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コラム:ピーマン新時代?子どもに愛される料理

ピーマンは苦味により子どもに敬遠されがちであるが、苦味成分の理解・調理技法・味覚調整・品種改良により、新たな受容性が実現しつつある。
ピーマンのイメージ(Getty Images)
現状(2026年2月時点)

日本国内において、「ピーマン」は従来「子どもが嫌いな野菜」の代表格であり続けている。しかし近年の調査では、苦味の軽減や工夫された調理法の浸透により、家庭料理における受容性が向上しているとの報告がある。たとえば、2022年度の子どもに嫌いな野菜ランキングではピーマンは上位にランクインしつつも、前年と比較すると順位が低下しつつあるという報告もあり、苦味成分の低い品種や調理法が影響している可能性が示唆されている。

また、全国の親を対象としたアンケート調査では、7割以上の家庭が子どもに嫌いな食材を食べさせるための工夫を行っており、食材を細かく切ったり、他の料理に混ぜたりする対応が家庭内で一般化している。


ピーマンとは

ピーマン(Capsicum annuum)はナス科トウガラシ属に属する果実性野菜であり、緑色の未熟果から成熟に伴い赤・黄・橙色へと色づく。辛味成分のカプサイシンをほとんど含まないことから「甘長(sweet)」として区別され、食味・風味・栄養価が評価されている。成熟度や品種によって味や苦味の強さが変化することが栽培研究によって確認されている。


子どもが嫌いな代名詞

子どもの野菜嫌いは長年にわたる教育・栄養学上の課題である。味覚発達の段階により、子どもは苦味や酸味に対して大人より敏感であり、これは生体防御として進化的に有意な反応と考えられている。苦味は一般に毒性物質の存在と関連するため、選好から外れやすく、これがピーマン嫌いの一因となっている。


ピーマン新時代到来?

近年、苦味負担を軽減した「こどもピーマン」等の品種が市場に登場し、苦味の少ないピーマンの嗜好性が向上しているとの報告がある。これらはクエルシトリン等苦味成分が低減され、甘味が相対的に強く感じられる特徴を持つとされる。


苦味の正体と科学的アプローチ

苦味成分の化学的基盤

ピーマン特有の苦味は、主にクエルシトリンというポリフェノール系化合物と、ピラジン系の香気成分の相互作用によって生じることが、化学的分析で明らかになっている。クエルシトリン自体は渋み要素であり、これと香気強度の高いピラジンが結びつくことで苦味として知覚される。

味覚受容体の作用機構

日本農芸化学会における研究では、ピーマン苦味成分とヒトの苦味受容体(TAS2R8等)の結合が苦味知覚に寄与していることが示され、卵黄中の特定たんぱく質がこの受容反応を弱める可能性が示唆されている。


子どもの「ピーマン嫌い」の主な原因

味覚感受性

子どもの味覚感受性は大人より高く、特に苦味受容の閾値が低いため、同じ食品でも子どもは苦味を強く感じやすい。これは進化的防御反応や味蕾数の多さと関連するとされる。

食体験の心理

味覚だけでなく見た目・食感・初対面の恐怖(食物新規性恐怖)といった心理的側面も、食べ物の拒否につながる要素であり、好き嫌いの形成に関与する。


卵黄による苦味抑制

前述の受容体研究に基づき、卵黄タンパク質がピーマンの苦味受容反応を低減する可能性が示されている。この知見は、マヨネーズや深煎りごまドレッシングといった調味料がピーマンの苦味感を和らげるという実利用例と一致している。


「縦切り」の有効性

調理工学的観点では、切断方向が苦味・食感に影響を与えるとの検討がある。繊維方向に沿って縦に切ることで苦味物質の流出を抑制し、食味評価が改善されるとする提案がある。ただし、栄養素のロスと味覚バランスとの両立を検討する必要があるとされる。


調理・加工における新機軸(分析)

物理的制御

苦味成分は熱や油との相互作用で感知が変化するため、炒め・蒸し・焙煎などの工程設計によって苦味の抑制が可能である。この効果は、油のコーティングによる苦味成分の封じ込めや高温調理による分子変性によるものである。

化学的マスキング

マヨネーズ等の乳化物、チーズ等の脂質・タンパク質は苦味受容をマスクする働きがあり、子ども向けの味付け工夫として有効性が高い。

味覚の調整

苦味と甘味・旨味のバランス調整は、子どもの嗜好を引き出す重要なポイントである。たとえば、ケチャップ・甘味調味料・チーズの追加は苦味受容を相対的に低減させる効果があるとの家庭調査も多い。


子どもに愛される「新時代」の人気レシピ

以下に挙げる料理は、調理工夫による苦味軽減と子どもの嗜好に対応したレシピであり、家庭での実践例や家庭料理調査結果に基づく。

ピーマンの肉詰め(進化版)

