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米国とパナマ、ハイチのギャング対策に「拘束権限付き」部隊を提案

ハイチにおけるギャング暴力は近年特に深刻化しており、国家の治安や政治の安定を根底から揺るがしている。
2024年3月5日/ハイチ、首都ポルトープランス、ギャンググループ「G9&Family」の構成員(ロイター通信)

米国とパナマがギャングの暴力に圧倒される中米ハイチを支援するため、5500人規模の「ギャング鎮圧部隊」を立ち上げるよう国連安全保障理事会に求めている。

両国は先月末、ハイチ国連支援ミッション(MSS)をギャング鎮圧部隊と称する部隊に移行・拡大することを目的とする決議案を安保理に提出した。

AP通信によると、両国は決議案の中で、ギャングの構成員を拘束する権限を持つ5550人規模の部隊の創設を求めているという。

MSSを率いる最初のケニア部隊は24年6月にハイチに到着。中米諸国(バハマ、エルサルバドル、ベリーズ、グアテマラ、ジャマイカ)を中心に2500人が駐留する予定であったが、現在の兵力は1000人を下回っている。

米国とパナマは決議案の中で、「部隊は5500人の制服要員と50人の文民で構成され、その費用は国連加盟国の任意拠出金で賄われる」としている。

ただし、ケニアやその他の国が軍隊や警察を派遣するかどうかには言及していない。

決議案は新部隊の参加国に対し、「民間人を脅かし、人権を侵害し、ハイチの制度を弱体化させ続けるギャングを無力化・孤立化・抑止するため、情報主導型の独立した標的型対ギャング作戦を実施する権限を付与する」としている。

新部隊はこれまで要員を派遣した国々の代表者で構成される常設グループと、米国・カナダが主導し、首都ポルトープランスに新設される国連事務所が支援するとみられる。

新たな部隊司令官は常設グループによって任命される。

一部の専門家は部隊を変えてもハイチへの資金提供は増えず、問題に対処できないと指摘している。

国連ハイチ事務所は今年、9億800万ドルを調達することを目標にしているが、調達率は今月初め時点で9.2%にとどまっている。

ハイチ自身は常設グループに含まれておらず、その結果、国の主権が脅かされるのではないかと懸念する専門家もいる。

ハイチの治安は2021年7月のモイーズ(Jovenel Moise)大統領暗殺と同年8月に西部で発生したM7.2の大地震で崩壊し、破壊と暴力が蔓延している。

ポルトープランスでは3年ほど前から複数のギャングが地域の支配権をめぐって血みどろの抗争を繰り広げている。大統領のポストは今も空席のままだ。

ポルトープランスの90%がギャングの支配下に置かれ、市内の学校、企業、公共機関はほぼ全て閉鎖。2つの主要刑務所もギャングの攻撃で崩壊し、4000人以上の受刑者が脱獄した。

ポルトープランスと周辺地域の暴力は昨年10月頃から激化。アルティボニット県ではグラン・グリフとみられる武装ギャングが複数の地区を襲撃し、市民少なくとも115人を虐殺した。逮捕者は出ていない。

最新のギャング間抗争は3月初めに勃発。ポルトープランスの大部分を支配するギャング連合「ヴィヴ・アンサム(Viv Ansam)」と対立する複数のギャングが民間人を巻き込みながら激しい縄張り争いを繰り広げている。

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は24年10月~25年6月までの間に、ギャング暴力により全国で少なくとも4864人が死亡、130万人もの市民が避難を余儀なくされていると報告している。

 

ハイチにおけるギャング暴力は近年特に深刻化しており、国家の治安や政治の安定を根底から揺るがしている。

ポルトープランスを中心に数百もの武装ギャングが存在し、地域の支配権や資金源をめぐって抗争を繰り広げている。

ギャングは誘拐、殺人、強盗、性暴力、麻薬取引などの犯罪に関与し、市民生活に大きな脅威を与えてきた。特に身代金目的の誘拐が急増し、日常的な治安不安を招いている。

暴力が拡大した背景には政治的空白と国家機能の脆弱さがある。21年7月にモイーズ氏が暗殺されて以降、政権は混乱し、治安維持を担う警察や司法は十分に機能していない。

その結果、ギャングが治安の「空白」を埋めるように台頭し、地域社会を実質的に支配するケースも多い。

学校や病院の閉鎖、食料や燃料の流通の停滞も暴力の連鎖を助長している。

国際社会もこの事態を深刻視しており、国連や近隣諸国は治安改善のための支援を模索している。

23年にはケニアを中心とした多国籍部隊の派遣が計画されたが、実現にかなりの時間を要した。外国からの支援が進まない一方で、ハイチ国内では警察力の不足や汚職により、治安回復の見通しが立たないのが現状である。

こうした暴力は単なる犯罪問題にとどまらず、人道危機を引き起こしている。

数十万人が避難を余儀なくされ、教育や医療へのアクセスも大幅に制限されている。人々の基本的権利が侵害されるなか、市民の不満は高まり、国家への信頼は著しく低下している。

ハイチのギャング暴力は政治的空白と国際的支援の遅れが複雑に絡み合い、解決が極めて困難な状況にある。

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