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コラム:高市政権2026、農業・コメ政策

第2次高市政権における農業・コメ政策は、従来の拡大型農政から転換し、需給調整・経済安全保障・市場原理を融合した戦略的政策体系を目指すものである。
高市首相(ロイター通信)
現状(2026年2月時点)

2025年10月に成立した高市内閣は、発足直後から農業・コメ政策に関わる大きな政策転換を打ち出している。農林水産省は、2026年産主食用米の生産量見通しを711万トンと、2025年から約5%減とする計画を示した。この減産方針は、政府の長年の政策である需給調整・需給ギャップへの対応として示されたもので、従来の増産路線からの明確な転換点となっている。国内の主食用米生産量は過去の政策により抑制されてきた歴史があり、その結果、2024年以降の米不足や価格高騰をきっかけに市場混乱が生じている。これを受けた新政権の舵取りが、どのような理念と構造的な意図に基づくものかが現在の最大の課題である。


2月8日の衆議院選挙

2026年2月8日に実施された衆議院選挙では、自由民主党と連立パートナーである日本維新の会が圧勝し、与党で衆議院の3分の2を超える議席を獲得した。この歴史的勝利は、高市首相が掲げた経済安全保障や積極的な経済政策に対する有権者の支持を反映したものと評価される一方で、物価高やコメ価格の高騰をめぐる批判も残る。選挙では物価対策や消費税減税などが主要争点となり、農業・食料安全保障政策も政策論争の焦点となったが、農政そのものが選挙の主要テーマとして前面に出ることは限定的だった。

選挙結果は高市政権の政策遂行基盤を強化し、特に農政議員の当選が顕著であったことから、政策実行における政治的安定が確保された。だが一方で、有権者の賛否が二極化した側面も存在しており、選挙戦後の農政課題の熟議と調整が求められている。


「経済安全保障」を基軸とした農業・コメ政策

高市政権における農業政策は従来の生産主導政策とは異なり、「経済安全保障」を農政の基軸とする戦略的アプローチを採用している。これは単なる生産振興や農村支援に留まらず、国内の食料供給の安定性、農業生産の競争力強化、国際市場における食料供給力確保を含めた包括的な政策構造である。

高市首相自身が経済安全保障担当大臣を務めた経験を政策基盤としている点が大きく、農業・食料安全保障の確保を国家戦略の重要な柱として位置づけている。食料自給率の向上や国際市場への柔軟な対応を通じて、外的ショックや地政学的リスクへの強靱性を高めることが農政の目標となる。


基本理念:食料安全保障と経済安保の融合

高市政権の農政理念は、「食料安全保障」と「経済安全保障」の融合に基づいている。これまで日本では食料安全保障は食料自給率の向上と災害時の供給確保を通じて語られてきたが、新政権はこれをより広義の国家戦略として位置づける意図を示している。

具体的には、食料供給を単なる国内需給の問題として扱うのではなく、供給リスクの最小化と国際的な供給網の安定性確保を同時に追求する。農業関連のサプライチェーン強化や米の輸出戦略を通じて、国際市場との連携強化を図る方向性が示唆されている。

この理念は、経済安保という国家戦略上の文脈と農政を結び付けることで、単なる農業振興策ではなく、国家のレジリエンス強化という大局的な目標を掲げるものとなっている。


「戦う農政」への転換

「戦う農政」という概念は、高市政権が目指す農政の戦略的転換を表すキーワードである。これは多面的な視点を持ち、従来の農業政策が抱えてきた課題を克服するための積極的政策を意味する。

1. 備蓄体制の強化

政府は長年の在庫管理政策を見直し、備蓄米の戦略的運用を再構築する方針を示している。過去には在庫不足が不足現象や価格高騰を招いた経緯があり、備蓄体制の強化と透明性の高い運用が欠かせない要素となっている。

2. 米の輸出戦略

コメの輸出は従来は限定的だったが、政権は積極的な輸出市場の開拓を推進している。これは国内需要のみに依存しない供給網の多角化という側面を持つ。この戦略は、国内消費の減少傾向を補完しつつ、外貨獲得源としての農業価値を高める意図がある。

