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コラム:ボリビア経済が破綻した経緯、どうしてこうなった...

ボリビアの経済危機は単一の原因ではなく、天然資源依存、左派政権下で進んだ財政運営の脆弱性、ガス輸出の急減、外貨準備の枯渇、並行市場の台頭、インフレと燃料不足が相互に作用して生じた複合的な現象である。
2024年11月1日/.ボリビア、中部コチャバンバ県、治安部隊に石を投げるモラレス元大統領の支持者(AP通信)

2024年末〜2025年にかけて、ボリビアは深刻な経済危機に直面している。インフレ率は二桁台(20%前後と伝えられている)、燃料(ガソリン・ディーゼル)や米ドルの深刻な不足が続き、並行市場(ドルのブラックマーケット)が活発化した。政府は長年にわたり公定レートを維持してきたが、実際の外貨供給は枯渇し、輸入決済や燃料調達に支障が出ている。こうした状況は政治にも直結し、2025年の大統領選挙が「経済の立て直し」が争点となっている。

左派政権の失策(制度的・政策的要因)

2006年以降の与党・社会主義運動(MAS)政権は、富の分配と社会支出の拡大を重視し、ガス・資源収入を使った福祉プログラムや補助金政策を推進した。これにより短期的には貧困削減や所得改善が進んだが、以下のような構造的脆弱性を生んだ。第一に、財政の多くを天然資源収入に依存する「資源依存型」になりやすい政策配分を行ったこと。第二に、為替レートを長期にわたって固定あるいは実効性の低い管理を続け、外貨需給のミスマッチを放置したこと。第三に、国営企業(特に石油・ガス関連)に対する政治的干渉や非効率経営が投資と生産性を損なった。これらは時間をかけて蓄積し、外部ショック(ガス輸出減、国際価格変動など)を受けた際に致命傷となった。

天然ガス収入の激減(主要ショック)

ボリビアの外貨収入は長年、天然ガスの輸出に大きく依存してきた。とくにアルゼンチンとブラジル向けのパイプライン輸出が外貨獲得の柱だった。しかし、アルゼンチン側の生産増(Vaca Muertaなどシェール開発)や暖冬による需要減、長期的な埋蔵量の減少といった要因により、対アルゼンチン向けガス輸出は急速に縮小し、2024年9月には実際にアルゼンチン向け輸出がほぼ停止したという報道がある。輸出先の多角化に失敗したこと、既存契約の条件や価格が不利に働いたこと、そして国内での生産低下が同時に進行したことが、外貨収入の急落を招いた。天然ガスは輸出収入の基幹であり、その減少は財政収入と外貨流入の両方に大打撃を与えた。

外貨準備の枯渇(中央銀行・財政の危機)

ガス輸出の収入減は中央銀行の外貨準備(国際準備)の取り崩しを招いた。政府は輸入の決済や外貨建て負債の弁済、燃料輸入などに備えて外貨を確保する必要があるが、輸入需要を満たすだけのドル流入が途絶えたため準備が急減した。統計指標を見ると、2024〜2025年にかけて外貨準備は大きく低下し、数億ドル単位での変動が報告されている(短期的な数値は報道と国際データベースで確認できる)。外貨準備の枯渇は、為替の安定性喪失、輸入制限、国際信用の低下を招き、金融市場と実体経済双方に負の連鎖を作り出した。さらに、財政赤字と公的債務の拡大も加わり、国債や国際借款での資金調達コストが上昇した。

米ドル不足と並行市場の出現(実務面の崩壊)

外貨が不足すると、公式為替市場でドルを入手できない事業者や個人が並行市場に頼るようになる。並行市場ではドルが高値で取引され、実勢レートと公定レートの乖離が拡大する。ボリビアでは並行市場のドルが公式レートを大きく上回る場面が観測され、結果的に輸入業者は高いコストでドルを買わざるを得なくなり、輸入価格が上昇してインフレ圧力を高めた。また、ドル入手の困難は企業の海外決済や燃料輸入を滞らせ、生産・流通の停滞を引き起こした。並行市場の出現は、通貨政策への信頼喪失と資本逃避の加速を意味する。

インフレの高進(物価と購買力の悪化)

外貨不足→並行ドル高→輸入コスト上昇の流れは、最終的に消費者物価の急上昇につながる。地元メディアはインフレ率が20%以上に達していると伝えており、家計の実質所得は目減りしている。特に燃料や食料など生活必需品の価格上昇は貧困層や中間層に直撃する。加えて、政府が補助金を維持しようとして財政赤字が拡大すれば、長期的に通貨供給が増えてインフレ基調が固定化するリスクがある。インフレ期待が高まると賃金・価格スパイラルが起きやすく、金融政策での抑制も制限される。

燃料不足(物流と生産の停止)

燃料は物流と生産の血液であり、燃料不足はサプライチェーン全体を麻痺させる。2025年に入ってから燃料在庫が枯渇しかけ、都市部では長い給油の列が出現し、トラックの滞留で食料配送や工業生産が滞ったという報道がある。燃料不足の原因は複合的で、(1)国内精製能力の低下、(2)燃料輸入のための外貨不足、(3)国営石油会社(YPFB)での運営上の問題や腐敗疑惑、(4)輸送・備蓄の管理不足、などが挙げられる。燃料不足は短期的な社会不安を増幅し、政治的信頼を急速に損なう。

