コラム:日本の「放置竹林」、対策は?
放置竹林問題は、日本の森林資源管理における複雑な課題である。
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現状(2026年2月時点)
日本の竹林は全国で約17万〜17.5万ヘクタールに及び、森林全体の約0.6〜0.7%を占める。竹林は九州・中国地方など 西日本を中心に分布しているが、全国に広く存在する状況にある。これらの竹林の大半は戦後に植栽されたものであり、戦後のタケノコ需要や竹材利用の背景で拡大してきた。近年は竹林の管理が行き届かない放置竹林が増加し、各地で社会・環境的な問題が顕在化している。竹材や竹製品の国内需要が縮小していることも背景要因の一つである。
放置竹林とは
「放置竹林」とは、竹林が適切な管理・伐採・利用をされずに放置された状態を指す。竹は成長が極めて早く、地下茎による拡散性が強い植物であるため、管理を怠ると人為的な管理があった状態から自生状態へ移行し、里山環境や森林生態系へ侵入・拡大する特徴がある。竹林の管理には定期的な伐採や地下茎の刈り取り等が必要であるが、担い手不足や需要縮小により管理が困難になっている。
広義には、竹林と他の森林が混交する「25%以上侵入」した混交帯も含めると管理されない竹林が広範囲に存在すると推定される。
放置竹林が発生する背景
歴史的背景
戦後の日本ではタケノコ栽培が地域産業として盛んになり、多くの竹林が里山や農地周辺に造成された。しかし、プラスチック製品をはじめ代替素材の普及、安価な輸入タケノコの流入などにより、竹材やタケノコ需要が縮小し、国内の竹利用が減少した。
社会的背景 — 高齢化・過疎化
地方部では農家や林業従事者の高齢化および過疎化が深刻であり、竹林の維持管理ができないケースが増えている。地方自治体・住民の担い手不足は、竹林の放置を助長し、生態系の変化や社会的負担を増加させている。
需要構造の変化
竹細工・建材・日用品・農業資材など、かつて竹を基盤とする産業は数多く存在したが、プラスチックや合成素材の登場で需要が大きく減少している。これは竹林の経済的価値低下につながり、放置を加速する一因になっている。
代替素材の普及
戦後の高度経済成長期以降、プラスチック・合成繊維・金属・合板などが竹材の代替として広範に使われるようになった。これらは製造・流通・価格面で竹材より優位性を持ち、竹製品は次第に市場シェアを失った。この結果、竹の産業的需要は縮小し、竹林の整備が地域活動として維持されにくくなっている。
タケノコ市場の変容
戦後、春の食材として需要が高かったタケノコは、輸入品の増加および国内出荷量の変動により市場価格が低迷する傾向にある。これにより、タケノコの収穫および栽培を基盤としていた竹林管理は採算性を失いつつあり、放置竹林の増加に結びついている。
生産者の高齢化と過疎化
地域農業・林業において高齢化が進行し、若年層の担い手が確保できない状況が全国的に見られる。特に中山間地域では、竹林の面積とシステム的管理能力に大きなギャップが生じている。この状況により、竹林の放置度合いが増し、結果として周辺生態系や農地への影響が顕在化している。
放置竹林が引き起こす主な問題点(検証と分析)
生態系への影響(緑の砂漠化)
竹林は成長が早く、2〜3ヶ月で10〜20mに達する場合もあるとされる。この急成長性により竹は周囲の樹木や植生を押しのけ、単一優占環境(モノカルチャー)を形成しやすい。竹の濃密な葉冠は光を遮り、低木・草本等の他の植物の生育を困難にする。この結果、生物多様性が低下し、「緑の砂漠化」とも評される状況が発生する。
土砂災害のリスク増加
竹は地下深く根を張らないため、保水力が低い傾向がある。放置竹林が斜面や集水域に広がると、保水力の低下・土壌侵食・地表安定性の悪化が懸念される。これらは集中豪雨や台風時の土砂流出・崩壊リスクを高める要因となる。