3. 需要に応じた生産の法定化

政府は、「需要に応じた生産」の理念をコメ政策の核心として法制度化する方向性を示している。これは、単なる生産量目標の管理ではなく、需給バランスに基づく生産調整メカニズムの制度化を志向するものであり、政策の透明性・予見性を高める効果が期待される。


コメ政策の核心:「需要に応じた生産」の法定化

高市政権において最も注目される政策転換の一つが、「需要に応じた生産」を法的に位置づけることである。これはコメ生産を従来の行政指導ベースではなく、法制度として明確化する試みであり、市場原理と需給調整を法的に結びつけるものとして注目されている。

需要に応じた生産は、市場需要と政府備蓄政策、国際輸出見通しを統合して生産計画を形成する戦略的な方法である。これにより、国内のコメ市場が過剰供給や不足といった非効率な状況を繰り返すリスクを低減し、価格の安定性を高めることが狙いである。


増産から適正化へ

これまでの農政は、特に危機対応局面では増産に転じる傾向が見られた。だが、高市政権は単なる増産ではなく、需給バランスの適正化を重視する政策に転換している。この背景には、過去の米不足や価格高騰の教訓があり、効率的な生産・供給体制の再構築という目的がある。

需給適正化政策は、農家の生産決定プロセスと市場シグナルを法的に整合させるという前例のないアプローチであり、政策評価・実行段階で市場と農政当局の連携が不可欠となる。


米価の安定維持

米価安定は政策の中核目的の一つである。2024年以降のコメ価格急騰は、国内農業政策の脆弱性と需給管理の不備を露呈した。高市政権は、この反省を踏まえ、需給調整と備蓄運用による価格安定メカニズムの強化を掲げている。

政府は市場決定原理を尊重しつつも、価格の過度な変動を抑制する方策を模索しており、備蓄米の適時放出や需給予測精度の向上が進められるだろう。


多様な需要の創出

高市政権は、コメの用途拡大や農産物の多様な需要創出による市場活性化を政策に組み込んでいる。国内米市場の消費減少を背景に、外食産業向けブランド米の拡大や加工用米の用途拡大を含む市場創造政策が重要視されている。

これは国内消費を維持・強化しつつ、輸出拡大との双方を両立させる国際市場とのシナジー効果を狙うものだ。


戦略的輸出と備蓄体制

高市政権は、コメを含む農産物の輸출戦略を国家戦略の一部として強調している。コメ輸出の拡大は、国内過剰在庫または需給余剰を海外市場に取り込むことで国内価格安定に寄与するという考え方に基づく。

同時に、戦略的備蓄体制の見直しが進められており、備蓄米の運用基準・量の管理を従来より透明化することで、需給ショック時の迅速な対応が可能となる体制構築が進む。


「攻め」の輸出拡大

輸出戦略は、単なる数量目標の設定ではなく、戦略的市場開拓として位置づけられている。これは、日本の農産物ブランド力を活かし、付加価値の高い農産物輸出を促進するものである。輸出競争力強化には生産効率の改善や品質管理基準の国際標準化が不可欠であり、これらの取り組みは国内農家の競争力強化にも寄与する。


備蓄米の厳格運用

備蓄体制の見直しは政策体系の重要な部分であり、需給バランスと価格安定性を支える中核戦略として位置づけられている。適時・適量の備蓄米放出、在庫回転率の管理、需給予測精度の向上が政策課題となる。これらは過去の在庫不足による市場混乱の反省から導かれたものであり、制度的な安定供給メカニズムとしての備蓄管理の強化が求められる。


体系的分析

生産体制

高市政権の生産体制改革は、従来の行政指導型から需要シグナル重視型へと転換を図っている。これには生産計画と市場需給データの連動、プロダクション・インセンティブの設計、生産者への情報提供体制の強化が含まれる。生産者は需要データに基づく計画に従い、生産調整を行うことが求められる。

流通・市場

流通・市場の観点では、需給調整と価格形成の透明性を高める市場インフラの強化が不可欠である。需給情報のリアルタイム共有、取引プラットフォームの整備、市場参加者へのデータ提供の拡充が政策課題として浮上している。


