増殖環境を抑制する。結果として、口臭の原因物質の生成が低減されるとされる。

抗菌作用

唾液に含まれる抗菌成分は、口腔内の細菌叢(マイクロバイオーム)に働きかける。菌の細胞壁や代謝系を阻害するこれらの成分は、悪臭の原因となる菌種の増殖を直接的に抑制する機能を有する。これにより、VSCの発生を減少させ、口臭を抑える効果が期待されている。

乾燥防止

口腔乾燥(ドライマウス)は口臭を悪化させる主要な因子である。乾燥すると細菌が増殖しやすく、臭気ガスの発生が促進される。唾液は粘膜を潤すことで細菌繁殖の抑制とpHバランスの維持に寄与し、口臭予防に貢献する。乾燥環境での粘膜刺激や炎症も抑制されるため、口腔全体の健康維持につながる。


唾液パワーを最大化するコツ

唾液の免疫機能や自浄作用を最大限に活用するためには、以下のような生活習慣やセルフケアが重要である。

よく噛んで食べる

咀嚼は唾液分泌を促進する最も基本的な刺激である。よく噛んで食べることは唾液腺への神経刺激を高め、分泌量を増加させると同時に、食物片が均一に唾液と混ざり合うことで、自浄作用や消化過程への寄与も高まる。

あいうべ体操

口腔周辺筋を動かす「あいうべ体操」は、唾液腺周辺の筋活動を活性化し、唾液分泌を促進すると言われている。この体操は特にドライマウスの改善や高齢者の口腔機能改善に役立つ可能性がある。

こまめな水分補給

水分補給は唾液分泌の基盤である。十分な水分摂取は粘膜の潤いを保ち、唾液の流動性や洗浄能力を維持する。特に運動や乾燥した環境では、こまめに水分を補うことが免疫機能維持に重要である。


今後の展望

唾液が免疫や感染防御に寄与する仕組みについては、今後も分子レベルから疫学レベルまでの研究が継続・深化することが予想される。特に唾液免疫成分のバイオマーカーとしての活用や、唾液による感染リスク評価・予防戦略の最適化は、将来の感染予防医療における新たな方向性となる可能性がある。また、生活習慣の改善や口腔ケア介入が免疫機能に与える影響についてのランダム化比較試験などが望まれる。

さらに、唾液に含まれる機能性成分を利用した新規予防医療製品や診断ツールの開発も加速している。これらは口腔内だけでなく、全身健康の指標としての利用が期待される。


まとめ

本稿では、唾液の免疫機能と口臭予防効果について、現時点の研究成果を整理した。唾液は単なる水分ではなく、IgAを中心とした免疫成分や抗菌物質を含む複雑な防御システムであり、ウイルスや細菌からの感染防御、口腔環境の維持、口臭予防に寄与する。これらの役割を最大化するためには、日常的な口腔ケア、咀嚼による唾液分泌促進、水分補給などの生活習慣が重要である。今後の研究や応用展開により、さらに具体的な健康維持戦略が確立されることが期待される。


参考・引用リスト

  1. Salivary Immunoglobulin a Alterations in Health and Disease: A Bibliometric Analysis of Diagnostic Trends from 2009 to 2024. MDPI.

  2. Human salivary protein-derived peptides specific-salivary SIgA antibodies enhanced by nasal double DNA adjuvant in mice play an essential role in preventing Porphyromonas gingivalis colonization: an in-vitro study. BMC Oral Health.

  3. 〖唾液〗は健康維持に不可欠な存在! DNA検査の活用やウイルス性の病気予防にも期待|スタディラボ.

  4. 〖感染予防の免疫力アップに〗今、鍛えるべきは「唾液」の免疫力!. 美ST ONLINE.

  5. 唾液の驚くべき効果について - SHIRON DENTAL OFFICE.

  6. ウィルス侵入の最前線で戦う「唾液IgAパワー」 - 神奈川歯科大学.

  7. Saliva in Balancing Oral and Systemic Health, Oral Cancer, and Beyond: A Narrative Review. MDPI.

  8. 口腔ケアで免疫力アップ!|日本歯科医師会.

  9. 唾液力アップで健康増進 知っておきたい唾液パワー.

  10. Antimicrobial factors in saliva: ontogeny and relation to oral health. J Dent Res.

  11. Emergence of immune competence in saliva. Crit Rev Oral Biol Med.

  12. Otsuka Pharmaceutical Publishes Paper Investigating Binding Property of Salivary IgA on Pathogenic Microorganisms.


追記:病原体の侵入を防ぐ「天然のバリア」

1.粘膜免疫としての多層防御構造

唾液は単なる体液ではなく、物理的・化学的・免疫学的防御を統合した「天然のバリア」である。この天然バリアは以下の三層構造で機能すると整理できる。

第一層は物理的バリアである。唾液は常に口腔粘膜を覆い、流動することで病原体や異物を物理的に洗い流す。この流れは、細菌やウイルスの定着時間を短縮し、粘膜上皮細胞への接着を阻害する。

第二層は化学的バリアである。唾液中のムチンは粘性を持ち、微生物を包み込み凝集させる。これにより、微生物の遊離性を低下させ、嚥下による排除を促進する。

第三層は免疫学的バリアである。分泌型IgA、ラクトフェリン、リゾチーム、ペルオキシダーゼ系などが病原体を中和・不活化する。これらは相互補完的に作用し、単一因子ではなくネットワークとして防御を成立させる。

