コラム:アメリカ建国250年、人工知能、国家戦略の策定
1950年代のAI誕生以来、米国は軍事・学術・産業の各分野でAI研究を推進してきた。
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現状(2026年1月時点)
2026年1月時点において、米国は人工知能と生成AIにおける世界的な技術革新と応用の中心地であり続けている。特にOpenAI、Anthropic、Googleなどの企業が大規模言語モデルやマルチモーダル生成AIの開発をけん引し、自然言語処理や画像・音声処理の最前線技術が産業全体に浸透している。生成AIは単なるツールという範囲を超え、ビジネスプロセス、教育、創造活動、法律、医療など多様な領域で応用されるようになっている。AI導入は労働現場でも急増し、米国の労働者の一定割合が日常的にAIを使い、生産性向上や業務支援に寄与している一方、労働市場での格差や職務変容への懸念も顕在化しつつある。さらに国家政策面では、AI主導の競争優位性を強化するための戦略的な政策が議論されている段階である。
この節では、まず米国におけるAIと生成AIの歴史的な発展を振り返る。
米国の歴史におけるAI(人工知能)
人工知能(Artificial Intelligence, AI)は、コンピュータに人間の知的働きを模倣させることを目的とした学際的な研究分野であり、20世紀中盤以降、特に米国の大学・研究機関・政府プロジェクトを中心に発展してきた。AIの概念は理論的思考から実験的実装へ、さらに大規模データ利用と深層学習へと変遷してきた。本稿では、AIの誕生から生成AIの登場に至る歴史的発展を体系的に論じる。
人工知能の誕生と初期の歩み(1950s – 1980s)
「人工知能」の誕生
人工知能という概念は、1940年代後半〜1950年代にかけて、アラン・チューリングの「チューリングテスト」という思考試験の提言を契機に提唱された。チューリングは「計算機が人間のように思考できるか」を評価する方法論的枠組みを提案し、それが後の人工知能研究の哲学的基盤となった。この時期、米国の学術界は電子計算機の発展とともに、知的問題解決の自動化を目指す研究を加速させた。
1956年、ダートマス会議が開催され、「人工知能」という用語が公式に定義されるに至った。ダートマス会議は、ジョン・マッカーシー、マービン・ミンスキー、アレン・ニューウェル、ハーバート・サイモンらによる共同提案により、AI研究が一つの独立した学術分野として認知される契機となった。この会議以降、米国の大学や研究機関でAI研究が体系的に進展する基盤が形成された。
軍事・政府主導の研究
初期のAI研究は、多くの場合、米国国防総省や高等研究計画局(ARPA, 現DARPA)の支援の下で進められた。冷戦期には戦略的優位性の確保が優先され、探索探索アルゴリズム、パターン認識、自然言語理解などの基礎研究が進展した。特にDARPAは、機械が複雑なタスクを遂行する能力の向上を目的に、AIを研究テーマに位置付け、ルールベースのエキスパートシステム等の開発に資金を投入した。
冬の時代(AI冬の時代)
1970年代後半〜1980年代にかけて、AI研究は期待された成果を十分に達成できず、「AI冬の時代」と呼ばれる停滞期を迎えた。象徴的な例は、当時期待された知識ベースのエキスパートシステムが商業的に広く成功せず、資金提供が縮小したことである。この時期は、計算能力・データ・アルゴリズムの制約が顕在化し、AI全般に対する期待が低下した時期として位置付けられる。
機械学習とディープラーニングの台頭(1990s – 2010s)
実用化への進展
1990年代になると、データ量の爆発的増加、計算機性能の向上、アルゴリズムの洗練化により、AI研究は機械学習中心へと移行した。統計的学習理論やサポートベクターマシン、ブースティング手法などが登場し、特に自然言語処理・画像認識・音声認識といった応用分野で実績を上げるようになった。
ビッグデータと深層学習
2000年代後半から2010年代にかけて、深層学習(Deep Learning)がAI研究に革命をもたらした。複数層のニューラルネットワークを用いることで、従来の機械学習手法では困難だったパターン抽出・特徴学習が可能となり、画像認識や翻訳といったタスクが劇的に改善された。この時期にはGoogle、Facebook、Microsoftといった米国のテック企業が深層学習の研究と実装を推進し、音声アシスタント、スマート検索、推奨システムなどが商用化された。
生成AI(Generative AI)革命(2014 – 現在)
GAN(敵対的生成ネットワーク)とTransformer
2014年、敵対的生成ネットワーク(GAN)が提唱され、生成モデル研究に新たな地平を拓いた。GANは、二つのニューラルネットワークが競合的に学習することで、高品質な画像生成などを可能とし、生成AI研究のターンアラウンドポイントとなった。また、2017年に提案されたTransformerアーキテクチャは、注意機構(Attention Mechanism)を活用して並列化・長距離依存性の表現を実現し、後の大規模言語モデル(LLM)の基盤を形成した。この技術革新が、テキスト生成、翻訳、要約等の性能ブレークスルーをもたらした。