経済的課題

農業・コメ政策は経済的側面から見ると複数の課題を含む。需給調整政策は価格安定につながる可能性がある一方、生産者収益の確保とのバランスが課題となる。市場原理を重視する政策は価格の変動を許容する部分もあるため、収益性と持続可能性の点で政策支援策が必要となる。

また、輸出促進戦略は国際競争力の強化を意図するが、為替相場や関税政策、海外市場の需要動向といった外的要因に左右されるリスクを含む。


政治的基盤

高市政権の農政推進には、主要な政治勢力で圧倒的な議席を持つ与党基盤が存在する。この強固な政治的基盤は政策推進力として機能する可能性があるが、同時に有権者のニーズと現実的な農政課題との間にズレが生じるリスクを内包する。

農政は農家や農業団体、消費者団体との利害調整が求められる分野であり、政治的な支持基盤を維持しつつ政策を調整することが不可欠である。


今後の展望

第2次高市政権下では、農業・コメ政策は「経済安全保障」と連動した総合政策として発展する可能性がある。需給調整メカニズムの制度化は中長期的なリスク管理の強化につながるものの、実行段階におけるデータ精度の向上、市場インフラ整備、関係者間の信頼構築が課題となる。

また、輸出戦略と国内供給のバランス調整、農業の国際競争力強化、価格安定性の確保に向けた適切な政策支援が引き続き必要となる。


まとめ

第2次高市政権における農業・コメ政策は、従来の拡大型農政から転換し、需給調整・経済安全保障・市場原理を融合した戦略的政策体系を目指すものである。需給バランスの法制化、備蓄体制の強化、輸出戦略の展開を通じ、農業の持続可能性と食料供給の堅牢性を同時に追求する方向性が明確となった。これにより、国内農業の構造改革と国際市場への柔軟な対応が図られつつある。今後の政策展開には、生産者の収益性確保、市場インフラ整備、需給データの精度向上といった課題に持続的に対応することが求められる。


参考・引用リスト

  1. “Japan 2026 staple rice production seen falling to 7.11 million tons,” The Japan Times(2025年11月1日)

  2. “高市政権が始動、小泉農政を見直しへ 鈴木新大臣「コメ価格は市場が決めるべきだ」,” テレビ朝日(2025年10月)

  3. “〖深層〗高市内閣の司令塔・鈴木農水相が挑む「食糧安保」とスマート農業の正念場,” Today Japan News(2026年2月9日)

  4. “高市政権の「農政復古」,” キヤノングローバル戦略研究所(2025年)

  5. “〖徹底解説〗高市早苗氏の農業政策|食料自給率「100%」構想と「稼げる農業」,” そだてる(2025年)

  6. 高市早苗首相による衆議院解散・選挙関連発言, 首相官邸公式記者会見(2026年1月19日)

  7. “高市旋風で自民圧勝 農政は課題山積,” JAcom 農業協同組合新聞(2026年2月10日)

  8. 2026年衆議院選挙の概要(Wikipedia)

  9. “第51回衆議院選挙・各党公約にみる今後の農政の方向性,” 三菱総合研究所(2026年2月)


追記:コメ輸出拡大の実現性

高市政権が掲げるコメ輸出拡大戦略は、理念としては合理性を持つが、実現性の面では複数の構造的制約を抱える。

まず第一に、日本米の価格競争力の問題が存在する。日本の主食用米は生産コストが国際水準と比較して高く、輸出市場では東南アジアや米国、オーストラリア産米との競争が避けられない。品質面では高付加価値市場で優位性を持つ可能性があるが、数量拡大を目指す政策と高価格帯ブランド戦略は本質的に相反しやすい。

第二に、国内需給との緊張関係がある。輸出拡大は余剰生産を前提とするが、「需要に応じた生産」を厳格に適用する場合、過剰供給を抑制する政策設計と輸出余力の確保の間に矛盾が生じ得る。特に不作年や異常気象時には、輸出継続と国内供給安定の優先順位が政治問題化する可能性が高い。

