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コラム:後発地震注意情報とは、知っておくべきこと

後発地震注意情報は「予言」ではなく「確率的な注意喚起」である。発表されると多くの市民は不安を覚えるが、冷静に受け止めるためには「発表の根拠」「発表が意味する具体的行動」「発表期間(概ね1週間程度)」を理解することが重要だ。
2025年12月9日/日本、東京の首相官邸、高市総理(AP通信)
現状(2025年12月9日時点)

2025年12月8日午後11時15分ごろ、青森県東方沖を震源とするマグニチュード7.5の強い地震が発生し、青森・八戸市で最大震度6強を観測した。この地震の発生を受けて、気象庁と内閣府は「北海道・三陸沖後発地震注意情報」を同年12月9日未明に発表した。気象庁は今回の地震が日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の想定震源域に影響を与える可能性があると評価し、北海道の根室沖から東北地方の三陸沖にかけての想定震源域で、平常時に比べて大規模地震発生の可能性が相対的に高まっていると判断した。気象庁と内閣府は、発表後概ね1週間程度を「特に注意して備える」期間として住民や関係機関に周知するとともに、家具の固定や避難経路の確認といった具体的な備えの再確認を呼びかけた。これらの発表・解説や観測値は気象庁および政府の報道発表資料や複数の報道で公表されている。

後発地震注意情報とは

後発地震注意情報とは、ある海溝沿いの想定震源域やそれに影響を与える外側領域でマグニチュード7.0以上の地震が発生した場合に、気象庁がその後1週間程度にわたって当該想定震源域での「後発(それより大きくなる可能性のある)地震」の発生可能性が平常時より相対的に高まったと評価した際に発表する情報である。日本では「北海道・三陸沖後発地震注意情報」や「南海トラフに関連する情報(南海トラフ地震臨時情報など)」といった形で運用されている。後発地震注意情報は「予知」情報ではなく、「相対的リスク上昇の通知」であり、発表そのものが直ちに避難命令や経済活動停止等を求めるものではない点が重要である。気象庁は対象領域、発生した地震の規模や位置、モーメントマグニチュード(Mw)に基づいて影響範囲を評価し、必要に応じて注意情報を発表する基準を定めている。

情報の目的と意義

後発地震注意情報の主な目的は、次の三つに集約される。第一に、住民・地方自治体・事業者に対して「平常時よりも大型地震の発生確率が相対的に高まっている」という情報を提供し、日常的な備えの再確認や具体的な対策(家具の固定、避難経路の確認、防災備蓄の点検等)を促すこと。第二に、行政やインフラ事業者が業務継続計画(BCP)や緊急対応体制を点検・準備する機会を与えること。第三に、過去に「前震→本震」の経緯で甚大な被害が生じた事例(2011年東日本大震災など)を踏まえ、リスクが高まっている期間に社会全体の備えを喚起し、被害軽減につなげることである。これらは科学的予測ではなく、確率的な「注意喚起」を通じて被害を減らす防災政策的な役割を担っている。政府のガイドラインや気象庁の説明資料では、発表によって住民の防災行動が促進されることを意図していることが明確に示されている。

平常時より確率が高いことを周知する意義 — 確率の扱いと専門家の見解

後発地震注意情報は「確率が高まっている」と表現するが、これは「絶対的に起きる」と言っているわけではない。専門家の公表資料や解説によると、想定震源域での大規模な「後発地震(例えばM8級の本震)」の発生確率は、統計的には低いことが多く、「100回に1回程度」といった説明が用いられることがある。つまり、多くの場合は「空振り」する可能性が高い(結果的に大規模な後発地震が発生しないことが多い)という現実がある。しかし、政府や専門家が強調するのは、「空振りだったから無意味だった」と後から評価するのではなく、注意情報によって日常の備えや体制確認が促されれば、それは「素振り(訓練や備え)」として有益であるという考え方である。科学的には、地震発生の確率評価は観測データや過去の類似事例、地殻ひずみや地震活動の広がりなど多種の情報を組み合わせて行うが、現段階では発生時期や正確な規模・場所を高い精度で予測することは困難であり、したがって「相対的な注意喚起」を行うのが現実的な対応だとされる。専門機関の解説や新聞・学術メディアもこの見解を支持している。