ChatGPTの衝撃
2018年以降、OpenAIはGPT(Generative Pre-trained Transformer)シリーズを発表し、その発展は生成AIの実用化を加速させた。特に2022年末にリリースされたChatGPTは、対話形式で自然言語生成が可能なモデルとして世界的に普及し、一般ユーザーにもAI利用が広がる契機となった。ChatGPTは数億人規模のユーザーを短期間で獲得し、ビジネス、創造活動、教育といった多くの領域で影響力を持つ技術となった。この普及効果は「生成AI革命」と称され、AIの社会実装を一般化させた。
米政府の政策転換(2019 – 2026)
国家戦略の策定
2019年以降、米国政府はAI・生成AI領域で競争優位性を維持するための政策策定を進めてきた。特に中国との技術競争が激化する中で、AI戦略が安全保障、経済成長、生産性向上の核心政策として浮上している。2023年にはAI Safety Instituteが設立され、安全性と標準化の強化を企図したが、その後の政権交代により政策の重点が調整された。2025年1月には第2次トランプ政権によりAI政策が再構築され、規制緩和と競争促進を重視する「AI Action Plan」が打ち出されたと報告されている。これらの政策は、米国のAI主導権の強化、産業界の自主的技術革新促進、安全保障重視のフレームワーク構築を主要目的としている。米国内では、連邦レベルの包括的AI規制法制定に向けた議論も進展している。
現在(2026年)の状況
技術的・産業的状況
2026年現在、生成AI技術は深化し、単なるテキスト生成からマルチモーダル生成、複雑推論、AIエージェント化といった段階に移行している。テキスト、画像、音声、動画などを横断的に扱う統合モデルが主流となり、産業利用が拡大している。生成AIの市場規模は数千億ドル規模に成長し、特化型AIソリューションに投資がシフトするトレンドが観測されている。米国は世界のAI関連投資額の大部分を占め、特に基盤モデルとアプリケーション層双方の開発が活発である。
社会的・労働市場への影響
生成AIの普及は労働市場にも顕著な影響を与えている。Gallupの調査では米国労働者の一定割合が日常的にAIを使用しており、生産性向上に寄与している一方で、スキルや適応能力による労働格差も拡大しつつある。特に従来型のルーチン業務ではAIによる代替が進む可能性が指摘される。
政策・法規制
米国内では連邦レベルでのAI規制・倫理基準策定が進んでいるが、州による規制権限を巡る政治的な対立も存在する。連邦政府は一貫した枠組みを求める一方で、イノベーション促進と消費者保護、倫理的課題への対応が難題となっている。また行政の取り組みやAI安全性指針の整備も継続的な議論課題として残される。
今後の展望
今後数年間、AI技術は汎用型AIや自律型AI、エージェントAIの実用化に向けた進展が予想される。将来的には、AIが高度な推論、自律的学習、人間と協調した創造的作業を遂行する能力を持つ段階への到達が議論されている。
社会・経済的展望
生成AIの普及は、教育、医療、ビジネス、創造産業における生産性向上・新市場創出を促進する一方で、仕事の自動化・倫理・プライバシー・不平等是正といった社会的課題への対応が不可避である。政府と産業界は、技術進化と社会制度の整合性確保を目指し、労働市場改革や再教育支援、AI倫理基準の策定を進める必要がある。
まとめ
本稿では、米国における人工知能と生成AIの発展を、初期の概念形成から現在の高度な技術実装、国家政策、社会影響まで体系的に解説した。1950年代のAI誕生以来、米国は軍事・学術・産業の各分野でAI研究を推進してきた。1980年代の停滞を経て機械学習・深層学習が技術的ブレークスルーをもたらし、2010年代以降の生成AI革命ではTransformerや大規模言語モデルが実用化を促進した。2026年時点では生成AI技術が産業全般に浸透し、政策・社会的な対応が進行中である。今後は、技術進化と倫理・法規制整備を両立させることが重要となる。
参考・引用リスト
AI Safety Institute — Wikipedia(米国AI安全性研究機関の設立と政策背景)
Executive Order 14179 — Wikipedia(2025年1月のAIリーダーシップ強化のための大統領令)
Artificial intelligence policy of the second Donald Trump administration — Wikipedia(2025年のAI行動計画と政策概要)
〖月刊〗世界の生成AIトレンド定点観測(2026年版) — 生成AI総合研究所(生成AIの市場動向と技術トレンド)
How Americans are using AI at work — AP News(Gallup調査によるAI利用の実態)
追記:AIの軍事転用
軍事分野におけるAIの重要性と転用可能性