第三に、輸出市場の安定性の問題がある。コメ市場は各国の食料安全保障政策や関税制度、為替変動の影響を強く受ける。したがって、輸出拡大を国内農政の安定装置として組み込む場合、外的ショックに対する脆弱性が増幅されるリスクがある。

結果として、輸出戦略は「量的拡大政策」ではなく、「限定的高付加価値市場への戦略集中」として設計される方が整合的である可能性が高い。


「需要に応じた生産」の弊害

「需要に応じた生産」は経済学的には合理的に見えるが、農業という産業特性を踏まえると潜在的な弊害が存在する。

第一に、生産調整の硬直化である。需要予測に基づく生産管理は理論的には効率的だが、農業生産は自然条件の不確実性に大きく左右される。需要連動型制度が過度に厳格化される場合、供給ショックへの即応性が低下し、結果として不足リスクを増大させる逆説的状況が生じ得る。

第二に、生産者インセンティブの歪みである。市場価格上昇局面においても増産が制約される場合、農家の投資意欲や規模拡大意欲が抑制される可能性がある。これは長期的には供給基盤の弱体化を招き得る。

第三に、政策責任の曖昧化である。需給不均衡が発生した場合、「市場予測の誤差」なのか「制度設計の問題」なのかが不明瞭になり、政策評価が困難になる。

つまり、「需要に応じた生産」は静学的均衡を重視する制度であり、動学的リスク管理との統合設計が不可欠である。


消費減税との調整

高市政権が掲げる消費減税政策は、農政・コメ政策と複雑な相互作用を持つ。

消費税減税は理論上、可処分所得の増加を通じて消費拡大効果を持つが、食料品市場では価格転嫁構造や需給弾力性の影響を強く受ける。コメのような基礎的必需財では、減税効果が消費量増加よりも価格調整や流通マージン変化として吸収される可能性が高い。

さらに、財政制約の問題が存在する。消費税は基幹税であり、その減税は農業支援策、価格安定政策、備蓄制度維持の財源と直接競合する。特に価格安定政策を強化する場合、財政負担は不可避であり、減税との整合性が問われる。

また、減税がインフレ抑制策として位置づけられる場合、米価安定政策との政策的整合性も重要となる。価格安定を行政的に追求しつつ、税制で需要刺激を図る政策ミックスは、設計次第では市場歪曲を拡大する。

したがって、減税政策と農政は「独立政策」ではなく、総合マクロ経済政策として再設計される必要がある。


高市一強体制の功罪

高市政権の特徴として語られる「一強体制」は、政策遂行の観点から明確な利点とリスクを併せ持つ。

第一に、政策決定の迅速性である。農政のように利害関係者が多く、制度変更が困難な分野では、政治的安定と強いリーダーシップが制度改革を可能にする。

第二に、長期政策の一貫性である。需給調整制度や輸出戦略は中長期視点が不可欠であり、政権基盤の安定は政策継続性を担保する。

第三に、官僚制統制の強化である。農政においては行政裁量の影響が大きく、政治主導の強化は制度透明性向上につながる可能性がある。

第一に、政策硬直化リスクである。一強体制では異論や修正圧力が弱まり、制度的欠陥が長期化する危険がある。

第二に、市場との緊張関係の増幅である。需給管理や価格政策が強権的運用へ傾斜する場合、市場メカニズムとの摩擦が拡大する。

第三に、政治責任の集中である。農政失敗や価格変動が発生した場合、政治的責任が政権に直接集中し、政策安定性を揺るがす。

結果として、一強体制は「制度改革の推進力」であると同時に、「政策誤りの増幅装置」にもなり得る。


追記まとめ

これらの論点を統合すると、高市農政の本質的課題は次の三点に収斂される。

  1. 静的効率性と動的安定性の両立

  2. 市場原理と政策介入の最適バランス

  3. 国家戦略としての農政と財政制約の整合性

輸出拡大、需要連動生産、減税政策、政治体制はいずれも単独では評価できず、相互依存的政策体系として分析されるべきである。

高市政権の農政は、戦後農政の転換点を形成する可能性を持つが、その持続可能性は制度設計の精度と市場適応能力に大きく依存する構造にある。


Ⅰ. 食料安全保障と価格政策の理論的整合性

1. 食料安全保障の経済学的定義

食料安全保障は一般に以下の四要素で構成される。

  • 供給の安定性(availability)

