メキシコ、北部のスクリューワーム封じ込め、成虫確認されず
この感染症は2023年にメキシコ南部で発生が確認されて以来、ゆっくり北上し、米国に接近している。
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メキシコ政府は22日、米国と国境を接する北部ヌエボレオン州でスクリューワームハエ症(蠅蛆症)に感染した家畜が確認されたことを受け、直ちに必要な措置を講じたと明らかにした。
農業省は声明で、「9月21日の早期発見により、成虫のネジバエが羽化するリスクはない」と説明した。
また同省は「専門家チームがこの地域のハエを確認した結果、スクリューワームハエ症を拡散するネジバエは1匹も検出されなかった」と強調した。
この感染症は2023年にメキシコ南部で発生が確認されて以来、ゆっくり北上し、米国に接近している。
米国の牧場経営者や畜産関係者はこのハエの北上を注視している。
米当局の推計によると、米国最大の牛生産地である南部テキサス州でこれが流行した場合、損失額は数十億ドルに達する恐れがあるという。
米国は24年11月、メキシコでスクリューワームが確認されたこと受け、家畜の輸入を停止。農務省はその後、家畜の健康状態を評価する新しいプロトコルに基づき、25年2月に制限を解除していたが、5月に再び輸入を停止した。
米農務省は7月初め、メキシコ産家畜の輸入を段階的に再開した。
スクリューワームハエ症は寄生性のハエであるスクリューワーム(主に新世界スクリューワームと旧世界スクリューワーム)の幼虫によって引き起こされる感染症である。このハエは哺乳類や人間の生きた組織に産卵し、孵化した幼虫が皮膚や粘膜に侵入して組織を食い荒らすことによって病変が進行する。一般的な蠅蛆症では死んだ組織にウジが寄生する場合が多いが、スクリューワームの場合は生きた健康組織を侵食するため、特に危険性が高い。
感染の経路としては、皮膚の傷口、外耳道、鼻腔、眼、口腔などが挙げられる。メスの成虫は傷口や粘膜の縁に産卵し、1匹で数百個の卵を産みつけることが可能である。卵は数時間で孵化し、幼虫は螺旋状の口器で組織を削り取るように食べ進む。このため患部は急速に拡大し、強い疼痛、膿や悪臭を伴う壊死、出血を引き起こす。耳や鼻に寄生した場合は頭蓋内に侵入して致命的な合併症を起こすこともある。
地理的には、新世界スクリューワームはかつて北米南部から南米全域にかけて広く分布していたが、20世紀後半に米国農務省(USDA)などが「不妊虫放飼法」を用いた根絶計画を実施し、北米から中米にかけてほぼ駆逐された。現在でも南米の一部やカリブ海諸国で発生が報告されている。一方、旧世界スクリューワームはアフリカ、中東、南アジア、東南アジアに分布しており、近年では国際的な家畜貿易や人の移動により、非流行地域への侵入リスクが懸念されている。
ヒトの症例としては、農村地域や衛生環境の悪い地域で頻繁に報告されている。特に高齢者や小児、慢性疾患患者など免疫力の低下した人々は重症化しやすい。家畜においては牛や羊での感染が経済的に大きな損失を招き、畜産業にとって重大な脅威となっている。
治療は外科的に幼虫を取り除くことが基本である。局所的には鉗子で摘出するほか、ワセリンや油剤で患部を覆い、酸素を遮断して幼虫を自発的に排出させる方法も用いられる。さらにイベルメクチンなどの駆虫薬が有効であり、家畜に対しては予防的投与も行われる。重症例では外科的切除や抗菌薬による二次感染対策が必要となる。
予防としては、衛生環境の改善、傷口の適切な処置、家畜への防虫管理が重要である。また、不妊虫放飼法は大規模制御の有効な手段とされ、米国や中米では実際に根絶に成功した実績がある。ただし、広域的な協力と長期間の実施が不可欠である。
スクリューワームハエ症は「生きた組織を食い荒らす」という特徴から通常の蠅蛆症よりも危険度が高く、ヒトの生命にも畜産経済にも深刻な影響を及ぼす疾患である。国際的な人と物資の移動が盛んな現代においては、非流行地域への侵入を防ぐ検疫体制や監視体制が不可欠であり、公衆衛生上の課題となっている。