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コラム:水虫、驚きの感染ルート、「蒸れ」に注意

水虫は白癬菌という真菌による皮膚感染症であり、直接接触・間接接触を介して広がる。
足の裏(Getty Images)

水虫(医学的には足白癬)は日本国内でも有病率が高く、推定で5人に1人が感染しているとの報告がある。これは約2500万人規模の患者数に相当するとされる。症状はかゆみ、皮膚のただれ、水疱・ひび割れなど多様で、日常生活やスポーツ活動に影響を与え得るが、命に関わることは稀である。社会的には公衆浴場やスポーツ施設の利用機会の増加、共用スペースの環境変化により感染機会が一定程度維持されている。国内外の疫学的研究でも、足白癬は一般人口に広く分布する感染症であることが示されている。


水虫(白癬菌)とは

白癬菌( dermatophyte )は皮膚糸状菌の真菌であり、ケラチン(角質タンパク質)を栄養源として皮膚・爪・毛髪に寄生する能力を持つ。足白癬の主な原因菌はヒト好性の Trichophyton rubrumT. mentagrophytes であり、90%以上を占めるとされる。白癬には部位に応じて足白癬(いわゆる水虫)、股部白癬(いんきんたむし)、体部白癬(たむし)、頭部白癬などがある。白癬菌は高温・高湿環境で増殖しやすい。

白癬菌は宿主との適合性によりヒト好性・動物好性・土壌好性の3類型に分類される。足白癬の多くはヒト好性菌によるが、動物由来菌や土壌由来菌がヒトに感染する例も報告されている。


主な感染ルート

白癬菌の感染は直接接触感染と間接接触感染(媒介物感染)に大別される。直接感染は白癬患者の皮膚病変部と健常者の皮膚が接触する場合、間接感染は白癬菌が付着した鱗屑(皮膚の垢)や媒介物(床・マット・スリッパ・タオル等)を介して起こる。白癬菌は素足・湿潤環境で付着しやすく、皮膚の角質層に侵入・定着するまでに概ね12〜24時間程度の接触時間が必要と言われる。

重要なポイントとしては、白癬菌は付着してすぐに感染するわけではなく、長時間の高温多湿環境・皮膚損傷・宿主感受性が感染成立の鍵となる。


公共の場の「マット」と「床」

バスマット・足ふきマット

公共浴場・銭湯・サウナなどで利用されるバスマット・足ふきマットは、複数の感染者が素足で利用するため白癬菌の集積地となる。床面の湿度が高くなる条件下で、白癬菌は繁殖・蓄積しやすい。実際にこれらの施設では白癬菌が検出される頻度が高く、利用後に足に付着することが観察されている。

バスマット上に付着した白癬菌は足に移行し、休憩時間や更衣時に放置されると感染リスクが高まる。帰宅後に乾いたタオルでしっかり拭くことで付着菌数を大幅に減らせるというデータも示されている。

公共施設の床

プール更衣室・体育館・共用シャワールームなどでは、白癬菌が付着した皮膚鱗屑が床面に蓄積し、素足での歩行が感染機会を提供する。床面は湿潤であり、白癬菌が生存しやすいため、公共空間の環境衛生管理が感染制御に重要となる。


家庭内での「隠れた共有」

スリッパの共用

スリッパや室内用サンダルは、足裏の角質や皮膚鱗屑を介して白癬菌を蓄積する可能性がある。家庭内で複数人が共用する場合、白癬患者からの間接感染が起こり得る。特に素足での利用が一般的な地域文化の場合、このリスクは高まる。

タオル・寝具

タオルや寝具は白癬菌を含む皮膚片を保持することがある。共有使用により、菌が他者の皮膚に付着し、長時間放置されると感染の契機となる。使用後は個別に管理し、高温洗濯・乾燥 を行うことが望まれる。

洗濯物

白癬菌は洗濯物中にも残存し得るため、靴下やタオル、バスマットなどは他の衣類と分けて洗うことが推奨される。洗濯工程で十分な洗浄・乾燥が行われないと、再感染・家族内感染の原因となる可能性がある。


ペットや土壌からの感染

ペット(犬・猫)

白癬菌は動物由来菌株も存在し、特に犬や猫由来の白癬菌がヒトに感染する例が報告されている。これらの感染は通常、頭頸部や露出部位に特徴的な紅斑性皮膚病変を引き起こす。家庭内でペットと密接に接触する場合、白癬菌の伝播リスクが増加する可能性がある。

