国連WFP、ハイチの人道状況に懸念示す、ハリケーンで危機拡大

ハイチはここ数十年の慢性的な政情不安、独裁政権、自然災害などにより、アメリカ大陸で最も貧しい国のひとつとなっている。2010年の大地震では20万人以上が死亡、その復興が進まぬ中、21年に地震が発生した。
2023年6月3日/ハイチ、首都ポルトープランスの住宅地(Odelyn Joseph/AP通信)

国連の世界食糧計画(WFP)は8日、カリブ海地域がハリケーンシーズンに突入する中、中米ハイチの人道状況が壊滅的なレベルに悪化する恐れがあるとして、深刻な懸念を表明した。

WFPは声明で、「今年のハリケーンシーズンは危機的な飢餓が迫っているこの国の状況をさらに悪化させ、大災害を引き起こす可能性がある」と警告した。

WFPによると、ハイチの人口の半数にあたる約570万人が緊急支援を必要とし、そのうち約200万人は10以上の国連機関、政府、援助団体などが参加する「総合的食料安全保障レベル分類(IPC)」の飢饉調査委員会(FRC)が定めるフェーズ4とフェーズ5に該当するという。

フェーズ3は危機レベルの飢餓と定義され、フェーズ4は緊急事態、フェーズ5は大災害または飢饉とみなされる。

WFPは5日の声明で、約200万人がフェーズ4、約8500人がいつ餓死してもおかしくないフェーズ5に該当すると説明していた。

ハイチの治安は2021年7月のモイーズ(Jovenel Moise)大統領暗殺と同年8月に西部で発生したM7.2の大地震で崩壊し、破壊と暴力が蔓延している。

首都ポルトープランスでは3年ほど前から複数のギャングが地域の支配権をめぐって血みどろの抗争を繰り広げている。大統領のポストは今も空席のままだ。

ポルトープランスの90%がギャングの支配下に置かれ、市内の学校、企業、公共機関はほぼ全て閉鎖。2つの主要刑務所もギャングの攻撃で崩壊し、4000人以上の受刑者が脱獄した。

ポルトープランスと周辺地域の暴力は昨年10月頃から激化。アルティボニット県ではグラン・グリフとみられる武装ギャングが複数の地区を襲撃し、市民少なくとも115人を虐殺した。逮捕者は出ていない。

最新のギャング間抗争は3月初めに勃発。ポルトープランスの大部分を支配するギャング連合「ヴィヴ・アンサム(Viv Ansam)」と対立する複数のギャングが民間人を巻き込みながら激しい縄張り争いを繰り広げている。

一連の暴力とギャング間抗争により100万人以上が住居を失い、その多くが避難所に身を寄せている。

WFPは8日の声明で、「ギャング暴力、破壊、避難が続く中、ハイチにハリケーンが迫っている」と強調した。

またWFPは「今年のハリケーンシーズンはかつてないほど危険な状況を招くと予想している」と述べ、国際社会に支援を呼びかけた。

さらに、「ハイチにあるWFPの倉庫はほぼ空の状態で、今ハリケーンが上陸し、被害が出れば、取り返しの使い事態に陥る可能性がある」と警告した。

WFPはこれまで、ハリケーンの接近に先立ち、数十万人分の食料や飲料水などを事前に準備してきた。しかし、今年はギャング暴力の影響で備蓄が底をついた状態である。

ハイチのハリケーンシーズンは6月から11月まで続く。

米政府が先月初め、ヴィヴ・アンサムとグラン・グリフを「外国テロ組織」と「国際テロリスト」に指定した。

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