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エルサルバドル大統領が憲法改正案を提出、終身刑導入へ


エルサルバドルは強力な治安政策によって短期間で犯罪率を劇的に低下させた成功例として国際的に注目される一方、その代償として民主主義や人権の基盤が揺らいでいるとの指摘も受けている。
2025年3月16日/エルサルバドル、中部テコルカの刑務所(AP通信)

中米エルサルバドルのブケレ(Nayib Bukele)大統領は17日、終身刑の導入を可能とする憲法改正案を議会に提出した。ギャング対策を柱とする強硬な治安政策をさらに推し進める狙いで、すでに人口の1%以上が拘束されている同国の刑事司法のあり方に、国内外の関心が集まっている。

報道によると、改正案は殺人や強姦、テロ行為などの重大犯罪に対し、文字通り生涯にわたり収監する終身刑を認める内容である。エルサルバドルでは従来、刑期の上限が設けられ、たとえ長期刑が言い渡されても実際の服役期間には制限があったが、これを撤廃する形となる。法案はブケレ氏の与党・新思想党(NI)が支配する議会に提出され、3分の2以上の賛成で可決される見通しだ。

背景には、ブケレ政権が2022年以降に進めてきた大規模なギャング掃討作戦がある。非常事態宣言の下で治安当局が一斉摘発を行い、これまでに数万人規模のギャング構成員を逮捕・収監した。その結果、収監者数が急増し、国民の1%以上が刑務所に収容されるという世界的にも異例の状況となっている。

政府はこうした強硬策により殺人件数が激減し、かつて世界有数の危険国とされた治安状況が劇的に改善したと成果を強調する。実際、ブケレ政権は80~90%という高い支持率を維持し、犯罪抑止を最優先する政策は多くの国民から支持を得ている。

一方で、人権侵害や法の支配の後退を懸念する声も強い。国際的な人権団体などは、恣意的拘束や司法手続きの欠如、拘束中の死亡事例などを指摘し、無実の市民が巻き込まれている可能性を問題視している。また、ブケレ氏が司法機関を掌握する中で進む憲法改正について、権力集中を招くとの批判も根強い。

今回の終身刑導入案はこうした流れを制度面から固定化するものと位置付けられる。政府は「犯罪との戦いを終わらせることはできない」として厳罰化の必要性を強調するが、刑罰の長期化が抑止効果を持つかどうかについては議論が分かれる。

エルサルバドルは強力な治安政策によって短期間で犯罪率を劇的に低下させた成功例として国際的に注目される一方、その代償として民主主義や人権の基盤が揺らいでいるとの指摘も受けている。終身刑の導入を含む今回の憲法改正案が治安の持続的改善につながるのか、それとも統治のあり方をさらに強権的な方向へと導くのか、今後の展開が注目される。

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