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南アフリカの軍配備計画、犯罪多発地域の現状・背景

今回の軍配備計画は南ア国内の治安問題の深刻さを如実に示し、政府が犯罪対策の困難さに直面している現実を浮き彫りにしている。
南アフリカ、ヨハネスブルグ市内、陸軍の兵士(AP通信)

南アフリカのラマポーザ(Cyril Ramaphosa)大統領は2月中旬、暴力犯罪や組織犯罪、違法採掘が深刻な地域に軍隊を配備すると発表した。これはアフリカ有数の民主主義国家で軍隊を国内の治安維持に投入する異例の措置であり、ラマポーザ氏は「治安悪化」が国家の安全保障と経済に対する「最も差し迫った脅威」であるとの認識を示した。軍は警察の指揮下で活動し、あくまで治安回復を目的とした「一時的な危機対応」としている。

ラマポーザ氏によると、軍の配備対象は国内9州のうち、西ケープ州、ハウテン州、東ケープ州の3州。特に西ケープ州ではケープタウン周辺のスラム街が深刻なギャング抗争の舞台となっており、同国のギャング関連殺人の約90%がこの地域で発生している。ギャングは薬物取引、恐喝、売春、殺人など多岐にわたる犯罪活動を展開し、市民や子どもが巻き込まれる事件も後を絶たない。

ハウテン州ではヨハネスブルグ周辺に多数残る放棄鉱山が違法な金採掘拠点となっている。これらの「ザマザマ」と呼ばれる集団は重武装した犯罪組織と結びつき、労働者を危険な坑道に送り込むとともに、近隣地域で暴力やその他の犯罪を引き起こしている。過去には数十人規模の集団強姦事件や、警察との衝突で多数の死者を出すなど、治安当局を悩ませてきた。南アには推定3万人の違法採掘者が存在し、約6000カ所の放棄鉱山で活動しているとされ、年間数十億ドル規模の金がこの集団により流出しているとの指摘もある。

ラマポーザ氏は南ア史に深い傷を残すアパルトヘイト時代の軍隊投入の記憶を国民が抱えていることを踏まえ、「正当な理由なくして軍を出動させるべきではない」と述べつつも、「暴力的な組織犯罪の急増が国民の安全と国家権威を脅かしている」として今回の措置の必要性を強調した。配備される軍部隊は警察の指揮下で運用され、治安回復や一般市民の生命保護を目的とするとの立場を示した。

過去にも南アは軍を国内に投入した例がある。2023年にはトラック放火事件を受けて兵士が街頭に出動し、2021年にはズマ(Jacob Zuma)前大統領の収監に端を発した暴動鎮圧に約2万5000人の兵士が動員された。また2020年には新型コロナのロックダウンで兵士が市内各地に配備された。

専門家の間には、軍隊が長期的な治安維持の解決策にはならないとの懸念もある。軍は主に戦闘訓練を受け、日常の法執行や地域コミュニティとの関係構築には適さないとの指摘がある一方で、治安当局は「日々命が失われている地域を安定化させる」のが目的であり、時間を限定して警察を支援する形で運用するとの立場を取っている。

今回の軍配備計画は南ア国内の治安問題の深刻さを如実に示し、政府が犯罪対策の困難さに直面している現実を浮き彫りにしている。軍投入が国内治安の改善にどれほど寄与するか、また歴史的な懸念をどの程度和らげられるかは今後の焦点となる。

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