防災意識の向上:「空振り」ではなく「素振り」

発表直後の社会的反応では「空振り」という批判が一定程度出る可能性があるが、内閣府や自治体、研究者らは繰り返し「空振りではなく素振りと捉えてほしい」と説明している。ここでいう「素振り」は、日常の備えの点検や家族との連絡方法の確認、避難所や避難経路の再確認、非常持ち出し品の点検などの行為を指す。実際に過去の事例では、注意情報や臨時情報の周知によって備えを行ったことが、後の被害軽減につながった可能性が示唆されるケースもある。政策的には、情報の発表は防災対応の「トリガー」として機能し、関係機関と住民双方の準備度を高めることが最大の狙いである。したがって、注意情報の頻度や「空振り率」を理由に情報発表をためらうのではなく、発表を機に備え行動を取らせる仕組みと社会的合意を作ることが重要である。

対象地域と発表条件 — 対象地域(概念整理)

後発地震注意情報には対象となる海溝や想定震源域ごとに名称と対象範囲が設定されている。代表的なものは以下である。

  • 日本海溝・千島海溝沿い(北海道・三陸沖)を対象とする「北海道・三陸沖後発地震注意情報」。この想定震源域は北海道根室沖から東北三陸沖にかけての広域を含む。

  • 南海トラフ沿いを対象とする「南海トラフ地震臨時情報」等。南海トラフは四国〜紀伊半島〜九州南岸にかけての領域で、ここでは別枠の臨時情報が用意されている。

各想定震源域の詳細な地理的範囲や影響評価の方法は気象庁のガイドラインで図示されており、震源の位置や発生した地震のモーメントマグニチュード(Mw)に応じて、その後の影響を与える可能性のある領域が評価される。たとえば、発生した地震のMwから経験則(断層長の経験式など)を使って影響半径を推定し、想定震源域との関係を検討する方式が用いられる。

発表条件(細部)

気象庁の公表基準によると、後発地震注意情報を発表する主な条件は「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の想定震源域及びそれに影響を与える外側のエリアで、モーメントマグニチュード(Mw)7.0以上の地震が発生した場合」など、対象海域と震源の大きさを基準に定められている。発表の判断にあたっては、発生した地震の規模(Mw)、深さ、震央位置、断層長の推定、そしてそれが想定震源域のどの程度に影響を与えるかを評価する。外側の領域でMw7.0以上の地震が発生した場合でも、想定震源域へ影響を与えると評価された場合に限って注意情報を出すというルールが明示されている。注意情報の発表期間は原則として1週間程度で、その後の地震活動の状況に応じて解除または継続が検討される。発表に際しては、住民にとって必要な具体的行動(備えの再確認、避難情報の確認等)や、関係機関に求められる対応方針が併せて示される。

南海トラフ地震との違い

後発地震注意情報は、基本的に「想定震源域に影響を与えるようなM7級以上の地震が発生した場合に、その後1週間程度の警戒を呼びかける」仕組みであり、対象海域や運用ルールは想定する震源域ごとに異なる。一方で「南海トラフ地震臨時情報」は、南海トラフ沿いに異常な現象や地震活動が観測された場合に、南海トラフ地震の切迫性が高まったと評価される局面で発表されるもので、国の防災対応(首相や中央防災会議、地方自治体の行動)に直結するレベルの周知・準備要請を含むことがあり、社会的影響の度合いがやや異なる。具体的には、南海トラフ臨時情報は国の危機管理体制における重要なトリガー情報として設計されており、必要に応じて内閣や自治体による広域避難や生活・経済活動への影響判断が連動し得るが、後発地震注意情報は主に「注意喚起」として住民や関係機関の備えを促すという性格が強い。とはいえ、実務的には両者とも「確率的評価に基づく警戒の呼びかけ」であり、情報の性質を正しく理解した上で行動することが求められる。

北海道・三陸沖後発地震注意情報(2025年12月9日)の概要と専門家データ

2025年12月8日のM7.5地震を受けて発表された「北海道・三陸沖後発地震注意情報」では、気象庁が今回の地震のMw(モーメントマグニチュード)や推定断層長に基づき、震央を中心とした影響半径を算定し、北海道の根室沖から東北の三陸沖に至る巨大地震の想定震源域が相対的にリスク上昇状態であるとした。政府の報道発表資料には、今回の地震が想定震源域に与える影響範囲の図示、想定される最大規模(M8級の可能性)の議論、そして「1週間程度は特別な備え」を呼びかける旨が記載されている。複数の報道機関はこれを受けて、防災対応の点検や避難指示・避難勧告の出動など地域ごとの対応を伝えた。なお、発表文書や解説では「今後M8級が発生する確率が上がった」との相対評価が示されている一方で、専門家は発生確率そのものは依然として低位(たとえば統計的に100回に1回程度の発生確率の説明が使われることがある)であり、確定的な予測ではないことを強調している。これらのデータ・解説は気象庁の資料および政府の報道発表に示されている。