金融セクターと公的債務(システムリスク)

外貨準備の減少、インフレ、財政赤字拡大は銀行システムにも圧力をかける。報告によると、銀行は国債や公的債務へのエクスポージャーを増やしており、政府の資金調達が困難になると銀行の健全性も脅かされる。加えて、貸倒れや不良債権の増加、預金者の信頼低下による引き出し(リーク)リスクが高まる。国際金融市場からの資金調達が難しくなると、外貨建ての支払いや輸入決済がさらに滞り、悪循環に入る。国際機関(IMFなど)との交渉が必要になるが、条件付き支援は国内政治で抵抗を招きやすい。

社会的影響と政治化(ガバナンスの脆弱化)

経済危機は社会的緊張を高め、ストライキやデモ、地域的な封鎖が頻発する。ボリビアのように非公式経済が大きい国では、供給不足や価格高騰はすぐに生活困難に直結し、支持基盤が崩れる。政権は補助金や価格統制で短期安定を図るが、これが持続不可能だと市場の反発や国際支援の拒否につながる。さらに、国営企業問題や腐敗疑惑が噴出すると政治的不信が加速し、政策の実行能力が低下する。こうした流れは選挙の争点となり、現行政権の退潮を早める。

2025年大統領選(経済が決め手の選挙)

2025年の大統領選挙では、経済再建の手法が主要争点になっている。報道は選挙が「左派からの転換」を意味する可能性を指摘しており、財政再建や国際協調、対外関係の見直しを訴える候補が台頭している。候補者間の違いは、緊縮的・市場志向の改革を急ぐか、社会的保護を維持しつつ段階的に改革するか、というバランスにある。いずれにせよ、新政権が誕生しても短期的な景気回復は容易でなく、外貨確保・債務再編・燃料供給の安定化といった「ハード」な課題に直ちに取り組む必要がある。選挙結果は国際的な信用と投資家心理に直結するため、選挙運営と結果の受け止め方が市場に与える影響は大きい。

メディアが報じる主要データ(概観と信頼性)

主要メディアや国際機関の報告を総合すると、以下が負荷の高い指標である。

  • インフレ率:報道は20〜25%台の数字を示しており、年率で二桁の物価上昇が続いている。

  • 外貨準備:トレーディング・エコノミクス(TradingEconomics)などの時系列では2025年に大きな変動があり、月次での増減が激しい。中央銀行の公表値も参照する必要がある。

  • 天然ガス輸出:アルゼンチン向け輸出が停止した事実は2024年9月に報じられており、以後の輸出量は低下基調にある。

  • 燃料在庫日数:2025年に“ガソリンで数日、ディーゼルで1日分しかない”との報道があり、実務的な供給逼迫が確認されている。

  • 公的債務比率:IMFの報告では公的債務が対GDP比で上昇しており、持続可能性に疑念がある。

これらのデータは、報道媒体ごとに手法と数字の取り方が異なるため、政策判断には複数ソースのクロスチェックが必要だ。主要な信頼源としてはIMFや国際機関、中央銀行公表値、主要国際メディアを優先すべき。

今後の展望と政策選択肢(短期・中期の投資と改革)
  1. 外貨確保の最優先:燃料・医薬品など必需品の輸入決済を安定化させるため、短期的に外貨を確保する必要がある。これには緊急の国際借款、資源を担保にした前払い契約、あるいは国際機関からの短期支援が考えられる。ただし条件付き支援は社会的摩擦を生む可能性が高い。

  2. ガス戦略の再構築:天然ガスの輸出市場多角化と長期投資を促進する。需要国との交渉やパイプラインの利用条件見直し、民間資本の誘致、技術投資などを組み合わせる必要がある。ただし投入資本の回収には時間がかかる。

  3. 為替政策の透明化と並行市場対策:実勢に近い為替レートへの調整が不可避となる可能性が高い。固定レート維持は並行市場を温存するため、段階的なキャッチアップと社会的セーフティネットでの緩和策が必要だ。

  4. 財政再建と社会保護の均衡:補助金の削減・ターゲティング化、歳出効率化、税制改革が求められるが、貧困層への影響を緩和するための現金給付や食糧支援は維持すべきだ。政治的合意形成が鍵となる。

  5. ガバナンス改善と国営企業改革:YPFBなど国営企業の運営透明性向上、腐敗対策、外資との協業を進めることで生産性回復を狙う。ただし、国内のナショナリズム的反発は根強いため、段階的で説明責任を伴うプロセスが必要だ。

まとめ

ボリビアの経済危機は単一の原因ではなく、天然資源依存、左派政権下で進んだ財政運営の脆弱性、ガス輸出の急減、外貨準備の枯渇、並行市場の台頭、インフレと燃料不足が相互に作用して生じた複合的な現象である。短期的なショック対応と並行して、中長期では経済の多角化、財政健全化、ガバナンス強化が求められる。政策の選択は政治的コストと社会的影響を伴うため、次期政権がどのように国民的合意を構築するかが極めて重要だ。国際社会の支援と地域関係国との協調も回復の鍵となる。


参考出典

  • TradingEconomics(ボリビアの外貨準備時系列データ)。
  • Mercopress / ReliefWeb / UPI(燃料不足に関する現地報道)。

  • IMF(2025年のArticle IV報告、ボリビアの債務・マクロデータ)。

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