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コラム:サウナで「心と身体を整える」

サウナで「心と身体を整える」ことは、自律神経の意図的なスイッチング(高温で交感神経を刺激し、急冷と休息で副交感神経へ導く)を利用した温冷交代浴に基づく。
サウナに入る女性(Getty Images)
日本のサウナ(2025年11月現在)

近年の日本では「サウナ文化」がより一般に浸透し、都市部を中心に専門施設や銭湯内サウナ、ホテルサウナ、テントサウナ(山サウナ)など多様な形態が増えている。一般社団法人日本サウナ・温冷浴総合研究所などによる年次レポートでは、2017年以降のブームを経て利用実態や愛好者の属性、温冷浴(温→冷の交代浴)への認知が高まっていることが報告されている(日本サウナ総研の2025年レポート)。一方で検索需要やブームのピークはやや落ち着きつつあるとの分析もあり、過熱から成熟へ移行している状況がうかがえる。サウナを巡る商業化や専門サービス(ロウリュ、アウフグース、サウナトレーニングなど)も増え、健康志向やウェルネス産業と結びついた動きが顕著になっている。

サウナで「心と身体を整える」

サウナで「整う(ととのう)」と俗に言われる感覚は、主観的には「頭がすっきりする」「体が軽い」「深いリラックス感が得られる」といった状態を指す。医学的・生理学的には、温熱刺激と急冷(冷水/水風呂)を繰り返すことで自律神経(交感神経と副交感神経)のスイッチングが促進され、血流変化や心拍変動、筋緊張の緩和、さらには睡眠の質改善などの好影響が生じると説明される。専門家の解説や複数の研究は、温冷交代浴による自律神経調節が「ととのう」体験の主要因であることを示唆している。

「整える」メカニズム(自律神経の視点)

自律神経系は主に交感神経(活動時に優位)と副交感神経(休息時に優位)に分かれる。高温のサウナにより体温上昇・心拍数増加・皮膚血流拡大などが起き、短期的には交感神経系が活性化される。続いて急冷することで末梢血管が収縮し、体は反応として副交感神経優位へ振れることがある。この温度刺激の急峻な変化(熱ストレスと急冷)が自律神経の反応幅を広げ、結果として「深いリラックス(副交感神経優位)」という状態へ導くと考えられている。生理研究でも温熱刺激が自律神経活動に影響することや、温冷交代浴が交感・副交感の変化を誘発することが示されている。

サウナ浴のメリット(心身への効果)
  1. ストレス緩和と精神的リフレッシュ
     サウナ浴後に主観的なストレス軽減や気分の改善を訴える報告が多数ある。温冷交代浴が自律神経の応答を調整し、心が落ち着きやすくなることが要因の一つである。

  2. 疲労回復と筋緊張の軽減
     温熱による筋肉の弛緩、血行促進により回復が速まる感覚が得られる。循環改善は筋疲労物質の除去を助ける可能性がある。

  3. 睡眠の質向上
     レビュー研究や利用者調査では、サウナや温熱浴が睡眠改善に寄与するという報告が多く、あるレビューでは多くの利用者が睡眠の改善を報告している(例:大規模レビューで利用者の約80%超が睡眠改善を実感したという報告がある)。ただし、被験者特性や実施条件によって差が大きいので、万人に同じ効果があるわけではない。

  4. 皮膚の健康と血行促進
     発汗・血流改善は皮膚の代謝を促し、角質の除去や皮膚状態の改善に寄与することがある。

  5. 心血管リスクに関する観察(注意)
     一部の疫学研究は定期的なサウナ利用と心血管系アウトカムの関連を示唆するが、因果関係の解明やリスク層別の評価は進行中であり、高血圧・心疾患の既往がある人は慎重にする必要がある。

サウナで「心と身体を整える」ための具体的な方法(全体像)

サウナで整うための基本は「温める(サウナ)→冷やす(水風呂)→休む(外気浴)」の温冷交代浴のセットを繰り返すことにある。一般的にはこれを1セットとして、3セット前後行うことが推奨されることが多いが、個人差が大きいので無理をせず自分に合った回数・時間で行うことが重要である。以下に準備から各ステップの具体的指針を示す。

サウナ浴の基本ステップ(サウナ→水風呂→外気浴)

ステップ1:準備(特に水分補給と清浄)
ステップ2:サウナ(温める)
ステップ3:水風呂(冷やす)
ステップ4:外気浴(休憩・「整う」)

以下に各ステップの詳細を示す。

ステップ1:準備(=水分補給と清浄)

