SHARE:

「自分の命は自分で守る」自警団vs麻薬カルテル、メキシコの現状


専門家は、自警団が地域防衛の役割を果たす一方で、新たな暴力の担い手となる危険性を指摘する。
2026年3月10日/メキシコ、南部ゲレロ州郊外、麻薬カルテルに抵抗する自警団のメンバー(AP通信)

メキシコ南部ゲレロ州郊外の山間部で麻薬カルテルの暴力にさらされてきた住民たちが、自ら武装して対抗する異例の事態が続いている。治安当局の影響力が及びにくい地域では、住民による自警団が事実上の防衛線となり、軍用レベルの武器を手にカルテルとの緊張状態が常態化している。

問題の地域は同州の農村地帯であるロス・グアヘス・デ・アヤラ(Los Guajes de Ayala)周辺だ。ここでは犯罪組織ラ・ファミリア・ミチョアカーナが勢力を拡大し、住民への脅迫や拉致、殺害などを繰り返してきた。恐怖から多くの住民が避難し、かつて1000人以上が暮らしていた集落は急速に過疎化した。学校や診療所も閉鎖され、地域社会は崩壊の危機に直面している。

こうした状況に対し、残った住民たちは数年前に自警団を組織。現在は数十人規模で構成され、山中に見張り所を設けて交代で警戒に当たる。彼らはAK47や手りゅう弾などを装備し、カルテルの接近を確認すれば即座に応戦する体制を整えている。さらに市販のドローンも活用し、上空から敵の動きを監視するなど、独自の防衛システムを築いている。

住民の一人はAP通信の取材に対し、「政府は助けてくれない。自分たちで守るしかない」と語った。実際、中央政府は軍や国家警備隊を展開しているものの、山岳地帯の隅々まで統治を行き渡らせることは難しく、住民の不信感は根強い。こうした中で自警団は一定の支持を集める一方、その存在は法的に曖昧で、当局も対応に苦慮している。

専門家は、自警団が地域防衛の役割を果たす一方で、新たな暴力の担い手となる危険性を指摘する。過去には自警組織がカルテルに取り込まれたり、内部抗争に発展した例もあり、武装の拡大がさらなる不安定化を招く懸念がある。また、米国から密輸される武器の流入がこうした状況を支えているとの見方も強い。

シェインバウム(Claudia Sheinbaum)大統領は治安回復を重要課題に掲げているが、現実は依然として厳しい。国家の統治が十分に及ばない「空白地帯」では、住民自らが武装して生き延びるしかない状況が続いている。

カルテルの暴力と国家の限界、その狭間で生きる人々の選択は、メキシコの治安問題の根深さを象徴している。自警団は「最後の砦」として機能しているものの、その存在自体が新たな緊張と不確実性を生み出しており、持続的な解決への道筋は依然として見えていない。

この記事が気に入ったら
フォローしよう
最新情報をお届けします