浅根性
竹は浅くかつ広く根を拡散する性質がある。この浅根性は、表層土壌の保護には寄与する一方、深層土壌の補強には寄与せず、斜面崩壊の危険性を高める可能性がある。この特性が放置竹林の斜面災害リスク評価の重要な要素となる。
重量増
放置竹林では枯死した竹材や倒竹の堆積が増加し、竹材の生体重量が蓄積する。この重量増は 斜面土壌の荷重条件を変化させ、平常時の安定性を悪化させる要因になり得る。
鳥獣被害の拡大
放置竹林はイノシシやシカ等の野生動物の隠れ家・餌場となり得る。タケノコを主食とするイノシシの行動が農作物・人里への侵入に結びつき、鳥獣被害の拡大リスクが指摘されている。
対策と課題
放置竹林への対応には、多層的な戦略が必要である。以下では代表的な対策と、それぞれの課題を整理する。
バイオマス利用
放置竹林資源をバイオマス燃料や炭化材、飼料化等に転換 する取り組みが存在する。竹をペレット化して飼料として利用する試みも報告されており、飼料自給率向上との関連性もある。
課題
炭化・ペレット化の加工過程でのコスト、品質維持、流通体制の整備が課題となる。また、バイオマス発電との連携には原料安定供給と市場形成が不可欠である。
メンマ化プロジェクト
放置竹林から採取したタケノコをメンマとして加工し付加価値を創出する事例が各地で進められている。国内消費量の多くを海外に依存する現状を改善し、竹林資源の活用と収益化を目指すものである。
課題
メンマ加工のための労働集約性、加工施設の整備、ブランド化・販路開拓など多面的な取り組みが必要である。
竹紙・プラスチック代替
竹材を原料とする竹繊維・竹紙・バイオプラスチックといった製品化プロジェクトも自治体や企業で進行中である。これらは持続可能な素材として注目されている。
課題
技術開発・量産化のための投資と、競合する素材(プラスチック等)との差別化が必要である。
土壌改良材としての利用
竹チップや竹粉を土壌改良材・有機資材として利用する動きも見られる。竹は有機物として炭素固定や土壌物理性改善に寄与可能との理論があるが、実証研究と長期評価が求められる。
解決に向けた取り組み
高付加価値化
単純な原料供給ではなく、高付加価値製品の創出 による市場形成が重要である。竹由来素材が持つ独自の寸法安定性・強度・環境特性を活かした用途開発が進行中である。
企業のSDGs参画
環境配慮型企業がSDGs(持続可能な開発目標)の観点から放置竹林活用プロジェクトへ参加する事例が増えている。これらはCSR活動と地域課題解決を両立させる可能性を有する。
バイオ炭としての活用
竹炭・バイオ炭化材は土壌改良・炭素固定材・吸着材料として応用可能であり、環境サービス提供を通じた価値創出が期待される。
今後の展望
放置竹林問題は単なる環境問題に留まらず、地域社会の存続・産業活性化・環境保全の交差点に位置している。解決策としては、政策支援・市場形成・教育普及活動・地域参加型の資源循環システム構築が有望である。竹林の有効活用によって地域経済の活性化と自然共生が実現できる可能性がある。
まとめ
放置竹林問題は、日本の森林資源管理における複雑な課題である。
戦後の竹林拡大と利用需要の変化
高齢化・担い手不足
生態系への影響(生物多様性低下)
土砂災害リスクの増加
経済的価値の低下
などが複合的に絡み合っている。本問題を解決するためには、多面的な政策・産業・地域参加のアプローチが不可欠であり、竹林資源を単なる廃棄物ではなく、持続可能な資源として再評価することが重要である。
参考・引用リスト
林野庁「竹の利活用推進に向けて」(竹林面積・分布等統計)
林野庁 森林資源白書「特用林産物の動向」(山口県竹林事例)
長野県生坂村の竹林拡大に関する植生研究(空中写真分析)
放置竹林と地域資源活用の記事(TV朝日ニュース)
Nippon.com「Tackling Japan’s Abandoned and Overgrown Bamboo」
