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キューバ外相「カリブ地域の米軍をとめろ」国連に要請

米海軍がカリブ海でベネズエラの麻薬密輸船とされる3隻の船舶を攻撃した後、米国とベネズエラの緊張は劇的に高まっている。
2022年8月6日/キューバ、マタンサス州沿岸、石油備蓄基地の火災を見守る人々(Ramon Espinosa/AP通信)

中米キューバのロドリゲス(Bruno Rodriguez)外相は17日、麻薬カルテル対策としてカリブ海地域で軍備増強が進み緊張が高まる中、国連に対し、米国がこの地域で戦争を始めるのを阻止するよう求めた。

ロドリゲス氏は首都ハバナの記者団に対し、「国連総会と安全保障理事会に対し、憲章に基づく義務を果たし、権限を行使して我々の地域の平和を維持するよう求める」と語った。

またロドリゲス氏は「米国は侵略を覆い隠すために、国家安全保障を守るという名目で船舶を攻撃している」と主張した。

さらに「今日の米国は国際組織犯罪、麻薬取引に由来する外国資産の資金洗浄における主要な金融センターであり、第一の犯罪拠点である」と述べた。

米海軍がカリブ海でベネズエラの麻薬密輸船とされる3隻の船舶を攻撃した後、米国とベネズエラの緊張は劇的に高まっている。

ロドリゲス氏は「船舶の拿捕・破壊、民間人の法外な殺害、漁船の拿捕、これらは平和と安全を脅かす危険な状況を生み出している」と語った。

トランプ政権はラテンアメリカの麻薬カルテルからの脅威と闘う取り組みの一環として、この地域にイージス艦など、4000人以上の部隊を派遣している。

米司法省は先月、ベネズエラの独裁者マドゥロ(Nicolas Maduro)大統領にかけている報奨金を5000万ドルに引き上げた。

ベネズエラの麻薬カルテルは近年、国際社会から強い関心を集めている。もともと同国はコロンビアに隣接し、アンデス地域を中心とするコカインの主要な生産地と物流ルートに近接しているため、地理的条件が麻薬取引の拡大に有利に働いた。特にコロンビア政府が国内のゲリラ勢力や麻薬組織を徹底的に取り締まる一方で、国境を越えた勢力がベネズエラに拠点を移す傾向が強まったことで、同国は麻薬の中継地としての役割を担うようになった。

ベネズエラの麻薬取引において特に注目されるのが、いわゆる「太陽のカルテル(Cartel de los Soles)」と呼ばれる組織である。これは単一のカルテルというよりも、軍や治安部隊の高官を中心としたネットワークを指す言葉であり、国家機関そのものが麻薬取引に深く関与しているという疑惑を意味している。実際、米国をはじめとする国際的な調査では、複数のベネズエラ軍高官や政権関係者がコカインの輸送・流通に関与しているとされてきた。こうした構造は、単なる犯罪組織ではなく、国家権力と結びついた「国家型カルテル」の性格を帯びている点で特徴的である。

麻薬取引の実態としては、コロンビアから持ち込まれたコカインがベネズエラ国内を経由し、カリブ海や中米を通じて米国や欧州市場に運ばれるルートが主流である。特にカリブ海沿岸や奥地の空港、さらには軍用機や港湾施設が輸送に利用されることも多いとされる。政府内部の腐敗が深刻であるため、摘発の動きは限定的であり、むしろ治安部隊が密輸に協力するケースも少なくないと指摘されている。

このような状況は、国内の治安悪化や暴力の拡大にも直結している。麻薬取引に関与するギャング組織や武装集団が都市部や国境地域で勢力を広げ、誘拐や強盗などの犯罪も増加した。さらに、政権側が反政府勢力の抑え込みや資金源確保の一環として麻薬取引を黙認、あるいは利用しているとの見方も強い。結果として、ベネズエラは単なる麻薬の通過点にとどまらず、国家ぐるみで関与する「ハイブリッド型麻薬国家」としての性格を帯びるに至っている。

国際社会はこの問題を深刻視し、米国を中心にベネズエラ高官への制裁や訴追が進められているが、政権の強権的体制や経済危機により、国内からの改革圧力は弱い。したがってベネズエラの麻薬カルテル問題は、単なる治安課題にとどまらず、国家体制の存立そのものと密接に絡んだ構造的問題として存在し続けている。

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