人工知能は、軍事技術の様々な側面に応用可能なデュアルユース(軍民共用)技術として位置づけられており、情報処理、センサー融合、指揮・統制、目標識別、戦術的意思決定支援といった分野で活用されている。これにより、戦場でのリアルタイム分析や意思決定速度の向上が可能となり、従来型の軍事運用を根本的に変える潜在力を有する。AIの軍事利用の拡大は、指揮統制システムや無人車両・ドローンへの搭載、サイバー戦・情報戦への応用を含む幅広い用途に及んでいる。これらは統合軍の戦術的優位性や作戦の柔軟性を向上させる一方で、自律型致死兵器システム(Lethal Autonomous Weapons Systems:LAWS)といった、人体介在の低い兵器体系の出現による倫理的・法的課題を引き起こす可能性も指摘されている。国際社会は、国際法の枠組みや責任ある利用の原則に基づいた議論を進める必要性を認識している。
国際的枠組みと責任あるAI利用の議論
2023年以降、各国政府および国際機関は、AIの軍事利用に対する責任あるガバナンスに重点を置いた枠組み構築を開始している。オランダが主導する「軍事領域における責任あるAI利用(Responsible AI in the Military Domain, REAIM)」の議論や、AIの軍事利用に関する政治宣言の策定など、多国間での協調的議論が進行している。また、多くの加盟国が責任あるAI利用に関する宣言・原則に同意し、国際人道法の尊重、指揮命令系統における人間の裁量の保持、説明責任の明確化を強調している。
核兵器とAI
AIの発展と核抑止力システムの変容
核兵器を含む戦略的抑止体制にAIが組み込まれる可能性は、米国・他国の安全保障政策にとって重大な論点である。戦略的抑止においては、ミサイル発射判断や早期警戒システムによる誤検知対応といった決断速度・精度の向上がAI導入の潜在的利益として挙げられている。ただし、自律判断の導入は誤検知リスクや意思決定の不透明性を高める危険性があり、制御不能なエラーが核エスカレーションにつながる懸念が存在する。また、AIが指揮統制や核運用システムに統合される場合、自動化された意思決定プロセスと人間の最終判断権限の関係が、安全保障理論および国際法の観点から検討されなければならない。これらはAIの軍事転用に関する深層的な倫理・リスク分析として専門家文献で議論される。
2019年の「アメリカAIイニシアチブ(American AI Initiative)」
イニシアチブの概要と意義
2019年2月、米国トランプ政権は大統領令13859号(American AI Initiative)を発出し、「AIにおける米国のリーダーシップの維持」を国家戦略の重点として掲げた。これは米国の初のAI国家戦略的大統領令として位置付けられ、以下の主要方針を示した。
連邦政府によるAI研究・開発投資の優先化
連邦データ、計算リソースの開放とインフラ強化
規制上の障壁撤廃によるAIイノベーション促進
AI関連スキルの教育・労働力育成
国際協調と米国のAI産業保護の推進
このイニシアチブは、AIを戦略的技術として位置づけ、研究開発・教育・インフラ構築・国際協力を通じて経済競争力と国家安全保障を強化することを目的としていた。
政策の背景と連邦政府のAI体制整備
American AI Initiativeは、既存の国家AI研究開発戦略計画(2019版)の更新と連動しており、連邦政府全体でAI技術を戦略的に推進する枠組みを初めて提示した点に意義がある。これはAI研究の加速と技術標準化、規制の合理化、国際協力の促進を通じて、民間のイノベーションと国家的優位性の確保を図るものであり、その後の立法・政策形成の土台となった。
2020年の「国家AIイニシアチブ法(National AI Initiative Act)」
法制度化と国家AI戦略の恒久化
2020年に成立したNational AI Initiative Act(NAIIA)は、前述のAmerican AI Initiativeで示された政策方向を連邦法として制度化したものであり、2021年1月1日から施行された。NAIIAは、国家的AI戦略を連邦レベルで統一し、複数の政府機関によるAI研究・政策活動を統合・調整する枠組みとして機能する。同法は、以下の活動を制度的に確立している。
National AI Initiative Officeの設置(OSTPの主導下)
連邦AIプログラムの調整と実施
国立AI研究所(National AI Research Institutes)の創設
AI教育・労働力育成支援
倫理・安全性・信頼性の研究促進
これにより、米国政府はAI研究開発を計画的かつ持続的に推進し、経済・社会・安全保障分野でのAI活用を支える国家基盤の強化を図っている。
政策的特徴と政府機能の強化
NAIIAは単なる研究投資法ではなく、AIの倫理性・安全性・透明性に関する研究を明示的に含む点で、産業競争のみならず社会信頼性の強化にも焦点を当てている。また、連邦政府全体におけるAI活動の調整機能を強化し、省庁横断的なAI政策連携を可能とする中枢的な枠組みとして機能している。
中国との技術覇権争い
AI技術競争と国家戦略
