メキシコ政府、ペメックスの社債買い戻しへ、国債発行
ペメックスはメキシコの国営石油会社であり、同国のエネルギー産業の中核を担う企業である。
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メキシコ政府は15日、国営石油会社ぺメックス(PEMEX)からの99億ドルの社債買い戻し資金の一部に充当するため、最大50億ユーロ(58.8億ドル)の国債を発行した。現地メディアが報じた。
発行された国債は最大22.5億ユーロの4年債、15億ユーロの8年債、12.5億ユーロの12年債で構成される。
報道によると、調達資金はメキシコ政府の一般事業に加え、ペメックスへの資本拠出に充当され、ペメックスはこれを一部償還、償還、および発行済み証券の買い戻しに充当するという。
ペメックスはメキシコの国営石油会社であり、同国のエネルギー産業の中核を担う企業である。1938年3月18日、当時のラサロ・カルデナス大統領によって石油産業が国有化されたことを契機に設立され、以後、メキシコ国内における石油および天然ガスの探査、生産、精製、輸送、販売の全工程を担う国家独占企業として発展してきた。
ペメックスは長らくメキシコの経済と国家財政を支える柱であり、政府歳入の20〜30%を占めることもあった。そのため、石油価格の変動や生産量の上下はメキシコ全体の財政状況や為替にも直接的な影響を及ぼしてきた。特に2000年代初頭から2010年代中盤にかけて、原油価格の高騰により大きな収益を上げ、メキシコ政府の予算を潤したが、同時にその依存度の高さが財政の脆弱性としても問題視されるようになった。
一方で、ペメックスは多くの構造的課題も抱えてきた。第一に、生産効率の低下と油田の老朽化が挙げられる。メキシコ湾に位置するカンタレル油田はかつて世界有数の産油地であったが、2004年をピークに急激な生産減少に見舞われた。これにより、国家全体の原油生産量も大きく低下し、ペメックスの収益構造に打撃を与えた。
第二に、企業運営における非効率性と腐敗問題が長年指摘されてきた。官僚的な体質、政治介入、労働組合の影響力などが複雑に絡み合い、企業改革が進みにくい構造となっている。加えて、財務状況の悪化が顕著であり、2020年代初頭にはペメックスは世界最大級の負債を抱える石油会社と評価されるようになった。債務残高は1000億ドルを超え、格付け機関からの評価も「投機的水準(ジャンク債)」に引き下げられた。
このような状況を受け、2013年には当時の大統領による憲法改正を含むエネルギー改革が実施された。これにより、75年間維持されてきた石油産業における国家独占が事実上解除され、外国企業との共同探査や生産、精製分野への参入が可能となった。この改革は国際的な投資を呼び込み、石油生産の回復と技術導入を目指すものであったが、国内では「主権の売却」として強い批判もあった。
2018年に就任したオブラドール大統領はエネルギー分野の国家主権回復を掲げ、再びペメックスの役割を強化する政策を推進した。オブラドール政権はエネルギー改革に批判的であり、外国企業との契約見直しや新規油田の国家主導開発を進めてきた。また、国内製油能力の強化を目的に、タバスコ州に新設されたドス・ボカス製油所(オルメカ製油所)の建設にも巨額の国家予算が投入された。
ペメックスの今後の課題としては財務体質の改善、環境規制への対応、再生可能エネルギーへの移行などが挙げられる。気候変動問題への国際的圧力が強まる中、炭素排出量の多い石油産業への風当たりも厳しくなっており、将来的な持続可能性を確保するための戦略的転換が求められている。
さらに、メキシコ国内における燃料の盗難(オルタネオ)も深刻な問題であり、ペメックスの供給網からの違法な抜き取りによって莫大な経済損失が生じている。政府は軍を動員して対策に取り組んでいるが、根本的な解決には至っていない。
このように、ペメックスはメキシコの歴史、経済、政治と深く結びついた国営企業であり、その動向は国家全体に大きな影響を及ぼす存在である。今後の改革と経営改善の成否は、メキシコのエネルギー安全保障、経済成長、国際的な信用にも直結するものであり、注目を集め続けている。