SHARE:

コラム:2026年のMLB、主な変更点と注目点

2026年のMLBは「制度(ABS)」「大会(WBC)」「経済(FA/メディア契約)」という三つの領域で大きな節目を迎え、競技と興行の両面で変化が加速する年になる。
米MLBロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手(AP通信)
2026年のMLBシーズン(概観)

2026年のメジャーリーグベースボール(MLB)は、競技面・興行面の両方で大きな節目の年になる。レギュラーシーズンは2026年3月25日のオープニングナイト(ヤンキース対ジャイアンツのカードが予定)を皮切りに、3月26日に本格的なオープニングデイを迎える日程となっている。ポストシーズンは例年通り秋に実施され、ワールドシリーズは10月下旬に行われる予定である。シーズン前後にはワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が開催され、国際大会とMLBシーズンが年スケジュール上で近接する年になる。大会運営面では新技術導入やメディア配信の再構築が進み、ファン体験が変化しつつある。

主な変更点と注目点

2026年シーズンの最も注目すべき競技ルール変更はABS(Automated Ball-Strike)チャレンジシステムの本格導入である。これによりボール・ストライク判定については人間の審判の判定をチームがチャレンジでテクノロジーに照らして問える仕組みが導入され、試合中の判定透明性が高まる。ABSは過去数年のマイナー・スプリングトレーニング等で試験されてきたが、2026年はフル導入の年になる。加えてメディア権の再編が行われ、従来の放送・配信パートナーシップに変化が生じる点も興味深い。さらに2026年は一部のスター選手に注目が集まり、戦力配置やトレード/FA市場の動きがシーズンの勝敗を左右する。

自動ボール・ストライク判定チャレンジ(ABSチャレンジ)の導入

ABSチャレンジの導入は、野球の「審判判定」に関する歴史的転換点だ。2026年には「チャレンジ型ABS」が採用され、捕手・投手・打者がヘルメットやキャップをタップしてボール・ストライクの判定に対するチャレンジを要求できる仕組みが導入される。ルール案では各チームが試合開始時に2回のチャレンジ権を持ち、成功すればチャレンジ権を維持する(すなわち、成功時は回復する仕組み)。延長回が発生した場合の追加チャレンジ配分など詳細も定められている。技術的にはHawk-Eye等のトラッキングと高速通信を使い、場内スクリーンや放送に判定過程を表示する運用が想定される。現地での実験データではチャレンジの精度と速度は実用域に達しており、試験時の統計ではレビューされたチャレンジのうち約52.2%が覆り、1件あたりの平均所要時間は約13.8秒と短かったという報告がある。ABSの長所は判定の公平性向上、審判の過失による試合影響の低減、スポーツベッティングへの透明性供与である一方、短期的には捕手のフレーミング価値の扱いや審判と選手の心理的な駆け引き、ゲームテンポ維持のためのチャレンジ回数制限などが議論対象になる。ABS導入は選手・監督・放送に影響を与え、戦術面でもチャレンジをいかに温存し、勝負どころで使うかが新たな戦略要素になる。

ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の開催

2026年3月に開催されるWBCでは、グループステージの一部が東京ドーム(Pool C)を含む複数会場で行われ、日本代表の戦いが早期から注目されている。WBCはMLB選手の参加が増え、ファン動員や国際マーケットでの注目度が高まっているため、代表選手のコンディション管理とMLBチームとの調整がシーズン準備に影響を与える。WBC日程は3月上中旬に重なり、準々決勝・準決勝・決勝は米国の主要球場で行われる予定だ。日本代表は東京でのプール戦を戦い、プール上位が準々決勝のマイアミ開催に進出するスケジュールになっている。WBCの開催は日本市場向けの放送・スポンサー活動とも直結し、日本人選手の国際的な露出がさらに高まることになる。

フリーエージェント(FA)市場は?

2026年に向けたオフシーズンのFA市場は非常に注目度が高いクラスで、トップ級の打者や投手が市場に出ることで複数球団の補強競争が激化している。主要メディアと専門家の予測を総合すると、カイル・タッカー、カイル・シュワーバー、アレックス・ブレグマン、ボー・ビシェット、フランバー・バルデス、ディラン・シーズなどが上位候補として挙げられており、契約予測では長期・高額の複数年契約が提示される可能性が高いという分析が出ている。ESPNやMLB.com、Fangraphs、MLB Trade Rumorsなどの専門家は個別選手のWARベースの評価や年俸推定を公開しており、たとえば上位1、2位候補の契約予測は数億ドル規模(例:11年4億ドル級の長期契約想定など)という見積りが流布している。市場の傾向としては、投手有利/打者有利という単純な構図はなく、健康状態、年齢、ポジションの希少性(先発左腕や強打の右外野手等)によって契約額が変動する。球団の資金配分や課税(ラグジュアリー・タックスやCBT=競争入札枠)の状況も案件ごとに影響を与えるため、交渉の成否は球団フロントの長期プランに左右される。具体的な選手名や契約推計は各メディアのFAランキングや推計表を参照すると分かりやすい。