2.ウイルス侵入阻止のメカニズム

ウイルスは宿主細胞受容体に結合することで感染が成立するが、唾液中のIgAはウイルス表面タンパク質に結合し、受容体との結合を阻害する。この「中和抗体作用」は粘膜面での初期感染を抑制する。

さらに、ムチンによるウイルス凝集、ラクトフェリンによる受容体阻害、ペルオキシダーゼによる酸化的不活化など、複数経路が同時に働く。これにより唾液は感染成立前の「水際対策」として機能する。

3.細菌叢のバランス維持

唾液は病原菌を排除するだけでなく、口腔常在菌との共生バランスを維持する役割も持つ。過度な乾燥や唾液分泌低下は細菌叢のバランスを崩し、感染症や歯周病リスクを高める。したがって、唾液の量と質を維持することは、天然バリアの持続的機能に不可欠である。


手軽にできる唾液腺マッサージ

唾液分泌低下(ドライマウス)は高齢者だけでなく、ストレスや薬剤、副交感神経機能低下などにより幅広い世代で見られる。唾液腺マッサージは、非侵襲的かつ即効性のある唾液分泌促進法として推奨される。

1.耳下腺マッサージ

耳前部から頬骨下にかけて位置する耳下腺を、指全体で円を描くように優しく押す。ここは刺激により唾液分泌が増加しやすい部位である。特に食前に実施すると分泌が高まる。

2.顎下腺マッサージ

下顎骨の内側、顎の付け根にある顎下腺を両手の親指で押し上げるように刺激する。顎下腺は安静時唾液の主要な分泌源であり、刺激により基礎分泌量が増加する。

3.舌下腺マッサージ

舌の下、口腔底を外側から軽く押す。顎下腺ほど分泌量は多くないが、局所潤滑に寄与する。

4.生理学的意義

マッサージ刺激は副交感神経を介して唾液分泌を促進する。特に高齢者やストレス過多の現代人において、神経調整型分泌促進法として有効であるとされる。


唾液を増やすおすすめの食べ物

唾液分泌は味覚刺激と咀嚼刺激により増加する。以下は科学的観点から分泌促進が期待される食品群である。

1.酸味食品

梅干し、レモン、酢の物などは味覚受容体を刺激し、反射的に唾液分泌を促進する。ただし過度な摂取は歯のエナメル質に影響を与えるため適量が望ましい。

2.よく噛む必要がある食品

玄米、根菜類、ナッツ類、するめなどは咀嚼回数が増加し、機械的刺激により唾液分泌が促進される。咀嚼は副交感神経活性を高めるため、免疫機能維持にも寄与する可能性がある。

3.発酵食品

ヨーグルト、納豆、味噌などは腸内環境改善と関連が示唆されており、粘膜免疫との相互作用が研究されている。腸管免疫と口腔粘膜免疫は関連するため、全身的な免疫調整の観点から意義がある。

4.水分を多く含む食品

スープ類や果物は口腔乾燥を防ぎ、唾液流動性を保つ。


ガムの効果

ガム咀嚼は唾液分泌を増加させる最も手軽な方法の一つである。

1.唾液分泌量の増加

ガム咀嚼により安静時の数倍の唾液分泌が確認されている。特にキシリトール含有ガムは虫歯原因菌の増殖抑制にも寄与する。

2.pH緩衝作用

唾液は重炭酸イオンを含み、酸性に傾いた口腔内pHを中和する。食後にガムを咀嚼することでpH回復が早まる。

3.口臭軽減

唾液増加によりVSC濃度が低下する。さらにキシリトールなどの代替甘味料は細菌代謝を抑制する。

4.ストレス緩和

咀嚼運動は副交感神経を刺激し、ストレスホルモン低下との関連も報告されている。ストレスは唾液IgA低下と関連するため、間接的に免疫機能維持に寄与する可能性がある。


追記まとめ

唾液は天然のバリアとして、
①物理的洗浄
②化学的凝集
③免疫学的中和
という三層構造で病原体侵入を防ぐ。

唾液腺マッサージ、適切な食事、ガム咀嚼などの生活習慣は、唾液分泌を増加させ、この天然バリア機能を強化する。

これらは特別な医療機器を必要とせず、日常生活に容易に取り入れられる予防医学的アプローチである。今後は唾液成分の定量評価や介入研究により、より精密な免疫強化戦略が確立されることが期待される。


参考・引用リスト(追記分)

  1. Dawes C. Salivary flow patterns and the health of hard and soft oral tissues. JADA.

  2. Brandtzaeg P. Secretory IgA: Designed for Anti-Microbial Defense. Front Immunol.

  3. Humphrey SP, Williamson RT. A review of saliva: normal composition and function. J Prosthet Dent.

  4. Edgar WM. Saliva and dental health. Clin Dent Rev.

  5. Fox PC. Salivary gland diseases and dysfunction.

  6. Dodds MWJ et al. The effect of chewing gum on salivary flow rate and oral health.

  7. Walsh NP et al. Salivary IgA and stress-related immune modulation.

  8. 日本歯科医師会 口腔ケア資料

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