コラム:正月太りに注意、ダラダラと食べ続ける「口寂しい」状態
正月太りは、多くの日本人が年末年始の生活を過ごす中で経験する体重増加現象である。
.jpg)
現状(2025年12月時点)
年末年始に体重が増加する「正月太り」は、日本国内における生活習慣の一部として広く認識されている現象である。2025年の調査によると、約6割の人が正月太りを経験したことがあると回答していることが報告された。原因としては、高カロリーな食事の摂取、間食や甘いものの多量摂取、運動不足、生活リズムの乱れなどが挙げられている。
過去の調査でも、日本人の男女17,797人を対象としたアンケートにおいて、女性で約8割、男性で約6割が「正月太りの経験」を報告している。これは、年末年始の食事や生活習慣の変化が男女を問わず一般的であることを示している。
正月太りとは
正月太りとは、主に年末から正月休暇期間にかけて体重が増加する現象を指す。一般的には、基準体重(例:12月20〜26日の平均体重)に対して1%以上の増加が見られた場合に「正月太り」と定義する調査もある。
観察研究では、年末年始の期間、平均的な体重増加が数百グラムから数キログラムになった例が複数報告されている(例:約0.7kg〜1.0kg程度の増加傾向、海外研究)。これは、ホリデーシーズンに伴うエネルギー収支の不均衡が重なった結果であると考えられる。
主な要因
正月太りの原因は多数存在するが、大きく以下の要因に分類できる。
摂取カロリーの増加
体重増加の基本原理は、摂取カロリーが消費カロリーを上回る状態が継続することにある。体脂肪1kgを蓄積するために必要な余剰エネルギー量は約7,000kcalとされている。このため、年末年始の数日〜1週間程度の過剰摂取でも体重増加に寄与しうる。
日本の年末年始では、おせち料理、雑煮、餅、正月のごちそう等が一定期間内に集中して摂取される。このような高カロリー・高脂質食の連続摂取は、通常の食生活と比較してエネルギー摂取量を大幅に増加させる。
おせち料理や餅
おせち料理は保存性を保つために塩分や糖分が多く使われることが多い。また、餅は米由来で高エネルギー密度食品であり、短時間に多くのカロリーを摂取しやすい食品である。これらの食事は、食べ過ぎ、間食や甘味の補助的摂取の増加につながる。
ダラダラと食べ続ける「口寂しい」状態
年末年始は、テレビ視聴や家族との会話など長時間屋内で過ごすことが増え、時間を持て余しての間食やスナック摂取が起こりやすい。これが「口寂しい」状態につながり、結果的に摂取カロリーが無意識に増加する。
身体活動量の低下
通常、通勤や日常業務では歩行や軽い活動によって消費カロリーが生じる。年末年始休暇によって通勤が減少すると、これらの日常的な身体活動が大きく低下することがある。また、スポーツジムの休業や外出自粛により、意図的な運動量も減少しやすい。
年末年始は仕事や家事・運動の習慣が休みに
一般社会人の場合、年末年始は仕事が休みになるため、日々の家事や職場での活動が減少し、日常的な消費エネルギー量が減少する。これは、エネルギー収支赤字から益傾向への変化を促進する。
冬の寒さも相まって外出機会が減る
冬季は寒さの影響により屋外活動が減少しやすい。消費エネルギーは代謝に依存する部分があるが、外出やウォーキングなどの身体活動が減ると総消費エネルギーも低下する。これが体重増加を助長する要因となる。
生活リズムの乱れと基礎代謝の低下
年末年始は、普段よりも睡眠時間が遅くなったり、朝寝坊をする等の生活リズムの乱れが起こりやすい。睡眠の質と量が変化すると、基礎代謝やホルモンバランスが乱れる可能性が示されている。睡眠不足は食欲を促進するホルモンを増やし、満腹感ホルモンを低下させ、食欲増加と代謝低下を引き起こす可能性がある。
夜更かしや朝寝坊による「社会的時差ボケ」
