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コラム:止まらぬ地球温暖化、どうしてこうなった...

一部の先進国が温暖化対策を進めているにもかかわらず、地球全体の平均気温が猛烈に上昇し続けるのは、世界全体での排出削減が実現していないためである。
南アフリカの石炭火力発電所(ロイター通信)

地球温暖化は人類が直面する最も深刻な環境危機の一つであり、2020年代に入ってからその進行は加速度的に顕在化している。気象庁やNASA、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の観測によると、2023年から2024年にかけての地球の平均気温は観測史上最高を記録した。産業革命前と比べてすでに約1.2〜1.3℃上昇しており、パリ協定で掲げられた「1.5℃目標」はほぼ達成困難と見なされつつある。

先進国では再生可能エネルギーの普及や省エネ政策、排出量取引制度の導入などが進んでいるが、世界全体の二酸化炭素(CO₂)排出量は減少していない。むしろ2022年の世界のエネルギー起源CO₂排出量は363億トンに達し、過去最高を更新した。これは先進国の努力を相殺するかのように、新興国や開発途上国での化石燃料依存が拡大しているためである。

結果として、グリーン転換を進めている一部の地域での削減効果は、世界規模での排出増加に飲み込まれている。この不均衡こそが、温暖化の進行が止まらない最大の理由である。


歴史

地球温暖化の原因は主に化石燃料の大量消費にある。産業革命以降、石炭・石油・天然ガスが主要エネルギーとして利用され、莫大なCO₂が排出された。

  • 19世紀後半:温室効果ガスの存在が科学的に発見され、CO₂排出と気温の関係が理論的に提示された。

  • 20世紀前半:工業化が急速に拡大し、大気中のCO₂濃度は産業革命前の280ppmから310ppmへ上昇。

  • 20世紀後半:戦後の経済成長期に石油消費が爆発的に増加し、CO₂濃度は350ppmを突破。1970年代以降には気候科学の進展により、地球規模での気温上昇が観測され始めた。

  • 21世紀初頭:2000年以降、特に中国、インド、東南アジア諸国の急速な工業化が進行し、世界全体のCO₂排出量は指数関数的に増大した。

つまり、温暖化は先進国の工業化から始まり、その後に新興国の成長によって加速されたという歴史を持つ。先進国が排出削減を始めたのは比較的最近であり、すでに「排出残高」が膨大に積み上がった後だった。


経緯

1990年代以降、国際社会は温暖化対策の枠組みを構築してきた。

  • 1992年 リオ地球サミット:気候変動枠組条約(UNFCCC)採択。

  • 1997年 京都議定書:先進国に排出削減義務を課す。ただし中国やインドなど途上国は対象外だったため、削減効果は限定的だった。

  • 2015年 パリ協定:すべての国が自主的に削減目標を掲げる方式に転換。「世界平均気温上昇を産業革命前比で2℃未満に抑え、1.5℃を目指す」ことを合意した。

しかし、この経緯の中で二つの大きな問題が生じた。第一に、削減義務の不均衡である。京都議定書時代には途上国が免除され、その間に中国が「世界最大の排出国」となった。第二に、パリ協定は自主性に依存する仕組みであり、強制力や罰則が弱い。このため、多くの国は温室効果ガス削減の公約を掲げつつも、実際には十分な実行に至っていない。


問題点

1. 世界的な排出の地域格差

現在、世界のCO₂排出の約30%を中国が占めており、米国(約14%)、インド(約7%)、EU(約7%)が続く。つまり、先進国の努力があっても、中国やインドの排出増が全体を押し上げている。特に中国は石炭火力発電への依存度が高く、再生可能エネルギーを拡大しつつも石炭発電所の新設を止めていない。

2. 経済成長とエネルギー需要の拡大

新興国では人口増加と経済発展が同時進行しており、エネルギー需要が急増している。国際エネルギー機関(IEA)の予測によると、アジア・アフリカ諸国のエネルギー需要は2030年までに30%以上増加する見通しである。再生可能エネルギーの導入が追いつかず、当面は化石燃料に依存する構造が続く。

3. 先進国の「炭素輸入」問題

一部の先進国は国内での排出を削減しつつも、途上国で生産された安価な製品を輸入することで「間接的排出」を増やしている。例えば、欧州で使用される多くの工業製品や消費財は中国で製造されており、その製造過程で大量のCO₂が排出されている。この「カーボンリーケージ(炭素の漏れ)」が、世界全体の排出削減を妨げている。

4. 森林破壊と土地利用の問題

南米アマゾンや東南アジアでは、農地拡大やプランテーション開発のために森林が大規模に伐採されている。森林は本来CO₂を吸収する役割を持つが、その吸収能力が失われ、逆に排出源となっている。FAOのデータによると、毎年約1000万ヘクタールの森林が失われており、これは地球温暖化の加速要因となっている。

5. 政治的利害と不十分な国際協力

各国は経済発展やエネルギー安全保障を優先し、気候政策が後回しにされやすい。特に化石燃料輸出国(サウジアラビア、ロシアなど)は、温暖化対策に消極的である。国際的な枠組みには合意しても、国内の実行が伴わないケースが多い。


実例・データ

  • 中国の石炭依存:2023年の中国の電力供給の約60%が石炭火力発電による。政府は再生可能エネルギーの導入を進めているが、電力需要の伸びが大きいため石炭の新規開発も継続している。

  • インドの排出拡大:インドのCO₂排出量は2000年から2020年の間に2.5倍に増加。電力供給の7割以上が石炭火力に依存している。

  • 米国の部分的削減:米国はシェールガス革命により石炭火力を天然ガスに置き換え、2010年以降のCO₂排出を一時的に減らした。しかし自動車依存や石油消費が多く、世界第2位の排出国であり続けている。

  • EUの努力と限界:EUは再生可能エネルギーの拡大と排出取引制度により、1990年比で約30%削減を達成した。それでも域外からの輸入品に含まれる「隠れた排出」は依然として膨大である。

  • 気候災害の頻発:2023年の夏には北米、中国、欧州で記録的熱波が同時発生し、森林火災や洪水による被害が世界各地で観測された。世界気象機関(WMO)は、異常気象による経済損失が年間数千億ドル規模に達していると報告している。


まとめ

一部の先進国が温暖化対策を進めているにもかかわらず、地球全体の平均気温が猛烈に上昇し続けるのは、世界全体での排出削減が実現していないためである。その背景には、途上国の急速な工業化と化石燃料依存、先進国の間接的排出、森林破壊、国際協力の不十分さがある。さらに、国際枠組みの実効性の弱さが問題を深刻化させている。

この構造を変えない限り、先進国の努力は世界全体の温暖化を抑えるには不十分であり、今後も気温上昇は続くと予想される。人類がパリ協定の目標を達成するには、先進国と途上国の協力強化、エネルギー転換の加速、森林保全、そして「排出責任の公平な分担」が不可欠である。

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