  • アクセス可能性(access)

  • 利用可能性(utilization)

  • 安定性(stability)

このうち価格政策と直接関連するのは「アクセス」と「安定性」である。価格高騰は物理的供給不足がなくとも実質的食料不安を生む。よって価格安定は食料安全保障の構成要素となる。

2. 価格安定政策の理論的役割

価格政策には大きく三つの機能がある。

機能理論的意味
生産インセンティブ供給維持・拡大
消費者保護実質購買力維持
市場安定変動リスク抑制

農産物は価格弾力性が低く、需給ショックが価格に過度に反映されやすい。このため多くの国で何らかの安定化メカニズムが導入されてきた。

3. 内在的矛盾

しかし理論的には以下の緊張関係が存在する。

(1) 高価格安定 vs 消費者厚生

価格支持政策は生産者を保護するが、消費者負担を増大させる。
→ 再分配政策との連動が不可欠

(2) 低価格抑制 vs 供給減退

価格抑制は短期的消費者保護となるが、生産意欲を損なう。
→ 供給不安定化リスク

(3) 市場効率 vs 政策介入

価格形成への介入は効率性を損なうが、不安定性抑制には有効。
→ 「最適介入」の問題

4. 整合性の条件

理論的整合性を持たせるには次の設計が必要となる。

✔ 価格支持ではなく所得支持への移行
✔ 備蓄制度による数量調整型安定化
✔ 市場価格シグナルの維持
✔ 危機時のみ介入するルールベース政策

高市政権の方向性は数量管理・需給管理を軸とするため、理論的には価格統制型より整合的であるが、運用の精度が決定的要因となる。


Ⅱ. 減反政策との歴史的比較

1. 減反政策の本質

減反政策は1970年代以降、日本農政の中核制度として機能した。目的は単純である。

→ 過剰供給の抑制

背景には以下の構造があった。

✔ 食生活変化による需要減少
✔ 高価格維持政策との整合性
✔ 農家所得安定

2. 成果と副作用

成果

✔ 米価維持
✔ 農家経営安定
✔ 農村維持

副作用

✔ 生産力の縮小
✔ 構造改革の遅延
✔ 国際競争力低下
✔ 供給弾力性の喪失

特に重要なのは供給調整能力の低下である。

3. 高市農政との相違
項目減反政策高市農政
基本思想過剰抑制需給均衡
政策手法作付制限法定需給管理
市場位置付け政策主導市場尊重+制度管理
安全保障観国内安定経済安全保障

