SHARE:

コラム:「血圧サージ」に注意、今すぐできる対策

血圧サージは日内血圧変動のうち特に早朝やストレス状況で急激に上昇する現象であり、通常の平均血圧値だけでは把握できないリスク情報を提供する可能性がある。
血圧測定のイメージ(Getty Images)
現状(2026年1月時点)

高血圧は世界保健機関(WHO)によると、成人の約10億人超が罹患する主要な慢性疾患であり、心血管疾患の最大の危険因子であるとされる。血圧の管理は単に「値の高さ」を評価するだけでなく、血圧の日内変動や急激な上昇・下降パターンが重要であるとの認識が高まっている。特に血圧サージ(blood pressure surge)と呼ばれる急激な血圧上昇が心筋梗塞や脳卒中などの重大な循環器イベントと関連する可能性が複数の研究で示されている。日内変動のうち早朝・起床時の血圧変動、環境ストレス、身体的負荷・精神的負荷との関連性が解析されており、より個別化された血圧管理戦略が必要であるとの見解が専門家から示されている。


血圧サージとは

血圧サージとは、日内の血圧が比較的安定している時間帯から急激に上昇する現象を指す。生理的には日内リズムによって朝方に血圧が上昇するが、これが過度に大きい場合には単なる変動ではなく臨床的な意義を持つ。血圧サージは一般に「朝の血圧サージ(morning blood pressure surge, MBPS)」として研究されることが多い。Ambulatory BP Monitoring(ABPM)を用いた研究では、睡眠中の最も低い血圧値から起床後2時間の平均血圧までの差分として定義する場合、病的サージの評価に用いられている。


特徴

血圧サージの特徴には以下の点が指摘される。

  1. 日内リズム依存性:通常、夜間は血圧が低位に推移し、夜明け前から急激に上昇する傾向がある。この「夜間低下(dipping)」から朝方の上昇は生理的だが、サージが大きいと循環器イベントの誘因となる可能性がある。

  2. 個人差とリスク因子:年齢、喫煙、飲酒、糖代謝異常、睡眠障害(特に睡眠時無呼吸症候群)、交感神経活動の亢進がサージの振幅を増大させる傾向がある。

  3. 昼間活動やストレスとの関係:急激な身体的な負荷や精神的ストレスは血圧を瞬時に上昇させる要因であり、血管壁へのせん断ストレスを増強させる。例えば目覚めの際の急な動作や大きなストレス負荷がBPを急上昇させる。

  4. 循環器イベントとの時間帯一致:心筋梗塞や脳卒中は通常朝方に頻度が高いとされ、その背景には血圧サージに伴う血管内皮への負荷、血栓形成因子の変動、交感神経活性の変動が関与すると考えられている。


リスク

血圧サージのリスクは主に循環器系イベントの発生率増加に関連する。以下のようなリスクが指摘される。

  1. 脳卒中リスク上昇
     高齢者を対象とした前向き研究では、サージが大きい群において脳卒中発生率が有意に高いことが示されている。特にサージ >55mmHgの群は低サージ群に比べ2.7倍の相対リスクとなった。

  2. 死亡率の増加
     632例を対象とした後ろ向き解析では、MBPSが41mmHg以上の群は総死亡ハザード比が3.35と有意に高かったと報告された。

  3. 心血管リスクと器官障害
     サージの大きさは脳や心臓などのターゲットオルガン障害リスクと関連することが示されており、サージを制御することが長期的なイベント予防に寄与する可能性がある。

ただし、サージとイベントリスクの関連の強さについては研究にばらつきがあり、定量的な閾値の確立や標準化された評価基準の設定が未だ議論されている。


要注意なタイミング(引き金)

血圧サージを誘発・増強する可能性があるタイミングや状況を具体的に提示する。


早朝の起床時

起床直後は交感神経が活性化し、コルチゾールなどのホルモン分泌増加とともに血圧が上昇する。通常この上昇は生理的だが、急激な起床や大きなストレスが加わるとサージが増幅される。


温度差(ヒートショック)

室温と外気温の大きな差は血管収縮を生じやすく、特に冬季の入浴時や早朝のトイレ時などで急激な血圧上昇が起こる。これをヒートショックと呼び、高齢者での心血管イベントリスクを高めることが報告されている。