熊本日日新聞「放置竹林の実態」
桑名市 放置竹林対策(SDGs推進事業)
eTREE「深刻化する放置竹林問題とビジネス事例」
追記:放置竹林問題の本質
放置竹林問題の本質は、単なる「管理されていない竹林」の存在ではなく、竹資源の社会的・経済的価値が失われたまま、環境・地域社会に負の影響を与えていることにある。一般的に以下の3点が重層的に絡んでいると評価できる。
まず、竹林が登場した歴史的背景として、戦後の里山・農村でのタケノコ栽培や伝統的用途のために造成された竹林が、近年の代替素材普及や需要低迷で経済的価値を失ってきたことがある。このため、管理や伐採が実行されず、放棄されるケースが増加した。これが環境面・社会面での「被害」(竹害)となって表出している。
次に、放置竹林は単なる森林被覆の問題ではなく、生態系サービスの低下や安全保障リスク(斜面崩壊や土砂災害のリスク増大)、そして地域コミュニティの衰退・担い手不足が複合した社会課題であるという点である。国内の農山村部では高齢化・過疎化が進む中で、これらの課題を横断的に捉えた統合的な解決策が求められている。
つまり問題の本質は、竹を価値ある資源とみなす従来の社会システムが機能しなくなったことにより、負の外部性が地域・環境に蓄積している状況であり、単なる植生管理では解決できない社会経済的・制度的な変革を必要としている。
竹を現代のニーズに合った資源として定義し直す必要性
放置竹林を解決するためには、まず竹という素材を単なる林地資源ではなく、現代の持続可能性・循環型経済ニーズに合致した資源として再定義することが必要である。例えば以下のような視点が挙げられる。
バイオ素材としての価値
竹は成長が早く(1日に数十cm〜1m以上成長することがある)、繊維や炭化材の原料として高い潜在力を持つ。この特性は、リサイクル素材・バイオプラスチック原料としての利用可能性を意味している。環境サービスとしての価値
竹は炭素固定能力を持つだけではなく、炭素を長期間土壌に貯留できるバイオ炭や、土壌改良材としての利用が研究されている。バイオ炭は土壌肥沃化・水分保持性向上・温室効果ガス排出削減に寄与し得る。文化的・観光的価値
竹は伝統文化・工芸、観光素材としても強い魅力があり、地域資源としてのブランド化が進んでいる。こうした文化的価値も含めた再定義が、地域活性化に寄与する可能性がある。
このような再定義により、竹は「放置された負債」ではなく、持続可能な素材としての資源とみなすことができるようになる。
竹資源を収益化するための仕組み(ビジネスモデル)
放置竹林を解決し収益を生む仕組み構築には、複数のビジネスモデルが想定される。重要なのは、単一用途ではなく 複数の価値創造が循環する仕組み(バリューチェーン)を設計することである。具体例を挙げる。
1. 竹バイオ炭(Biochar)生産と販売
竹を伐採・炭化し、バイオ炭として農業用土壌改良材・炭素貯留材として販売するモデル。
バイオ炭は土壌肥沃化・水分保持性向上・温室効果ガス排出抑制などの機能があり、SDGsや環境農業のニーズと合致する。
収益モデルとしては、
バイオ炭製品の直接販売
農業法人や有機農業生産者への定期供給契約
環境貢献(炭素貯留)としてカーボンクレジット市場への参加
などが考えられる。
2. 地域循環型素材産業の構築
竹チップを製紙・建材原料として利用し、加工製品を販売するモデル。これには地域の企業・NPO・農家の連携が不可欠であり、原料供給 → 加工 → 製品販売まで一貫した地産地消の仕組みを設計する。
3. 竹工芸品・デザイン製品のブランド化
海外市場へ向けた高付加価値竹製品(家具、インテリア、生活用品等)を創出するモデル。これらは地域の文化的価値と結びつきやすく、観光資源化と一体化したブランド戦略が可能である。
4. 竹林管理サービスのビジネス化