土壌

土壌好性の白癬菌は主に土壌中に存在し、農作業や屋外活動を介してヒト皮膚に付着することがある。ただし足白癬の場合、一般的な感染源としてはヒト好性菌によるものが大半であり、土壌由来感染は比較的まれである。


自身の体での「自己感染」

白癬菌は同一宿主内で部位間の伝播を起こすことがある。例えば、足白癬患者が手で掻破し、その手で他部位(手白癬・体白癬・いんきんたむし)に触れると、感染が広がることがある。特に爪白癬(爪水虫)は長期的な感染源となり、足白癬の再発・慢性化に関与する。


感染を防ぐポイント
  1. 衛生管理の徹底:足を清潔に保ち、入浴後はしっかり乾燥させる。

  2. 共用物の分離:タオル・スリッパ・足ふきマットは個別に管理し、共有を避ける。

  3. 環境衛生:公共施設利用後は足裏・指間を清潔にし、帰宅後にも拭き取りを行う。

  4. 靴・靴下管理:湿気のこもらない靴を選び、交互に履いて乾燥させる。

  5. 早期治療:家族内感染リスクを低減するため、白癬が疑われる場合は皮膚科での診断・治療を早期に開始する。


今後の展望

2026年時点での課題として、白癬菌の環境中での生存力・媒介物での持続性の詳細な定量的研究が不足している。公共施設の衛生基準と個人衛生行動の効果を評価する疫学的研究が進めば、より精緻な感染制御戦略が構築される可能性がある。また、動物由来菌株の疫学や抗真菌薬耐性株の動向について継続的なモニタリングが必要である。


まとめ

水虫は白癬菌という真菌による皮膚感染症であり、直接接触・間接接触を介して広がる。公共施設の床・マット、家庭内のタオル・スリッパ、ペット・土壌など多様な感染機会が存在する。感染には高温多湿環境・長時間の接触・皮膚損傷などが寄与するため、衛生管理と感染予防が重要である。家族内・コミュニティ内での早期治療および適切な環境管理が感染拡大防止に寄与する。


参考・引用リスト

  1. 日刊ゲンダイDIGITAL「5人に1人が感染『水虫』は『足白癬』という立派な病気だ!」(2020) — 水虫の有病率など。

  2. 公益社団法人日本皮膚科学会 Q&A「足白癬はどうやってうつるのですか?」(2025) — 公衆浴場・足ふきマット等での感染。

  3. KOMPAS 慶應義塾大学病院「水虫・たむし」 — 原因菌・家庭内感染の説明。

  4. 日本皮膚科学会 Q&A「白癬はどのようにしてうつるのですか?」 — 家庭内感染・動物からの感染。

  5. マルホ「水虫4コマ劇場」 — 感染機序・接触時間など。

  6. 日本皮膚科学会 Q&A「家庭内に白癬菌を持ち込まないようにするには?」 — 公共施設等での菌付着と対処。

  7. ミナカラ「水虫の原因と感染経路」 — 家庭内・公共施設での感染リスク。


水虫になりやすい人・習慣

皮膚環境・体質要因

水虫(足白癬)の発症には、白癬菌への曝露だけでなく、皮膚環境・体質要因が大きく関与する。白癬菌は角質層に定着し増殖するため、角質が厚い、汗をかきやすい、皮膚バリア機能が低下している人ほど感染が成立しやすい。

特に以下の条件は、複数の皮膚科学的研究で共通して指摘されている。

  • 足裏・足指間が蒸れやすい

  • 発汗量が多い

  • 皮膚が乾燥しやすく微細な亀裂がある

  • 免疫機能が低下している(高齢者、糖尿病患者、慢性疾患患者など)

糖尿病患者においては末梢循環障害や皮膚防御能低下により、足白癬および爪白癬の合併率が有意に高いことが報告されている。

生活習慣要因

生活習慣は白癬菌への曝露頻度と皮膚環境の双方に影響する。特に以下の習慣はリスク因子として確立している。

  • 長時間同じ靴を履き続ける

  • 通気性の悪い靴・合成皮革靴を日常的に使用

  • 靴下を頻繁に交換しない

  • 足を洗っても指の間を十分に乾燥させない

  • 公共浴場・スポーツ施設を頻繁に利用するが、足のケアを行わない

これらの習慣は、白癬菌が「付着→生存→侵入」するための条件を同時に満たすため、感染リスクを相乗的に高める。

心理・行動的要因

水虫は「恥ずかしい病気」「自然に治る」という誤解から放置されやすい。放置期間が長くなるほど角質内で菌が増殖し、爪白癬へ進展するリスクが高まる。爪白癬は治療期間が長期化し、再感染源となる点で重要な問題である。


女性は水虫になりやすい?

