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コラム:今年も鳥インフルエンザ猛威、現状と課題

日本では2025年11月時点で野鳥由来のHPAI検出と家きんでの発生報告が続いており、国と自治体は監視・初動対策・移動制限・農場対策・情報発信を行っている。
養鶏場(Getty Images)
1. 日本の現状(2025年11月時点)

2025年の秋から冬にかけて、国内では高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)が野鳥を中心に確認され、家きん(養鶏場)での発生報告も続いている。農林水産省(MAFF)は令和7年度(2025年度)に関する発生・対応情報を随時公表しており、野鳥での検出状況や発生農場の情報、対応方針をまとめている。また、環境省は野鳥の検査結果一覧や監視重点区域を公表している。これらの公的データからは、野鳥由来のウイルスが国内各地で検出されており、一部はH5N1亜型の高病原性ウイルスであることが示されている。

2. 現在の発生状況(国内の現状)

国内の発生状況は地域差があり、令和7年度の秋以降は野鳥での陽性例が複数都道府県で確認されている。環境省の「令和7年シーズンの野鳥の鳥インフルエンザ発生状況」PDFには採取日・回収日・場所・検体種別等が詳細に掲載され、11月初旬時点でも新たな検出が更新されている。家きん農場での発生は確認された場合に農林水産省が公表し、発生農場の規模・飼養種類(採卵鶏、ブロイラー、合鴨等)や対応状況が示される。国際的には同時期に欧州や北米でも季節的な増加が報告されており、国内でも海外の流行動向と連動して監視・対策が強化されている。

3. 家禽農場(養鶏場)での状況とリスク

家きん農場は家禽の密集飼育という特性から、ウイルスが入り込むと急速に拡大し得る脆弱性を持つ。発生が確認された農場では高い致死率や生産性の急激な低下が見られ、結果として大量の殺処分(防疫処置)と長期の復旧作業が必要になる。農場側のリスク要因としては、飼育密度、建屋の開放度、外部からの人・車両・飼料や資材の持ち込み、野鳥との接触機会(開放型飼育や外部に水たまりがある等)が挙げられる。実際の疫学調査では、野鳥由来のウイルス侵入経路や、感染確率を高める衛生管理上の不備がしばしば関連していると報告されている。MAFFは養鶏場に対して、飼養衛生管理の自己点検リストや防疫対策ガイドラインを提示し、バイオセキュリティ強化を要請している。

4. 野鳥(渡り鳥等)の役割と監視

渡り鳥や在来の水鳥・カモ類は、HPAIウイルスを長距離にわたって媒介する主要因となる。環境省や地方自治体は、渡りの時期に合わせた死体回収・検査や生息地のモニタリングを実施しており、重点監視区域を設定してサンプリングを続けている。野鳥が死滅しているケースや弱っている個体の発見は、地域でのウイルス存在の早期警戒の指標となる。野鳥由来の検査ではH5亜型の高病原性判定が出ることがあり、これを基に家きんへの波及リスク評価が行われる。環境省の公開資料には個別採取例の採取日・場所・遺伝子検査結果が示され、地域別の流行状況を把握できる。

5. 日本の主な対策(国・自治体・業界)

国(農林水産省・環境省・厚生労働省)と地方自治体、業界団体(畜産関係団体)は以下のような多層的対策を実施している。

  • 発生検知と初動対応:発生農場が確認された場合の通報フロー、疫学調査チーム派遣、迅速なウイルス型の同定。

  • 移動制限と消毒:発生半径に応じて家畜等の移動制限を実施し、車両・人の出入りに対して消毒ポイントを設置する。

  • 監視とサーベイランス:野鳥・家きん双方の検査を強化し、異常があれば即時公表する体制を整備する。

  • 農場レベルのバイオセキュリティ強化:飼養衛生管理の自己点検、飼育施設の遮断、給餌・給水の安全性確保、侵入経路の遮断。

  • 情報発信と消費者への注意喚起:卵や鶏肉の安全情報、調理時の加熱指導などを行う。
    これらの対策は国際機関の勧告や、過去の発生経験を踏まえて更新されている。特に季節性の流行期には、関連省庁間で連携した防疫本部を設置して対応を統合する。

6. 発生農場での防疫措置(具体的対応)

