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ハイチ、国連安保理承認の「ギャング鎮圧部隊」を歓迎、懸念も

米国とパナマが共同提出した決議により、現在ケニアが主導するハイチ国連支援ミッション(MSS)は「ギャング鎮圧部隊」に移行する。MSSにはない、ギャングの拘束権限が付与される。
2024年3月18日/ハイチ、首都ポルトープランスのスラム街(AP通信)

ギャングの支配下に置かれるハイチ・ポルトープランスの住民はより強力な「国際部隊」が配置されることを歓迎する一方、自国の主権が脅かされないか警戒している。

国連安全保障理事会は9月30日、ハイチ政府を支援するため、新たな国際部隊を派遣する決議案を採択した。

米国とパナマが共同提出した決議により、現在ケニアが主導するハイチ国連支援ミッション(MSS)は「ギャング鎮圧部隊」に移行する。MSSにはない、ギャングの拘束権限が付与される。

採決の結果、ロシア、中国、パキスタンが棄権。賛成12ー反対0で承認された。

ハイチのラジオ局は1日からこの話題を取り上げ、ギャング暴力が収まることに期待を表明した。

MSSの任務は10月2日に満了する。

ポルトープランスのスラム街から避難所に逃れた男性は2日、AP通信の取材に対し、「今回はうまくいくことを願っている」と語った。「ハイチ人を支援する部隊が来れば素晴らしいです。生活を取り戻せるから...」

しかし、多くのハイチ国民と専門家が、新たな国際部隊に対して慎重な見方を示している。

新部隊の展開スケジュールはほとんど明らかになっていない。5550人の要員を擁し、12ヶ月の任務期間、ハイチ軍と警察をサポートする予定だ。

米政府はアフリカと西半球からハイチに派遣する十分な兵力を確保できると指摘しているが、どうなるかは誰にも分からない。

ハイチの治安は2021年7月のモイーズ(Jovenel Moise)大統領暗殺と同年8月に西部で発生したM7.2の大地震で崩壊し、破壊と暴力が蔓延している。

首都ポルトープランスでは4年ほど前から複数のギャングが地域の支配権をめぐって血みどろの抗争を繰り広げている。大統領のポストは今も空席のままだ。

ポルトープランスの90%がギャングの支配下に置かれ、市内の学校、企業、公共機関はほぼ全て閉鎖。2つの主要刑務所もギャングの攻撃で崩壊し、4000人以上の受刑者が脱獄した。

ポルトープランスと周辺地域の暴力は昨年10月頃から激化。アルティボニット県ではグラン・グリフとみられる武装ギャングが複数の地区を襲撃し、市民少なくとも115人を虐殺した。逮捕者は出ていない。

ポルトープランスの大部分を支配するギャング連合「ヴィヴ・アンサム(Viv Ansam)」と対立する複数のギャングが民間人を巻き込みながら激しい縄張り争いを繰り広げている。

ハイチにおける過去の国連平和維持活動(PKO)は、国内の政治的不安定や治安の悪化を受けて実施された。特に2004年にアリスティド大統領が退陣した後、治安回復と人道支援を目的として、国連ハイチ安定化ミッション(MINUSTAH)が設立された。MINUSTAHは軍事部隊と警察を派遣し、暴力組織の制圧、選挙の支援、法の支配の強化に取り組んだ。しかし、一部の部隊による人権侵害やコレラ感染症の流行(国連部隊が原因とされる)などが問題視された。2017年にMINUSTAHは終了し、後継としてより小規模な支援ミッションであるMINUJUSTHが設置されたが、これも2019年に終了した。その後は政治・治安支援を担う国連統合事務所(BINUH)が活動している。PKOは一定の成果を上げた一方で、根本的な治安や統治の改善には限界があり、ハイチ情勢の不安定さは現在も続いている。

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