定番の肉詰めにチーズ・甘味調味料・ケチャップを組み合わせ、苦味の抑制と旨味増強を図る。ケチャップの酸味と甘味、チーズの脂肪分が苦味受容を相対的に低減する。

キーマカレー・ナポリタン

みじん切り野菜をルーやトマトソースに混ぜ込み、苦味の知覚を分散させる手法は、嫌いな子でも完食率が高いとする家庭報告がある。

チーズ肉巻き

肉の旨味・脂質とチーズのマイルドさが、ピーマン苦味を相対的に隠蔽する効果があるとの料理例が多数報告されている。

無限ピーマン

ピーマンを薄切り・細切りにし、調味料で和える簡便料理は、食感の軽減と味付け調整により苦味負担が低く食べやすい。一般家庭でも人気が高い。


栄養学的価値と最新トレンド

高栄養価

ピーマンはビタミンC・カロテン・ビタミンEなど多くの抗酸化栄養素を含む。これらは免疫機能・皮膚健康・成長促進に寄与するとされる。

種・ワタの活用

栄養素は皮や果肉だけでなく種・ワタにも含まれる可能性があり、捨てずに利用する調理の工夫が栄養摂取効率を高める方向として提案されている。

品種改良

苦味成分の低い品種の育成は、消費者嗜好に対応した育種戦略として進んでいる。その結果、幼児・子ども向けに苦味負担の少ない選択肢が増えている。


今後の展望

子どもの野菜摂取量向上には、苦味の科学的理解と調理技術の融合が鍵となる。また味覚形成段階でのポジティブな食体験提供や学校給食への応用が期待される。品種改良と合わせた多角的アプローチが、野菜嫌い克服の新しい潮流を作る可能性がある。


まとめ

ピーマンは苦味により子どもに敬遠されがちであるが、苦味成分の理解・調理技法・味覚調整・品種改良により、新たな受容性が実現しつつある。科学的アプローチと家庭料理技術の両面から「ピーマン新時代」が到来しており、子どもにとって愛される食材への再評価が進んでいる。


参考・引用リスト

  1. 野菜科学研究会「ピーマンの苦味成分は、健康に良い物質だった!」 (2023)

  2. TSUCHILL「ピーマン嫌い」を克服!子どもが喜ぶ”苦くないピーマン” (2025)

  3. 日本パーソナル管理栄養士協会「子どもの好き嫌いは心理で変わる!」 (2025)

  4. 子どもの好き嫌いに関する調査(コールドクター) (2023)

  5. キユーピー株式会社「ピーマンの苦味を感じるメカニズムの一端を解明」 (2024)

  6. キユーピー「ピーマンの苦味研究」 (2024)

  7. タキイ種苗「こどもピーマン」苦み研究 (2012–)

  8. 農業総合センター園芸研究所「ピーマンの品種および栽培法における苦みの特性」 (2015)

  9. Wikipedia: 3-Isobutyl-2-methoxypyrazine (bell pepper aroma compound) (2025)

  10. Hokkaido Vegetable News「ピーマンが苦い理由と調理法」 (2026)

  11. PMC栄養研究「Sweet Bell Pepper: A Focus on Its Nutritional Qualities」 (2023)


追記:苦味の科学的攻略

ピーマンの苦味対策は、経験則的な調理工夫の段階から、近年では分子レベル・味覚生理レベルでの理解へと進展している。苦味は単なる味の問題ではなく、「化学物質 × 感覚受容 × 脳内処理」という多層構造の現象である。この視点が「科学的攻略」という概念を成立させている。

1. 苦味は「絶対的」ではなく「相対的」

味覚研究において重要なのは、苦味は固定的な強度ではなく、味覚間相互作用によって変化するという点である。甘味・旨味・脂質・塩味は苦味の知覚を低減させる。これは神経応答レベルで説明可能であり、特定の味覚刺激が苦味受容体の信号伝達を相対的に弱めるためである。