発生農場が確認されると、直ちに疫学調査と周辺のリスク評価を行う。主な措置は以下の通りだ。

  • 立ち入り禁止と隔離:発生建屋の立ち入り制限、専用の防護服・靴の使用指示。

  • 殺処分と適正処理:感染した家きんの殺処分と死体の適正処理(埋却や焼却等)を実施する。処理方法や埋却場所に関しては環境面の配慮が必要だ。

  • 消毒と残存ウイルス対策:施設・器具・車両の徹底した消毒、土壌や排水の管理。

  • 復旧基準の設定:消毒後の陰性確認や一定期間の監視を経て復飼・出荷再開の判断を行う。

  • 損失補償と支援:発生農家に対する補償制度や再建支援、心理的支援等の整備。農水省は過去の事例に基づき補償・支援策を用意している。

7. 移動制限区域の設定(ゾーニング)

発生農場の周辺では、リスクに応じてゾーニング(防疫区域、監視区域等)を設定する。一般的には発生農場を中心に半径を定めて「防疫措置区域(移動制限)」とし、その外側に「監視区域」を設置する。これにより家畜や畜産資材の移動を制限してウイルスの拡散を抑える。農水省の公表資料や地方自治体の指示には、具体的な区域設定の円や解除基準が示される。区域内では検査や消毒の強化、飼養報告の義務化などが行われる。

8. 野鳥の監視(モニタリング手法)

野鳥監視は複数の方法で実施される。死体回収と検査、定点での糞便・水の環境検体採取、定期的な生体サンプリングなどを組み合わせて行う。重点監視区域ではより頻繁なサンプリングが行われ、検出時は地方衛生研究所や国の検査機関で遺伝子解析やウイルス型の同定を行う。得られた遺伝子情報は系統解析に用いられ、海外由来の系統か既知国内系統の変化かを評価することで、発生源推定や波及予測に役立てている。環境省の発表資料で採取データと判定結果が逐次公開されている。

9. 情報提供と注意喚起(国から消費者・業界へ)

国や自治体は、消費者向けに卵・鶏肉の安全性に関する情報を提供している。現在の科学的な知見では、適切に加熱調理された卵・鶏肉は安全であり、加熱(中心部が十分に加熱されること)によりウイルスは不活化されると説明している。畜産関係者には早期通報の重要性とバイオセキュリティ強化を繰り返し求めている。メディアもこれらの公的情報を引用して消費者の過剰な懸念を和らげる報道を行う一方で、発生状況や業界影響を伝えている。

10. 人への感染リスク

重要な点として、2025年11月時点で日本国内での野鳥や家きん由来のHPAIによる「確定した」人への感染事例は報告されていない。国内の公衆衛生当局(厚生労働省・国立感染症研究所(NIID))は、ヒト感染の監視を継続しており、職業的に家きんに接触する者や発生地域の住民に対しては防護措置・検査を推奨している。世界保健機関(WHO)の報告を見ると、H5N1を含む高病原性鳥インフルエンザのヒト感染は過去に一定数発生しており、致死率も高い事例があるため国際的には引き続き警戒が必要だ。ただし、ヒト―ヒト持続伝播を示す確固たる連鎖は一般に確認されていないことが多い。日本のNIIDや厚労省の説明、WHOの累積データはこうした状況を示している。

11. 卵・鶏肉への影響(安全性と流通)

卵や鶏肉の安全性に関しては、適切な処理(加熱)や食品衛生管理により消費時のリスクは極めて低いとされる。国際機関・国内当局は生食や不十分な加熱を避けるよう指導している。流通面では、発生農場から供給される卵・鶏肉は出荷停止や回収が行われ、代替供給や価格変動が生じる可能性がある。特に採卵農場での大量殺処分は供給量に直結するため、短期的には地域や品目によって需給の影響が生じ得る。消費者向けには、通常の加熱調理で安全である旨の情報提供が行われている。

12. 世界の感染状況(国際的な動向)

国際的には、近年H5N1を含む高病原性鳥インフルエンザが広範囲で観察され、家きん・野鳥のみならず一部の哺乳類でも感染が確認されている。WOAH(旧OIE)やWHO、FAOの報告は、2024年以降も国際的な分布拡大や系統の多様化を指摘しており、2025年の報告でも多国での発生が示されている。例えば欧州や北米での季節的流行、農場での大規模発生、さらには一部の国でのヒト感染例の報告などが注目されている。国際機関は監視強化、ワクチンや治療薬の研究、農場レベルのバイオセキュリティ向上を強調している。