表面的には類似して見えるが、論理構造は異なる。

減反=供給制限政策
需要連動生産=均衡政策

ただし、制度運用次第では結果的に「新型減反」と評価されるリスクもある。

4. 歴史的教訓

✔ 生産能力は一度失われると回復困難
✔ 政策依存は競争力を低下させる
✔ 価格安定と供給安定は別問題


Ⅲ. 国際コメ市場の構造分析

1. 国際市場の特性

コメ市場は他穀物と比較して特殊性が強い。

✔ 世界生産量のうち貿易比率が低い(約10%前後)
✔ 多くの国が食料安全保障上の戦略物資として管理
✔ 政策依存度が極めて高い

つまり自由市場ではない市場である。

2. 主要プレイヤー

✔ インド
✔ タイ
✔ ベトナム
✔ パキスタン
✔ 米国

価格形成は政策変更・輸出規制・気候変動の影響を強く受ける。

3. 日本米のポジション

日本米は以下の特徴を持つ。

✔ 高品質・高価格帯
✔ 数量競争には不利
✔ ブランド市場で優位性

従って輸出拡大の現実的戦略は、

→ 量的市場ではなく差別化市場

4. 構造的リスク

✔ 輸出規制頻発
✔ 為替変動影響大
✔ 地政学リスク直撃

輸出を国内価格安定装置とみなす設計は理論的には脆弱性を持つ。


Ⅳ. 財政政策とのマクロモデル的評価

1. 農政と財政の不可分性

農業政策は必然的に財政政策と結合する。

✔ 所得補償
✔ 備蓄制度
✔ 価格安定政策
✔ 投資支援

高市政権の減税政策との整合性はマクロ的評価が必要となる。


2. 簡略マクロモデル的視点

(1) 消費減税 → 需要刺激

消費税減税は理論上、

→ 可処分所得増加 → 消費増加

ただし必需財では数量増加効果は限定的。

(2) 減税 → 財政制約

税収減少は以下を圧迫。

✔ 農業支援財源
✔ 備蓄コスト
✔ 安定化政策

(3) 財政赤字拡大 → 金利・通貨影響

長期的には、

✔ 金利上昇圧力
✔ 円安圧力
✔ 輸入価格上昇

→ 食料価格押上げ要因

(4) インフレとの相互作用

減税+財政拡張はインフレ圧力を持つ可能性。
米価安定政策との緊張関係発生。


3. 政策ミックスの評価

整合性を確保するには、

✔ 減税規模と農政支出の均衡
✔ 価格政策ではなく所得政策重視
✔ 生産性向上投資への集中
✔ 財政持続性確保

が必要条件となる。


総合理論的評価

4領域を統合すると、次の核心問題が浮上する。


① 安定 vs 効率

✔ 食料安全保障は安定を要求
✔ 市場経済は効率を要求

→ 永続的緊張関係


② 静学 vs 動学

✔ 需要連動生産=静学的均衡志向
✔ 農業供給=動学的不確実性支配

→ 制度柔軟性が鍵


③ 国内 vs 国際

✔ 国内価格安定
✔ 国際輸出戦略

→ 優先順位設計不可避


④ 財政 vs 政策拡張

✔ 減税政策
✔ 農政支出拡大

→ 制約条件の衝突


まとめ

第2次高市政権農政の理論的評価は次のように整理できる。

✔ 政策思想は従来農政より理論整合性が高い部分を持つ
✔ しかし制度運用の失敗は減反政策以上の供給硬直化を招き得る
✔ 輸出戦略は補助的役割に限定する方が安定的
✔ 財政政策との統合設計が政策持続性の決定要因となる

すなわち問題の本質は政策理念ではなく、

「制度設計精度 × 政策運用能力 × 市場適応性」に収斂される。


DSGEモデルによる「減税+価格政策」評価

1. 分析の基本構造

DSGE(Dynamic Stochastic General Equilibrium)モデルは、家計・企業・政府が動学的最適化行動を取る一般均衡体系である。農政評価に適用する場合、通常モデルに以下の拡張が必要となる。

✔ 農業部門の明示的導入
✔ 食料価格の相対価格構造
✔ 政府介入ルール(価格安定・備蓄)
✔ 気候ショック・供給ショック

簡略構造は次の通り。


(1) 家計部門

効用関数:

U = U(C, F, L)

C:一般消費財
F:食料消費(コメ含む)
L:労働供給

食料は低価格弾力性を仮定。


(2) 企業部門

✔ 一般財部門
✔ 農業部門

農業部門は供給ショック・自然リスクを含む:

Yₐ = Aₐ × f(Kₐ, Nₐ) × εₐ

εₐ:気候・不作ショック


(3) 政府部門

✔ 消費税率 τ
✔ 価格安定ルール
✔ 備蓄政策 B

価格安定ルール(例):

Pₐ = Pₐ + φ(Pₐ − Pₐ)


2. 減税ショックの効果

(1) 短期効果

消費税減税 →

✔ 実質可処分所得増加
✔ 消費需要増加
✔ 食料需要への影響は限定的

→ 一般財需要刺激が中心


(2) 相対価格効果

需要刺激 →

✔ 非食料財価格上昇圧力
✔ 食料価格の相対安定化

ただし供給制約時は逆転。


3. 価格政策との相互作用

価格安定政策導入時:

✔ 食料価格変動抑制
✔ 供給ショック吸収

しかし:

