▽ハイチはここ数十年の慢性的な政情不安、独裁政権、自然災害などにより、アメリカ大陸で最も貧しい国のひとつとなっている。2010年の大地震では20万人以上が死亡、その復興が進まぬ中、21年に地震が発生した。
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は7日、ギャングの支配下に置かれる中米ハイチでギャング暴力による24年の死者が5600人を超え、数百万人が危機的状況に置かれていると明らかにした。
OHCHRのターク(Volker Turk)高等弁務官は声明で、「ギャング暴力の急増により、昨年だけで5600人以上が殺害され、数千人が負傷または誘拐された」と述べた。
またターク氏はハイチの現状を「壊滅的」と評し、「恐怖が国を支配している」と嘆いた。
ハイチの治安は2021年7月のモイーズ(Jovenel Moise)大統領暗殺と同年8月に西部で発生したM7.2の大地震で崩壊し、破壊と暴力が蔓延している。
首都ポルトープランスでは2年以上前から複数のギャングが地域の支配権をめぐって血みどろの抗争を繰り広げている。
ポルトープランスの80~90%がギャングの支配下に置かれ、市内の学校、企業、公共機関はほぼ全て閉鎖。2つの主要刑務所もギャングの攻撃で崩壊し、4000人以上の受刑者が脱獄した。
ポルトープランスと周辺地域の暴力は昨年10月頃から激化。中部アルティボニット県では地元のギャングが複数の地区を襲撃し、市民少なくとも115人を虐殺した。逮捕者は出ていない。
地元の人権団体は警察がギャングを取り締まる過程で一般市民を巻き添えにしていると非難。警察官にギャングの構成員と疑われ、その場で射殺されたケースもあったという。
ターク氏は声明の中で、「これらの数字だけでハイチが置かれている絶対的な恐怖を把握することはできないが、人々が絶え間ない暴力にさらされていることは確かだ」と述べた。
またターク氏は昨年12月初旬にポルトープランスのスラム街で少なくとも207人がギャングに殺害された事件に言及。「おぞましい大虐殺、信じられない事件だ」と非難した。
さらに、「ギャングメンバーやギャングと関係があるとされる人々に対する少なくとも315件のリンチが確認され、その中には警察官によって助長されたケースもあり、24年だけで281件の即決処刑が確認された」と指摘した。
国連支援ミッションを率いるケニアは約400人の警察官を投入。グアテマラとエルサルバドルも年明けに100人程度の部隊を送った。バハマ、バングラデシュ、バルバドス、ベナン、チャドも派遣を約束しているが、いつ派遣するかは明らかになっていない。