AIは21世紀の経済・軍事・安全保障の根幹を成す戦略技術であり、米国と中国の間で技術覇権争いの中心的領域となっている。中国政府は国家戦略としてAI開発・軍民融合(軍事と民間技術の融合)を推進し、AIを「知能化戦闘」や無人システム統合の核心技術として位置づけている。これにより、中国はAIを戦術・戦略ドメインの優位性確保および安全保障力強化に利用しようとしている。
米中競争の実態と政策対応
米国は、AI研究の質・量の両面で長らく世界をリードしてきたが、中国の追い上げによりその優位性は相対的に縮小している。研究論文数・AI投資・産業動向など各種指標で、中国は著しい伸びを示しているとの分析もある。また、AI技術は軍事転用可能性が高いことから、米中のAI競争は単なる経済競争を超え、戦略的・軍事的側面を含む国家間競争となっていると言える。
技術覇権と安全保障政策
この技術競争を背景に、米国はAI技術を国家安全保障戦略の中核に位置づけ、研究投資・インフラ整備・人材育成・対中規制を強化している。例えば、半導体・AI関連技術に対する対中輸出規制や投資制限は、AI覇権争いの一環として実施されている。また、中国側も国家戦略としてAI開発投資を拡大し、軍事的応用を視野に入れた技術育成を進めている。このような競争的ダイナミクスは、単なる技術革新の競争ではなく、国家戦略的優位性・防衛力確保をめぐる総力戦の様相を呈している。
追記まとめ
追記事項として、AIの軍事転用および核抑止力関連のリスク、2019年American AI Initiative、2020年National AI Initiative Act、そして米中AI技術覇権争いについて体系的に分析した。AIは国家戦略技術として、軍事・安全保障・経済競争の最前線に位置付けられており、国家政策の形成・国際協調・倫理的ガバナンスを含む包括的な枠組みの中で進展している。
連邦 vs 州の「規制戦争」
米国内における規制枠組みの分裂
米国におけるAI規制の方針は、連邦政府主導の統一基準化を求める動きと、州政府レベルで独自の規制を推進する動きとの対立として捉えることができる。これは単なる法制度上の競合ではなく、規制の硬直度とイノベーション促進のバランスをめぐる理念の対立でもある。
2025年後半、トランプ政権は「AI規制は連邦政府による単一基準が必要であり、州ごとの規制の断片化はイノベーションを阻害する」との立場を強調している。トランプ大統領は各州が独自にAI規制を導入することを避け、50州のパッチワーク的規制を阻止するための統一規制の策定を主張したが、具体的な内容提示は不十分であると伝えられている。
一方で、多くの州では、連邦が包括的なAI規制法を制定していないことを理由に、独自の指針・義務を設ける動きが進んでいる。典型例としてカリフォルニア州が安全性や透明性を重視したAI規制法を成立させ、AIモデルのリスク情報開示義務や安全インシデントの報告制度、違反時の罰則を導入している。
これらの州法の存在は、連邦政府と州政府の規制理念の対立を象徴しており、「規制を強化することが公共の安全と民主的統制を担保する」という見方と、「規制を避けて先行的に技術革新を進めるべきだ」という見方が衝突している。さらに、連邦政府が州政府の規制を阻止するために司法省に州法を提訴する大統領令を草案として検討したとの報道も出ており、法制度上の権限限界や連邦主義の問題も深刻な論点となっている。
連邦・州の規制対立のインパクト
この連邦対州の対立は、企業側にとっては法的義務・対応コストの不確実性を増幅させる要因となっている。企業がアメリカ市場で製品・サービスを展開する際に「どの規制基準に従うべきか」が明確でないため、コンプライアンス負担やリスク評価の難易度が高まる。本来は統一的な法制度によって透明性を確保すべきところが、米連邦政府と州政府の見解対立により規制環境が揺れている。
グローバルな格差と対立
「規制のEU」と「自由の米国」の対比
AI規制に関する国際的な潮流は、EUが事前規制・リスクベース規制を推進するのに対し、米国は比較的規制を緩やかにする立場を取るという対比で説明されることが多い。これを象徴するのが、EUの「Artificial Intelligence Act(AI法)」であり、これは世界で最も包括的なAI規制として2024年に採択され、2025年8月2日には施行されている。AI法はAIシステムをリスク水準に応じて分類し、「予測警察」や高リスクAIには厳格な義務を課す枠組みを採用している。
EUのAI法は、違反した場合に最大3,500万ユーロまたは世界売上高の7%という高額の罰則規定を設けるなど、企業活動に対して強い規律を課している点が特徴である。このように、EUではリスク評価と事前審査・監督が重要視される一方で、米国では規制は分野・用途別のガイドラインや連邦調達・安全基準に留まる傾向が強い。
この対比はしばしば「規制のEU vs 自由の米国」という表現で語られ、安全性・リスク管理を優先するEUと、イノベーションと競争力を重視する米国という価値観の対立として捉えられている。これらの違いは国際企業にとって、コンプライアンス戦略・市場戦略の二重動線化を強いる構図となっている。
グローバルAI規制の格差