✔ 市場シグナル歪曲
✔ 需給調整遅延リスク


4. DSGE的帰結

モデル上の典型的含意:

✔ 減税はインフレ圧力を持つ可能性
✔ 価格安定政策は相対価格調整を抑制
✔ 両政策併用時に政策干渉問題発生


5. 政策含意

最適政策条件:

✔ 恒常的価格固定ではなくルールベース安定化
✔ 所得政策中心
✔ 減税規模の制約管理
✔ 備蓄による数量調整優先


食料安全保障 × 地政学リスク統合モデル

1. 問題設定

現代の食料安全保障は国内需給問題ではなく、

→ グローバル供給網リスク管理問題


2. モデル構造(概念型)

国家の食料安保関数:

FS = f(D, M, S, R)

D:国内生産
M:輸入依存
S:備蓄
R:供給網リスク


3. 地政学ショック導入

供給網リスク:

R = g(政治不安定性, 輸出規制確率, 紛争リスク)

輸入供給:

Mₜ = M* × (1 − θₜ)

θₜ:遮断確率


4. 安保戦略

リスク最小化問題:

Min Var(FS)

制御変数:

✔ 国内生産比率
✔ 備蓄量
✔ 輸入多角化


5. 理論的帰結

✔ 過度輸入依存 → 高リスク
✔ 過度自給偏重 → 高コスト
✔ 最適点は部分自給+戦略備蓄


6. 高市農政との関連

✔ 経済安全保障志向は理論整合的
✔ 問題は最適比率設定
✔ 生産能力維持が中核


日本農業の供給弾力性推計

1. 理論背景

供給弾力性:

εₛ = (%Δ供給量) / (%Δ価格)


2. 日本農業の構造的特徴

✔ 小規模経営主体多数
✔ 高齢化
✔ 土地流動性制約
✔ 設備投資硬直性

→ 低弾力性構造


3. コメ供給の特性

短期:

✔ 作付固定性
✔ 技術変更困難

→ 極めて低弾力性

長期:

✔ 転作・離農影響
✔ 規模拡大制約

→ 限定的弾力性


4. 政策的意味

低供給弾力性 →

✔ 価格変動拡大
✔ 不足時の増産困難
✔ 過剰時の調整遅延

→ 備蓄制度・柔軟生産政策必須


5. 重要な逆説

生産抑制政策が長期的に:

→ さらに弾力性を低下させる

これは減反政策の最大の副作用である。


米価形成の行動経済学的分析

1. 従来理論の限界

標準理論:

✔ 需給均衡
✔ 合理的期待

しかし現実市場では:

✔ 非対称情報
✔ 心理的価格形成
✔ 投機的行動


2. 行動バイアスの影響

(1) 参照価格効果

消費者:

✔ 「適正米価」基準を持つ
✔ 急騰に強く反応


(2) 損失回避

価格上昇 →

✔ 実質負担以上の不満増幅


(3) パニック購買

不足報道 →

✔ 需要急増
✔ 人為的不足発生


(4) アンカリング

過去価格が期待形成を固定。


3. 政策的帰結

✔ 価格安定政策は心理安定機能を持つ
✔ だが過度介入は期待歪曲を生む
✔ 情報政策が極めて重要


4. 備蓄政策の行動的意義

備蓄制度は単なる数量政策ではなく:

→ 市場心理安定装置


理論的結論

4モデルを横断すると、重要な共通点が浮上する。


① 市場は常に不完全

✔ 供給弾力性低い
✔ 心理バイアス支配
✔ 外生ショック頻発


② 安定政策の必要性

✔ 完全自由市場では不安定
✔ ただし介入には最適設計必要


③ 政策干渉問題

✔ 減税 vs 価格政策
✔ 輸出 vs 国内安定
✔ 安保 vs 効率


④ 核心問題

政策の成功条件は:


最後に

✔ 高市農政の理論的方向性は現代経済安保理論と整合性を持つ
✔ 最大リスクは制度硬直化
✔ 最大鍵は供給弾力性改善(構造改革)
✔ 最大政策変数は市場期待の制御

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