水分補給
 サウナは大量の発汗を伴うため、事前に適切な水分補給を行う。目安としては着替えを終えた段階で常温の水やスポーツドリンクなどで200〜400ml程度を摂取しておくとよい。長時間滞在する予定や高温のサウナに入る場合は、さらに補水を心がける。アルコール摂取直後は脱水や循環負荷のリスクがあるため避ける。身体状況や外気温により必要量は変わるので、自分の尿色や喉の渇きで調整する。

体を洗う(清浄)
 サウナに入る前に必ずシャワーや洗体で汗や汚れを落とす。清潔な状態で入ることで衛生面が保たれるだけでなく、発汗の感覚がクリアになりサウナ体験の質が向上する。

ステップ2:サウナ(温める)

目的:体を適度に温め、心拍数と血流を上げることで交感神経を刺激する。

時間
 初めての人や高温サウナ(90℃前後)の場合は5〜8分程度から始めるのが安全である。慣れている人は8〜15分程度を目安にすることが多い。遠赤外線系や低温のミストサウナでは温度に応じて10〜20分ほどの短時間滞在が適応となることもある。個人差が非常に大きいので、めまいや気分不良、強い動悸を感じたらすぐに退出する。

場所(サウナ室内での位置取り)
 サウナ室は上部ほど温度が高く、下部ほどやや温度が低い。初心者や高血圧・高齢者は下段に座って体への負担を軽くする。上段に座るとより強い発汗・血行改善効果を得られるが、心臓や循環系に不安がある人は避ける。

注意点
・アルコール摂取後や食後すぐは避ける。
・心疾患、重度高血圧、妊娠、糖尿病による自律神経障害などの持病がある場合は事前に医師に相談する。
・初回は短めに、徐々に自分の耐性を確認しながら時間を延ばす。

ステップ3:水風呂(冷やす)

目的:急激に末梢を冷却することで交感から副交感への転換を促す。血管の収縮反応や血圧・心拍の変動が起き、それが自律神経の再調整につながる。

汗を流す
 水風呂に入る前にシャワーで軽く汗を流すと清潔で快適に水風呂を利用できる。汗を流さず直接水風呂に入ることもできるが、衛生面と感触の面で事前に流しておくことを推奨する。

時間
 水風呂の温度や個人の適応によるが、一般的な目安は20℃以下の水風呂で30秒〜2分程度、より冷たい(15℃以下)場合は10〜60秒程度とする。初めての人や心臓に問題がある人は短時間から始める。冷却の刺激は強いので過度に長時間入らないこと。水風呂から上がった直後に冷感で頭がクラクラする場合は無理をせず中止する。

注意点
・急激な温度差により血圧変動が起きるため、高齢者や循環器疾患がある人は特に注意する。
・心臓の弱い人は主治医と相談し、水風呂を使わずぬるめのシャワーで代替する方法もある。

ステップ4:外気浴(休憩・「整う」)

目的:体を休め、自律神経の副交感優位(リラックス)への移行を定着させる。外気浴は外の空気に当たることだけでなく、静かに休むことそのものが重要である。

休憩の取り方
 水風呂から上がったらタオルやロッカーで体表の余分な水滴を払い、ベンチやリクライニングで5〜15分ほど横になったり椅子で深呼吸を繰り返したりして休む。外気浴中に視覚や聴覚を遮ることで深いリラックスに入る人もいる。呼吸は浅く速くならないよう注意して、ゆっくりとした腹式呼吸を意識する。

姿勢と意識
 座る・寝るなど楽な姿勢を取り、目を閉じて体の感覚(胸や腹の動き、皮膚の温度変化、血流感)に注意を向けると「ととのう」感覚が現れやすい。外気浴では雑念を消すために呼吸に集中する「ボディスキャン」的な意識の向け方が有効な場合が多い。

「整う」の体験
 外気浴の数分~十数分で、ほてりが引き、頭の中が静謐になる。心拍の落ち着き、筋緊張の緩和、感覚の鋭さと静けさが混在した独特の状態が生じることがあり、これをサウナ愛好者は「整う」と表現する。生理学的には副交感神経の優位化、血圧安定、心拍変動の回復が背景にあると考えられている。

実践のポイント(セット数と順序、無理をしないこと)

・一般的な推奨は1セット=(サウナ→水風呂→外気浴)を3セット前後行うことだが、体調・年齢・慣れによって変える。初心者は1セットで十分で、徐々に増やしていく。
・各ステップの時間配分は個人差が大きいため、めまい・吐き気・強い動悸など不快感が出たら即中止する。
・喫煙や大量飲酒後の利用は避ける。アルコールは循環負荷や脱水を悪化させる。
・サウナ後は十分に補水し、場合によっては塩分補給や軽い糖質補給を行うとよい。特に長時間の入浴や高齢者は注意する。

専門家データとエビデンスの要約(代表的研究とレビュー)

