メキシコ失踪危機、行方不明者のポスターが撤去される日
メキシコでは2006年に始まった麻薬戦争以降、失踪した人は全国で13万人を超え、小都市の人口に匹敵する数に達している。
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メキシコ西部ハリスコ州グアダラハラの街中に、「会いたい」「見かけたら知らせて」「探しています」と書かれた行方不明者のポスターが無数に貼られ、日常風景の一部となっている。これらは家族や支援グループが失踪した親族を探すために作成したビラで、建物やバス停、街灯、木の幹などあらゆる場所に貼り出されている。こうした光景は、メキシコの「失踪危機」の深刻さを象徴している。
行方不明者の多くは麻薬カルテルによる誘拐や暴力に巻き込まれ、消息を絶っているとみられる。メキシコでは2006年に始まった麻薬戦争以降、失踪した人は全国で13万人を超え、小都市の人口に匹敵する数に達している。特にハリスコ州では約1万2500人が行く不明になり、カルテルと治安部隊との衝突が続く中で捜索活動自体も困難になっている。
ポスターを貼る活動は失踪した人の情報を求めると同時に、政府や社会にこの問題の「見える化」を促す意味合いも持つ。家族や遺族から成る支援グループ「Luz de Esperanza(希望の光)」は毎週末、2000~5000枚ものポスターを街に張り出すという。このポスターにはティーンエイジャーから中年男性まで様々な人々の写真が使われ、タトゥーや特徴、失踪日時・場所などの情報が記されている。だが、多くの掲示は雨風や時間によって消えたり、当局などに撤去されたりするため、グループは頻繁に貼り直している。
支援者の1人であるエクトル・フローレス(Héctor Flores)氏は19歳の息子を奪われた経験からこの活動を始めた。2021年に息子が州検察の関係者によって失踪させられた事件は裁判所によってその「強制性」が認定され、フローレス氏は500家族を束ねる集団を立ち上げた。同氏は「ポスターを貼る行為は現実の捜索であり、誰かが見て情報を提供してくれることを願う行動だ。それはまた可視性を保つ行為でもある」と語る。
しかし、夏に予定されている2026FIFAワールドカップを控え、当局が街の「見栄え」を理由にこれらのポスターを撤去しようとしているのではないかという懸念が家族の間で強まっている。地元議員らがポスターを公共の多くの場所から容易に撤去できるようにする法整備を進めており、家族らはこれを“失踪問題の隠蔽”だと受け止めている。議員側はこれを否定し、誤解だと主張しているものの、取り締まりが強まる可能性が示されている。
混乱は治安面にも広がっている。最近のカルテル同士や治安部隊との衝突で捜索活動は停滞し、近郊で予定されていたスポーツイベントが安全上の理由で中止された。この状況下で、一部の遺族らは未確認の墓地の捜索さえも断念せざるを得ない状況に追い込まれ、失踪者の捜索は一層困難を増している。
住民の1人は「今や通りでポスターを見ても驚かない」と日常化した光景を語る。また別の住民は、ポスターを見ながら「兄弟や友人が失踪した経験を持つ」という。この言葉はメキシコ社会に深く根付く失踪危機の影を物語っている。
多くの家族にとって、これらのポスターは単なる紙片ではなく、行方不明の親族を探し続ける希望と記憶の象徴である。しかし、国際的なスポーツイベントの前にそれが消される可能性は、彼らの訴えさえも埋没させかねないと懸念されている。