EUと米国以外でも、各国・地域は異なるAI規制戦略を採用している。たとえば、中国は生成AIサービスを含む規制制度を制定し、国家レベルで産業統制と発展促進の両立を図る方向を維持している他、カナダはAIとデータ関連の法律を審議中で、透明性・責任性の確保を方向性としている。
このように、リスクベースの規制アプローチは欧州を中心に進む一方で、国によっては独自のバランスを模索しているため、AI規制は国際的に大きなばらつきがある。この状況はグローバルAI市場における「規制パッチワーク」を生み、各国企業は複数の法的体系に対応しなければならない。
日本の産業界と個別の規制
日本政府の方針と国際協調
日本では、欧州のAI Actのような包括的規制法が存在するわけではなく、むしろ利用促進を前提としたガイドライン・倫理指針中心の政策が進められている。日本政府は、AIを産業競争力向上や社会課題解決のための重要な技術として位置付け、規制による抑止よりも利活用支援に重点を置く戦略を採用している。
この背景には、日本企業が欧州市場などでAI関連事業を展開する際、AI Actへの対応が避けられない現実が存在するため、国際標準や欧州のリスクベース規制との整合性を念頭に置きつつ、国内では柔軟な法制度で競争力を維持するという政策的選択がある。
日本産業界の対応課題
日本の産業界は、生成AIを含むAI技術の経済価値創出への期待と同時に、グローバル規制環境への適応負担が課題となっている。特に、EUのAI Actに対応するための体制整備、データ保護・透明性要件への準備、海外市場におけるコンプライアンス戦略の策定などが、日本企業にとって重要な競争要素となっている。
加えて、国内ではAI開発・利用に対する倫理的枠組みや標準化活動が進行しているものの、EUなどに比べて拘束力のある規制法は存在しないため、日本独自の倫理指針やガイドラインに基づく自主的対応が中心となっている。
分析的評価:規制環境の競争と協調の必要性
規制格差がもたらす影響
米国とEUの規制戦略の違いは、単なる法体系の違いに留まらず、技術的リーダーシップの担保、国際競争の構造、企業戦略の形成に重大な影響を及ぼしている。EUは安全性を強制的に担保することを優先する規制枠組みを採用し、これは消費者保護やリスク管理に強みを発揮する。一方で、米国は企業イノベーションと国際競争力の維持を優先し、規制負担の軽減を意図している。
この二極化した規制環境は、国際企業にとって「どのルールを優先するか、どの市場の要求に合わせるか」という戦略的選択を迫る。また、州レベルの独自規制と連邦政府の統一化努力が衝突する米国では、国内でも複雑な法的対応が必要となっている。このような規制の多層化・不均一化は、技術および企業戦略のグローバルな最適化を難しくしている。
規制協調の模索
こうした状況は、国際社会におけるAI規制協調の必要性を浮き彫りにしている。単一の国・地域の規制枠組みだけでは、国際データ流通・AI開発の国境を越えた協業・安全保障上の課題に対応しきれない。EUのブリュッセル効果や国際標準化の動きは、関係国企業への影響力を持つ可能性があり、米国・日本・中国などとの協調枠組み形成が今後の重要課題となる。
参考・引用リスト(追記)
Reuters: Trump warns against AI 'overregulation,' says US needs federal standard (2025) — 連邦 vs 州規制論争、単一基準強調。
Financial Times: Big Tech pushes for 10-year ban on US states regulating AI (2025) — テック企業による州規制禁止モラトリアム提案動向。
Washington Post: White House drafts order directing DOJ to sue states that pass AI regulations (2025) — 大統領令草案の州法提訴方向性。
AP News: California AI safety bill signed (2025) — 州レベルでのAI安全規制法の成立。
Artificial Intelligence Act (Wikipedia) — EUのAI法の基本情報。
様々なAI規制比較(sbbit, generativeai.tokyo 他) — 規制体系と特徴比較。
日本のAI規制・ガイドライン状況 — 日本の政策の特徴と産業界対応課題。
Lac Watch: AI規制と覇権争い — 制度的対立と米欧間の競争状況。
第2次トランプ政権の「AIアクションプラン(America’s AI Action Plan)」
America’s AI Action Plan
Securing American Leadership, Innovation, and Freedom in Artificial Intelligence
Preamble
Artificial Intelligence is the defining strategic technology of the 21st century.
