◎州兵は2019年の憲法改正で導入され、各州政府の指揮下に置かれたものの、その訓練や採用は軍で行われてきた。
2022年9月6日/メキシコ、首都メキシコシティ、州兵の所管変更法案に反対デモ(Eduardo Verdugo/AP通信)

メキシコ上院は9日、3年前に創設された州兵の指揮権を州政府から軍に移す法案を可決した。

州兵は2019年の憲法改正で導入され、各州政府の指揮下に置かれたものの、その訓練や採用は軍で行われてきた。

オブラドール(Andres Manuel Lopez Obrador)大統領は警察や州政府で汚職が蔓延していることを受け、州兵を軍の指揮下に置くよう提案している。

野党は8日、法案は憲法が定める文民統制に違反するとし、憲法裁判所に訴状を提出すると発表した。

野党は9日の声明で、「法の支配や文民統制を犯す法案に反対する」と改めて表明。速やかに裁判に打って出ると宣言した。

メキシコの政治家たちは給料が安く、腐敗しがちで、必要な訓練を受けていない州兵を改善し、軍に頼ることなく強力な麻薬カルテルと戦えるようにすべきと訴えてきた。

オブラドール氏も以前、「軍は兵舎に戻り、警察と州兵でカルテルを厳しく取り締まるべきだ」と述べていた。

オブラドール氏は3年前、州兵を州政府の指揮下に置くと約束した。なお、メキシコの州兵は米国のそれとは異なり、州知事が指揮を執ることはない。

州兵の戦力は限られており、州政府の頭痛の種になった。軍は州兵に武器を供与し、人員も提供している。州兵になった元兵士は軍の階級を維持できるため、州兵は準軍組織とみなされるようになった。

専門家は「メキシコの治安が良ければ」州兵システムはうまく機能したはずと指摘している。

オブラドール氏は憲法改正を訴えているが、与党の議席は改正に必要な3分の2に届いていないため、妥協案として州兵の所管を軍に移すよう提案した。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナは9日、この法律に懸念を表明した。「メキシコの権利侵害と暴力は増加の一途をたどっており、州兵の軍事化は悲惨な結果を招くでしょう...」

国内の州兵約11万人のうち、8割以上が陸軍と海軍の出身者だ。州兵システムが機能しているのは、それを組織した軍のリーダーシップと、軍の豊富な兵站能力にほかならない。

オブラドール氏は軍に麻薬カルテル対策だけでなく、燃料の盗難対策も命じている。これらは警察の仕事だが、カルテルが強力すぎるため、警察に一任すると取り返しのつかない事態に発展する可能性がある。

また軍は首都メキシコシティの空港建設に関与し、ユカタン半島の観光列車新設工事も主導した。農村部には軍所管の銀行まである。

軍はオブラドール氏が就任するはるか以前から、治安維持で重要な役割を担ってきた。しかし、軍は多くの人権侵害で告発されており、国連も軍を国内の治安維持活動から排除するよう求めている。

しかし、軍、州兵、警察の奮闘にもかかわらず、国内の治安はほとんど改善せず、悪化している地域も少なくない。

州兵には警察のような捜査・情報収集能力がない。軍仕様の強力な装備で市内をパトロールすれば軽微な犯罪は防げるかもしれないが、カルテルやギャングを抑えることはできないようだ。

メキシコはシリアやアフガニスタンなどの紛争地を除いて、世界で最も危険な国のひとつとされ、麻薬戦争の犠牲者は35万~40万人と推定されている。

2007年/メキシコ警察の特殊部隊(Getty-Images/AFP通信/PAメディア)
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