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米国、デルタ航空とアエロメヒコ航空に提携解消命じる

デルタ航空とアエロメヒコ航空は2017年に米運輸省とメキシコ政府の承認を受けて、共同事業(ジョイントベンチャー)を正式に開始した。
米ニューヨーク州のジョン・F・ケネディ国際空港、デルタ航空の旅客機(Getty Images)

米国のダフィー(Sean Duffy)運輸長官は16日、メキシコが米国の航空会社に公平に対応していないとの懸念から、、デルタ航空とアエロメヒコ航空に提携解消を強制する方針を示した。

ダフィー氏は両社の共同事業に対する独占禁止法の適用除外を撤回すると発表した。

この適用除外により、両社は共同で運賃やフライトのスケジュールを決定し、収益を分配することが認められていた。

ダフィー氏は7月、メキシコ政府が米航空会社のフライトスロットの一部を廃止し、米貨物輸送会社にメキシコシティでの事業移転を強制した決定を受け、メキシコ政府に対し必要な措置を講じると警告していた。

フライトスロット(発着枠)は航空会社が空港の滑走路を離着陸に利用できる「時間帯」のこと。

空港の処理能力には限界があるため、国交省のような管制機関が混雑空港において、安全かつ円滑な運航を確保するために航空会社へ配分する。

ダフィー氏は16日の声明で、「メキシコ政府がメキシコシティへの旅客便および貨物便に制限を設けて国内航空会社に優位性を与え続ける限り、問題が解消されることはないだろう」と述べた。

デルタ航空とアエロメヒコ航空は2017年に米運輸省とメキシコ政府の承認を受けて、共同事業(ジョイントベンチャー)を正式に開始した。両社はそれ以前からコードシェアやマイレージプログラムの提携を行ってきたが、この合弁事業によって提携関係は大幅に深化した。背景には、2016年に米墨間で「オープンスカイ協定」が発効したことがある。この協定により、両国間の航空会社は発着枠や便数の制限を大きく緩和され、競争環境が整備された。デルタとアエロメヒコはこの環境を最大限に活用し、米墨間の路線網を効率化することを狙ったのである。

事業の枠組みでは、両社は米国とメキシコを結ぶ路線において収益とコストを共有する。つまり単なるコードシェア以上に、実質的に一体運営を行う体制が整えられた。路線計画や運賃設定、スケジュール調整も共同で行われ、顧客にとっては利便性の高いネットワークが提供されることとなった。特に、米国の主要都市とメキシコシティやモンテレイ、グアダラハラなどを結ぶ路線に強みを発揮している。デルタにとってはメキシコ市場での存在感を拡大でき、アエロメヒコにとっては米国市場により広くアクセスできるメリットがある。

デルタはこの提携を戦略的に強化するため、アエロメヒコの株式を段階的に取得し、筆頭株主となった。2020年時点で持株比率は約49%に達し、事実上グループ企業に近い位置付けとなった。両社はアライアンス面でもスカイチームの中核メンバーとして連携しており、マイレージプログラム「スカイマイルズ」と「クラブ・プレミア」も相互利用できる。これによりビジネス旅客を含むリピーター顧客を囲い込み、他社との差別化を進めてきた。

もっとも、この合弁事業は順風満帆であったわけではない。まず、メキシコ国内の空港インフラの制約がある。メキシコシティ国際空港は慢性的な発着枠不足に悩まされ、両社が望むように便数を拡大できない状況が続いてきた。また、新空港建設計画が2018年に政権交代で中止されたことで、中長期的な拡張余地も狭まった。さらに、新型コロナのパンデミックは米墨間の航空需要を大幅に縮小させ、合弁事業の収益性に打撃を与えた。デルタもアエロメヒコも一時的に経営危機に直面し、とりわけアエロメヒコは2020年に米国連邦破産法11条の適用を申請して再建過程に入った。デルタは支援を続けつつ出資構造の調整を行い、パートナーシップを維持した。

加えて、規制当局との関係も重要な要素である。米墨間のオープンスカイ協定は原則自由化を進めたが、合弁事業による市場寡占を懸念する声もあり、当局は一部空港の発着枠返上を条件として承認を与えた。競合するアメリカン航空やユナイテッド航空も、それぞれラテンアメリカ路線に力を入れており、デルタ=アエロメヒコ連合に対抗する構図が続いている。

それでもなお、この合弁事業は米墨間航空市場において重要な役割を果たしている。両社はネットワークを共有することで乗り継ぎ利便性を高め、ビジネス客や観光客に幅広い選択肢を提供している。たとえば、米国南部のハブ空港(アトランタ、ダラス、ヒューストンなど)とメキシコ主要都市との接続は強化され、さらに米国東海岸や中西部からの需要も取り込めるようになった。

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