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メキシコ、中国産自動車の関税50%に引き上げへ

問題の核心は中国政府の産業政策が「公正な競争」を歪めていると見なされる点にある。
中国の自動車工場(Getty Images)

メキシコ政府は10日、中国やその他アジア諸国からの自動車に対する輸入関税を50%に引き上げると発表した。

エブラルド(Marcelo Ebrard)経済相は記者会見で現在20%の中国車関税について問われると「許容される上限まで引き上げる」と説明。「一定の保護措置がなければ、競争はほぼ不可能だ」と付け加えた。

またエブラルド氏は「この引き上げは世界貿易機関(WTO)が定めた上限範囲内で行われる」と強調。「中国車はいわゆる基準価格を下回る価格で市場に流入していることから、メキシコの雇用を守ることを目的としている」と説明した。

経済省によると、繊維・鉄鋼・自動車など、複数分野の関税を段階的に引き上げることで、520億ドル相当の輸入品に影響を与える見込み。

引き上げには政府与党が圧倒的多数を占める議会での承認が必要である。

中国産の自動車が安価で輸出されている問題は国際貿易や産業競争において大きな注目を集めている。

背景には、中国政府による巨額の補助金や政策的支援がある。特に電気自動車(EV)分野では研究開発やバッテリー生産、販売促進に対して継続的な資金投入が行われており、その結果として製造コストが低下し、輸出価格が欧米や日本の自動車メーカーの水準を大きく下回っている。中国の自動車メーカーは国内市場で過剰な生産能力を抱えており、その解決策として輸出に力を入れている点も特徴的である。

この動きに対し、EUや米国では警戒感が強まっている。安価な中国製EVの流入は自国メーカーの競争力を弱め、雇用や産業基盤に悪影響を及ぼす可能性があるからだ。

実際、EUは中国製EVに対する反補助金調査を開始し、関税引き上げの検討に入っている。米国も安全保障上の懸念を理由に、中国製自動車や部品への依存を制限しようとしている。

一方で、中国産自動車の価格競争力は新興国市場で強く発揮されている。価格の安さに加え、電動化技術やデジタル機能の充実も進んでおり、アジア、中東、南米、アフリカといった地域で需要を拡大している。これにより、中国は自動車輸出大国としての地位を固めつつある。しかし、この成長は国際的な摩擦を招き、自由貿易と保護主義の対立を深めている。

問題の核心は中国政府の産業政策が「公正な競争」を歪めていると見なされる点にある。他国メーカーは自力でコスト削減や技術開発を進める必要があるのに対し、中国企業は国家の後ろ盾を得て価格を下げることができる。この不均衡は長期的に世界の自動車産業の構造を変える可能性が高い。先進国のメーカーは技術革新やブランド力で対抗する必要があるが、それでも価格差を埋めるのは容易ではない。

中国産自動車の安価な輸出は新興国にとっては選択肢の拡大や低価格での電動化推進というメリットをもたらす一方、先進国にとっては産業競争力や雇用に打撃を与えかねない二面性を持つ。今後は各国が関税や規制で対応するのか、それとも技術と市場戦略で競争するのかが大きな焦点となる。

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