13. 問題点(課題)

現状の問題点は以下の通りだ。

  1. 野鳥由来の侵入経路の特定困難性:渡りルートの広域性と野生動物の多様性により、侵入経路の完全把握が難しい。監視には広域的な資源配分が必要だ。

  2. 農場レベルの実効的バイオセキュリティの普及:中小規模農場や家族経営の農場では物理的・経済的制約から十分な対策が取れない場合がある。

  3. 情報伝達と消費者信頼の維持:発生情報の透明性と同時に、消費者の不安を過剰に煽らない情報発信のバランスが難しい。

  4. 国際的リスクと供給チェーンの脆弱性:海外での大規模発生や畜産・飼料の流通障害は国内の供給と価格に波及し得る。

  5. ヒト感染の監視と医療対応体制:万が一ヒト感染例が国内で確認された場合の早期検出・隔離・治療プロトコルや医療物資の準備が常に要求される。WHOや国内公衆衛生機関はこれを重要課題として挙げている。

14. 今後の展望(短中期の見通しと提言)

短中期的には、冬季~春先にかけて渡り鳥の動きと気象条件に応じたさらなる検出・発生が予想されるため、監視・早期検知体制の維持が重要だ。具体的には以下を重視する必要がある。

  • 防疫体制の持続的強化:農場のバイオセキュリティ改善を促進するための支援金や技術支援を拡充する。これにより中小規模農場でも実行可能な簡易対策の普及を図る。

  • ワンヘルス的アプローチ:獣医・公衆衛生・環境分野が連携して動物・人・環境を統合的に監視・対処する枠組みを強化する。国際的な情報共有も継続的に行う。

  • 研究とワクチン・治療法の備え:ウイルス系統の変化を監視し、必要に応じて家畜用ワクチンの検討やヒト用の治療薬候補・ワクチン研究を進める。国際機関も同様の投資を呼びかけている。

  • 情報発信の透明性確保とリスクコミュニケーション:正確で分かりやすい情報提供を行い、消費者の不安やパニックを防ぐとともに、発生農家への社会的支援も重要視する。

15. 専門家の見解とメディア報道の傾向

専門家はH5N1等の高病原性ウイルスが遺伝的多様化を続けていること、野鳥・哺乳類への広がり、時折生じるヒト感染の事例を踏まえ「継続した監視」と「万一のヒト感染に備えた医療体制整備」が必要と指摘している。主要メディアは、公的データを引用して発生状況と消費者への影響を伝える一方、国際的な広がりやEU・北米での季節的な大流行の事例を紹介している。専門家・国際機関の呼びかけは、単発的な恐怖喚起ではなく、持続的な準備と国際協調の重要性に重点を置いている。

 総括(要点)

日本では2025年11月時点で野鳥由来のHPAI検出と家きんでの発生報告が続いており、国と自治体は監視・初動対策・移動制限・農場対策・情報発信を行っている。現段階で国内での「確定した」ヒト感染事例は報告されていないが、国際的な情勢(ヒト感染例の蓄積やウイルスの多様化)を踏まえ、ワンヘルス的な体制強化、農場レベルのバイオセキュリティ向上、消費者への適切なリスクコミュニケーションが引き続き重要である。主要な情報源としては農林水産省、環境省、国立感染症研究所(NIID)、WHO、WOAHなどがあり、これらの公開資料・報告を基に現状評価と対策を行うことが推奨される。


参考(主要出典)

  • 農林水産省:鳥インフルエンザに関する情報(令和7年度の発生・対応情報)。

  • 環境省:令和7(2025)年シーズンの野鳥の鳥インフルエンザ発生状況(PDF)。

  • 国立感染症研究所(NIID)関連資料(H5N1のヒト感染の国際的累積等)。

  • WHO:H5N1のヒト感染累積データ(2025年版)。

  • WOAH(旧OIE):高病原性鳥インフルエンザに関する2025年報告。

  • 国際報道例(Reuters等):欧州での2025年秋の発生事例報道。

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