疫学データからの検討

日本および海外の疫学調査では、足白癬の有病率は男性の方が高いとする報告が一貫して多い。国内データでは、足白癬患者の男女比は概ね「男性6〜7割、女性3〜4割」とされる。

この差は生物学的な性差よりも、生活様式・行動様式の違いによる影響が大きいと考えられている。

女性特有のリスク要因

一方で、女性には以下のような独自のリスク要因が存在する。

1. 靴の構造的問題

女性用のパンプスやヒール靴は、通気性が低く、足指が密着しやすい構造を持つ。これにより足指間の湿度が高まり、白癬菌の生存条件が整いやすくなる。

2. ネイル・美容習慣

近年、フットネイルやジェルネイルの普及により、爪の異常に気づきにくくなるケースが増加している。爪白癬は変色や肥厚を起こすが、ネイルによって初期症状が隠され、発見・治療が遅れることがある。

3. 家庭内感染の役割

女性は家庭内でバスマットや洗濯、掃除などに関与する機会が多く、家族内感染の媒介者となる可能性が指摘されている。自らが無症状キャリアである場合でも、足裏に付着した菌を家庭内に拡散させるリスクがある。

総合評価

女性は男性より感染率が低いものの、感染に気づきにくく、慢性化・爪白癬化しやすい側面を持つと評価できる。したがって「女性は水虫になりにくい」という一般的イメージは、必ずしも正確ではない。


運動をする人は水虫になりにくい?

運動習慣と水虫リスクの二面性

運動習慣は一見すると健康的であり、水虫予防に有利に思われがちである。しかし実際には、運動は水虫リスクを下げる要素と上げる要素の両方を含む。

運動がリスクを高める要因

以下の条件が重なる場合、運動習慣は水虫リスクを上昇させる。

  • 発汗量の増加

  • 長時間のシューズ着用

  • スポーツ施設・更衣室・シャワールームの利用

  • 足指間の摩擦や微小外傷

特にランナー、サッカー選手、格闘技・武道実践者では、足白癬および爪白癬の有病率が一般人口より高いとする報告が存在する。

運動がリスクを下げる要因

一方、適切な運動習慣は以下の点で防御的に作用する。

  • 末梢血流の改善

  • 皮膚代謝・ターンオーバーの促進

  • 免疫機能の維持

さらに、運動後に「足を洗う・乾燥させる・靴をローテーションする」などのセルフケアを習慣化している人では、白癬菌が付着しても感染が成立しにくい。

重要なのは「運動後の行動」

複数の専門家が指摘する通り、水虫リスクを左右するのは運動そのものではなく、運動後の足の管理である。同じ運動量でも、ケアの有無によって感染率に大きな差が生じる。


追記まとめ
  • 水虫になりやすさは「曝露×皮膚環境×行動習慣」の積で決まる

  • 女性は感染率こそ低いが、気づきにくく慢性化しやすい

  • 運動はリスク因子にも防御因子にもなり得る

  • 決定的要因は日常の足ケアと環境管理である

水虫は「不潔さ」の問題ではなく、生活構造と微生物生態の相互作用による感染症であるという理解が、予防と早期治療の第一歩となる。


日本における水虫の歴史

江戸時代以前:水虫は「稀な皮膚病」だった

水虫(足白癬)は、現代日本では極めて一般的な皮膚感染症であるが、歴史的には比較的新しい国民病である。江戸時代以前の医書や随筆、民間療法の記録には、現在の足白癬に明確に該当する記述はほとんど見られない。

当時記録されていた皮膚病の多くは、疥癬、湿疹、癬(ぜん)と総称される病変であり、足指間の慢性的な白癬感染を示す記録は限定的である。これは以下の生活環境要因によると考えられている。