休日と平日で睡眠・起床リズムが大きく異なる状態を「社会的時差ボケ(Social Jetlag)」といい、これは代謝や食欲調節に不利に働くと示されている。生活リズムの不一致は、ダイエット効果を下げ、体重維持を困難にする可能性があるとの研究がある。
正月太りを防ぐ
正月太りを防ぐには、食事、運動・活動、生活習慣など複合的な対策が必要である。以下に代表的な戦略を示す。
食事の工夫:賢く食べる
「昼からごちそう」を意識する
正月期間は、昼食から高カロリーな料理が多くなる傾向がある。昼の食事でバランスを保つことで、総カロリー摂取量を分散させ、夜の過剰摂取を抑制することができる。
食べる順番を守る
野菜や食物繊維を先に食べ、炭水化物や脂質を後に摂ることで血糖値の急上昇を抑え、満腹感を得やすくする戦略がある。これにより、同じ食事でも摂取カロリーの過剰を抑制できる。
出汁を活用する
日本の伝統的な食文化である出汁を使うことで、旨味により満足感を得やすくなる可能性がある。高カロリー食との組み合わせでも満足感が増し、過食の抑制に寄与する。
ダラダラ食いを避ける
時間を決めて食事する習慣を持つことが重要である。テレビ視聴しながらの長時間の間食は避け、食事は規則正しい時間に済ませることを意識する。
運動・活動:意識的に体を動かす
大きな筋肉を動かす
筋肉量の多い部位(大腿四頭筋、臀部など)を動かす運動はエネルギー消費量を高める効果がある。階段昇降、スクワット等の大きな筋肉を使う活動を組み込むことで、消費カロリーの増加が期待できる。
日常の動作を工夫する
エレベーター使用を控え、階段を使う、立ち仕事を増やす等、日常生活の中で身体活動を意識的に増やすことが推奨される。
軽い有酸素運動
ウォーキングやジョギング等の軽い有酸素運動を日課にすることで、総消費エネルギーの増加が見込まれる。
生活習慣:リズムを崩さない
規則正しい睡眠
睡眠のリズムを平日と休日で大幅に変えないことが重要である。一貫した睡眠時間を維持することが、ホルモンバランスの安定に寄与する。
こまめな体重測定
体重の変化を日々記録することは、行動のフィードバックにつながる。増加傾向に早めに気付くことで、対策を早期に実践できる。
リセットのコツ
正月太り後は、通常の生活リズムと食事パターンに早めに戻すことが重要である。週末リバウンドを避けるため、平日と週末の生活パターンを整えることが推奨される。これは、正月明けにも体重が戻りやすくする効果がある。
今後の展望
正月太りは、日本の文化的背景と生活習慣が交差する特殊な現象である。その予防には、個人の意思のみならず、社会的な健康教育や職場・地域コミュニティでの支援が効果的である可能性が高い。健康管理アプリやスマート体重計の利用など、テクノロジーを用いた習慣化支援も有望である。加えて、栄養教育や生活習慣病予防の普及が広く行われることが重要である。
結論
正月太りは、多くの日本人が年末年始の生活を過ごす中で経験する体重増加現象である。その主因は高カロリー食の摂取、身体活動量の低下、生活リズムの乱れ、睡眠の不一致等が複合的に絡んだ結果である。予防には食事の工夫、意図的な運動、生活リズムの維持、体重管理の習慣化が有効である。早期発見と継続的な健康管理が、年末年始の体重変動を最小限にし、健康的な新年のスタートを支える。
参考・引用リスト
年末年始は“食べすぎ注意報”! 約6割が「正月太り」を実感(PR TIMES調査)
「正月太り」8割以上は1月末までに自然解消(体重データ分析)
年末年始の体重増加にご注意を(大阪健康安全基盤研究所)
正月太りの経験調査(くらしの研究・保健便り)
海外における周年・休日期間の体重変化(JAMA Netw Open)
日本の栄養・ダイエット関連知見(ナゾロジー等)
生活リズムと体重管理に関する研究(社会的時差ボケ)
