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メキシコ鉱山労働者拉致事件、治安改善に疑問の声、カルテル抗争激化

事件は1月末、カナダ系企業が運営する鉱山付近で発生し、軍や治安当局による捜索の結果、5人の遺体が発見された一方、残る5人は未だ見つかっていない。
2026年2月8日/メキシコ、シナロア州、警察のパトロール部隊(AP通信)

メキシコ北西部シナロア州の鉱山で先月末に労働者10人が拉致された事件はシェインバウム(Claudia Sheinbaum)大統領が掲げる治安改善策の効果に大きな疑問を投げかけている。事件は1月末、カナダ系企業が運営する鉱山付近で発生し、軍や治安当局による捜索の結果、5人の遺体が発見された一方、残る5人は未だ見つかっていない。10人が拉致された状況は不明で、地元住民や専門家の間で治安対策の限界を示す象徴的な出来事となっている。

シナロア州一帯は世界最大の麻薬組織「シナロア・カルテル」の勢力圏で、内部抗争が続く中で暴力が拡大している。シェインバウム政権は2024年10月の発足以降、カルテル対策を強化したと主張し、数千人規模の国家警備隊を北部国境に配備するなどの措置を講じてきた。また昨年は殺人発生率の低下を成果として挙げる場面もあったが、今回の拉致事件はこの「改善傾向」に疑問符を付けた。

事件現場周辺の山岳地帯では住民が避難を余儀なくされ、地域社会が空洞化しつつある。住民の1人はAP通信の取材に対し、「住民の大半が恐怖から町を離れたか、立ち去るように促された」と述べ、抗争の激化が地域全体の治安悪化を象徴していると指摘した。鉱山労働者は拉致当時、何ら異変を報告しておらず、なぜ狙われたのかは依然として不明だが、治安当局はカルテルの対立が背景にある可能性を探っている。

当局は拉致後、空と地上からの大規模な捜索を展開し、国家警備隊と地元警察が連携して捜査に当たった。ハルフッシュ(Omar Garcia Harfuch)治安・市民保護相は数名の容疑者を逮捕、容疑者の供述をもとに5人の埋葬地を特定したと説明したが、住民らの不安は収まらない。人権団体は、治安部隊の一時的な展開は「カルテルを一時的に散らしたに過ぎない」と述べ、勢力の再集結や住民に対する誤認逮捕の恐れに触れ、「この地域は事実上放棄されている」と批判した。

メキシコの鉱山やアボカド農園、石油パイプラインなどは長年、組織犯罪の標的となっている。企業への恐喝や資源の窃盗などが頻発し、治安悪化が事業継続を困難にしている。事件が起きた鉱山を所有するカナダの企業は昨年4月、安全上の懸念から操業を一時停止し、この事件後も労働者支援と捜索への協力を表明しているものの、できることは限られている。

今回の拉致事件はシェインバウム政権の治安戦略が依然として脆弱であることを露呈した形となった。カルテル間の勢力争いは依然として激しく、農村部や山間部の住民は日常的な危険と隣合わせにある。治安改善の成果を強調する一方で、根本的な暴力抑止策の構築を迫られている。

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