実務上の対応(自治体・事業者・住民向け)

後発地震注意情報の発表に際して、自治体や事業者は以下の点を中心に対応を点検・実施することが求められる。まず、避難所の開設準備や運営要員の確保、被災者受け入れ体制の確認。次に、ライフライン事業者は重要設備の点検や復旧体制の確認、必要物資の備蓄の再点検を行う。医療・福祉施設は継続的な患者ケア計画の確認と人員配置の見直しを行う。企業はBCP(業務継続計画)の発動条件や従業員の安否確認手順を再確認する。市民は家具の固定、非常持ち出し品の確認、家族間の連絡手段・集合場所の確認、避難経路のシミュレーションなどを行う。政府や自治体は、必要に応じて高齢者や要配慮者を優先した支援の手配を行う。これらの対応は発表資料や防災ガイドラインに具体的事項が示されている。

情報発表の社会的受容とコミュニケーション課題

後発地震注意情報の制度は、科学的な不確実性と社会的コスト(頻繁な注意喚起による疲労や過度な混乱)とのバランスをとる挑戦である。専門家や行政は「発表の透明性」「根拠の丁寧な説明」「市民に役立つ具体的行動の提示」を重視しており、発表時には想定されうる最大規模、発表の根拠、推奨される行動が分かりやすく伝わることが重要だと繰り返している。またメディア報道の仕方にも課題がある。過度に不安を煽る報道や逆に楽観視を促す報道はいずれも適切ではない。政府・気象庁は報道機関や自治体と連携して一貫した情報発信を図ること、さらに長期的には市民の「確率リテラシー」を高め、確率的情報を受け止めて適切に行動できる社会づくりが必要であると示唆されている。

今後の展望 — 科学面と社会政策面

科学面では、地震観測網の充実(地震計・GNSSひずみ観測点・海底観測の強化)とデータ同化技術の進展により、地震発生時の迅速な評価精度は年々向上している。とはいえ、発生時期や正確な規模を高精度で予測することは引き続き難しく、確率的評価に基づく「注意情報」や「臨時情報」といった運用は当分の間重要な役割を持ち続ける見込みだ。政策面では、後発地震注意情報の活用で最も期待されるのは「被害軽減のための習慣化」だ。つまり、注意情報の発出を契機に全国的・地域的に定期的な防災点検を行う文化を醸成し、「空振り」を恐れて情報発表を抑えるのではなく、情報を防災行動につなげる仕組みを強化することが求められる。さらに、情報を受け取る市民側の確率的思考力(確率リテラシー)を育てる教育・広報も重要だ。専門家は、情報発信の改善(図示、シナリオ提示、可視化ツール等)と同時に、住民参加型の訓練や自治体間の連携強化を提言している。

最後に:後発地震注意情報をどう受け止め、どう行動するか

後発地震注意情報は「予言」ではなく「確率的な注意喚起」である。発表されると多くの市民は不安を覚えるが、冷静に受け止めるためには「発表の根拠」「発表が意味する具体的行動」「発表期間(概ね1週間程度)」を理解することが重要だ。専門家の示すように、重大な後発地震が実際に発生する確率は必ずしも高くない場合が多いが、その一方で被害が発生した場合の影響は甚大になり得るため、短期的な備えの確認は合理的である。したがって、私たちは後発地震注意情報を「空振り」と切り捨てるのではなく、日常的な防災力を高める「素振り」の機会と受け止め、家庭・地域・職場で具体的な備えを点検・強化するべきである。政府・自治体・専門機関は発表時に分かりやすく根拠を示し、住民が取るべき行動を具体的に提示する責任がある。科学の進展と社会の学習を両輪として進めることで、後発地震注意情報は単なる「注意喚起」を超えて、実効的な防災力強化のツールになり得る。


主な参考資料(本文で引用した主要出典)

  • 気象庁「『北海道・三陸沖後発地震注意情報』について(発表基準等)」。

  • 内閣府・気象庁 報道発表資料「北海道・三陸沖後発地震注意情報について(令和7年12月9日)」。

  • 主要報道(Reuters、FNN、テレビ朝日、ウェザーニュース等の当該地震関連報道)。

  • 解説記事・専門家コメント(科学技術振興機構サイエンスポータル等)。

  • 防災政策のガイドライン・解説(内閣府・防災担当の資料)。

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