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中米・カリブ諸国における「女性の権利」の実態

中米・カリブ諸国における女性の権利の状況は、「法制度・政策・教育アクセス・就労機会・政治参加」の各分野で着実に改善が進んできた一方で、「実践段階でのギャップ」「文化・慣習・地域格差」「無償のケア労働・暴力と安全保障」といった構造的・制度的ハードルが依然として根強く残っている。
ジャマイカの女性(Getty Images)
1. 法制度・制度的な整備

中米・カリブ諸国では、女性の権利保障という観点で一定の法制度整備や国際条約の批准が進んできている。例えば、地域を包含するECLAC(Economic Commission for Latin America and the Caribbean)では、「2025~2035年をジェンダー平等とケア社会の行動の10年(Decade of Action)」として、女性・少女・ケアを担う人々の権利を優先することを加盟国が合意している。
また、ほとんどのラテンアメリカ・カリブ諸国がCEDAW(Convention on the Elimination of All Forms of Discrimination against Women)を批准しており、女性差別撤廃という国際的枠組みに参加していることが報告されている。

しかし、法制度があるだけで実効性・運用が伴っていないという指摘も多い。例えば、農村部での土地所有・資源アクセスなどでは女性が不利という統計が示されており、制度的なハードル・慣習的な障壁が残っている。


2. 教育・就労・経済参加

女性の教育アクセスや就労・経済参加状況には進展がある一方、依然として格差・脆弱性が存在する。

  • 教育アクセス
     ラテンアメリカ・カリブ地域全体では、初等・中等教育において男女の就学率・就学年数のギャップは縮まっており、教育機会の面で大きな改善が見られる。
     ただし、地域の中で「中米」「カリブ」「先住民族」「農村」のカテゴリーでは依然として差がある。例えば、青年期・中等後教育で女性の脱落が起きやすい地域が報告されている。

  • 就労・経済参加
     女性の労働参加率や賃金・雇用の質には依然としてギャップがある。例えば、地域全体で女性の労働参加率が68%であるのに対し、男性が約93 %という数字が示されており、賃金でも「女性が男性の1ドルに対して平均0.70ドル」というデータがある。
     また、女性は「脆弱な雇用(非正規・家族従業・低賃金)」に就く割合が高く、女性が銀行口座を持てない・デジタル資産・金融資産にアクセスしにくいといった構造的な障壁も報告されている。
     さらに、農村部・先住民族・アフロ系の女性は、土地・資源・サービスアクセスの点で特に不利な立場にある。例えば土地配分改革では女性が4〜16%という割合しか恩恵を受けていない中米の国もある。


3. 暴力・ケア・家事分担

女性の権利において、暴力・ケア労働・家事無償労働という「見えにくい領域」が深刻な課題として残っている。

  • ジェンダー暴力・ドメスティック・暴力
     地域全体で「女性の3人に1人がパートナーによる身体的または性的暴力を受けている」というデータがあり、被害が頻繁に起きている。このような暴力のコスト(経済的・社会的損失)は、GDPの1.6〜6.4%にも上るという推計もある。
     また、家事・ケア労働を担う女性の時間は男性と比べて大幅に多く、「無償のケア労働」が女性の経済的・社会的主体性を制限する要因となっている。

  • ケア社会・無償労働
     ECLACと国際機関は2025~2035年を「ケア社会」を目指す行動の十年と位置付けており、ケア労働を可視化・制度化・再分配することを強調している。
     無償労働・家事・介護を女性が負担する構造が変わらず、これが女性の就労・経済参加・教育継続を阻む要因にもなっている。


4. 政治参加・意思決定

女性が意思決定ポジションに入る機会も確実に改善しているものの、平等な参画には至っていない。

  • 地域全体では、上級管理職・意思決定層に女性が占める割合が平均36.9%(2021年度)というデータが出ており、カリブ諸国では49.4%と比較的高め、中央米地域では38.1%という数字。

