SHARE:

ハイチ首都北部でギャング間抗争激化、42人死亡

ハイチでギャング間抗争が激化している背景には政治的空白、治安機構の崩壊、極度の貧困と社会的絶望が複雑に絡み合っている。
ハイチ、首都ポルトープランス、ギャングの暴力に抗議する女性(AP通信)

ハイチ・ポルトープランス北部の漁村にギャングが押し入り、住民少なくとも42人を殺害した。地元当局が12日、明らかにした。

それによると、その中には4歳の子供とその家族が含まれているという。

地元ラジオ局は当局者の話しとして、「漁村を支配するギャングと対立する別のギャングの抗争が激化し、多くの住民が巻き込まれた」と伝えている。

抗争は週末に始まり、現在も続いているとのこと。

AP通信の取材に応じた当局者は、「この悲劇は不処罰を終わらせ、地域の治安を回復するため、効果的な国家介入が緊急に必要であることを浮き彫りにしている」と語った。

それによると、ポルトープランスの大部分を支配するギャング連合「ヴィヴ・アンサム(Viv Ansam)」と対立するギャングがこの漁村を含む地域一帯を取り囲み、町全体を攻撃しているという。

国家警察と地元の自警団が対応に当たっているとみられるが、現場で何が起きているかはほとんど分かっていない。

地元メディアによると、このギャングはヴィヴ・アンサムの幹部に近い人物を殺害。大規模な抗争に発展したとされる。

政府、暫定大統領評議会、国家警察はこの事件に関するコメントを出していない。

米政府は5月、ヴィヴ・アンサムと中部アルティボニット県に拠点を置くグラン・グリフを「外国テロ組織」と「国際テロリスト」に指定した。

ハイチの治安は2021年7月のモイーズ(Jovenel Moise)大統領暗殺と同年8月に西部で発生したM7.2の大地震で崩壊し、破壊と暴力が蔓延している。

ポルトープランスでは3年ほど前から複数のギャングが地域の支配権をめぐって血みどろの抗争を繰り広げている。大統領のポストは今も空席のままだ。

ポルトープランスの90%がギャングの支配下に置かれ、市内の学校、企業、公共機関はほぼ全て閉鎖。2つの主要刑務所もギャングの攻撃で崩壊し、4000人以上の受刑者が脱獄した。

ポルトープランスと周辺地域の暴力は昨年10月頃から激化。アルティボニット県ではグラン・グリフとみられる武装ギャングが複数の地区を襲撃し、市民少なくとも115人を虐殺した。逮捕者は出ていない。

最新のギャング間抗争は3月初めに勃発。ヴィヴ・アンサムと対立する複数のギャングが民間人を巻き込みながら激しい縄張り争いを繰り広げている。

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は24年10月~25年6月までの間に、ギャング暴力により全国で少なくとも4864人が死亡、130万人もの市民が避難を余儀なくされていると報告している。

ハイチでギャング間抗争が激化している背景には政治的空白、治安機構の崩壊、極度の貧困と社会的絶望が複雑に絡み合っている。最大の要因は2021年7月のモイーズ氏暗殺事件以降、国家の統治能力が大幅に低下したことにある。大統領の死後、後継体制は正統性を欠き、選挙も長期間実施されていないため、中央政府は治安維持や公共サービス提供を十分に果たせなくなった。その結果、国家の空白を埋める形でギャング組織が勢力を拡大し、地域の支配者として振る舞うようになった。

ギャングはもともとポルトープランスの貧困地区を拠点に活動してきたが、警察や司法制度が機能不全に陥る中で、武器や資金を蓄え、広範囲に縄張りを拡大した。とりわけ、麻薬や人身売買、誘拐といった犯罪ビジネスを資金源とし、国際的な闇市場とも結びついている。抗争の激化は、こうした利権をめぐる衝突が表面化した結果でもある。また、ギャング同士は一時的に連携することもあるが、しばしば離合集散を繰り返し、脆弱な均衡が崩れるたびに大規模な戦闘が発生する。

治安部隊の弱体化も抗争の拡大に拍車をかけた。国家警察は人員不足と装備の欠如に苦しみ、ギャングの火力に対抗できず、多くの地域で治安維持を放棄せざるを得なくなった。さらに、政治家や経済エリートが過去に自らの利益のためにギャングを利用してきた歴史もあり、犯罪組織は半ば公然とした影響力を持ち続けている。こうした背景から、国家権力がギャングに挑戦することは極めて難しい状況にある。

市民生活への影響は深刻である。ギャング抗争による道路封鎖や港湾支配は、燃料や食料の供給を寸断し、物価の高騰や人道危機を招いている。住民は避難を余儀なくされ、数十万人規模の国内避難民が生まれた。学校や病院も活動停止に追い込まれ、基本的な社会インフラすら機能不全に陥っている。

ハイチでギャング間抗争が激化しているのは、国家の統治機能が崩壊し、治安維持の空白を犯罪組織が埋める形で権力を掌握したためである。貧困と不平等、政治的停滞がそれをさらに温存し、国際社会の支援も十分に効果を上げられていないことが、暴力の連鎖を断ち切れない最大の要因となっている。

この記事が気に入ったら
フォローしよう
最新情報をお届けします