・日本の実態調査(日本サウナ総研など)は、サウナ利用者の属性、利用頻度、温冷浴の認知度の推移などを体系的に示しており、2020年代を通じてサウナ文化の定着と多様化が進んでいることを示している。

・温冷交代浴が自律神経に与える影響を調べた生理学的研究は多数存在する。温熱が交感神経を刺激し、急冷がそれに続く反応を誘発して自律神経バランスを調整するというメカニズムを示す研究がある(温罨法・サウナに関する学術報告)。

・睡眠改善に関するレビューや利用者調査では、サウナや温熱浴を行った利用者の多くが睡眠の質改善を報告しているという結果がある(例:大規模レビューで利用者の多くが睡眠改善を報告)。ただし、研究の多くは主観的評価に基づくものが多く、ランダム化比較試験などの高品質エビデンスは限定的である。したがって、個人の体験は多いが科学的に一般化するにはさらなる研究が必要である。

・「山サウナ」「テントサウナ」など新しい形態のサウナに関する応用研究も行われており、ストレス指標や睡眠評価で有望な結果を示す報告があるが、サンプルサイズや条件のばらつきがあるため今後の系統的検討が期待されている。

安全上の注意(無理をしない)

サウナ浴は多くの人にとって有益である可能性が高いが、一部の人にとっては危険を伴う。特に以下の点に注意する必要がある。
・心疾患や不安定な高血圧、重い糖尿病、自律神経障害、妊娠中の利用は主治医に相談すること。
・高温サウナ→極冷水風呂の組合せは心臓・循環器系に急激な負担をかけることがあるため、高齢者や持病のある人は短時間で慎重に行うか代替法(ぬるめのシャワーなど)を選ぶこと。
・閉所恐怖やめまいが出た場合は直ちに退出し、安静をとること。
・水分補給を怠ると脱水や電解質異常を招くため、十分に補水すること。

実践例(初心者向け・中級者向け)

初心者向け(安全第一)
1)準備:水分200〜300ml、体を洗う。
2)サウナ:下段で5〜8分(無理せず退出)。
3)水風呂:短時間(10〜30秒)またはぬるめのシャワーで代替。
4)外気浴:5〜10分の休憩。これを1セットで様子を見る。

中級者向け(慣れてきた場合)
1)準備:水分補給、軽いストレッチ。
2)サウナ:上段で8〜12分(個人差あり)。
3)水風呂:15〜90秒(温度により調整)。
4)外気浴:10〜15分休憩。これを2〜3セット繰り返す。

いずれの場合も、自分の呼吸・脈拍・めまいの有無に注意し、体調不良があれば中止する。

今後の展望(研究と実践の融合)

サウナ文化は日本国内で成熟段階に入りつつあり、今後は次のような方向が考えられる。

  1. 科学的エビデンスの強化:現時点では主観的報告や短期的生理指標の研究が多いが、長期的な健康アウトカム(心血管疾患リスク低下、慢性ストレス軽減、睡眠障害の改善)を評価する大規模コホートやランダム化比較試験が期待される。

  2. 個別化・医療連携:高齢者や持病のある人でも安全に温熱療法を活用できるよう、医療機関とサウナ施設の連携や個別処方的なプログラムの開発が進む可能性がある。

  3. 新しい体験の拡充:テントサウナや自然の中でのサウナ体験(山サウナ)など、ウェルネス観光との結びつきが進み、エビデンスベースで効果検証されたプログラムが増える。

  4. 安全基準と教育:施設での安全基準、利用者教育(適切な時間・水分補給・禁忌の周知)を整備することで事故リスクをさらに低減する必要がある。

まとめ

サウナで「心と身体を整える」ことは、自律神経の意図的なスイッチング(高温で交感神経を刺激し、急冷と休息で副交感神経へ導く)を利用した温冷交代浴に基づく。結果としてストレスの軽減、疲労回復、睡眠の質改善、皮膚状態の改善などのメリットが期待できる。日本では2020年代を通じてサウナ文化が一般化し、多様な利用形態と研究が進んでいるが、持病のある人や高齢者は特に無理をしないことが重要である。今後は科学的なエビデンスを強化し、安全かつ個別化されたプログラムの普及が望まれる。


参考文献(参照した主な資料)

  1. 日本サウナ総研「日本のサウナ実態レポート2025」などの年次報告。

  2. 温冷交代浴・サウナの生理学的研究(国内外の論文、温罨法に関する研究)。

  3. サウナと睡眠に関するレビュー・利用者調査(大規模レビューおよび個別研究)。

  4. 山サウナ・テントサウナに関する応用研究(群馬大学などの報告)。

  5. サウナの安全性に関する解説(日本の公的・業界情報、啓発記事)。

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