  • また、世界経済フォーラム(World Economic Forum)の「Global Gender Gap Report 2023」によると、ラテンアメリカ・カリブ地域では男女格差を「74.3%」まで縮めており、世界的に見ても比較的進んでいる。

  • ただし、政治的エンパワーメント(女性の議会議員・閣僚・国家元首など)は依然として最もギャップが大きい領域であり、各国・各地域間で大きな差がある。


5. 先住民族・アフロ系・農村地域の女性・地域間格差

中米・カリブ地域では、女性の中でも「先住民族」「アフロ系」「農村・沿岸部」という属性を持つ人々が、特に不利な状況に置かれている。

  • 農村部の女性は、土地・資源へのアクセスが制限されていたり、サービス(教育・保健・金融)へのアクセスが都市部より遅れていたりする。例えば、農業改革の対象となった土地配分で、女性の取得割合は4〜16%という中米の国もある。

  • 先住民族・アフロ系の女性は、教育・就労・健康の面で平均よりもさらに劣る傾向がある。例えば、先住民族の15~19歳女子が妊娠する確率が非先住民族より2.5倍高いというデータが示されている。

  • 環境・土地問題とも深く関連しており、女性が自然資源・環境保全・領域守りの活動を担う一方で、それに伴うリスク・負荷も大きい。


6. 主な課題と展望

課題

  • 法制度・政策が整っていても、実際の運用・社会的・文化的慣習・資源配分・アクセスという「実践段階」でギャップが大きい。

  • ケア・家事・無償労働という構造的制約が、女性の教育継続・就労・起業・政治参加を抑制しており、これを解消するための制度(保育・介護サービス・働き方改革など)が十分整っていない。

  • ジェンダー暴力(家庭内暴力・性的暴力・フェミサイド)・安全保障の脅威が依然高い。女性が安心して生活・活動できる環境の整備が急務。

  • 経済参加では、賃金格差・雇用の質・金融資産のアクセス・デジタル包摂という点で女性が後れをとっており、特に農村・先住民族・アフロ系地域の女性は複合的な差別・多重的障壁に直面している。

  • 地域・国内間でも格差が大きく、「カリブ海地域」と「中米」の中で、また都市部と農村部・沿岸部と内陸部で差がある。

展望

  • 今後10年(2025〜2035)を「ジェンダー平等とケア社会の行動の十年」とする合意が出ており(ECLAC等)、女性・少女・ケアを担う人々の権利拡大に向けた政策転換の機運が高まっている。

  • 教育水準の向上・就労機会の拡大・女性起業・デジタル包摂などで女性のエンパワーメントを加速させる機会がある。例えば、女性が果たす経済発展の貢献が注目されており、女性の労働力参加を高めることが地域の持続的発展にもつながるとされている。

  • 森林・環境・持続可能な農業という観点でも、女性(特に農村・先住民族・アフロ系)の役割が大きく、女性の意思決定参画・資源アクセス強化は、環境保全・地域開発・気候変動対応とも関連してくる。

  • 政治参加・リーダーシップの分野でも進展の兆しが見られ、女性の意思決定ポジションを増やす政策・クオータ制・リーダー育成・社会意識改革が鍵となる。


最後に

中米・カリブ諸国における女性の権利の状況は、「法制度・政策・教育アクセス・就労機会・政治参加」の各分野で着実に改善が進んできた一方で、「実践段階でのギャップ」「文化・慣習・地域格差」「無償のケア労働・暴力と安全保障」といった構造的・制度的ハードルが依然として根強く残っている。特に、農村・先住民族・アフロ系というマイノリティ的背景を持つ女性は、複合的な不利な立場にある。

しかし、2025~2035年の「行動の十年」を契機に、ケア社会の構築・女性の経済参加とリーダーシップ強化・無償労働の再分配・暴力根絶などを含む包括的な変革が期待されており、政策・市民社会・国際機関の連携が鍵となる。
この地域における女性の権利強化は、女性自身にとっての利益であるだけでなく、地域の経済・社会・環境の持続可能な発展にも直結する重要なテーマである。

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