過度な力み

排便時のいきみや重いものを持ち上げるなど、短時間で強い腹圧や血圧上昇を引き起こす行為は、特に高血圧患者にとってサージを助長し得る。


強いストレス

心理的な強いストレスや感情の急変は即座に交感神経を活性化し、血圧を短時間で押し上げる。慢性的ストレスはサージの振幅を増加させる可能性がある。


今すぐできる対策

血圧サージの発生や影響を減らすために個人や医療で取り入れられている対策を挙げる。


「スローストップ」な起床

急な起床を避け、ゆっくり目を開けて座る、起き上がる前に深呼吸をするなどの「スローストップ」起床を心がける。目覚ましを急激な大音量ではなく、穏やかな音・振動にすることも有効である可能性が示唆される。


徹底した温度管理

冬季や寒冷環境では室内を十分に暖かく保ち、トイレや浴室との温度差を減らすことが推奨される。環境温度変動が血圧サージに与える影響は無視できない。


家庭血圧の測定

家庭血圧を朝・夕の複数回に分けて測定し、日内の変動パターンを記録することでサージの存在を評価する。また24時間ABPMが可能ならば、より詳細な日内変動が把握できる。


チェック項目

以下の点について自己チェックを行うことでリスクが高いかどうかを把握する。


睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸は夜間血圧変動を増幅し、サージを誘発する原因とされる。特にいびき・日中の眠気・呼吸停止の指摘がある場合、専門医での評価が必要である。


お酒をよく飲む

アルコール摂取は夜間の血圧低下パターンを乱し、翌朝のサージを大きくする可能性があるとする研究がある。


喫煙の習慣がある

喫煙は交感神経活性を高め、早朝の血圧サージを増加させるとのデータが示唆される。


糖尿病や脂質異常症を指摘されている

代謝異常は血管機能を低下させ、血圧変動に敏感になる傾向がある。特に朝方の血圧変動が大きい場合には内科的管理が必要である。


今後の展望

血圧サージは単に「血圧が高い」「低い」という平均値だけでなく、日内リズムと変動幅が心血管イベントリスクに影響するという視点から注目が集まっている。今後は以下のような研究や臨床応用が進むと考えられる。

  1. 標準化された評価基準の確立
     多様な定義が存在するため、サージの標準化された評価とその閾値設定が求められている。

  2. 個別化医療・リズム医療の導入
     24時間ABPMデータを用いた個人のBPプロファイル解析と、それに基づく薬剤選択・タイミング調整が進む。

  3. 生活環境と行動介入の最適化
     起床習慣、温度管理、ストレス対策など生活因子の調整による血圧サージ低減戦略が体系化される。

  4. 新規治療アプローチの開発
     交感神経活性やホルモンリズムに介入する薬剤・デバイス療法の研究が進む可能性がある。


まとめ

血圧サージは日内血圧変動のうち特に早朝やストレス状況で急激に上昇する現象であり、通常の平均血圧値だけでは把握できないリスク情報を提供する可能性がある。サージの過度な増幅は脳卒中や心筋梗塞を含む重大な循環器イベントの誘因となり得るとの報告がある。ただし、評価基準のばらつきや個人差が存在し、標準化された診断・管理方法の確立が今後の課題となっている。個人レベルでは起床習慣や温度管理、家庭血圧測定などの日常行動の見直しが有益であり、睡眠時無呼吸などのリスク因子評価と総合的な管理が推奨される。


参考・引用リスト

  1. Kario K, Shimada K, et al. Clinical implication of morning blood pressure surge in hypertension. PubMed.

  2. Morning blood pressure surge is associated with death in hypertensive patients. PubMed.

  3. Early morning blood pressure surge. PubMed.

  4. Morning surge in blood pressure and blood pressure variability in Asia: Evidence and statement from the HOPE Asia Network. PubMed.

  5. Prognostic Significance of the Morning Blood Pressure Surge in Clinical Practice: A Systematic Review. Oxford Academic.

  6. Morning blood pressure surge: pathophysiology, clinical relevance and therapeutic aspects. PubMed.

  7. Early morning surge in blood pressure. PubMed.

  8. Morning surge in blood pressure as a predictor of silent and clinical cerebrovascular disease in elderly hypertensives. PubMed.