レギュラーシーズン日程

MLBは2026年のスケジュールを事前に公開しており、3月25日のオープニングナイトをスタートに、3月26日がオープニングデイである。オールスター前半のホーム・アンド・アウェイ分配や、短期の国際シリーズ(MLB World Tour)なども織り込まれている。ポストシーズン開始は9月下旬、ワールドシリーズは10月下旬に行われる見込みとされる。日程上のポイントは(1)春先のWBC開催と開幕日程の近接、(2)都市間移動や国際ゲームを含む負担の増加、(3)シーズン序盤の故障管理や先発ローテーション構築の重要性、の3点である。球団はWBC出場選手の休養と調整をどう扱うかが重要な運用課題になる。

オールスターゲーム

2026年のオールスターゲーム(第96回)は7月14日にフィラデルフィアのシチズンズバンク・パークで開催される予定で、ホームランダービーやフューチャーズゲームなどの前夜祭イベントも従来通り実施される。オールスターはシーズン中間点の祝祭であると同時に、MVP候補やファン投票で選ばれる顔ぶれが今後のトレード価値やFA市場での評価に影響するため、選出は選手にとって重要なマイルストーンになる。放送は国内外の主要ネットワークが中継する見込みで、メディア権再編の影響で国際配信のあり方にも変化が出る。

メディア契約

2026年シーズンからはMLBと主要メディアの契約が再編された新局面が始まる。MLBはESPN、NBCUniversal、Netflix等と新たなメディア権契約を結び、Appleの「Friday Night Baseball」は継続する一方で、Netflixがホームランダービーやオープニングナイトといったイベント配信を行うなど配信プラットフォームの分散が進む。NBCは「Sunday Night Baseball」や一部ポストシーズン(ワイルドカード)を扱い、ESPNはMLB.TVの販売権を含むパッケージ等で関与するなど、従来の「テレビ中心」から「テレビ+ストリーミング混合」へと移行する。ビジネス的にはMLBの放映収入多様化と若年層リーチ拡大を狙った戦略で、年間のメディア収入や視聴者層の変化が球界経営、選手年俸や球団運営に波及する見込みである。視聴者にとっては視聴プラットフォームが分散するため、試合視聴の窓口が複数になる一方、特定イベントの配信先が限定される可能性があり、購読モデルの選択が重要になる。

日本人選手は?

2026年時点でも複数の日本出身選手がMLBで活躍している。大谷翔平はドジャースで投打両面の活躍を続けており、2025年にMVPを受賞するなど2026年も最注目選手である。加えて山本や吉田をはじめとする複数の日本人選手がメジャーのロスターに名を連ねており、MLBは日本市場向けのプロモーションや選手イベントを積極的に行っている。MLB公式のキャンペーンで「12人の現役日本人選手」を取り上げるなど、日本人選手への注目は依然高い。日本人選手の出場状況や健康管理はWBCやMLBの日程とも密接に関係し、日本のファンにとっては国際大会〜MLBシーズンの両方で追いかける一年になる。

大谷翔平選手「二刀流」完全復活に注目

大谷翔平は2024-2025シーズンにかけて手術やリハビリを経験しながらも、2025年には復帰してMVPを再び獲得するなど驚異的なパフォーマンスを示した。2026年は「二刀流」完全復活が期待されるシーズンであり、投手としての登板数・イニング、打者としての守備出場や打席数のバランス調整が最大の焦点になる。医療的・パフォーマンス的観点からは、トミー・ジョン手術後の投球回復曲線、肩肘の負担分散、球団スタッフの管理方針が勝負を分ける。報道では彼自身が「フル先発ローテーションでのシーズンを目標にしている」とのコメントもあり、ファンと専門家は投打両面での持続的パフォーマンス(Sustained Performance)を注視している。大谷の復活はリーグの商業的価値にも直結し、彼が投げる日はボックスオフィス(興行)効果がさらに強まるだろう。

投打完全復活の期待(専門家データ)

専門家やスポーツ医学の視点からは、投打両立を成功させるカギは以下の点だと整理される。①投球イニングの段階的増加(イニング管理)、②リハビリとメンテナンスの個別化プログラム、③打席・打撃練習の負荷管理、④スカウティング・戦術の最適化(DHや代打起用の柔軟化)、⑤投球解析データとトラッキング(球速・回転数・リリースポイント)に基づく負担軽減施策。これらは統計的にも有効で、選手の疲労指標や故障率低減に貢献するという研究や現場報告がある。大谷のケースは世界でも稀有な事例なので、MLB球団・スタッフは最先端データを投入して最適化を図るはずだ。