  • 草履・下駄など通気性の高い履物

  • 畳や土間中心の生活様式

  • 素足生活による乾燥環境

  • 長時間靴を履き続ける習慣の欠如

白癬菌は高温多湿環境を好むが、足が蒸れ続ける環境自体が存在しなかったため、感染が成立しにくかったと推察される。

明治〜昭和初期:靴文化とともに広がる

水虫が日本で明確な疾患として認識され始めたのは明治期以降である。軍隊制度の導入、西洋式革靴の普及、長時間の靴着用が始まったことで、足白癬の発症例が急増した。

特に旧日本軍においては、足白癬は「兵士の職業病」として問題視された。軍医の記録には、行軍中の足白癬が歩行障害や二次感染を引き起こした例が多数報告されている。

昭和初期から中期にかけて、都市化・サラリーマン文化の定着により、一般市民にも水虫が拡大した。戦後の高度経済成長期には、革靴・ナイロン靴下・集合住宅・公衆浴場の利用増加が重なり、水虫は国民的皮膚病として定着した。

現代日本:慢性疾患としての定着

2026年時点の日本では、水虫は「治療可能だが放置されやすい慢性疾患」として存在している。医療アクセスが良好であるにもかかわらず、自己判断・市販薬依存・治療中断が多く、完全治癒率は必ずしも高くない。

日本における水虫の多さは、不潔さではなく、生活様式の進化が生んだ感染症と位置づけるのが妥当である。


世界の水虫事情

温帯・先進国で多い水虫

世界的に見ると、足白癬は以下の地域で有病率が高い。

  • 日本

  • 欧州諸国

  • 北米

  • オーストラリア

これらに共通する要因は、

  • 靴を長時間履く文化

  • 公共施設(ジム、プール、ロッカー)の利用

  • 合成素材の靴・靴下

  • 高齢化

である。特に欧州では、足白癬と爪白癬の併存率が高く、高齢者施設での集団感染が問題視されている。

熱帯=水虫が多いは誤解

直感的には「高温多湿の熱帯ほど水虫が多い」と考えられがちだが、実際の疫学データは単純ではない。熱帯地域では体部白癬や頭部白癬は多いが、足白癬は必ずしも高頻度ではない。

理由として以下が挙げられる。

  • サンダル・裸足文化

  • 靴を履く時間が短い

  • 足が常に乾燥しやすい

  • 屋内外の湿度差が小さい

つまり「湿度」よりも「蒸れ」が重要である。

地域別の白癬タイプの違い
地域多い白癬
日本・欧米足白癬・爪白癬
アフリカ頭部白癬
南アジア体部白癬
中南米体部・股部白癬

白癬菌は地域ごとに「主戦場」が異なり、文化・衣類・生活様式が感染部位を決定づけている。


発展途上国に水虫なし?

結論:足白癬は少ないが、白癬は多い

「発展途上国には水虫がない」という言説は、半分は正しく、半分は誤りである。

正確には、

  • 足白癬(いわゆる水虫)は少ない

  • 体部白癬・頭部白癬は多い

という構造である。

なぜ足白癬が少ないのか

主因は以下の通りである。

  • 靴を履かない、または短時間のみ

  • 通気性の高い履物

  • 足を洗う文化が日常化している

  • 土壌接触が多く皮膚ターンオーバーが活発

特に裸足文化では、白癬菌が足に付着しても定着前に脱落しやすい。

代わりに多い「別の白癬」

一方で、発展途上国では以下の感染症が社会問題となっている。

  • 子どもの頭部白癬(集団感染)

  • 体幹部の広範囲白癬

  • 動物由来白癬

これらは衛生環境、医療アクセス、治療中断の問題と深く関係している。

「水虫が文明病」と言われる理由

足白癬はしばしば「文明病」と表現されるが、これは以下の特徴を持つためである。

  • 靴文化と不可分

  • 都市化とともに増加

  • 高齢化で慢性化

  • 医療があっても減らない

皮肉にも、生活の快適化が白癬菌に最適な生態系を提供した結果といえる。


最後に

水虫(足白癬)は、単なる感染症ではなく、

  • 歴史

  • 文化

  • 衣類

  • 建築

  • 都市構造

と密接に結びついた「生活史的疾患」である。

日本で水虫が多いのは特異ではなく、同様の生活様式を持つ社会では必然的に発生する現象である。逆に、水虫の少ない社会は「清潔」なのではなく、白癬菌が定着できない環境構造を持っているにすぎない。

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