  9. Prognostic Significance of the Morning Blood Pressure Surge in Clinical Practice: A Systematic Review (PMC).


追記:普段の血圧が正常な人でも油断できない理由

血圧管理において「診察室血圧が正常である」ことは重要な指標であるが、それだけで心血管リスクが十分に低いとは必ずしも言えない。近年の研究では、平均血圧が正常範囲にあっても、血圧変動性(blood pressure variability)や一過性の急上昇が臓器障害や循環器イベントと関連することが示唆されている。

特に血圧サージは、通常の健康診断や外来測定では捉えにくい。多くの人は安静状態で測定された血圧値のみを根拠に「自分は大丈夫」と判断しがちであるが、実生活では起床時、寒冷曝露、精神的緊張、身体的負荷などにより、短時間で血圧が急上昇する場面が頻繁に存在する。
このような一過性の血圧上昇は、血管壁に瞬間的かつ強い力学的ストレスを与える点で、持続性高血圧とは異なる病態的意味を持つ。

また、正常血圧者の中にも「仮面高血圧」や「早朝高血圧」を呈する人が一定数存在することが知られている。これらは診察室では正常に見える一方、家庭や早朝では高値を示すため、見逃されやすいリスク群である。


正常血圧者における脳出血リスクの考察

脳出血は長年にわたり高血圧との関連が強調されてきたが、近年では急激な血圧上昇そのものが発症の直接的引き金となり得ることが注目されている。
特に脳内の穿通枝動脈は構造的に脆弱であり、慢性的な血管変性がなくとも、瞬間的な圧負荷によって破綻する可能性がある。

血圧サージが問題となるのは、以下の点にある。

  1. 血管適応の遅れ
     急激な血圧上昇に対し、血管の自己調節機構が追いつかない場合、局所的に過剰な圧が集中する。

  2. 夜間低血圧からの反動
     夜間に血圧が大きく低下する人ほど、起床後の反動的上昇が大きくなりやすい。

  3. 加齢・動脈硬化との相互作用
     平均血圧が正常であっても、動脈硬化が進行している場合、血管の伸展性低下により圧負荷が直接壁応力として伝わる。

これらの条件が重なることで、普段は正常血圧と評価される人でも、脳出血リスクがゼロではなくなる。


正常血圧者における心筋梗塞リスク

心筋梗塞もまた、慢性的高血圧だけでなく、急性の血圧変動や交感神経亢進と密接に関連する。
早朝に心筋梗塞が多いことは古くから知られており、その背景には以下の要因が重なる。

  • 血圧サージによる冠動脈内圧の上昇

  • 血小板凝集能の亢進

  • 血管内皮機能の一過性低下

  • 心拍数増加と酸素需要増大

特に動脈硬化性プラークを有する場合、急激な血圧上昇はプラーク破綻を誘発する可能性がある。
この現象は、安定した平均血圧とは独立して起こり得るため、「正常血圧=安全」とは言い切れない。


日常の血圧測定の重要性

こうした背景から、血圧管理は「単発の数値」ではなく「時間軸での把握」が不可欠である。日常的な血圧測定には以下の意義がある。

  1. 血圧変動パターンの可視化
     朝・夜の家庭血圧測定により、早朝高血圧やサージの兆候を把握できる。

  2. 生活要因との関連分析
     睡眠、飲酒、ストレス、気温変化と血圧の関係を個人単位で確認できる。

  3. 潜在的リスク群の早期発見
     診察室では見逃される仮面高血圧や過度な変動性を検出できる。

  4. 予防的介入の根拠形成
     生活改善や医療介入の必要性を、数値として客観的に判断できる。

特に起床後1時間以内の測定は、血圧サージの存在を推定する上で重要であり、継続的な記録が望ましい。


追記まとめ

普段の血圧が正常であっても、血圧サージや過度な血圧変動が存在すれば、脳出血や心筋梗塞のリスクは無視できない。
血圧リスク評価は平均値中心の考え方から、変動性・時間帯・生活文脈を含めた立体的評価へと移行しつつある。
日常的な血圧測定は、高血圧患者だけでなく、正常血圧者にとっても自己防衛のための重要なツールであり、早期予防の鍵となる。

この記事が気に入ったら
フォローしよう
最新情報をお届けします