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エルサルバドル大統領、さらに10年間の政権維持に前向き姿勢示す

ブケレ政権は治安対策で人気を博しており、就任以来、ギャング対策を強化して殺人率を劇的に低下させた点が高評価を受けている。
2021年11月20日/エルサルバドルのブケレ大統領(Getty Images/AFP通信)

エルサルバドルのブケレ(Nayib Bukele)大統領は12月29日、政権をさらに10年間維持する意向を示した。ブケレ氏はスペイン人ユーチューバーとの対談で、「あと10年は在任する」と述べ、当初は2029年に政界引退の予定だったと明かした。次の大統領選は2027年の予定。その結果次第で2033年までの統治が可能になる見込みだ。

ブケレ氏は2019年に大統領に就任し、2024年の選挙で再選を果たしている。しかし、野党はこの再選を憲法違反と指摘している。これに関連し、与党・新思想党(NI)は7月、憲法改正を強行し、大統領の再選制限を撤廃するとともに、次期選挙を前倒しして任期を延長する新たな制度を導入した。この改正により、大統領の任期は従来の5年から6年に延長されることになっている。

この憲法改正には国内外で疑問の声が上がっている。法律専門家の一部は、現行憲法が大統領の連続再選を禁止していることから、ブケレ氏の任期延長に法的な問題があると指摘している。また、改正プロセス自体も手続きの透明性や民主的正当性に欠けるとの批判が出ている。

ブケレ政権は治安対策で人気を博しており、就任以来、ギャング対策を強化して殺人率を劇的に低下させた点が高評価を受けている。これにより同氏の支持率は90%前後で推移しているが、反対派は治安強化の過程で市民の基本的人権がないがしろにされていると訴えている。拘束が恣意的に行われ、拷問や収監中の死亡といった人権侵害の報告もあるとされる。

ブケレ氏は「世界で最もクールな独裁者」と過去に自嘲的に発言したことについて、独裁体制を築く意図はないと述べている。今後、自身が権力を維持すべきか否かは国民が判断すべきだとし、国民の意志を重視する考えを示した。

エルサルバドル国内では憲法改正やブケレ氏の政権運営を巡って意見が分かれている。支持者は治安改善や経済政策の実績に期待を寄せる一方で、野党や市民団体は民主的な制度の後退と権力集中を懸念している。特に再選を禁じる規定を廃止したことについては、法の支配や政治体制の将来像に関する論争が続いている。

また、憲法改正が進められた背景には、与党が議会で圧倒的多数を占めていることがある。国会での採決は与党議員で迅速に承認され、反対意見は少数にとどまる。これに対しては、立法プロセスの民主性や政治的多様性の欠如を批判する声も上がっている。

エルサルバドルは中米の小国ながら、ギャング対策や経済施策などで国際的にも注目される政策を打ち出してきた。今後、ブケレ氏が再任を目指す動きが具体化する中で、憲法・選挙制度のあり方や国民の支持動向が注目される。

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