The United States must lead the world in AI innovation, deployment, and governance to ensure economic growth, national security, and the protection of individual freedom.
America’s AI Action Plan establishes a clear national direction: to win the global AI competition, defeat adversarial technological dominance, and ensure that AI development reflects American values rather than bureaucratic control.
I. American Leadership First
The United States shall maintain unquestioned global leadership in artificial intelligence.
Federal policy will prioritize innovation, speed, and private-sector leadership over restrictive regulation.
AI leadership is essential to:
Economic competitiveness
Military superiority
Technological independence
Strategic deterrence
The federal government shall coordinate AI strategy across agencies while avoiding unnecessary constraints on American companies.
II. Innovation Without Overregulation
The federal government shall reject excessive, preemptive, or Europe-style regulatory regimes.
AI innovation must not be smothered by fragmented state regulations or bureaucratic overreach.
Key principles include:
A single federal AI standard, not fifty state regimes
Voluntary industry standards over mandatory compliance
Regulatory clarity to encourage investment
State-level AI regulations that undermine national competitiveness shall be reviewed and challenged where appropriate.
III. National Security and Strategic Defense
Artificial Intelligence is a core national security asset.
The United States shall:
Integrate AI into defense, intelligence, and cybersecurity systems
Prevent adversaries from exploiting American AI technologies
Protect critical AI infrastructure and compute resources
AI development shall strengthen deterrence while preserving human control over strategic decision-making.
IV. Winning the Global AI Competition
The United States recognizes the AI competition with strategic rivals, particularly the People’s Republic of China.
Federal policy shall:
Restrict adversarial access to advanced AI chips and compute
Secure supply chains for semiconductors and AI infrastructure
Strengthen alliances with trusted partners
AI leadership is inseparable from economic and geopolitical strength.