追記:日本における正月と「おもち」の関係
はじめに
日本の正月には、「おもち」が伝統的な食文化として深く根付いている。おもちの起源は古く、正月に餅を食べる習慣は古代からの五穀豊穣や無病息災を祈願する行事食として発展してきた。おもちは単なる食物ではなく、文化的・宗教的意味を持つ食品として年末年始の伝統行事に位置づけられている。
歴史的には、古事記や日本書紀に「餅」に関する記述がみられるように、古来より餅は祭祀や祝い事の重要な食材であった。それが正月行事に発展し、現在の「年神様(としがみさま)」への供物としての餅や、家族で新年に食べる祝餅(いわいもち)の習慣につながっている。
おもちの栄養的特徴
おもちは主にもち米(グルテン質の高い日本の米)から作られ、加熱・蒸し・搗く過程を経て弾力ある食品となる。栄養面では、主成分が炭水化物(約80%以上)であり、比較的高いエネルギー密度を持つ。また、たんぱく質や食物繊維、微量栄養素は少ないものの、短時間でエネルギーを補給できる食品として位置づけられる。
100gの餅に含まれるエネルギー量は、一般的に約230〜250kcal前後であり、同じ重量のご飯(炊いた白米:約168kcal/100g)と比較しても高カロリーである。これは、餅が蒸したもち米を圧縮した構造ゆえに水分含量が低く、炭水化物質が凝縮されているためである。
正月におもちが食べられる文化的背景
年神様と餅
正月行事において、餅は年神様への供物としての意味合いが強い。年神様は新年の豊作や家内安全、健康を司る神とされ、家庭では鏡餅を飾る風習が古くから行われてきた。飾られた鏡餅は多くの場合、1月11日頃の「鏡開き」の日に下げられ、家族で食べることで年神様の力を授かるとされる。
餅を食べる儀礼性
正月に餅を食べる習慣は、単に空腹を満たすためではなく、新年を祝う象徴としての儀礼性がある。食卓に並ぶ雑煮や白餅・黄粉餅・あんこ餅などは地域ごとに異なる食文化を反映しており、これが新年の家族団らんや地域コミュニティの再接続の役割を果たしている。
おもちと正月太りの関係:栄養学的視点
おもちの高エネルギー密度は、正月太りとの関連が指摘される。前述のように、餅は高カロリー食品であるため、一度に複数個を食べると短時間で大量のエネルギー摂取につながる。実際、正月期間中の食事はおせちや正月料理との組み合わせであり、餅のエネルギーが累積しやすい。
加えて、餅は食物繊維が少なく、満腹感が得られにくい傾向があるため、食後の間食や追加摂取の可能性が高まる。このような特性が、正月太りの一因となる可能性は高い。
文化と健康のバランス
一方で、おもち自体が必ずしも「不健康な食品」であるわけではない。適正量の摂取はエネルギー補給源として有効であり、正月期間中の食文化としての価値を否定するものではない。しかし、現代の生活環境(運動不足、日常の活動量低下、夜更かしなど)が重なると、エネルギー過多の傾向が強まりやすい。
個々の対策
年末年始におもちを楽しむにあたって、栄養バランスを意識することが重要である。例として:
雑煮に野菜を多く取り入れ、食物繊維やビタミン・ミネラルの補完を行う。
餅の量を「一食につき1〜2個」に抑え、他の主食とのバランスを意識する。
食べる順番を工夫し、先に野菜・汁物などを摂取して満腹感を促進する。
これらの工夫は、餅文化を尊重しつつ、正月太りのリスクを抑制する戦略となる。
まとめ
日本における正月と「おもち」の関係は、文化的・歴史的背景と食生活の実践が融合したものであり、単なる食物以上の意味を持つ。餅は高エネルギー密度食品であるため、正月太りの要因となりうるが、適切な摂取量と栄養バランスの工夫により、健康的に楽しむことが可能である。現代人においては、伝統文化を尊重しつつ、科学的根拠に基づいた栄養管理を行うことが望まれる。
