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メキシコのセックスワーカーが職の喪失に直面、FIFAワールドカップの準備進む中

メキシコでは労働者の半数以上がインフォーマル(非正規)な職に就いており、売春は約1万5000人のセックスワーカーにとって重要な収入源となっている。
メキシコ、首都メキシコシティの通り(AP通信)

2026FIFAワールドカップの準備が進むメキシコシティで、大規模な都市整備工事が低所得層の労働者の生活を圧迫している。特にアステカ・スタジアム周辺のセックスワーカーや露天商は仕事の機会を奪われ、収入が大幅に減少するなど深刻な影響を受けている。

メキシコシティでは開会式が行われるため、スタジアムの改修や公共交通機関の拡充、街路の整備といった大規模工事が進行中である。このうちカルサダ・デ・トラルパン通りでは、自動車が路肩に停車しにくいように自転車道や仕切りが設置され、そこで長年働いてきたセックスワーカー約2500人が顧客との交渉機会を失い、収入が半分以下になったと訴えている。通りに沿って運行する地下鉄駅も夜間に閉鎖されることがあり、労働者が帰宅できない日も出ているという。

この通りで20年にわたり働くモンセラット・フエンテス(Montserrat Fuentes)さんは、通常なら週末に客が多く訪れるはずの地点で急激な客足の減少を目の当たりにし、「政府は世界的なイベントで稼ぐことだけを優先し、最底辺の我々の暮らしには目を向けていない」と批判する。

メキシコでは労働者の半数以上がインフォーマル(非正規)な職に就いており、売春は約1万5000人のセックスワーカーにとって重要な収入源となっている。中にはトランスジェンダーの女性も多く、他産業では公正な賃金を得られない現実がある。これらの労働者の多くは、家賃や食費の支払いに苦慮しているという。メキシコシティの人権団体「ストリート・ブリゲード」は、当局との交渉で少額の月次支援金や食料配布が約束されたものの、実際の支援は生活を維持するには不十分だと指摘している。

メキシコシティ当局はセックスワーカー向けに58カ所の専用ポイントを設ける計画を発表したものの、労働者たちは実際にそのような施設を見たことがなく、旧来の場所から移動することを拒んでいる。また露天商の中には、長年利用してきたトンネル下の屋台スペースから退去を迫られている人もいる。68歳の露天商エスペランサ・トリビオ・ロハス(Esperanza Toribio Rojas)さんは、これらのスペースは地域の人々が買い物や食事を楽しむ場所になっていたと語り、「ここに命を吹き込んだのは私たちなのに、政府はそれを取り上げようとしている」と憤る。

こうした労働者の排除や収入減少は、世界的なスポーツイベントでは珍しい例ではない。過去のオリンピックやワールドカップ開催都市でも、貧困層やホームレス、移民労働者が追い出される事例が報告されており、支援団体はこれを「社会的浄化」と批判している。メキシコシティの準備による恩恵が観光業や大企業に集中する一方で、インフォーマル労働者の将来には不安が残る。

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