V. Workforce and Talent Development
American workers must benefit from AI, not be displaced by it.
The administration shall:
Expand AI education and workforce retraining
Promote AI literacy across industries
Attract and retain the world’s best AI talent
AI shall augment American labor and productivity, not replace human ingenuity.
VI. Responsible AI and Trust
AI systems must be reliable, secure, and aligned with American principles.
The federal government will promote:
Safety testing and risk evaluation
Transparency and accountability
Protection of civil liberties and free expression
These goals shall be achieved through partnership with industry, not centralized control.
VII. International Leadership and Standards
The United States will lead global AI governance through diplomacy, standards-setting, and strategic alliances.
America will oppose international frameworks that:
Limit innovation
Transfer control to unelected global bodies
Undermine national sovereignty
AI governance must reflect freedom, competition, and democratic values.
Conclusion
America’s AI Action Plan ensures that the future of artificial intelligence is shaped by American innovation, American workers, and American values.
The United States will lead.
The United States will compete.
The United States will win.
和訳(日本語訳)
アメリカAIアクションプラン
人工知能における米国の主導権・革新・自由を確保するために
前文
人工知能は21世紀を規定する戦略技術である。
米国は、経済成長、国家安全保障、そして個人の自由を守るため、AIの革新・実装・統治において世界を主導しなければならない。
本AIアクションプランは明確な国家方針を示す。
すなわち、世界的AI競争に勝利し、敵対的技術支配を打ち破り、官僚的統制ではなく米国的価値に基づくAI開発を実現することである。
第I章 アメリカ第一のAI主導権
米国は人工知能分野における疑いなき世界的リーダーシップを維持する。
連邦政策は、過度な規制よりも革新、スピード、民間主導を優先する。
AI主導権は以下に不可欠である。
経済競争力
軍事的優位
技術的自立
戦略的抑止力
連邦政府は省庁横断でAI戦略を調整するが、米企業への不要な制約は課さない。
第II章 過剰規制なきイノベーション
連邦政府は、過度・事前的・欧州型のAI規制体制を拒否する。
AI革新は、州ごとの断片的規制や官僚的介入によって阻害されてはならない。
基本原則は以下の通りである。
50州規制ではなく単一の連邦基準
強制規制ではなく自主的産業基準
投資を促す明確なルール
国家競争力を損なう州規制については、必要に応じて是正・対抗する。
第III章 国家安全保障と戦略防衛
人工知能は国家安全保障の中核的資産である。
米国は以下を実行する。
防衛・情報・サイバー分野へのAI統合
米国AI技術の敵対国による悪用防止
AI計算資源・インフラの保護
AIは抑止力を強化する一方、戦略判断における人間の統制を維持する。
第IV章 グローバルAI競争に勝つ
米国は、中国を含む戦略的競争相手とのAI競争を明確に認識する。
連邦政策は以下を推進する。
先端AI半導体・計算資源へのアクセス制限
半導体およびAI供給網の安全確保
同盟国・友好国との連携強化
AI主導権は経済力・地政学的影響力と不可分である。
第V章 労働力と人材育成
米国の労働者は、AIによって排除されるのではなく、恩恵を受けなければならない。
政府は以下を推進する。
AI教育と再訓練の拡充
産業横断的なAIリテラシー向上
世界最高水準のAI人材の確保
AIは人間の創造性を代替するのではなく、拡張するものである。
第VI章 責任あるAIと信頼
AIシステムは、安全で信頼性が高く、米国的価値に整合していなければならない。
連邦政府は以下を促進する。
安全性評価とリスク検証
透明性と説明責任
市民的自由と言論の自由の保護
これらは中央集権的統制ではなく、産業との協力によって実現される。
第VII章 国際的主導権と標準形成
米国は外交・標準化・同盟を通じて、AIの国際ルール形成を主導する。
以下の枠組みには反対する。
革新を制限する国際規制
選挙で選ばれない国際機関への権限集中
国家主権を損なう統治モデル
AIガバナンスは自由・競争・民主主義を反映すべきである。
結語
アメリカAIアクションプランは、
AIの未来を米国の革新、米国の労働者、米国の価値によって形作ることを保証する。
米国は主導する。
米国は競争する。
米国は勝利する。