したがって「苦味を消す」必要はなく、「苦味を目立たなくする」ことが現実的な攻略戦略となる。


2. 苦味成分の挙動制御

ピーマン苦味の主体であるポリフェノール類は、水溶性・熱安定性・脂質との相互作用などの性質を持つ。この物性理解は調理設計に直結する。

● 加熱の影響

加熱により細胞壁が破壊され、苦味物質が流出しやすくなる場合がある。一方で、高温短時間加熱では香気成分の変性や糖のカラメル化が進み、苦味知覚が緩和される。

● 油脂の役割

脂質は苦味成分を包み込み、受容体へのアクセスを抑制する。加えて、脂質は味覚の「丸み」を増加させる。


3. 香気との関係

苦味は純粋な味覚刺激だけでなく、香りとの統合知覚として現れる。ピーマン特有の青臭さは苦味印象を強めるため、香気制御も重要な攻略要素となる。

・高温調理による青臭さの揮散
・にんにく・バター・チーズなどの香気付加
・発酵調味料による香り変換

これらは苦味感そのものではなく「苦いと感じる印象」を変化させる。


4. 味覚受容体レベルでの介入

近年の研究では、苦味抑制は感覚心理ではなく受容体反応の変調としても説明される。卵黄・乳タンパク質・特定ペプチドは苦味受容の応答強度を下げる可能性が示唆されている。

この視点は調理学を「感覚科学」と結びつけるものであり、従来の料理技術とは異なる次元の攻略法といえる。


嗜好性に合わせた調理法の普及

野菜嫌い克服において重要なのは、「食材側の変化」だけではない。「調理文化の進化」も不可欠である。

1. 嗜好性重視への転換

従来の食育では「栄養的に必要だから食べる」という論理が主流であった。しかし近年では、

美味しさ → 受容 → 習慣化

という逆転構造が重視されるようになっている。

「好きにさせる工夫」が主眼となり、苦味低減はその象徴的テーマとなっている。


2. 家庭料理の実践的進化

調査研究から明らかなのは、専門理論よりも再現性の高い簡便技術が普及を支えている点である。

・みじん切り混合
・チーズ併用
・ケチャップ・カレー活用
・肉・卵との組み合わせ

これは理論的には高度な味覚制御であるが、実践としては極めて単純である。このギャップが普及の鍵となる。


3. SNS・メディアの役割

調理技術の普及において、現代では専門書よりもデジタルメディアの影響が大きい。

・動画による視覚的理解
・短時間レシピの拡散
・「子どもが食べた」成功体験の共有

苦味対策は「理論」ではなく「成功事例」として広まりやすい。


ピーマンは「克服すべき対象」から「進んで食べる食材」へ

ここで重要なのは、単なる味覚問題ではなく認知フレーミングの転換である。

1. 克服モデルの限界

「嫌いなものを頑張って食べる」という構造は、心理学的には負の感情を強化しやすい。義務的摂取は拒否反応を持続させる。


2. 嗜好形成モデル

近年の味覚研究では、嗜好は固定的ではなく可塑的であることが示されている。

・繰り返し接触効果
・ポジティブ体験の関連付け
・報酬系との連動

つまり、

「食べられる」→「嫌ではない」→「好きかもしれない」→「好物化」

という段階的変化が現実的である。


3. 苦味の再評価

苦味は本来、成熟味覚・大人味覚の要素でもある。適応が進むと、

・風味の複雑さ
・料理の奥行き
・食文化的価値

として再評価される。これは嗜好発達過程の自然な帰結である。


4. 「苦味=悪」の解体

ピーマン新時代の核心はここにある。

苦味を「消す対象」ではなく、

調整可能な風味要素

として扱う考え方である。


最適な調理テクニック

科学的知見を踏まえた実践技術を整理する。


物理的テクニック

1. 切断制御

繊維方向に沿った切断は食感の硬さを抑制し、苦味知覚を緩和する傾向がある。

2. 加熱制御

高温短時間調理は青臭さの低減に有効。長時間加熱は苦味物質の抽出を促進する場合がある。

3. 水さらし

軽度の苦味低減には有効だが、栄養素流出とのトレードオフが存在する。


化学的テクニック

1. 脂質利用

チーズ・マヨネーズ・バターは苦味マスキングに有効。

2. 甘味・旨味付加

ケチャップ、みりん、だし成分は苦味の相対的抑制に寄与。

3. 発酵調味料

味噌・醤油・チーズは風味統合による苦味印象の変換を促す。


味覚心理テクニック

1. 視覚的工夫

細切り・色彩組み合わせは拒否感を低減。

2. 成功体験設計

少量摂取 → 達成感 → 嗜好緩和

3. ポジティブ連想

好物との組み合わせは認知的受容を促進。


総合的検証

ピーマンの受容変化は単一要因では説明できない。以下の統合モデルで理解可能である。

化学的要因 × 調理工学 × 味覚生理 × 心理的受容 × 食文化変化

この多層的相互作用が「ピーマン新時代」の実体である。


追記まとめ

苦味は排除すべき欠点ではなく、制御可能な風味特性である。
調理技術・味覚科学・品種改良が結びつくことで、ピーマンは

「嫌いな野菜」から「設計可能な食材」へ

と位置づけが変化している。

この変化は単なる嗜好改善ではなく、
食科学と家庭料理文化の融合現象と評価できる。

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