ナ・リーグMVP3連続受賞なるか

2025年の時点で大谷は連続MVP受賞の実績を持っている。2026年にナ・リーグMVP(あるいは所属リーグでのMVP)を3年連続で獲得できるかは、以下の要因で決まる。①健康状態と登板数、打席数の確保、②主要なライバル選手(若手台頭や他FA加入選手)の存在、③チーム成績(MVP投票では個人成績だけでなくチーム成績の影響も無視できない)、④メディア露出と投票者の評価バイアスである。歴史的にはMVP3連続受賞は極めて稀であり、実現すれば大記録となる。大谷のような二刀流選手の場合、投打双方で突出した数字を残し続けられるかが鍵で、医療・マネジメントの側面が大きく関わる。

3年連続ワールドシリーズ制覇へ(展望と現実性)

ドジャースが求められていることは(1)先発ローテーションの厚さ、(2)中継ぎ/クローザーの安定性、(3)長期の打線バランスと代替要員の整備、(4)戦術的柔軟性(ABS時代の守備・配球適応)、(5)資金力と人的流動性(FA・トレードでの補強余力)である。現代のMLBでは1年単位での優勝はもちろん、連覇も難しい一方、戦力を保持し続けられる球団は連覇に近づく。過去の連覇チームを研究すると、若手の台頭や故障者管理が成功の鍵になっている。3年連続制覇は史上稀有な偉業であり、実現には運と怪我の回避、柔軟な補強が不可欠である。

今後の展望(短中長期)

短期(1〜2年)では、ABSの運用最適化、メディア配信の定着、FA市場の激動がMLBの顔を決める。中期(3〜5年)ではストリーミング配信の成熟による視聴者層の拡大と、国際化(特に日本・韓国・ラテン市場)に伴う選手動向・興行戦略の深化が進む。長期(5年以上)ではAI・トラッキング解析のさらなる進化が育成・スカウティングを変え、プレーの定量化と戦術革新を加速させる可能性が高い。スポーツビジネスとしてのMLBは、選手の健康管理(医療技術)とデータ活用を競争優位にするため、球団間の人的資本争奪戦が一段と激しくなる見込みだ。

専門家のデータや現時点での統計的知見(要点まとめ)
  1. ABS試験データ:試験運用時のレビューではチャレンジのうち約52.2%が覆り、1チャレンジ平均所要時間は約13.8秒という報告がある。この数値はABSが実務的に機能することを示唆している。

  2. FA市場評価:ESPNやFangraphs、MLBTRなどの専門家はフリーエージェント上位選手のWARや年齢を基に契約推定を公表しており、上位級選手には長期大型契約が提示される見込みである(例:数億ドルの規模)。これらの推計は、チームの年俸構造やCBTの制約を考慮したものだ。

  3. メディア収入の多様化:MLBはESPN、NBCUniversal、Netflix等と新契約を締結し、配信チャネルの多様化で若年層リーチと収入源の拡大を狙っている。AppleのFriday Night Baseballも継続しており、配信の分散が顕著だ。

  4. 日本人選手と国際戦略:MLBは日本人選手を含む国際的タレントを積極的に取り上げ、日本市場向けプロモーションやWBCでの露出増加を図っている。日本出身選手はMLBの商業価値と競技価値の両面で重要な存在である。

最後に(総括)

2026年のMLBは「制度(ABS)」「大会(WBC)」「経済(FA/メディア契約)」という三つの領域で大きな節目を迎え、競技と興行の両面で変化が加速する年になる。ABS導入は判定の透明性と戦術の再編を促し、WBCは国際化と選手のコンディション管理を問う。FA市場は有力選手の移動でホットストーブを燃やし、メディア契約の再編はファン接点と収入構造を変える。日本人選手、とりわけ大谷翔平の動向は、競技面の観戦価値だけでなくMLBの世界的なブランド力にも直結する。筆者としてはデータと現場報道を組み合わせ、ABS運用の実測値、WBCとMLB日程の相互影響、そして二刀流の持続可能性について継続的に追跡していく予定である。


参考(主要出典)

  • MLB公式・ニュースリリース(2026年スケジュール、メディア権等)。

  • MLBによるABS導入報道・共同競技委員会決定報道(Reuters、AP等)。

  • WBC公式スケジュール(プール配置/会場)。

  • フリーエージェント市場分析(ESPN、MLB.com、Fangraphs、MLBTRのFAランキング・契約推計)。

  • 大谷翔平・日本人選手関連のMLB報道(MVP受賞記事、選手個別プロファイル)。

この記事が気に入ったら
フォローしよう
最新情報をお届けします