地方自治体と連携した竹林管理受託サービスや、竹オーナー制度(地域住民・外部支援者による竹林保全支援)による資金調達モデルも考えられる。まとめると、収益を生むためには複数の事業を統合し、素材・環境サービス・文化資源の価値を同時に高める仕組みが必要である。
竹をバイオ炭にする技術的詳細
バイオ炭(biochar)は、植物性バイオマス(竹など)を酸素がほとんどない状態で熱分解(熱分解・低酸素熱処理)することで得られる炭素豊富な固形物である。一般的な製造プロセスは以下の通りであり、国際的な定義でもこの工程が想定されている。
原料の準備
伐採した竹を十分に乾燥させる。含水率が高いと炭化効率が低下するため、乾燥工程が重要である。熱分解(Pyrolysis)工程
乾燥竹を酸素を制限した状態で加熱(通常350〜900℃程度)する。これにより、竹のセルロース・リグニン等が熱分解し、固形の炭素(バイオ炭)、揮発性成分、ガス等に分解される。炭化および冷却
適切な温度と時間制御により、バイオ炭の 炭素含有率・多孔質構造・表面積 が形成される。一般に高温での炭化により炭素含有率が高くなる傾向がある。後処理
生成した炭を冷却し、粒径調整・粉砕などの後処理を行う。農業や土壌改良材として利用する場合には、適切な粒度・混合仕様の製品化が必要である。
このプロセスによって得られるバイオ炭は高い多孔質性と比表面積を持ち、土壌改良や吸着材としての機能を有する。また、炭素が安定した形で存在するため、長期間の炭素貯留材としての役割も期待されている。
具体的な自治体の成功事例
以下では 放置竹林活用・竹資源循環モデルで成功している自治体・地域 の例を示す。
薩摩川内地域(鹿児島県)
薩摩川内地域では、製紙工場・チップ工場・地元農家・竹活用製造業者が協業し、伐採竹を製紙原料の竹チップとして活用する循環産業連携モデルが形成されている。このモデルでは、伐採した竹を地域内でチップ化し、地元産業が原料として利用することで資源循環と地域雇用創出に寄与している。
大崎町(鹿児島県)
鹿児島県大崎町では、竹伐採 → 竹を炭化 → 炭を土壌改良に利用し、農作物(例:サツマイモ)の生産につなげるモデルが、 農福連携の優秀モデル として表彰された。伐採・炭化・農業生産という複数ステップを統合することで、放置竹林問題と地域農業支援を同時に解決する仕組みが実装されている。
立花町(福岡県)
立花町では、「竹林整備プロジェクト」を推進し、竹炭・竹活性炭・竹酢液など竹資源由来製品の開発・販売を行う第3セクターを設立。地域内で竹資源を加工・販売することで雇用機会の拡大と地域産業振興につなげる試みが進んでいる。
丹波篠山市(兵庫県)
丹波篠山市では無煙炭化機を活用し、竹を炭化して竹炭を生産し、燃料・土壌改良材として地域で利用する仕組みが進展している。このモデルは環境負荷の低減と放置竹林対策の融合を目指し、行政と地域主体の協働による資源循環モデルとして注目されている。
まとめ(追記部分)
放置竹林問題を抜本的に解決するためには、単なる管理や伐採に止まらず、竹を持続可能な資源として再定義し、収益を生む仕組みを構築する包括的アプローチが必要である。
本質的な課題は竹の社会的価値低下と地域社会の構造的要因が絡み合う複合問題であり、これを克服するには、バイオ炭や竹由来製品の価値創出、地域連携型産業の構築、SDGsや循環経済に対応した革新的なビジネスモデルの展開が鍵となる。
参考・引用リスト(追記分)
薩摩川内地域の竹林活用(環境省里なび事例)
大崎町の竹資源化モデル(南日本新聞)
立花町の竹資源活用プロジェクト(厚生労働省・地域振興事例)
丹波篠山市の竹バイオ炭活用事例(兵庫県議会議員解説)
バイオ炭の定義と生産技術(国際バイオ炭普及情報)
バイオ炭の土壌利用と効果(農研機構・バイオ竹炭実証)
バイオ炭一般の定義と機能(Biochar Wikipedia)
